MDMD2022Springレポート/オウンドメディアのリニューアルで取り組んだ課題とその効果、デジタルコミュニケーショングループの立ち上げ背景について

MDMD2022Springレポート/オウンドメディアのリニューアルで取り組んだ課題とその効果、デジタルコミュニケーショングループの立ち上げ背景について

医薬品デジタルマーケティングの新潮流や最新トレンドを展望するWebカンファレンス「Medinew Digital Marketing Day(MDMD) 2022 Spring」を2022年5月に開催。株式会社医薬情報ネットの金子がモデレーターを務め、旭化成ファーマ株式会社の桐山泰明氏を講演者として迎えた本セッションでは、医療従事者向けサイトのリニューアルで取り組んだ課題や効果を解説しました。

リニューアルの目的と開発開始までの経緯

旭化成ファーマは、2021年7月に医療従事者向けサイトを『Pharma DIGITAL』としてリニューアルしました。「リニューアル後は、サイトへの訪問者数、ページビュー、ページ閲覧数などが大幅に改善している」と桐山氏は話します。

目的は「有益な医療情報に繋がるサイトにすること」

Pharma DIGITALのコンセプトは「一人一人の先生が有益な医療情報に繋がるサイトへ」。MRと医療従事者、医療従事者同士が繋がるということをリニューアルの目的として掲げています。医療機関の訪問が制限されている中で、医療従事者と旭化成ファーマが繋がることで、医療従事者へ有益な情報を絶えず提供できる体制を目指しています。
リニューアル前の医療従事者向けオウンドメディアは、MRから情報提供を受けた医師が疑問や興味を持ったときに調べに訪れるという、いわばPull型でした。今回のリニューアルで、Web講演会や製品情報、コミュニティの案内などのプロモーションを通じて、医療関係者に情報発信するPush型のチャネルへと転換することを目的としています。

旭化成ファーマのサイトリニューアルの目的
2022.05.26 旭化成ファーマ(株)「オウンドメディアのリニューアルで取り組んだ課題とその効果、デジタルコミュニケーショングループの立ち上げ背景について」資料より抜粋

開発開始までのスケジュール

2020年9月にオウンドメディアリニューアルのプロジェクトが発足。その後、提案依頼書(RFP)の作成、パートナー選定を経て、約2カ月後に社内承認を得て開発を開始しました。

開発開始までのスケジュール
2022.05.26 旭化成ファーマ(株)「オウンドメディアのリニューアルで取り組んだ課題とその効果、デジタルコミュニケーショングループの立ち上げ背景について」資料より抜粋

プロジェクトは、医薬マーケティング本部に所属するプロジェクト長以外はさまざまな部署から兼務として参加する横断的な組織として発足しました。
制作会社へ依頼するためのRFP作成では、リニューアルに伴う機能要件として、以下の4点を設定しました。

  • 医療関係者との接点(タッチポイント)を増やす
  • 医療従事者に有益な情報発信する
  • 医療関係者との関係を強化する
  • BI・SFAとデータ連携する

そして、パートナー選定のためのコンペを実施しました。「今回は当社のオウンドメディアのリニューアルにとって何が必要かということを考え、事前に設定した約20項目の評価表を用いてプロジェクトメンバーがスコアをつけることで、公正に審査し決定しました」と桐山氏。その結果、医薬情報ネットと、株式会社メディクトがリニューアルプロジェクトのパートナーとして選ばれました。

デジタルコミュニケーショングループの立ち上げ

オウンドメディアリニューアルの成功のためには、デジタルマーケティングを担当するメンバーと製品担当者の一体感を生み出すような、組織横断的な体制作りが重要です。

旭化成ファーマでは、リニューアル以前はオウンドメディアの専門部署がありませんでした。今回のリニューアルに伴い、オウンドメディアの専門部署としてデジタルコミュニケーショングループを立ち上げています。

デジタルコミュニケーショングループは、専任者の他にそれぞれの製品部から兼務者としてプロジェクトに参画し、サイト内の製品コンテンツの作成に携わっています。さらに、デジタルマーケティングプロジェクトには、SFAやBI、データマネジメントを所管するBI &CRMグループを設置し、WebサイトとSFAのデータ連携を進めやすい環境をつくっています。桐山氏は「このような体制にすることで、オウンドメディアをプロモーションミックスの一手段として捉えるという意識を醸成している」と話します。

オウンドメディア担当部署について
2022.05.26 旭化成ファーマ(株)「オウンドメディアのリニューアルで取り組んだ課題とその効果、デジタルコミュニケーショングループの立ち上げ背景について」資料より抜粋

