一般広告においてキービジュアルとは、製品・サービスのブランド力を効率よく高める最大の手段であり、広告、CM、動画、それを取り巻くキャンペーンとも連動し、製品世界を作り上げていくブランド戦略を担っています。医療用医薬品にもキービジュアルはあり、役割は同じですが、その表現にはちょっとした癖のようなものがあり、そのため一般広告のキービジュアル制作とは違う苦労があります。そんなキービジュアルの考え方を紹介します。
特殊なターゲット
通常、一般広告のビジュアルは、エンドユーザーを想定して作られます。20代女性ならF1層、18歳男性ならT層。それらをターゲットにし、その年代の文化を取り入れて、それらが興味を引くビジュアルが作られます。エンドユーザー=ターゲットです。
医療用医薬品の場合、エンドユーザーは患者さん、しかしターゲットは医師です。そこをはき違えると、意図がズレたものができあがってしまいます。医師の立ち位置を理解して、医師目線で考える必要があるのですが、これがくせ者です。
たとえば、ビジュアルのテーマが「患者さんの幸せ」の場合、
患者さん向けではビジュアルのメッセージは「幸せになれます」です。
しかし、医師向けでは「幸せにする事ができます」となるのです。
患者さんに症状改善を伝える広告ではなく、その薬がいかに患者さんの症状を改善する(可能性がある)かを伝える、プロが使う道具のための広告なのです。
絵にならないものを絵にする
一般広告では製品があったり、キャラクターがいたり、ライフスタイルがあったり、そのデザインも魅力の一部ですが、医薬品の場合は究極の機能美。一部のデバイスをのぞけば、錠剤、アンプル、バイアル、シリンジ、どれをとっても製品間での違いはほとんどありません。また、「優れたデザインの錠剤が出来上がりました!」と言っても、それ自体が製品の導入意欲を湧きたたせるか、というと、そうでもないように思います。重要なのは、あくまでも効能・効果、安全性です。その製品の持つ機能なのです。
ですから、医薬品のキービジュアルは製品に頼らず「絵にならないコンセプトを絵にしていく」作業が中心になっていきます。
医薬品のキービジュアル制作に向けて考えるのは、その医薬品の特徴・特性、効能・効果、時には安全性、用法・用量、そして対象疾患・症状。さらにその製品の市場での立ち位置。これらからキーワードをはじき出して論理的に構築し、まるで宗教画でも描くように作っていきます。ビジュアルを構築している要素は全て、理由がありそこに配置されている、と思ってもよいです。
一見どうして?と思われるビジュアルも、その意味を聞くと「なるほど!」となることが多いです。
見る側も論理的であるため、ただ綺麗・格好いいだけではいけなく、論理的に絵を構築し、説得力のある意味付けをする。その上でいかに格好よく、ドラマティックでドラスティックなビジュアルを創り上げるか、それがクリエイター・デザイナーの見せ所です。
例えばこのような課題、
- 抗がん剤
- 国内で開発
- 標的の細胞を活性化する薬
- 市場にはブロックバスターのモンスターがいる
そこに打って出るために考え出したキーワードは、
- 「敵はがん、だけどそれだけじゃない」
- 「世界観はジャイアントキリング」
- 「対象細胞を助ける」
- 「国産である」
これらのキーワードから考えられるビジュアルは、
強大な鬼! に立ち向かう桃太郎! に付き添うキジ!! 主役はキジ!!!
人はなぜキジ?と思うでしょう。しかし、論理を考えると「なるほど」となるわけです。(なりませんか?)
そして犬、猿ではなく、なぜキジなのか、そこにも理由があるのです。犬は力、猿は知恵、キジは目の役割を果たしています。このキービジュアルの論理は、がん細胞を攻撃する免疫細胞が、がん細胞を見つける、目の代わりになる薬を想定してキジを目立たせているのです。
これは一つの例ですが、このようにビジュアルの意味を考え、謎解きをしていくのも楽しいかも知れません。医師がその疑問をMRに尋ねればコンタクトの足がかりになるかも知れません…
まとめ
医療用医薬品のキービジュアルは、ターゲットを理解し、絵にならないコンセプトを表現していきます。そのような癖を把握し、それ以外にも薬機法・製薬協の規制、さらに製薬会社のコンプアライアンスなど、クリアしていくハードルがたくさんあり、それらを経てようやく世に出すことができるのです。ただ格好いいだけでは通らない、それが医療用医薬品キービジュアルです。