製薬企業の神経系希少疾患の疾患啓発サイトを調査【2024年6月版】

製薬企業の神経系希少疾患の疾患啓発サイトを調査【2024年6月版】

これまで2回に渡って調査してきた製薬企業が運営する希少疾患啓発サイト。第3弾の今回は、神経系の希少疾患啓発サイトの運営状況やコンテンツ内容を調査しました。先進的な疾患啓発サイトの特徴を分析し、実務に生かせる工夫をまとめました。

希少疾患(神経)の疾患啓発サイトを運営している製薬企業一覧

これまでの希少疾患啓発サイトの2回の調査では、血液と免疫を対象としました。周りに同じ病気での悩みを共有できる人があまりいない希少疾患では、患者体験談やコミュニケーションの場が重要です。また病気について調べる大変さを軽減するための積極的な情報発信や、サイトの信頼度を高める工夫が求められていることも浮き彫りになっています。
今回は神経系の希少疾患を対象に疾患啓発サイトを調査しました。2023年5月にIQVIAより公開された22年度販売会社ベース企業売上ランキング(期間:2022年4月~2023年3月)より抜粋した19社の中で、今回調査対象となったサイトは、8社14サイトでした。
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所HPに掲載の希少疾病用医薬品指定品目一覧表(2024年3月更新分)、厚生労働省HPに掲載の希少疾病用医薬品に指定された品目一覧(2024年3月更新分)より、特徴ある19社の神経系疾患啓発サイトをピックアップ

神経系希少疾患啓発サイト 調査対象

これまで調査した血液系や免疫系の希少疾患と比べ、神経系の希少疾患啓発サイトは数が多く、またALSやてんかんなど比較的認知されている疾患もありました。とはいえ14サイトのほとんどで疾患が異なることからも、依然として各希少疾患の啓発サイトは少なく、患者さんやご家族の方が情報を探すのに苦労しているであろうことが推測されます。

そのため、疾患啓発サイトの運営により病気や治療に関する正しい情報を届けることで一般の方の理解を促進する活動が求められます。しかし、疾患啓発サイト制作には労力や費用が必要なため、それらを抑えながらコンテンツを制作し情報発信を行う工夫が求められるでしょう。

今回調査した中では、エーザイが運営する「epiサポ」が一つの好事例となりそうです。「epiサポ」ではてんかん全般の疾患啓発サイト内でレノックス・ガストー症候群について解説しています。このように希少疾患だけにこだわらず、関連疾患とともに紹介することで効率良くサイト運営を行えるのではないでしょうか。また「epiサポ」では、アメリカで作成されたビデオを字幕付きで配信しています。国内の事例だけではコンテンツ制作が難しい希少疾患においては、積極的に海外で運営している疾患啓発サイトのコンテンツや仕組みを導入してみても良いかもしれません。

費用を抑えた効率的な情報発信にSNSの運用は欠かせません。しかしほとんどの製薬企業が、FacebookやXでの希少疾患啓発は、世界希少・難治性疾患の日などに合わせた情報提供に留まっていました。今回調査対象ではない疾患については多く投稿しているSNSもあるため、希少疾患でも投稿回数を増やす取り組みが必要そうです。

今回調査した14サイトは各サイトさまざまな特徴や工夫が見られましたが、そのうち3サイトを取り上げて詳しくご紹介します。その他の疾患啓発サイトも含めた調査結果はダウンロード資料を用意していますので、ページ下部よりダウンロードください。

中外製薬 With your SMA

トップページでは写真と概要を載せたボタンアイコンを用いてコンテンツを表示しており、どのコンテンツから読むかを選ぶ楽しみがあります。さらに各コンテンツもオリジナル性の高い内容です。「治療と生活のサポート」ではトップページにお金・もの・人にまつわるサポートを図でまとめており、どのようなサポートが利用可能か一目で分かりやすい工夫が見られました。各サポートコンテンツには年齢での絞込み機能があり、検索しやすさへの配慮がなされていました。

オリジナル性の高いコンテンツの一つに、自分だけのリハビリメニューが組める「わたしのおうちリハ目標シート」が挙げられます。このコンテンツでは最大3つのリハビリメニューを選択し、タイミングとレベルを設定して独自のメニューが作成できます。家族や医療従事者と相談しながら、自宅でのリハビリメニューを考える際にも活用できそうなコンテンツです。全身の筋肉イラストでは名称をクリックすると、解説とその筋肉が使われる動作が表示される仕組みです。その部位の筋肉を鍛えるためにどのような動作をすればよいか分かりやすいため、自宅でも大きな負担を感じることなくリハビリに取り組めるでしょう。