リニューアルで取り組んだ三つの課題

桐山氏によると、リニューアル前の医療従事者向けサイトには三つの課題がありました。

  • コンテンツに一貫性がなく、動線も分かりにくい
  • 集客コンテンツがない
  • 訪問者データを活用できていない

これらの課題について、今回のリニューアルで取り組んだ内容について紹介します。

UX・UIの改善

一つ目の課題は「コンテンツに一貫性がなく、動線も分かりにくい」ことです。

リニューアル前は、製品ごとにWebサイトを作成していたり、コンテンツを逐次制作し掲載したり、各Webサイトの構成や情報に一貫性がなく、動線も分かりにくい作りでした。
今回のオウンドメディアリニューアルでは、画面デザインを一新し動線を分かりやすくするとともに、情報エリアやコンテンツを整理し、見やすい工夫がされています。
さらに、今後の運用、機能追加などを見据えてサイト制作ガイドライン、デザインガイドラインを作成し、一貫性を担保できるようにしました。

集客コンテンツの作成

二つ目の課題は「集客コンテンツがない」ことです。以前のオウンドメディアは製品情報や講演会情報が中心であり、医療従事者の興味をひくようなコンテンツがありませんでした。
リニューアル後は、医師の興味をひくような領域に関連する周辺情報を掲載し、そこからプロモーションメッセージに繋げる導線を構築しました。

旭化成ファーマが実施した医師アンケートによると、製薬企業のオウンドメディアに登録した理由について、約4分の1の医師が「製品情報以外で、魅力あるコンテンツがあるから」と回答しています。魅力あるコンテンツとは何か、との問いに対する回答は下図(右)の通りです。これらの中で今回のリニューアルでは、オレンジ色で示されたコンテンツを作成しています。

製薬企業のオウンドメディアにかかわる市場調査結果
2022.05.26 旭化成ファーマ(株)「オウンドメディアのリニューアルで取り組んだ課題とその効果、デジタルコミュニケーショングループの立ち上げ背景について」資料より抜粋

桐山氏は、新しく作成したコンテンツの中で特に人気のあるコンテンツとして、施設インタビューや医局訪問、留学体験談などを紹介する「医療現場最前線」を挙げました。
Web講演会情報は、オンラインでの視聴予約を可能としており、リマインドメールが自動で送信される仕組みになっています。この仕組みはオウンドメディアの会員増加にも寄与しているとのことです。

会員向けコンテンツとしては、手術手技の動画、患者さんアンケート、オンライン診療ガイド、製品関連の動画ライブラリなどを用意しました。

訪問者データの活用

三つ目の課題は「訪問者データを活用できていない」ことです。

Pharma DIGITALには、medパスもしくはm3のシングルサインオンで会員としてログインし、会員の医師がコンテンツを視聴するとSFAでMRに通知されます。さらに、メールプロモーションツールである「Shaperon」を導入することで、MRから医療従事者にテンプレートを活用したメールプロモーションの実施が可能になりました。
また、メールを許諾いただいた医師には、マーケティングオートメーション(MA)ツール「BtoD」を活用したMAメールも送付しています。

会員化を行い、データ連携をさせることで、医師とのタッチポイントを増やし、適切な情報を届けられる仕組みの構築ができました。

訪問者データの活用
2022.05.26 旭化成ファーマ(株)「オウンドメディアのリニューアルで取り組んだ課題とその効果、デジタルコミュニケーショングループの立ち上げ背景について」資料より抜粋

リニューアル後の効果分析と今後の方針

リニューアル前とリニューアル後のオウンドメディアの状況についてGoogleアナリティクスを用いて比較したところ、ユニークユーザー(UU)数が約8倍、ページビュー(PV)数が約23倍、ページ閲覧数が約2倍、直帰率4分の1、といった結果が出ています。

サイトリニューアル後の効果
2022.05.26 旭化成ファーマ(株)「オウンドメディアのリニューアルで取り組んだ課題とその効果、デジタルコミュニケーショングループの立ち上げ背景について」資料より抜粋

今後の課題について、桐山氏は「データ量を増やし顧客分析を進めることで、医師のチャネル指向性や興味・志向に合わせた情報提供を行う仕組みを高度化していきたいと考えている。例えば、マーケティングオートメーションのシナリオ作成や改善、MRのアクションに繋がるようなSFAの表示、データ連携の方法などを改善し、精度を上げていく」と話しました。

最後に、桐山氏は今回のオウンドメディアのリニューアルを通じて重要と感じたポイントを4点挙げ、本セッションを締めくくりました。

  • 最初に何のためにリニューアルするかという目的を明確にする
  • 目的を果たすための機能要件に沿ったパートナーを選ぶ
  • 集客するコンテンツを作り、訪問者数を増やす
  • コンテンツは定期的に更新しリピート率を高める

情報提供の方法に合わせた医療従事者向けサイト構築を

COVID-19流行をきっかけに、今、製薬企業に求められる医療従事者への情報提供の方法が変化しています。MRによる対面での情報提供活動が制限される中、医療従事者が情報を求め製薬企業のオウンドメディアに訪れた際には、必要とされる情報を確実に届けなければなりません。情報提供スタイルをPull型へとシフトしていくため、リニューアルを含めた会員化やコンテンツの充実、機能追加などオウンドメディアの見直しは、製薬企業の喫緊の課題といえそうです。