リニューアル3年目も医師会員1万人増、旭化成ファーマのオウンドメディア戦略 /ファーマIT&デジタルヘルス エキスポ 2025

旭化成ファーマ株式会社の医療関係者向けオウンドメディア「Pharma DIGITAL」のリニューアルから3年が経過しました。
2025年4月、「ファーマIT&デジタルヘルス エキスポ」では同社 医薬営業本部 デジタルマーケティング部の前川 学氏が講演を行い、この1年間での成果や現在感じている課題を共有。「NIKKEI BtoB マーケティングアワード 2022」大賞受賞から2年、プロジェクトの現在地と次なる挑戦を紹介します。
Pharma DIGITALがリニューアルで目指した「つながる」メディア
2021年7月に「つながる」をコンセプトにリニューアルオープンした「Pharma DIGITAL」は、パーソナライズ化された情報提供、MRコンタクト機能、Web講演会配信機能、シングルサインオン連携、手術手技動画などのオリジナルコンテンツといった特徴を持つ会員制サイトです。
それまでの「Pull型」から「Push型」へと転換し、医師の属性情報やサイト閲覧データなどをDWH(データウェアハウス)に蓄積。MA(マーケティングオートメーション)と連携させることで効果的な情報提供を実現しています。
本講演では、リニューアル3年目の成果や直近の課題、今後の展望について、前川氏より共有されました。
リニューアル時の背景や、リニューアルから2年経過時の様子は、以下の記事で詳しく紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。
【関連コンテンツ】
オウンドメディアのリニューアルで取り組んだ課題とその効果、デジタルコミュニケーショングループの立ち上げ背景について
【NIKKEI BtoB マーケティングアワード 2022大賞受賞】Webサイトリニューアルから2年。見えてきたMRとの共創の形
3年目の成果と進化—医師会員数の増加とMRへの定着
リニューアルから3年以上が経過した現在も、Pharma DIGITALは着実な成長を続けています。
2025年2月末時点で、国内全医師の16%にあたる5.4万人の医師が会員となっています。これは前年の2024年3月末時点の13%(4.3万人)から3%ポイント増加した数字です。リニューアルから3年以上経過した現在でも、年間1万人以上の新規会員を獲得し続けていることは大きな成果だと前川氏は述べました。
この1年間で特に注目すべき点は「MRのデジタルツール活用の定着」です。前川氏は、「リニューアル当初は『何のために会員化するのか』『私たちのメリットは何か』と懐疑的だったMRも、現在では日常的にオウンドメディアを活用するようになった」と話します。
MRへのツール定着は一朝一夕に実現したものではありません。前川氏は「丁寧に、ある意味"泥臭く"説明する」アプローチがポイントだったと強調します。具体的には次のような取り組みが効果的だったといいます。
- 戦略における位置付け
- 営業ラインを通じた説明
- マーケティングから直接説明
- 成功事例の共有
まず、製品戦略に紐づけた説明方法を徹底しました。単に「便利なツールがある」という紹介ではなく、各製品の戦略においてデジタルツールがどのように位置づけられているかを明確に伝えることで、MRの理解と納得を促しました。
また、営業ラインを通じた説明とマーケティング部門からの直接説明という両面からのアプローチを組み合わせることで、全社的な意識づけを促進。ユーザー目線での理解を深めてもらうために、一般的な購買行動を引き合いに出しながら、ユーザーがどのようにデジタルから情報収集しているかを説明しました。
さらに、成功事例の共有も効果につながったといいます。早期にツールを活用して成果を上げたMRの事例を社内で紹介することで、他のMRの関心を引き、模倣を促す好循環が生まれました。
3年目で見えてきた5つの課題と対応策
一方で、3年間運用してきた現在の課題も明らかになってきました。前川氏は、以下5つの課題を挙げます。
- 会員増加率が逓減:会員数の増加率が逓減し、休眠会員率が増加。アプローチの種類や頻度の再検討が必要
- コンテンツの整理:新たなコンテンツ掲載で期待したPV数獲得に至らないケースも多く、ページを閉鎖したコンテンツも。人気コンテンツの拡充、不要コンテンツの削除が必要
- コンテンツの更新頻度の低下:サイト立ち上げ初期の熱量を維持することの難しさから、コンテンツ更新頻度の低下も課題
- UI/UXの改善:定期的に実施しているリサーチの結果を踏まえたユーザビリティの向上を追求
- 運用コストの増加/リソース不足:選択と集中による効率化と社内の理解を得ることが重要
コンテンツ作成については、デジタルマーケティング部、製品部、MRの三方が納得するコンテンツを作成することの難しさについても述べられました。それぞれの立場から見た「良いコンテンツ」の定義が異なるため、関係者全員が満足する内容の提供は難しい面があります。デジタルマーケティング部門では価値の高いコンテンツ案であっても、現場のMRを巻き込めなければコンテンツは医師に届かず、施策はうまく行きません。
この課題解決のためには、現場のニーズを汲み取って、実際に手を動かしながら試行錯誤することが重要であると述べました。
トライ&エラーの精神で挑戦を続ける
旭化成ファーマの「Pharma DIGITAL」は、リニューアルから3年を経た現在でもなお会員医師を増やし、着実な成長を遂げています。MRのデジタルツール活用の定着も進み、デジタルとリアルが融合したハイブリッドなプロモーションが実現しつつあります。
一方で、会員数増加率の逓減や休眠会員率の増加、コンテンツ更新頻度の低下、システムの複雑化など、長期運用の課題も共有されました。前川氏は、「トライ&エラー、挑戦と創造の精神で、One Teamでこれらの課題を解決していく」と意気込みを語り、講演を締めくくりました。