医薬品一般名のステム一覧と命名ルール|製品特性を読み解き、競合理解に役立てる

医薬品一般名に含まれる「ステム」は、競合品の機序や製剤的特徴を読み解く戦略的な情報源です。2021年の抗体医薬品命名ルールの刷新により、名称から得られる情報はさらに緻密化しました。本記事では、マーケターが押さえておきたい主要ステム一覧とともに、新ステムの定義や国内での使用例、そして競合分析やLCM戦略への活用法を解説します。
- 医薬品のステムとは?WHOが定める命名の共通ルール
- 押さえておきたい主要な医薬品ステム一覧
- 低分子医薬品で頻出するステム(循環器・代謝・感染症)
- 分子標的薬・免疫抑制剤で注視すべきステム
- 【刷新】抗体医薬品の命名ルールと国内における使用例
- 旧「-mab」体系の限界と2021年改正の背景
- 新ステム(-tug/-bart/-mig/-ment)の定義と特徴
- 国内JAN通知に基づく「ラルドタツグ」などの最新実装事例
- 機序を読み解くインフィックスの最新定義と廃止情報
- ADC・mRNA・細胞治療など次世代モダリティの命名動向
- ADC(抗体薬物複合体)の命名規則:抗体新ステムと第2語構成
- mRNA医薬品の共通ステム「-meran」の運用定着
- 細胞・遺伝子治療(-cel)および融合タンパク質(-fusp)の規則
- ステムの知識を活かした競合分析とLCMへの応用
- 競合分析:一般名から読み取る製剤技術上の優位性
- 市場防衛と参入:バイオシミラー(BS)対策とLCM戦略への応用
- ステム知識はブランド価値と市場分析を支える共通言語
医薬品のステムとは?WHOが定める命名の共通ルール
競合分析やパイプラインの調査を行う際、必ず目にするのが医薬品の一般名です。販売名は各社が独自の戦略で命名しますが、成分そのものを指す一般名は、WHOが策定する国際一般名(INN:International Nonproprietary Names)のルールに則って決定されます1)。この一般名の命名規則において、分類の決め手となる共通のルールが「ステム」です。
ステムとは共通語幹を意味します。化学構造や作用機序をもとにグループ分けするための、名称に組み込まれた特定の文字の組み合わせです。
ステムには接頭語(prefix)、接中辞(infix)、接尾語(suffix)の3種類があり、これらを理解することで、初めて耳にする成分名であってもその薬剤の性質が推測できます。
日本の一般名(JAN:Japanese Accepted Names for Pharmaceuticals)も原則としてこの体系に準じており、インタビューフォームなどからステムの構成要素をひも解くことは、競合品との差別化ポイントや最新の開発トレンドを見極める有力な手がかりとなります。
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押さえておきたい主要な医薬品ステム一覧
実務で頻出する主要なステムを、モダリティ(創薬手法)や薬効別に整理して紹介します。
低分子医薬品で頻出するステム(循環器・代謝・感染症)
低分子医薬品では、ステムと薬効が対応しています。循環器、代謝、感染症領域の代表的なステムを以下の対照表に示します2)。
低分子医薬品のステム一覧
ステム | 薬効分類 | 代表的な一般名 |
|---|---|---|
-sartan | アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB) | ロサルタン、カンデサルタン |
-vastatin | HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系) | アトルバスタチン、ロスバスタチン |
-gliptin | DPP-4阻害薬 | シタグリプチン、ビルダグリプチン |
-gliflozin | SGLT2阻害薬 | イプラグリフロジン、エンパグリフロジン |
cef- | セフェム系抗生物質 | セファゾリン、セフトリアキソン |
このほか、ACE阻害薬(-pril)、β遮断薬(-olol)、主にストレプトマイシス属由来の抗生物質(-mycin)なども代表的なステムとして知られています。
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分子標的薬・免疫抑制剤で注視すべきステム
近年、開発が活発ながん領域や自己免疫疾患領域では、機序を特定するためのステムが細分化されています。製品のLCM(ライフサイクルマネジメント)や競合分析において、同一クラスの競合品を識別する際に参照できるよう、代表的なステムを以下にまとめました2)。
分子標的薬・免疫抑制剤のステム一覧
ステム | 薬効分類 | 代表的な一般名 |
|---|---|---|
-tinib | チロシンキナーゼ阻害薬(TKI) | イマチニブ、ゲフィチニブ |
-citinib | JAK阻害薬 | トファシチニブ、バリシチニブ |
-parib | PARP阻害薬 | オラパリブ、ニラパリブ |
-zomib | プロテアソーム阻害薬 | ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ |
-imus | 免疫抑制剤 | タクロリムス、シロリムス |
-mab(旧ステム) | モノクローナル抗体(2021年以前の命名) | トラスツズマブ、ニボルマブ |
これらのステムを把握しておくことで、新規パイプラインの作用機序を一般名から判断できます。なお、「-mab」は2021年以降の新規申請には原則使用されない旧ステムです。詳細は次のセクションで解説します。
