セミナーレポート/Patient Journey Modelに基づくデータ活用とエビデンス創出の実践

セミナーレポート/Patient Journey Modelに基づくデータ活用とエビデンス創出の実践

ポストコロナ・希少疾患時代に製薬企業に求められるデジタル戦略を臨床医目線から考察するオンラインセミナー「臨床医目線で提案する、希少疾患時代において製薬企業に求められる新たなデジタルストラテジー」が2023年3月8日に開催されました。本記事では、株式会社データック 代表取締役/医師/データサイエンティスト 二宮英樹氏によるセミナー「Patient Journey Modelに基づくデータ活用とエビデンス創出の実践」より、希少疾患領域のデータ創出や、マーケティングとメディカルアフェアーズの協働についてのトピックを中心にレポートします。

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セミナーレポート/希少疾患時代の医師起点のデジタルマーケティングアプローチ
2023.04.17
セミナーレポート/希少疾患時代の医師起点のデジタルマーケティングアプローチ

蓄積が乏しい希少疾患領域のデータを創出する

まず二宮氏は「希少疾患に関するデータベース研究や相談が最近は増えてきている」と指摘します。その背景には、そもそもの疾患疫学や治療実態など分かっていないことが多いこと、データやエビデンスが乏しいこと、さらに治療に至る前の医療機関受診や専門医受診、診断における課題が挙げられます。
このような背景をふまえ、まず希少疾患マーケティングの進め方やデータ創出方法について、紹介がありました。

メディカルアフェアーズ側が大きな役割を持って推進する希少疾病用医薬品のマーケティング

例えばマーケター1名、メディカルアフェアーズ1名でプレローンチの研究戦略フェーズを進めている場合、マーケターが戦略を練ろうにもそもそものデータが乏しいばかりに材料不足に陥ることが少なくありません。したがって、先行研究やKOL医師の知見などの材料を基に、メディカルアフェアーズ側が大きな役割を持って進めることになります。

その場合、マーケティング側は製品として注力すべき優先順位が明確であるため、そこから生まれる研究の目的も「患者数を知りたい」「疾病負担を可視化したい」「現在の治療実態を知りたい」など明確になりやすいのが特徴です。

Fig1 Patient Journey
2023.3.8 (株)Medii、(株)データック共催「臨床医目線で提案する希少疾患時代において製薬企業に求められる新たなデジタルストラテジー」講演資料より抜粋


Patient Journeyは大きく分けて発症、受診、診断、治療の流れで表されますが、基本的に上流の「発症」側のデータが乏しいとされています。しかし、プレローンチにおいては下流の「治療」が行われていないケースが多く、必然的にデータも乏しくなります。

このようなデータが乏しい領域においては、データの創出が必要となります。

データが乏しい領域でデータを創出するには

データ創出には「知りたいこと」と「知るための手段」があります。例えば「知りたいこと」としては、患者数/疾病負担/治療実態や有効性/安全性、医療費などが挙げられ、「知るための手段」としては、マーケティング側ではインタビューやアンケートによる調査、Patient Preference Study、メディカルアフェアーズ側では介入研究や観察研究などの疫学研究が挙げられます。

疫学研究とマーケティング調査は共通する部分もある反面、目的が大きく異なります。疫学における目的は「要因の探索」や「実態の把握」であるのに対し、マーケティングの目的は「行動変容」です。
※患者が治療選択において何を優先するのか、患者のニーズや価値観を把握するための調査

Fig2 ソーシャルマーケティングの活用の全体像
2023.3.8 (株)Medii、(株)データック共催「臨床医目線で提案する希少疾患時代において製薬企業に求められる新たなデジタルストラテジー」講演資料より抜粋


マーケティング調査では、上図に示すようなフレームワークに沿って、最終的な行動変容を目指しながら分析や戦略開発、プログラムとコミュニケーションのデザイン、プレテスト、プログラムの実行と評価という流れで行われます。

