「Excelでも始められる」オムニチャネルマーケティングの本質と成功ポイント|MDMD2025 Autumnレポート

製薬業界においてオムニチャネル戦略の重要性は高まっていますが、その推進にハードルを感じる企業も少なくありません。効果を出すためには、何を心がけるべきなのでしょうか。
2025年10月開催の「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2025 Autumn」では、バイエル薬品株式会社の黒澤充氏が登壇。株式会社医薬情報ネットの田中啓祐との対談を通じて、顧客体験を最適化するオムニチャネルマーケティングのあり方を提案しました。
※講演内容は黒澤氏個人の見解であり、所属企業の見解や方針を代弁・表明するものではありません。
「重視される一方で進まない」製薬オムニチャネルの現状と課題
田中:コロナ禍を機に、製薬業界でオムニチャネル戦略の重要性は急速に高まりました。Medinewが製薬企業勤務の読者を対象に実施した「製薬企業のオムニチャネル戦略に関する調査 2025年版」では、所属企業でオムニチャネル戦略を「最重要・重要戦略として推進している」と答えた割合が72%に上っています。
一方、推進体制を見ると、推進企業は専門部署を設置しているのに対し、導入初期企業は既存組織で対応する傾向が高いことが明らかになりました。
また、直面している課題として、効果測定、リソース不足、スキル・知識不足、顧客データの統合・活用などが挙げられています。

これらの結果から、多くの製薬企業がオムニチャネル戦略を重視しつつも、導入初期ほど体制構築が難しく、実行段階でも多様な課題を抱えていることが読み取れます。
オムニチャネル浸透の壁の正体は「高度なITが必要だ」という誤解
田中:この調査結果について、複数の製薬企業でオムニチャネルマーケティングを実践してこられた黒澤様は、どのようにお考えですか。
黒澤氏:多くの企業が課題に直面していると知り、驚きました。特に4つ目の「顧客データの統合と活用」に、「チャネル間のデータ連携」「部門間のデータ連携」「システムデータ基盤の整備」をまとめると、データ活用に悩む企業が多いことが推測できます。背景には、オムニチャネルマーケティングを特別に難しいものと捉えてしまっている面があるのではないでしょうか。
田中:つまり、本来の意味とは異なる形で理解されているということですか。
黒澤氏:その通りです。製薬業界では今、「オムニチャネルマーケティングには高度なITやスキルが必要だ」と見なされがちです。全チャネルのデータ統合が前提で、専門的なノウハウと資金が不可欠だと考えられているのです。
“オムニ”=“あまねく”という意味合いからそのようにとらえるのだと思います。
しかし、本来の目的を踏まえれば、「複数の接点で」「最適なタイミングに」「一貫した体験を提供する」ことが大切と考えるに至ります。その考えに基づけば、「オムニチャネルマーケティングはExcelでも始められる」というのが私の意見です。必ずしも全チャネルの全データを収集する必要はなく、必要なデータを拾って顧客のニーズを想像し、より良い(一貫した)体験を提供することこそが大切なのです。
たとえば、ウェビナーでコンテンツXを配信し、参加者にはダウンロード資料としてコンテンツYを配布、不参加者にはMRからコンテンツXを提供する。後日、サードメディアやメルマガを通じて改めて全員にコンテンツXとYを配布し、アンケートで同意度や理解度を測るという取り組みだけでも、「Right Person/Target(適切な人)・Right Contents/Message(適切な情報)・Right Timing(適切なタイミング)」のオムニチャネルマーケティングを実現できます。
チャネル使い分けの鍵は「戦略メッセージ」とKPI設計
田中:顧客のニーズに沿って一貫した顧客体験を提供することが、オムニチャネルマーケティングの本質だとわかりました。次に課題となるのが、各チャネルの使い分けです。
同調査で、所属企業や部門においてオムニチャネル戦略の主軸に据えているチャネルを選択する設問では「主軸チャネルはMR」と答えた企業が過半数に上りました。
一方、厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」を見ても明らかなように、2013年以降、MR数の減少傾向が続いているため、MR以外のチャネルで不足分を補う必要があると考えます。黒澤様はどのようにお考えですか。
黒澤氏:MR活動を他チャネルでカバーすることは可能です。ただ、市場調査データなどを見ていると、特に専門性の高い領域では、MRとD2Dが最重要チャネルとして評価されていることも事実です。よって、MRを代替するという発想だけでなく、MRが動きやすい環境を他のチャネルでどう補完し創り上げられるかという視点も重要だと思います。
もう一つ認識すべきは、MRの活動、MRが送るメール、本社が送るメール、電話など、それぞれを横並びのチャネルとして扱い、グルーピングしないことです。チャネルごとの役割分担を明確化しない限り、最適な設計はできません。
田中:役割分担を考える際、何を意識すべきでしょうか。
黒澤氏:まず重要なのは、マーケティングにおけるストラテジックインペラティブ(戦略的重要事項)、つまり「何を伝えたいか」を明確にすることです。
その上で、販売に必要な製品力・ブランド力・営業力という3要素の構造を理解することが重要です。製品力・ブランド力は「プル」の概念で、MRの対面活動やメールなど「プッシュ」で強化できるのは営業力です。つまり、製品の何を伸ばしたいかによって、プル型チャネルを強化すべきか、プッシュ型チャネルを割り当てるべきかが変わってくる。この思考がチャネルの役割分担のベースになります。
また最近では、マスマーケティングではなくパーソナライズマーケティングや経験価値の訴求が重視されています。そのため、PEST分析からSWOT分析を経て、STP戦略を経てターゲットや提供価値を明確にし、その価値をどのチャネルで届けるかを設計するというのが主流のマーケットプランです。この一連のプロセスを通じて、各チャネルの役割が整理されていきます。
田中:チャネルを設計する上で、指標設定も重要になりますよね。
黒澤氏:そうですね、特にKPIの設定が重要です。売上やシェアなどのKGIと、営業活動やメルマガ配信などのKAIは用意されていても、両者をつなぐKPIが欠けており、成果が判断できないケースはよくあります。
その場合、医師の認知度や製品使用意向など「リサーチで把握できる指標」と、処方理由や処方効果など「RWD(リアルワールドデータ)で把握できる指標」の2軸を組み合わせることで、評価すべきポイントがより明確になります。そして、そのKPIに影響を与えるアクションを整理する中で、チャネルの役割分担も自然と見えてきます。
ただし、指標は製品によって調整が必要ですし、実行後に課題に直面することもあります。だからこそ、PDCAよりも高速で改善することを目的としたOODA(観察→状況判断→意思決定→行動)でスピーディーに改善していく姿勢が重要でしょう。
大切なのはKPI設定と部門連携、そして使命感
田中:最後に改めて、オムニチャネルマーケティングにおいて大切なポイントを教えてください。
黒澤氏:先ほどお話しした通り、KPI設定は欠かせません。さらに、マーケティング部門と営業部門に加え、メディカル部門や薬事部門とも認識をそろえ、同じゴールに向かって協力することが重要です。最後に欠かせないのは、マーケターの製品愛と使命感。これがオムニチャネルを推進する原動力になるはずです。
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