【刷新】抗体医薬品の命名ルールと国内における使用例
2021年、抗体製剤をはじめとする抗体医薬品の命名ルールに大きな変更がありました。長年用いられてきた「-mab」が新規申請には使われなくなり、構造や機能に基づいた4つの新ステムに細分化されています3, 4)。
この変更はJANにも反映されており、マーケターが最新の命名体系を把握しておくことは、競合品の開発状況を正確に見極める上で欠かせません。
旧「-mab」体系の限界と2021年改正の背景
1990年代に導入された「-mab」は、その登録数の増加から名称の類似による取り違えリスクが課題となりました。また、かつて重視された「由来(マウス・ヒト化など)」の区分も、技術の進展により意義が薄れ、2017年のINN改定では、由来インフィックス(-xi-/-zu-など)が先行して廃止されています。この改定を経て、WHOは2021年10月の第73回INN諮問会議において、新規申請の抗体医薬品に対し「-mab」に代わる新ステムの導入を決定しました5)。なお、既存薬の名称変更は行われず、新規命名から適用されています。
新ステム(-tug/-bart/-mig/-ment)の定義と特徴
新体系では、抗体を「標的の数」「Fc領域の改変の有無」「構造の形状」の3つの基準で4分類します3, 4)。
抗体医薬品の新ステム対照表
新ステム | 定義 | マーケターとしての視点 |
|---|---|---|
-tug | 定常領域に改変のない単一特異性抗体 | 天然構造に近く、免疫原性や代謝の予測がしやすい |
-bart | 定常領域に工学的改変を導入した単一特異性抗体 | 半減期延長など、機能最適化を意図した設計が想定される |
-mig (多重特異性) | 2つ以上の標的を認識する多重特異性抗体 | 複数標的への同時アプローチを前提とした設計が想定される |
-ment (断片型) | Fc領域を持たないフラグメント抗体(Fab、scFvなど) | 組織移行性など、フルレングスとは異なる特性が期待される |
例えば、競合品の一般名末尾が「-bart」であれば、Fc領域への工学的改変を前提とした開発コンセプトが読み取れます。
なお、暫定的な名称(pINN)段階では公開後に変更される可能性があるため、資料などへの引用時はpINN時点の名称である旨の注記が必要です。
国内JAN通知に基づく「ラルドタツグ」などの最新実装事例
国内でも2022年2月の厚労省通知(薬生薬審発0204第3号)により新ルールが適用されています6)。
すでに「ラルドタツグ(-tug)」「バミキバルト(-bart)」「デネシミグ(-mig)」など、新ステムを冠した日本語表記の薬剤が登場しています7)。PMDAのJAN申請情報を確認する際、これらの語尾を識別できるかどうかが、競合他社の技術的特徴を捉えるポイントです8)。
機序を読み解くインフィックスの最新定義と廃止情報
ステム直前の標的を示すインフィックスも整理が進んでいます。
具体的には、サイトカイン受容体を標的とする「-ki-」が、従来のインターロイキンからサイトカインおよびその受容体へと対象が拡張されました。また、免疫調節を示す「-li-」が廃止され、代わって免疫刺激の「-sto-」や免疫抑制の「-pru-」が新設されています5)。
なお、インフィックスはINN申請時点で想定される作用機序に基づいて割り当てられるため、最終的な臨床適応とは必ずしも一致しない点に注意が必要です。
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ADC・mRNA・細胞治療など次世代モダリティの命名動向
抗体医薬品の命名刷新と並行し、ADC(抗体薬物複合体)やmRNA医薬品、細胞・遺伝子治療といった次世代モダリティでも、WHOによる命名体系の整備が進んでいます。自社や競合のパイプラインにこれらのモダリティが含まれる場合、基本的な命名規則を把握しておくことで、開発動向の読み取り精度が上がります。
ADC(抗体薬物複合体)の命名規則:抗体新ステムと第2語構成
ADCは抗体部分に新ステム(-tug/-bartなど)が適用され、第2語で薬物との結合体であることを示す二語構成です3, 4)。例えば「raludotatug deruxtecan」では、第1語の「raludotatug」が抗体部分(-tug)を、第2語の「deruxtecan」が結合薬物を指します。名称前半の語尾から、ADCの抗体フォーマットの特徴も読み取れます。
mRNA医薬品の共通ステム「-meran」の運用定着
mRNA医薬品には共通ステム「-meran」が割り当てられています。WHO INN Bio Review(2022年版)でその運用が明記され、tozinameran(新型コロナウイルスワクチン)やelasomeranなどが同系列に整理されました10)。
今後mRNA創薬が拡大するにつれ、このステムを軸にした競合品の識別が、実務上の判断基準として機能します。
細胞・遺伝子治療(-cel)および融合タンパク質(-fusp)の規則
細胞治療製品は「-cel」で終わる二語構成で命名されます。
第1語に遺伝子修飾成分(-geneステム)、第2語に細胞の種類(-celステム)を示す構成です。CAR-T細胞療法を示すインフィックス「-cabta-」が組み込まれるケース(例:lisocabtagene maraleucel)もあります。ほか、融合タンパク質には「-fusp」が、また、Fc領域を結合して半減期を延長した製品には名称の前に「ef-」が、それぞれ付与されます。
次世代モダリティの命名はいずれも、構造や機能をそのまま名称に反映するという設計思想に基づいたものです10)。
