医師が語る「選ばれるMRの条件」とは。面談前の準備力を高めるCRMの可能性|MDMD2025 Autumnレポート

医師が語る「選ばれるMRの条件」とは。面談前の準備力を高めるCRMの可能性|MDMD2025 Autumnレポート

限られた面談時間の中で、医師にとって価値ある情報をどう届けるか。2025年10月29日に開催された「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2025 Autumn」では、医師の視点からMRの活動の現状と課題を検証しました。登壇者に福岡ハートネット病院 糖尿病内科部長 井林雄太氏、市立青梅総合医療センター 呼吸器内科医長 日下祐氏を迎え、モデレーターは株式会社ビッグエムズワイ ディレクション部 部長 芦野沙門氏が務めました。本記事では、医師に評価されるMRの特徴、CRMツールによる事前準備の有用性について紹介された本講演をレポートします。 

医師との面談は「会う回数」ではなく「価値」で評価される時代へ

働き方改革やコロナ禍以降の面談規制によって、MRと医師が直接会う機会は減少しています。ビッグエムズワイが実施した医師向けアンケート調査1)によると、「働き方改革施行後、MRとの面談はどのように変化しましたか?」の問いに対し、医師の68%は「面談頻度が変わらない」と回答した一方、25%は「減少した」と答えています。また、製薬企業に対するアンケート調査2)でも、面会時間が減ったとする回答が4割を超えました。

MRとの面談頻度は変わらないが最多、約1/4は減少傾向
2025.10.29 (株)ビッグエムズワイ『医師とともに考えるCRMツールの有効性と展望〜医師に選ばれるMRの条件とは〜』講演より抜粋

信頼されるMRは、面談前に医師の関心を読み取り準備

前述の医師に対するアンケートでは、面談前の準備として評価される行動に関し、 「医師の専門分野に合わせた学会情報、症例報告、最新論文などを組み合わせたカスタマイズ資料を準備」(40%)が最も多く挙げられました。これに対して、芦野氏は 「情報の正確性、深さ、使いやすさのバランスが重要であるように思われる」と見解を述べています。

最も評価される面談前の準備は専門分野に合わせたカスタマイズ資料
2025.10.29 (株)ビッグエムズワイ『医師とともに考えるCRMツールの有効性と展望〜医師に選ばれるMRの条件とは〜』講演より抜粋



また、MRが面談力強化のために改善すべき点としては「医師のニーズに合わせた情報提供のカスタマイズ」(60%)が最も多く、次いで「専門的な技術知識の進化」(32%)が続きました。 誰にでも同じ資料を渡すのではなく、医師ごとの関心領域や診療スタイルに合わせて内容を調整することの重要性や、医師と専門的議論ができる知識レベルが求められていることが浮き彫りになったといえます。

医師のニーズに合わせた情報提供の最適化が課題
2025.10.29 (株)ビッグエムズワイ『医師とともに考えるCRMツールの有効性と展望〜医師に選ばれるMRの条件とは〜』講演より抜粋



井林氏は、事前準備で重要な点として 「医師が何を知りたがっているかを仮説立てして臨むこと」 を挙げました。 医師に関する事前リサーチでは、研究テーマ、専門医資格、執筆論文などから関心の方向性を読み取り、自社製品を理解する際には、メリットだけでなく、使用を控えるべきケースや注意が必要な症例も把握しておくことが重要であるという見解を示しました 。ただし、仮説は外れても問題なく「自分のために準備してくれたと感じれば、それだけで信頼につながる」と、井林氏は加えました。

日下氏は、自社製品については資料に書かれていない背景や注意点まで理解し、その場で質問に答えられる準備が必要だと指摘。初回面談の重要性にも言及し「初回の印象が、次に会うかどうかを左右する。最初からカスタマイズした情報を届けるのは難しいかもしれないが、最初の面談でまた会いたいと思わせる姿勢が大切」と述べました。

面談が成功するかどうかは、コミュニケーション能力だけではなく、医師の状況を把握し、関心に寄り添う準備ができているかどうかにかかっていると言えそうです。

CRMは、MRの事前準備を「短時間で高精度」に変える

両氏の意見からも、医師の興味、関心に沿った情報提供を丁寧に行う姿勢が重要なのは、間違いありません。製薬企業は、こうした「個別最適化」を支える仕組み作りをすることが重要です。

両氏の意見を踏まえ、芦野氏は、医師の興味・関心に沿った情報提供を行うための仕組みづくりとして、ビッグエムズワイが提供するCRMダッシュボードの活用事例を紹介。 このダッシュボードでは、医師の専門領域、所属学会、論文・講演履歴、Webサイトへのアクセス状況などの情報を一元的に管理し、 面談直前に必要なデータを迅速に把握できます。

CRMによるデータ活用支援
2025.10.29 (株)ビッグエムズワイ『医師とともに考えるCRMツールの有効性と展望〜医師に選ばれるMRの条件とは〜』講演より抜粋



井林氏は「出身大学や過去の勤務先といった情報も、会話のきっかけづくりに役立つ。背景を把握しておくことで、より自然な会話が生まれるだけでなく、医師のニーズを仮説立てしやすくなる」と評価しました。日下氏も「直前にこうした情報を確認できるだけで、話題が増え、面談の質が高まる。紙や口頭での引き継ぎよりも効率的で、その分を自社製品の学習に回せるのではないか」とCRMの有用性に共感を示しました。 

このCRMは一般的な自社データだけでなく、学会情報や論文情報、RWDなどの3rd partyデータとも連携しています。また、これらの情報を一つの画面で確認できるようになっており、MRがどのような動線で情報にアクセスするのかを前提にUIが設計されています。

芦野氏は「MRが限られた面談時間の中でも効率よく準備し、医師との対話をより有意義なものにできるよう支援したい」と語りました。 

医師に選ばれるMRとは、医療の課題を「自分事化」できる存在

最後に、両氏は「医師に選ばれるMR像」について提言しました。

井林氏は「医師と患者が直面している課題を自分事として捉え、医療チームの一員として伴走する姿勢が大切」と語ります。製薬企業の教育部門と医師が意見を交わす場がもっとあれば、MRの面談スキルや知見がさらに磨かれるのではないかと、仕組みづくりの必要性にも触れました。日下氏は「会うこと自体を目的にするのではなく、医療現場を理解し、課題を一緒に考える存在になってほしい」と期待を寄せました。

医師との面談機会が限られる中、MRには「限られた時間で信頼を築く力」が必要です。その実現のためには、事前準備の徹底と個別化された情報提供、そしてCRMを活用した効率的なデータ活用が欠かせません。重要なのは、ツールを導入することではなく、それを通じて医師と製薬企業が「よりよい医療」をともに目指せる環境を整えることではないでしょうか。


<出典>
1) 株式会社ビッグエムズワイ, 「医師の働き方改革とMRの役割変化に関するアンケート(医師向け)」 
2) 株式会社ビッグエムズワイ, 「医師の働き方改革とMR支援に関する意識調査 アンケート結果レポート(製薬企業向け)」 (https://www.medinew.jp/articles/marketing/marketing-strategy/pr-bmy-surveyreport