【地域包括ケアの今を取材】医療従事者同士の情報共有における課題と連携システム導入による効果の実際(前編)

【地域包括ケアの今を取材】医療従事者同士の情報共有における課題と連携システム導入による効果の実際(前編)

医療従事者間の情報共有やコミュニケーションの重要性は高まっています。特に新しい感染症への対応などでは医療機関をまたいだ連携が欠かせません。しかしそこには課題も多く存在し、障壁になっているのも事実です。情報共有のために「医療従事者のデータ確認業務が増えるのではないか」「コミュニケーションに時間が割かれるのではないか」といった懸念が医療従事者側からも聞かれます。

医療従事者間の連携に最適化されたシステムの導入は、そういった懸念を払拭し、連携を後押しする可能性があります。今回は、その例としてエンブレース社のメディカルケアステーション(MCS)アプリを取り上げ、開発者にインタビューした内容を踏まえ紹介していきます。(本記事は、開発側と使用側の前後編とし、今回は前編とします。後編は現場インタビューとなります。)

地域包括ケアにおける情報共有の課題

円滑な地域包括ケアを行うために必要なのは、急性期病院や診療所、介護施設などが連携し合うことで患者さんをあらゆる面からサポートする仕組みです。そのためには、各施設の機能分担を明確にし、医療従事者同士であらゆる情報共有をスムーズに行うことが不可欠だといえます。特に一人の患者さんの情報を、その患者さんに関わる各施設の医療従事者間で共有することは重要です。患者さんの診察データを円滑に共有するためには、患者さんの病状や症状とこれまでの診察データを把握できるシステム構築が必要です。

しかし、医療データの共有には以下のような課題があると考えられます。

  • 情報の管理者が規定されていない
  • 共有するデータの内容や形式が施設によって異なる
  • 個人情報を取り扱うため、セキュリティ対策のコストが高い

医療従事者間の情報共有を円滑にするため開発された「MCS」

地域連携における医療従事者間での情報共有における題を解決するため、医療連携アプリ「MCS」は開発されました。MCSを開発したエンブレース社にその経緯について伺いました。

「MCSは、エンブレースが提供している非公開型 医療介護連携SNSです。病院、クリニック、薬局、介護施設などで働く医療・介護従事者の多職種連携や患者・家族とのコミュニケーションツールです。
情報共有システムが開発されるまでは、患者さんが急性期病院を退院した際に、地域のクリニックへ患者さんを引き継ぐ病診連携や、在宅医療の現場における訪問診療記録は対面・紙ベースでのやりとり(電話・FAX)が中心であったことも、MCSの開発理由の1つとなっています。

(画像提供:エンブレース株式会社)

エンブレース社の創業者は、医療者側の視点ではなくITベンダー出身者としての視点、また自身のみとりを体験したことから医療従事者間でのコミュニケーションの重要さに気づき、開発を行いました。さらに、MCS開発段階で、地域包括ケア・多職種連携の取り組みの先進地域の一つとして、ICTの活用に取り組んでいた東京・豊島区の医師会に使ってもらったという経緯があります。

医師会に使用してもらった段階で「歯科医や看護師、薬剤師、ケアマネジャー、管理栄養士、介護福祉士など、その患者さんに関わる多職種が連携しなければ症状は改善しない」と気付きを得ました。そして、連携アプリであるMCSではシンプルなUIを提供することで、医療従事者間でも連携できる仕組みとしています。

MCSでは、医療従事者同士がコミュニケーションをアプリケーション上に履歴として残る形で行います。関係者もその履歴を閲覧することが可能です。結果として、職種間での情報共有のタイムラグが解消されると同時に、紙ベースでやり取りを行う場合に比べ、作業負担が軽減されます。」

機能をシンプル化することで医療従事者の情報共有をサポート

MCSの機能は、以下の二つの機能のみのシンプルな構成になっています。

  • 患者さんの名前の付いたグループスレッド「患者タイムライン」
    (医療従事者同士・患者さん・患者さんのご家族で情報共有が可能)
  • 医療・介護従事者などが特定のテーマで議論する「コミュニティ」
    (医療従事者同士の意見交換)

