「ごくごく」はダメ!?お酒、たばこ、オンラインゲームなど他業界の広告規制

「ごくごく」はダメ!?お酒、たばこ、オンラインゲームなど他業界の広告規制

製薬会社の広告やプロモーションは、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)や日本製薬工業協会の自主基準などによって使用できる表現が厳しく制限されています。生命関連企業として高い倫理観が求められているわけですが、当然、製薬業界以外にも広告規制は存在します。
本記事では、「お酒」「たばこ」「パチンコ」「オンラインゲーム」を取り上げ、他業界の広告規制についてご紹介します。

お酒業界の広告規制

お酒については依存症に関する問題が世界各国で論じられており、日本でも業界内で広告の自主基準を設けています。「20歳未満の者の飲酒は法律で禁じられています」「お酒は二十歳になってから」などの注意表示が有名ですが、2016年7月には酒類の業界団体「酒類業中央団体連絡業議会」が広告の自主基準を強化し、CMで「ごくごく」「ぐびぐび」などの効果音や、のど元アップの描写の使用を禁止しました。これは「CMでの飲酒シーンには飲酒欲求をあおるものがある。特にTV広告での効果音はアルコール依存症の方にとって苦痛」といった意見(世論)に配慮した対応です。

加えて、未成年者の飲酒防止を強化するために、「テレビCMでは25歳未満の者を広告のモデルとして使用しない(以前は20歳未満)」「25歳以上であっても25歳未満に見えるような表現は行わない」「20歳未満を対象としたテレビ番組、新聞、雑誌、インターネットなどには広告を行わない」といったルールも定めました。

ノンアルコール飲料についても、アルコールを含んでいないとはいえ成人の飲用を想定していることから、「20歳未満の者を広告のモデルに使用しない」「20歳未満の者を対象としたテレビ番組やインターネットなどに広告を行わない」としています。

たばこ業界の広告規制

受動喫煙やマナーの問題もあり、喫煙者を取り巻く環境は年々厳しくなっています。たばこの広告では、「未成年者の喫煙防止に配慮すること」「製造たばこの消費と健康との関係に配慮すること」「広告が過度にわたることのないように努めること」が求められており、それを遵守するために、たばこ事業者で組織する「一般社団法人日本たばこ協会」では自主基準を設けています。

例えば、パッケージには、表面に受動喫煙対策に関する文言、裏面に喫煙者の健康影響や未成年者の喫煙防止に関する文言の記載を義務付けています。広告では、喫煙と健康に関する注意文言を広告の15%に相当する面積に表示する必要があり、テレビ・ラジオ・インターネット(技術的に成人のみを対象とすることが可能な場合を除く)・屋外広告・電車やバスなどの公共交通機関などでは製品広告を行わないことを定めています。また、読者が未成年者である雑誌などへの広告を禁止しており(統計調査において、閲読者の90%以上が成人であるとの結果が得られている場合は可)、広告を実施する際には「25歳未満の者を使用しない」「未成年者に人気のあるタレント、モデルやキャラクターを用いない」「未成年者の人気度が50%以上のタレントやモデルを使用しない」といったことをルール化しています。

余談ですが、喫煙の健康被害を警告する目的で実施された、たばこのパッケージデザインの公募イベント(禁煙推進学術ネットワーク主催)では、表面に「パパ、わたしが大人になるまで、生きてるよね?」というコピーが入り、裏面は悲しい表情の子どもの写真になっている作品が最優秀賞に選ばれました。

パチンコ業界の広告規制

賭博をやめることができないギャンブル依存症のなかでも、パチンコ・パチスロは依存症になる人が最も多いといわれています。そのため、パチンコ業界で広告を扱う法人の団体である「一般社団法人ぱちんこ広告協議会」などが業界健全化を目指して広告・宣伝ガイドラインを作成し、必要以上に射幸心(幸運や偶然により、苦労なく思いがけない利益を得ることを期待する心理)をあおる表現を禁じています。

