社内での活用からマーケティング施策への応用まで、製薬業界で存在感が高まるメタバース(仮想空間)
医療機関への訪問規制が続く中、製薬企業各社はプロモーション活動の効率化・差別化を企図してメタバースの活用を進めています。幅広い業種・業界でメタバースの導入を支援してきたoVice株式会社 Sales Managerの阿部あかり氏に、エンターテインメントからビジネスシーンまで幅広く活用されているメタバースとはどのようなものなのか、また、医薬品マーケティング領域での可能性や活用事例についてお話を伺いました。
メタバースとは?
機器の性能や活用する目的によって3Dと2Dを使い分ける
メタバースとは、オンライン上の仮想空間です。この仮想空間では、複数の人が同時にログインをして現実世界(リアル)と同じように活動することができ、アバターと呼ばれる自分の分身を入場させて、アバター同士でさまざまなコミュニケーションを行います。
メタバースを紹介している記事や書籍では、ヘッドセットをつけてその空間に入り込んで没入感を得る3Dのメタバースを中心に、アーティストのコンサートやショッピング、コロナ禍の行動制限で訪問できなかった観光地のバーチャル体験など、視覚を中心とした体験ができる先進的な事例が数多く紹介されています。
一方、複数人が同時にログインし、さまざまなコミュニケーションができるメタバースの特長に着目して、ビジネスツールとして導入する企業も増えてきました。この場合は、ハイスペックな動作環境や通信環境が推奨される3Dではなく、ビジネスユースで使われるパソコンでもスムーズに操作でき、出張先での飲食店やビジネスホテルといった不安定な通信環境でも活用可能な2Dのメタバースが中心です。
このように、一口にメタバースと言っても、3Dと2Dで必要となる機器の性能や活用される目的が大きく異なります。oViceでは、ビジネスユースの2Dのメタバースを「ビジネスメタバース」と呼んで開発し、多くの企業に提供しています。
どのような産業分野で利用されているか
コロナ禍をきっかけに、オンライン会議ツールを中心に、非接触型のコミュニケーションが増えてきました。この非接触型のコミュニケーションツールの1つとして、メタバースが注目されています。基本的にメタバースでは、リアル空間でのコミュニケーションは全て可能です。
視覚が重要となるエンターテインメントや観光の分野では、最新技術を駆使して、何千万円もの多額な予算を使って製作された3Dのメタバースが登場し、多くの人々に感動を与えてきました。
対して2Dのメタバースは、ビジネスツールとして導入されるケースが大半を占めます。コロナ禍でオフィスへの出勤ができなくなり、対面で直接話すコミュニケーションを代替するツールとして、メタバースが注目されてきました。特に、大きなオフィスで会議や会話をしながら仕事をする文化を持っていた企業では、IT業界やスタートアップの会社のようにチャットツールなどが一般化していなかったために、バーチャルオフィスとして多くの企業がメタバースを導入しました。
3Dと比較して安価に導入できる2Dのメタバースでは、各種セミナーやオンライン講演会、展示会などのイベントや、オンラインサロンをメタバースで運営するケースも出てきました。2Dのメタバースは、今後も、あらゆる産業で活用されていくと考えられます。
製薬業界におけるメタバースの活用実態
メタバースはリアルと同じようなコミュニケーションを叶える
コロナ禍で、製薬業界でもデジタル化による非接触型のコミュニケーションが増加し、特にオンライン会議ツールは急速に浸透しました。
しかし、MRを統括する営業部門では、オンライン会議ではつながっている時間が制限されるために、個別の相談などを含むプライベートな会話が激減し、MRチームの一体感が希薄になるという新たな課題に直面しました。
医療従事者向けのWeb 講演会やイベントを運営するマーケティング部門でも、いくつかの講演を同時並行で行う大規模オンラインイベントを開催すると、講演ごとにアカウントを発行することが障害となって、参加者である医療従事者が気軽に入退室できなくなる問題が顕在化しました。また、リアルでは講演の隙間時間や終了後の懇親会などで医師に話しかける機会がありましたが、オンラインが浸透してからはそのような接触機会が減少してしまいました。