その過程を進める上で「施策に対して患者の診断率が上がった」「治療が変わった」といった新たな事実が浮かび上がってくることもあり、研究として論文化が可能になることもあります。

その他にも、PRO(Patient Reported Outcome:患者報告アウトカム)調査を行い、例えば「訪問診療の受診件数や在宅患者の併存疾患」「在宅患者の年齢層」「グループホームの注射剤対応割合」といった医師が患者理解を深めるための情報が得られたら、医師向け資材として提供することも可能です。

このように、マーケティング調査と疫学研究はそれぞれの活動が交わる部分も多いため、「メディカルアフェアーズの成り立ちとは違うかもしれないが、本来マーケティング活動とメディカルアフェアーズ活動(エビデンス創出活動)は一貫したものであるべきだ」と二宮氏は強調します。

マーケティングとメディカルアフェアーズの協働

それでは、どうすればマーケティングとメディカルアフェアーズが上手く協働していくことができるのでしょうか。

マーケティング側は全体を整理し、製品として注力すべき優先順位付けを行うことに長けています。一方のメディカルアフェアーズ側は、疾患や治療、エビデンスを理解した上での製品差別化や、データやエビデンスの創出が得意です。まずは、このようなお互いの得意分野をそれぞれが発揮できるかどうかがポイントとなるでしょう。

また、その中でのメディカルアフェアーズの役割について、自身もDIA(Drug Information Association)のプログラム委員として活動している二宮氏の視点から紹介がありました。

疫学研究の中でも記述疫学や治療実態調査は、臨床背景や先行研究を理解し、かつインパクトが大きいと予想されるテーマについて研究をする必要がある非常に難しい分野です。さらに企業が主導する場合は、製品に対して付加価値があるような研究が求められます。

Fig3 よくあるデータベース研究のコンセプト
2023.3.8 (株)Medii、(株)データック共催「臨床医目線で提案する希少疾患時代において製薬企業に求められる新たなデジタルストラテジー」講演資料より抜粋


ここで二宮氏は、よくあるデータベース研究のコンセプトとして「近年承認された医薬品が多く、ここ数年で治療が大きく変わったが、その治療実態は明らかになっていない」という背景のもと、「XXXがん患者における治療実態の調査」を目的とし、「XXXがんの診断があり、新規に薬物療法を開始された患者」を対象集団とした事例を挙げました。

現状横並びのアウトカムから研究を作っていくのは難しいものの、適切なポイントを押さえれば可能です。KOL医師と会話することで、アウトカムとしてフォーカスすべき内容が明らかになることがあります。

例えばプレローンチの際、「既存の治療薬では患者は入院して治療しなければならず、入院治療割合が高い。それに対して新しい製品が出てきて外来で治療できるようになれば、その製品は価値が高いと考えます」という医師の意見があれば、アウトカムとしては「外来/入院治療割合」が重要だと明確になり、研究のコンセプトがシャープになります。

また、ポストローンチにおいて、例えば副作用が大きいことが課題となっている製品の場合、「一度その副作用を起こした患者を見てしまうと、なかなか次に処方しようと思わない」「日本人にこの用量は多すぎると思うので、私は用量を減らして使っている」という意見が聞かれることがよくあります。そのような場合は、まず調査で「初回処方用量/用量強度」を可視化していくことが大切であると分かります。

このように、疾患や治療、既存エビデンスを理解し、ポイントを見極めて製品の差別化を実行すること。そして、より確かなデータの創出やデータの妥当性評価、さらにはエビデンスを創出してプラクティスを変えていくことが、メディカルアフェアーズの貢献できる部分であると二宮氏は話し、「データに基づく良い分析研究を一緒に推進していければと思います」と締めくくりました。

データ創出が特に難しいとされる希少疾患領域に製薬企業の製品戦略がシフトする中、臨床・疫学・データをつなぎエビデンス創出をサポートするデータックの、今後の取り組みが期待されます。