例えば、「甘釘」「特選台」「天国調整」「モーニングサービス」「イブニングサービス」「赤字覚悟の熱血週間」などは、「入賞を容易にした遊技機の設置を窺わせる表現や表示」として使用できません。また、「7」や「7を含む数字」などの大当たりを象徴する数字を用いた表現(○つの誓い、○つの約束、○つの宣言、○つの力など)や、パチンコ玉やメダルなどの獲得が容易であることを窺わせる表示(大放出○万枚、万枚オーバー、玉箱を積み上げるディスプレイ、実際に獲得した玉箱の積み重ね、獲得した以上に見せかけるなど)も禁じています。

広告や宣伝で使えるのは「リニューアルオープン」「グランドオープン」「新装開店」「新台入荷」「大型新台入荷」など、事実ベースのあおりのない表現のみです。ただし、「新装開店=大当たりが出やすい」というイメージも定着しており、必要以上に射幸心をあおらないという観点からは、今後はさらに厳しい規制が設けられるかもしれません。

オンラインゲーム業界の広告規制

韓国で2002年にネットカフェで86時間オンラインゲームを続けてエコノミー症候群になって死亡する事件が起こるなど、ゲームにのめり込みすぎて死亡や健康を害した事例は多数報告されています。そこでWHO(世界保健機関)は、健康面や人間関係に問題が生まれても制御できずに没頭し続けて日常生活に支障をきたすようになることをゲーム障害(ゲーム依存症)として、2019年5月に国際疾病に正式認定しました(2022年から適用)。

しかし、生命を脅かす危険性のあるオンラインゲームですが、業界団体による広告の自主基準はまだ存在していません。そのため、CMなどは各社が独自の判断で作っており、視聴者からは「依存症を助長する描写になっているのでは?」といった声があがるときもあります。例えば、昨年9月にリリースされたパソコン向けオンラインRPG「LOST ARK」の動画CMは、朝方までゲームにはまる若い男女らが登場し、最後はみんなで力を合わせて戦いに挑み「この世界は、青春みたいだ」というコピーで締めくくるストーリーで、ゲームにのめり込むユーザーにフォーカスした内容になっています。この動画CMに対して、「ゲーム依存症を美化、助長しないか」といった声が依存症の当事者からあがりましたが、広告の規制がないため内容変更などは行われていません(2021年2月5日時点)。

https://www.youtube.com/channel/UCGs5D0RzEGqKu63ixoEFAlw

厚生労働省の2017年度の調査では、オンラインゲームなどの「ネット依存」が疑われる中高生は国内で約93万人いると推計されています。たかがゲームと思うかもしれませんが、依存症によって命を落としたり、学校や仕事をやめるなどして将来に大きな影響を及ぼすこともあるのです。ゲーム障害は病気として認定されましたが、予防の面でも早急な広告規制の準備・整備が求められます。

広告規制を守ったうえで、伝わる工夫を行う

オンラインゲームのように広告規制が整っていない業界もありますが、広告規制は必要だからこそ存在している守るべきルールです。決して表現を窮屈にするためのものではなく、あくまでも生活者を守るためのものです。当然のことですが、どの業界であっても広告やプロモーションを実施する際には、規制の盲点や抜け穴を探すのではなく、真摯な姿勢で規制を守り、そのうえで伝わる表現を工夫することが大切でしょう。


【参考】
・酒類の広告・宣伝及び酒類容器の表示に関する自主基準
http://www.rcaa.jp/standard/pdf/jishukijun_new.pdf  (2021年2月5日閲覧)
・製造たばこに係る広告、販売促進活動及び包装に関する自主規準
https://www.tioj.or.jp/activity/pdf/200713_01.pdf  (2021年2月5日閲覧)
・「たばこパッケージの注意文言表示デザイン」受賞作品発表
http://tobacco-control-research-net.jp/action/tabaco_design2.html  (2021年2月5日閲覧)
・パチンコ業界における広告・宣伝ガイドライン
http://paa.or.jp/pdf/guidelines.pdf  (2021年2月5日閲覧)
・ギャンブル広告のあおり表現-パチンコ広告宣伝の規制について-
http://t-nihongoken.org/img/file93.pdf  (2021年2月5日閲覧)