特に「患者タイムライン」は、参加者の1人が投稿した情報に対して、他の参加者が即時に閲覧でき、読んだ人は了解ボタンを押すことで、情報を共有したことを伝えることが可能です。時系列で履歴が残ることから、患者さんの状況変化を医療従事者間で容易に共有できます。

(画像提供:エンブレース株式会社)

医療従事者や介護従事者だけではなく、患者さん本人や患者さんのご家族の参加も可能です。またテキストメッセージに加え、画像や動画、音声ファイル、ワード・PDFなどのファイルを添付できるため、テキストでは伝わりづらい情報を即座に伝達できます。

例えば、看護師が褥瘡に気付いて画像を添付すると、医師が素早く患者さんの状態に応じた対応をすることが可能になります。

(画像提供:エンブレース株式会社)

MCSは書き込みの量によって、患者さんの重症度を直感的にも気付く事ができます。また、タイムラインを用いた直感的なインターフェースにより医療従事者間の情報共有にかかる負担を軽減しています。

利便性とセキュリティ担保の両立を目指して

MCSを医療機関への導入を進めるにあたって苦労した点については、以下のようなお話をいただきました。

「医療従事者にとって利便性のあるシステム設計を考慮しながら、医療アプリとしてのセキュリティを担保するにはどうすればいいか悩みました。患者さんの大切な個人情報を取り扱うため、開発にあたっては信頼できるセキュリティの実現を優先しています。

またMCSを開発するにあたって試行錯誤する中で、SNSをイメージし、タイムラインにメンバーを招待する仕組みを作り、特許も取得しました。厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に沿って開発され、アプリとして、シンプルかつ使いやすい仕組みだと日本医師会からも認められました。引き続き、MCS導入を検討している医療機関に対し、セキュリティの懸念を和らげる努力を続けていく予定です。」

現在では、SNSの利用イメージを活かしつつ、患者さんに対する情報を相互に発信・確認できる仕組みが12万人のユーザーに利用されている点だといえるでしょう。

エンブレース社としての今後のシステム展開や今後の医療について

MCSの未来について、担当者は次のように話しています。「新型コロナウイルス感染症の流行により実感したことは、リモートで情報交換できる環境構築がより重要になったということです。また、新型コロナウイルス感染症関連コミュニティサービスと、新型コロナウイルス感染症オンライン健康相談サービスを開始したことで、現場の医療・介護従事者同士のさまざまな相談が活発に行われています。

今後は、MCSのような医療データ連携システムなどを医療従事者同士が活用することで、感染防止対策の情報を随時共有しながら診療にあたることが増えていくことが予想されます。医療現場のICT利用は今後さらに推進されるでしょう。」

実際にエンブレース社では、医療の提供のあり方が変わっていくことに伴い、MCSもビデオ会議など、リモートでの診察やコミュニケーションをさらに充実させるような機能が必要だと感じています。今後はそれらをオプションとして提供することを検討している状況です。

まとめ

MCSは、医療・介護に特化したソーシャル医療・介護連携プラットフォームです。すでに全国多数の医師会が採用、120,000人以上の医療・介護従事者の方々に利用されているスタンダード・プラットフォームになっています。
またエンブレース社では、利用現場のニーズに応じたカスタマイズや伴走支援を行うことで、導入障壁を低くするサービスも提供しています。
2020年6月からは、MCSの新機能として栄養管理アプリが追加され、より多職種の専門知識と能力の連携を強固にし、医療介護の質を高める試みを続けています。

新型コロナウイルスなどの感染症に対し、より正確でスピーディーな情報共有をすることで、患者さんが適切な治療を受けることができるようになるのはもちろんのこと、医療従事者にとっても安心して仕事ができる環境の整備や、事務作業の負担軽減が可能になるといえます。

医療従事者同士、医療機関や患者さん、患者さんのご家族とのコミュニケーションをICTの技術により円滑かつセキュアに行うことで注目されている情報共有システムは、今後の地域包括ケアにおいて、ますます重要度が増していくことでしょう。

メディカルケアステーション(MCS)
https://www.medical-care.net/

(取材協力)エンブレース株式会社
https://www.embrace.co.jp/