医師のセンス?患者のセンス?センスがあるコンテンツを作るためのシミュレーション

医師のセンス?患者のセンス?センスがあるコンテンツを作るためのシミュレーション

普段の情報摂取の中で、「なんかセンスないな」と感じることはありませんか。センスとは抽象的で曖昧なイメージをもたれやすいですが、具体化と定義が可能と考えます。
今回の記事では、センスとはなにかを確認するとともに、センスあるコンテンツ作りにおいて必須となる「シミュレーション能力」について解説します。

無関心や炎上はセンスのなさが原因

テクノロジーの発達により、日常的にふれる情報量が爆発的に増えた結果、その中で埋もれてしまう広告と、反対に注目を狙い炎上を招く広告が増えました。
そうした広告の特徴として、良し悪しのフィルターに引っかからないほどありきたりだったり、働き方やジェンダー観など、多様化する今の価値観に合っていなかったりするケースがあり、いわゆる「センスがない」ものが多いことが挙げられます。
しかし、そもそも「センス」とはなんでしょうか。

センスとは判断能力である

「センス」を辞書で引くと、以下のように定義されています。

センス(sense)
物事の微妙な感じや機微を感じとる能力・判断力。感覚。 「ユーモアの-」 「 -に欠ける」

松村明 編『大辞林 第三版』 三省堂

このように、センスは「感覚」を意味するため、曖昧で掴みどころのない印象を与え、コンテンツにおけるセンスもまた、特定の人物のみが持つ、先天的な能力だと認識されやすいのではないでしょうか。

しかし、くまモンの生みの親として有名なデザイナーの水野学氏は、著書の中でセンスを次のように定義しています。

「センスのよさ」とは、数値化できない事象のよし悪しを判断し、最適化する能力である。

水野学『センスは知識からはじまる』 朝日新聞出版 2014 p18

また、「センスとは知識の集積である」(同上 p74)と主張しています。つまりセンスとは、決して主観的な好き嫌いといった曖昧な感覚ではなく、客観的な知識で違いを感じ取り、良し悪しの判断ができる能力であり、後天的に身につけられると言っているのです。

このように、センスとは「物事の微妙な感じや機微を感じ取る感覚」という意味だけでなく、「思慮」や「良識」という意味も持ちます。つまり、「受け手にとっての良し悪しを判断できる能力」もセンスといえるのです。

センスのあるコンテンツ作りをするために必要な【シミュレーション能力】とは

センスは知識を集積することで、後天的に身につけられるものです。しかし、センスのあるコンテンツを作るためには、「シミュレーション能力」も鍛える必要があります。

「シミュレーション能力」とは、制作するコンテンツが受け手にとってどのような効果を与えるかを事前に検討する能力を指します。作り手の意図が受け手に正確に伝わるかどうかはもちろん、「受け手にとって不快で不利益な内容は含まれていないか」などについても検討します。コンテンツ制作の過程においてこの「シミュレーション能力に意識的になるだけで、冒頭で示したようなセンスのない行動による炎上などの不利益を避けられます。

【シミュレーション】でコンテンツ全体の構造を俯瞰

上の図は、医師向けのコンテンツと、患者向けのコンテンツを、制作者が頭の中で設計している様子です。
制作者の脳内では、①受け手と、②コンテンツ、③作り手の3つの関係を、俯瞰的に④シミュレーションしています。

センスの良いコンテンツを作る際、作り手は
【①受け手】がどのような状況に置かれているのか、評価軸(つまり何がウケ、何がウケないのか)はどのようなものか
【②コンテンツ】は受け手に伝わりやすいものになっているのか、受け手にとって適切な表現をしているのか
【③作り手】自身はコンテンツに活かせる知識やアイディアを持ち合わせているのか
といった、3つの項目を深く理解・洞察し、またそれぞれ個々に考えるのではなく、それぞれが繋がった際の全体の関係性もシミュレーションをし、判断する必要があります。

※①〜③については、後日別の記事でさらに詳しく解説予定

そうしたシミュレーションの結果、図からわかるように、医師向けのコンテンツと、患者向けのコンテンツをそれぞれ設計すると、方向性が全く違うものになるとはっきり分かります。当たり前ですが、医学知識がある医療従事者と、医学知識に普段接していない一般人の感覚は違うので、センスがあると認識される内容は異なります。
作り手は、受け手(医師と患者それぞれ)にとってセンスがあると認識されるコンテンツの違いを分かった上で、明確に作り分ける必要があるのです。

「センスがいい」といえる事例

このようなシミュレーションは、他の場面でも見ることができます。
例を挙げると、「ファッションセンス」があるとは、服を着ていく状況のTPOに合わせて、最適な服を瞬時に判断できる状態と言えます。このとき自分と他者、自他をつなぐ服との全体性を、シミュレーションしているのです。自分にはこういう服が似合う、他者にこのように見られたいなど、日々の経験から論理と知識が蓄積し「ファッションセンス」は熟成されていきます。

また、「マーケティングセンス」は、こんな商品やサービスを作れば売れるだろうとシミュレーションして、正確な予測を立てて商品を売ることを指します。優れたマーケティングでは、データを集め、現実世界により近い、解像度の高い世界が脳内で形成されシミュレーションできているため、的確な未来予測が可能になっていると考えられます。

以上のことから、センスあるコンテンツを作るには、ただセンスを磨くだけでなく、3つの項目を把握した上でシミュレーションを行う能力が必要だということがわかります。

まとめ

相手と状況の全体性を把握してシミュレーションし、最適な判断をする能力は、仕事のあらゆる場面に応用できます。「誰に何を伝えるか」が明確に理解できている現場ならば、客観的な評価を得る経験を積み重ねて、判断能力は磨かれ、「センスがある」状態の再現性を獲得できます。センスのない仕事を避けるため、全体性を把握しシミュレーションできているか、最適な判断ができているか、意識してみてください。


参考:『センスは知識からはじまる』水野学 2014 朝日新聞出版