こうしたオンライン会議ツールではできない、リアルと同じようなコミュニケーションを実現したいというニーズから、接続時間に制限のないメタバースが注目されるようになっていると考えています。
製薬企業におけるメタバース導入時の検討ポイントはセキュリティ面
oViceを導入いただいている製薬企業の多くは、導入時にセキュリティと運営コストをチェックされます。特に製薬業界では、セキュリティに関してのルールが厳格な傾向にあり、システムを運営するサーバが国内に設置されていることを導入の条件としている製薬企業がほとんどでした。
oViceは、AWSの日本国内サーバで運用しているので、このセキュリティの課題をクリアできます。また、バーチャルオフィスとして使用される場合、入室制限ができる機能や、メタバース上に設けた会議室に鍵をかける機能があることも評価されています。運営コストも月額5,500円(税込)からと、比較的導入しやすい価格設定となっています。
メタバースの製薬業界における活用シーン
製薬企業では、スモールスタートとしてメタバースを導入し、使い勝手を確認した上で、全国のMRや支店マネージャークラスの集合研修や会議、さらに医療従事者向けのWeb講演会などのイベントへ展開するケースが大半です。
バーチャルオフィスとしての利用と、複数の聴衆を相手に講演するようなイベントでは、それぞれ声を届けたい範囲が異なります。例えばoViceでは、ビデオ通話や画面共有などができる「オブジェクト」という機能を活用することで、声が聞こえる範囲を自由に設定できます。近くに来た時だけ声が聞こえるように範囲を設定すれば、近くにいる人だけでの会話を楽しめます。また、声が広く聞こえるように設定すれば、大規模イベント空間としての活用も可能です。
2021年から2022年の春くらいまでは、主に営業部門内での社員同士のコミュニケーションの活性化を目的としたバーチャルオフィス利用が圧倒的に多く見られました。しかしそれ以降は、医療従事者向けのWeb講演会やその後の懇親会への利用など、医師とのコミュニケーションを中心としたマーケティング施策に活用するケースが増えてきたように思います。通常のWeb会議システムではできない、リアルと同じコミュニケーションで、医師との交流が深まるような環境を用意したい、というニーズが出てきたからです。
ほかにも、医師とのコミュニケーションという側面では、講演をお願いする医師が操作に不慣れな場合にサポートとしてMRが訪問することで、普段ではなかなかお話できない先生との会話の機会が生じるなど、操作上のトラブルを前向きにとらえる声も聞かれました。
このように、メタバースは社員のバーチャルオフィスとして、さらには医療従事者向けのWeb講演会やイベントにおいても活用可能です。oViceでは幅広い活用シーンに対応できるよう、各々の用途に適したメタバースの会場テンプレートを数百種類用意しており、無料で利用できます。また、各社で作成したオリジナルのレイアウトをアップロードして利用することも可能なため、各社の医薬品マーケティングでさまざまな活用の可能性を模索する動きが加速しています。
Web会議システムやチャットでの課題を解決できるメタバース
製薬企業では、コロナ禍でMRの一体感を醸成するオフィス出社が制限され、リモートワークの定着化が進んだことで、社内の関係性や教育研修の強化といった面で課題が出てきました。また、医師とのコミュニケーションの強化に向けたWeb講演会やイベント、さらには懇親会などで、リアルと同様のコミュニケーションができないか、模索されている製薬企業も多いことでしょう。
こうした課題を解決する強力なツールの1つといえるのが、メタバースと考えます。
まずはMRの研修会など社内でスモールスタートし、部門横断的な研修会や会議、そして医療従事者向けのイベントへと、社内外の取り組みをメタバースで代用できないか、検証することから始めてみてはいかがでしょうか。