ステムの知識を活かした競合分析とLCMへの応用
一般名の命名規則を理解することは、自社の立ち位置を明確にし、競合戦略や製品開発の判断を支える実務的な材料となります。ステム知識を戦略的に活用するための具体的な場面を整理します。
競合分析:一般名から読み取る製剤技術上の優位性
ステムの知識は、一般名から競合品の技術的特徴を読み取る手段となります。承認情報やパイプラインの語尾を確認するだけで、製品の設計思想や訴求軸をある程度推測できます。
例えば、競合品が「-bart」であれば、半減期延長やエフェクター機能など、機能の最適化を狙った設計が想定されます3,4)。
これに対し、自社品が単一標的の「-tug」であれば、安全性や長期データの信頼性を対抗軸に据えるといった戦略判断につながります。「-mig」なら複数標的への同時アプローチが差別化軸になると予測でき、比較検討資料の論点整理に有効です。
市場防衛と参入:バイオシミラー(BS)対策とLCM戦略への応用
バイオシミラー(BS)は先発品と同一の一般名を用いるため、ステム単体での区別はできません。国内では一般名に後続品番号を付記するルールがあり、識別の際には「一般名+後続表記+販売名」をあわせて確認することが基本となります9)。
BSが参入すると、先発品は経済性を背景としたシェアの移行が生じます。そこで、自社品が「-tug」であれば、Fc領域を改変した次世代品(「-bart」)の開発により、より高付加価値な製品へと移行するという方向性が考えられます3, 4)。
一方、競合が「-bart」系の後継品を開発中なら、次世代品への移行を見据えた戦略を取っている可能性があり、市場構造の変化を予測する手がかりになります。そのため、BS参入タイミングや適応追加の優先順位を見極める判断材料になります。
こうした技術的な特徴を把握することで、適応追加・剤形変更・BS参入といったLCMの各局面で、より精度の高い判断が可能になります。
ステム知識はブランド価値と市場分析を支える共通言語
医薬品のステムは、競合品の設計思想を読み解き、自社品の市場における立ち位置を把握するための共通言語です。2021年の抗体命名刷新を経て、一般名から得られる情報の解像度はさらに高まりました。
低分子からバイオ、ADC、mRNA、細胞治療へとモダリティが多様化する中、各命名体系の基本を押さえておくことは、製品戦略の議論を深めるための前提条件になりつつあります。インタビューフォームやJAN申請情報を確認する際に、ステムへの理解があることで、一般名から読み取れる情報の幅が広がります。名称の末尾まで丁寧にひも解く習慣が、差別化戦略の精度を高めます。
<出典>※URL最終閲覧日2026.4.1
1)WHO, World Health Organization, International Nonproprietary Names (INN)
( https://www.who.int/teams/health-product-and-policy-standards/inn )
2)WHO, World Health Organization, Use of stems in the selection of International Nonproprietary Names (INN) for pharmaceutical substances, 2024
( https://www.who.int/publications/i/item/9789240099388 )
3)WHO, World Health Organization,2021.10.31, INN Working Document 21.531
( https://www.who.int/publications/m/item/inn-21-531 )
4)WHO, World Health Organization,2022.5.2, INN Working Document 22.542
( https://www.who.int/publications/m/item/inn-22-542 )
5)WHO, World Health Organization,2021.11, 73rd INN Consultation Executive Summary
6)厚生労働省, 厚労省通知 薬生薬審発0204第3号(2022年2月4日)
( https://www.pmda.go.jp/files/000244825.pdf )
7)国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部, 一般的名称
( https://www.nihs.go.jp/dbcb/inn.html )
8)PMDA, 我が国における医薬品一般的名称(JAN)の申請等について
( https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/procedures/0023.html )
9)厚生労働省, バイオ後続品に係る一般的名称及び販売名の取扱いについて(平成25年2月14日 薬食審査発0214第1号)
( https://www.pmda.go.jp/files/000266853.pdf )
10)WHO, World Health Organization, INN Bio Review 2022
( https://www.who.int/publications/m/item/who-mhp-hps-inn-2022-2 )
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