日本各地の郷土料理やご当地グルメのレシピを紹介する「おうちで楽しむ旅ごはん」も工夫が見られるコンテンツです。各レシピは嚥下や咀嚼レベルに応じた3パターンのアレンジレシピで紹介されており、患者さんもご家族と同じメニューが楽しめます。その他スーパーやドラッグストアなどで購入できるユニバーサルデザインフード®️についての紹介や食べやすい食材の解説などもあり、食事づくりの負担軽減を図ったコンテンツにまとまっていました。

With your SMA
https://with-your-sma.jp/

サイトディスクリプション

With your SMAでは、指定難病である脊髄性筋萎縮症(SMA)を理解するための疾患情報(症状・治療・診断・検査等)、SMA患者さんやご家族の支えとなる情報をご紹介します。中外製薬

キーワード

sma,脊髄性筋萎縮症,With-your-SMA

コンテンツ一覧

・SMAのことを知りたい方
イラストを豊富に用いて疾患の原因・症状・検査・治療について解説。似ている病気の紹介もあり
・SMAの方・ご家族の皆さま
利用できる支援・治療に携わる医療関係者を紹介。Q&Aもあり
・リンク集
疾患やリハビリなどに関するサイトと利用可能な支援制度の問い合わせ先を掲載
・おうちリハ
日常生活でできるリハビリを紹介。どの動作でどの筋肉が使われるかイラストで解説。カスタマイズしたおうちリハ目標シートを作成可能
・おうちで楽しむ旅ごはん
ご当地ごはんをSMA患者が食べやすいレシピで紹介。嚥下機能が低下した方向けの食事の注意点やごはんづくりのポイントを解説
・用語集
関連する用語を五十音順に紹介
・総合監修医プロフィール
監修医師の所属や学歴・職歴、学会活動を紹介
・弊社製品をお使いの方・ご家族の皆さまへ
薬剤使用の注意点や使用方法を紹介

田辺三菱製薬 ALSステーション

こちらのサイトでは医師への取材記事である「ALS最前線」を一つ目のコンテンツに配置しているところが印象的です。このコンテンツでは医師へのインタビューをもとに記事を作成し、Q&A形式で疾患の現状や対症療法、栄養管理、診断など6つのテーマで解説しています。ALS治療を最前線で行う医師のインタビュー時の写真も掲載しており、コンテンツの信頼度が高まっていると感じました。

治療法が確立していない希少疾患では、あらゆる治療の情報を知りたいと感じる患者やご家族の方も多いでしょう。「Vol.1 ALSの現状と展望」内では大規模研究「JaCALS」のリンクボタンを設置し紹介しています。自分で新しい治療法を知ることができるコンテンツやリンクは、当事者の方々が求めている情報かもしれません。

コンテンツ「嚥下食レシピ」では、普通食と同じ材料で作れるレシピを紹介。患者さん向けのレシピだけではなく、同じ材料で家族全員の食事を作れることは、ご家族など介護する側の方の負担を軽減できることでしょう。

こちらのサイト内では、特設サイト「ALS ACTION」も紹介しています。患者だけでなく、サポートする方への情報も発信するサイトです。トップページにはさまざまな立場の方からのメッセージを写真付きで掲載。病気で孤独を感じている患者やご家族の方へ、一人ではないことを伝えられるページです。サイト内では病気や治療に関する情報以外にも、患者メッセージや世界のご当地レシピの紹介などがあり、それぞれの記事に目次を用意しています。各記事は患者メッセージ・医療・ライフスタイルなどをタグ付けしているため、検索しやすくなっていました。

Facebook公式アカウントでは疾患の情報を発信しており、投稿内容に合ったサイトページを紹介しています。各コンテンツに落とし込んで紹介することはSNSの投稿回数の増加を図ることができ、結果的に多くの人の目にとまる機会が増え疾患啓発へとつながるかもしれません。

ALSステーション
https://als-station.jp/

サイトディスクリプション

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の病態・治療から周辺知識、各種サポート体制など、さまざまな情報を分かりやすく紹介しています(田辺三菱製薬)。

