医療での「ブロックチェーン」活用の可能性

医療での「ブロックチェーン」活用の可能性

「ブロックチェーン」という言葉に馴染みの無い方も多いのではないでしょうか。一方、ニュースでも取り上げられた「ビットコイン」ならば、聞いたことがある人も多いかもしれません。今回の特集では、ビットコインなどの暗号通貨の根幹技術となっているブロックチェーンについて紹介したいと思います。ブロックチェーンはまだまだ未知数の技術ですが、すでに医療の世界でも活用され始めているのです。

「ブロックチェーン」はデータ管理技術

ブロックチェーンは分散型台帳技術と呼ばれ、簡単に言うとデータを安全に管理するデータベースのことです。通常のデータ管理では、特定の管理者や管理場所が存在しデータを管理します。しかし、ブロックチェーンの場合、ブロック単位のデータをチェーン(鎖)状につなぎ合わせ、データの管理を分散して行います。(図1)

このブロックチェーンの管理手法を、通貨に適用しているのが暗号通貨ビットコインです。つまりビットコインとは、国家や企業が発行した通貨ではなく、コンピューター間でブロックチェーンの技術を活用し、中央管理ではなく分散されたネットワーク上で管理している通貨のことを言います。(図2)

「ブロックチェーン」を使うメリットは安全性と低コスト

データ管理にブロックチェーンを活用するメリットには次の2点があります。

①安全性が高い(改ざんがほぼ不可能)

② データ間の取引が低コスト

①安全性が高い(改ざんがほぼ不可能)

ブロック化したデータの取引ごとに暗号化した署名を用いるため、なりすまし行為が難しくなります。また、取引データは過去のものと連鎖して保存されるため、データの1部を改ざんしても過去のデータもすべて改ざんしなければ整合性が取れなくなります。さらに、外部からでも台帳を用いて過去のデータを参照できるため、データの改ざんなどの不正行為をリアルタイムで監視することも可能です。そのような理由から、ブロックチェーンでのデータの改ざんは、ほぼ不可能と言われています。(図3)

②データ間の取引が低コスト

さまざまな取引の際には、安全に行うために仲介役を立てる場合が多く、仲介手数料が発生します。しかし、ブロックチェーンを用いれば仲介役がなくても安全に取引が行えるため、仲介手数料が発生せずに低コストで取引が行えます。(図4)

「ブロックチェーン」の管理者は所有者全員

安全性、低コストと、ブロックチェーンのメリットを2点あげましたが、注目されている理由としては、中央集権ではなく、個人間同士での信頼のやり取りを可能にした点(思想)もあげられます。通常は国家が発行した通貨で金銭取引を行いますが、ビットコインではビットコインの所有者全員が管理者であり、通貨における信頼性は、改ざんが不可能なブロックチェーンの技術によって所有者全員が担保しているのです。

医療分野でのブロックチェーン活用例

このようなブロックチェーンの活用は、医療業界でも進められています。人口約130万人の小国ながら電子国家として知られるエストニアでは、国民の生涯の健康・医療データの記録管理にブロックチェーンを活用する試験を始めています。

サイバーセキュリティソリューションを開発・提供しているGuradtime社(暗号化技術に関する会社。2007年に首都タリンで創業)がエストニア政府と提携し、第三者機関を経由せずに個人の健康データのようなビックデータを管理する取り組みを開始しています。個人情報の塊である電子カルテなどの医療データを第三者の改ざんから防ぐためには従来のブロックチェーンでは難しいため、改良を重ねてブロックチェーン型の独自アプローチを生み出し試験を行っているようです。エストニアでは将来展望として、医療データだけでなく、さまざまな個人情報がブロックチェーン上で管理できるようになると考えているようです。

ブロックチェーンの活用で、偽薬や基準外の医薬品流入を防ぎ、23兆円の節約予想も

米国を本拠とするリサーチ&コンサルティング会社のフロスト&サリバンは、ヘルスケア分野でブロックチェーン技術を活用していくことで、偽薬や基準外の医薬品流入を防ぐほか、セキュリティ保護などの効果で、2000億米ドルという大幅なコスト削減効果が見込まれるとレポートを発表しています。※1 また、同社のトランスフォーメーショナル・ヘルスケア部門の業界アナリスト、カマリジット・ベヘラ氏は「ブロックチェーンはヘルスケア産業におけるあらゆる課題の解決策ではありませんが、既存のワークフローを最適化し、高いコストがかかる工程を中抜きすることで、数十億ドル規模のコスト削減効果が見込めるでしょう」とも語っています。このように、医療を含めさまざまな産業でブロックチェーンを活用した取り組みが始まっています。昨今のビットコインの分裂問題のように、ブロックチェーンには拡大性などの大きな課題が残っており、今後どのような存在になるのかは未知数といえます。しかし近い将来、信頼というものが個人間同士で可視化され、全ての取引が個人間で行われる社会がやってくる可能性は十分にあるのではないでしょうか。

※1 BlockchainTechnologyinGlobal Healthcare,2017–2025:https://www.researchandmarkets.com/research/2n6h56/blockchain