キーワード

ALS,筋萎縮性側索硬化症

コンテンツ一覧

・ALS最前線
医師による疾患解説記事を掲載。インタビュー形式で6つのテーマについてそれぞれの医師が解説
・ALSとは
疾患基礎知識・原因・症状・検査についてイラストを用いて紹介
・嚥下食レシピ
普通食にひと手間加えるだけで作れる嚥下食のレシピを掲載。洋食・特別な日・季節のレシピなどがある
・各種サポート情報
利用可能な支援制度や相談センターを紹介
・ALSFRS-Rスコア 評価ツール
12項目に回答するとスコアが自動で計算される。印刷可能
・ALS患者さん 1日の推定エネルギー計算
性別・年齢・身長・体重・ALSFRS-Rスコアから必要エネルギーを計算。食材のカロリー目安一覧表もあり
・みさログ
ASL患者のブログを掲載
・ALS ACTION
さまざまな立場の方への情報を発信する特設サイト。病気や医療以外に患者メッセージや世界のご当地レシピ紹介などもあり。それぞれの記事に目次を用意。
・弊社製品をご使用の方へ
薬剤使用における注意点や有効性が確認されている患者タイプ、治療方法を紹介
・ALSに関するQ&A
基礎知識・診断・治療・サポート情報のQ&A掲載
・ALSリンク集
関連する公的機関や学会のサイトを紹介

中外製薬 視神経脊髄炎(NMOSD)Online 

疾患についてイラストを用いて丁寧に解説しているサイトです。コンテンツ「NMOSDについて知る」では視神経を図で表し、どの部位に炎症が起きるとどのように視野が欠けるかを分かりやすく説明。さらに詳しい疾患の解説や周辺知識は「Check -治療と生活のヒント-」で行っています。深度の異なるコンテンツを用意して疾患を解説することで、はじめて知る言葉も多い希少疾患を理解しやすいように感じました。

サポートコンテンツが充実していることも特長です。在宅自己注射を行う患者のショートムービーやスキンケア動画、ステロイドによる生活習慣病の合併症がある方におすすめのレシピ動画などを配信。さらに「デジタルロービジョンサポート」ではスマートフォンの便利機能解説動画を提供しており、今の時代に即したコンテンツ制作がなされています。その他ヘアケアやヘアアレンジのコンテンツ、症状・困りごとなどを医師に伝えるための「正直ノート」、公式LINEアカウント視神経脊髄炎on“LINE”の提供も行っています。

X公式アカウントでは10/24「NMOSD」の日や5/23「難病の日」に合わせて情報を発信。また疾患啓発を目的とした参加型楽曲プロジェクトを開催しており、その募集などもXにて行っていました。サイト内のショートムービーや啓発イベントの動画配信は、YouTube公式チャンネルでも配信されています。

視神経脊髄炎(NMOSD)Online 
https://nmosd-online.jp/

サイトディスクリプション

視神経脊髄炎(NMOSD)Onlineは、視神経脊髄炎(NMOSD)の情報を提供し、患者さんと家族の思いを未来へつなぐサイトです。視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)とは、原因、症状、進行、検査、診断、治療などについて解説いたします。

キーワード

視神経脊髄炎,NMOSD,Online,オンライン,中外製薬,エンスプリング

コンテンツ一覧

・NMOSDについて知る
イラストを用いて基礎知識・原因・症状を解説
・治療について知る
診断・治療・日常生活の注意点を紹介。治療を受けられる認定医については学会リンクを配置
・支援制度について
利用可能な公的支援を具体例とともに紹介。福祉サービスの紹介もあり
・Check -治療と生活のヒント-
病気や治療のこと、日常生活、リハビリについてアドバイスを掲載。ダウンロード可能な冊子版もあり
・サポートコンテンツ
ショートムービーやスマートフォンの便利機能解説動画、おすすめのレシピ動画などを配信。症状・困りごとなどを医師に伝えるための「正直ノート」、公式LINEアカウント提供あり
・弊社製品をお使いの方はこちら
治療薬の説明や副作用、サポートプログラムを紹介

SNS発信の内容を工夫し、効率良い疾患啓発を

希少疾患で苦しむ患者さんやご家族のために、疾患啓発サイトを運営したりコンテンツ内容を充実させたりすることは重要であり、製薬企業の使命の一つです。今回の調査では、オリジナル性の高いコンテンツや海外コンテンツの活用、医師インタビュー、患者をサポートする方への情報提供など、各社の工夫が見られました。

さらに疾患啓発サイトの運営だけでなく、疾患を周知させる努力も製薬企業に求められてきています。その手段として、SNSの活用は欠かせないでしょう。しかし年に1回の投稿では、情報発信は不十分と言わざるを得ません。コンテンツ内容にまで落とし込んでの投稿、イベントの告知、さまざまな立場の方からのメッセージなど内容を工夫して投稿回数を増やしてみてはいかがでしょうか。


ダウンロード資料「製薬企業の神経系希少疾患啓発サイトを調査【2024年6月版】」

本記事では調査対象の一部について紹介しましたが、さらに詳しいコンテンツ一覧など、今回調査した詳細な情報はダウンロード資料よりご確認いただけます。下記フォームに必要事項をご記入の上、お申し込みください。資料ダウンロード用URLをお送りいたします。