新たな視点でマンネリ打破!世界の疾患啓発キャンペーン事例5選

新たな視点でマンネリ打破!世界の疾患啓発キャンペーン事例5選

疾患啓発キャンペーンでは、医師や患者会によるセミナーの実施、特設サイトの開設、パンフレットの制作、広告の実施などが一般的ですが、海外には日本とは一味違った取り組みが多数あります。今回は製薬企業が疾患啓発キャンペーンを企画する際にヒントとなる、ユニークな海外キャンペーン事例を5つ紹介します。

事例1)大腸がん検診を受けてほしい!コントのような親子のスレ違い会話

50歳代から年齢が上がるにつれて罹患率が高くなると言われる大腸がん *1 。米国では40~50代の方の大腸がんの検査受診を促すために、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)がユニークな動画を公開しました。動画には、父親と45歳の息子が登場。自宅リビングで父親は息子に大腸がん検査の必要性を伝えようと「年を重ねると、自分の身体にいろいろな変化が起きることを知っているだろう?」「自分の身体についての知識が増えるにつれ、もっと興味がわいたり、なぜこんなことが起きているんだろう、と疑問を抱いたりすることもあるだろう」などと遠回しに神妙に話し続けます。

一方の息子は父親から唐突に性教育の話をされていると思い込み、45歳の自分になんで今さら性教育…といった感じで表情がどんどん歪んでいきます。その後も親子のすれ違い会話は続き、最後に父親が息子に大腸がん検査について書かれたパンフレットを渡すとやっとすれ違いが解消され、画面に「Avoid an awkward conversation(こんな気まずい会話はしたくないあなたに)」というメッセージが入ります。

大腸がんに限らず、検査の必要性をストレートに伝えても響かない人は多数います。本動画は、緻密なコントのようなストーリーで従来の手法では興味を示さなかった人にアプローチを試みたチャレンジングな動画といえます。

事例2)サウジアラビアで乳がん予防を啓発、しこりのあるクッション

日本同様、乳がんの早期発見・治療はサウジアラビアでも課題になっています。そこで、同国のIKEAは、自社商品を活用したちょっと変わった乳がん早期発見の啓発キャンペーンを展開しました。この企画のために用意したのは「しこり」の入ったクッションで、乳がんのセルフチェック時のポイントを記載したタグも付いています。

つまり、クッションに触れて違和感(しこり)に気づいた方をそのまま自身の乳がんセルフチェックへ誘導する、というアイデアで、興味喚起から体験(アクション)までの一連の流れが丁寧に設計されています。このクッションはサウジアラビアにあるIKEAストア全店で配布されたようですが、日本でも効果が期待できる秀逸なアイデアといえます。

事例3)HIV感染症を正しく知ってほしい!過去の自分に向けた手紙

現在では、HIV感染症に罹患してもさまざまな治療薬があるため、適切な治療を受けることで症状をコントロールしながら普通の生活を送ることができるようになっています *2 。しかし、いまだに「エイズ=不治の病」と考える人もいて、差別や偏見も根強く残っています。そこで、Santé Publique France(フランス公衆衛生局)は、HIV感染症の正しい理解を広めるため、3人のHIV感染者が昔の自分に手紙を書くという内容の動画を公開しました。

動画は「もしHIV陽性だと知った日に戻れるなら、当時の自分に何と言いますか?」という問いを受けて、それぞれが過去の自分に書いた手紙を読み上げるものです。「死刑宣告のように思えた」「夢も人生も全てが終わった」「絶望した」「死んでしまいたい」「世界中が敵」「自分はけがれた存在だと感じている」など、当時の自分の気持ちを振り返りつつ、現在は「治療によって充実した日々を過ごせている」といった前向きなメッセージを過去の自分に伝えています。

第三者ではなく自分が自分を啓発するというアイデアは、ユニークさはもちろん、納得性やメッセージの受け入れやすさも備えた効果的なアプローチといえるでしょう。

事例4)高齢者の夜間頻尿に注意を!ホラー映画風のおむつCM

高齢者が夜間に何回もトイレに行く行為は、転倒の危険性があり骨折にもつながります *3 。そこで、インドの衛生用品ブランドNobel Hygieneは、夜用おむつの着用を促すためのCMを公開しました。深夜に目を覚ます男性、画面には「高齢者の4人に1人は……」という意味深なメッセージが。ベッドから起き上がりトイレに向かう男性。薄暗い廊下、床のきしむ音、恐怖を駆り立てる音楽など、ホラー映画のような演出が続く中、男性は無事にトイレにたどりつきます。そして、まもなくしてトイレの中から「ガシャン」と倒れるような音が聞こえ、その後、「高齢者の4人に1人は夜間頻尿が原因で怪我をしてしまいます」と冒頭のメッセージの全容が入るストーリーです。

大人用おむつを履くことに抵抗を感じる方は少なくないはずです。高齢者の夜間頻尿のリスクをホラー映画風に描いたCMは、本人はもちろんその家族にも、優しい投げかけ以上に伝わる表現になっているのではないでしょうか。

事例5)バナナスーツではなく日焼け止めで防ごう!皮膚がん啓発キャンペーン

紫外線によって起こる皮膚がんは高齢になってから出てくることがあるため、若いころから余分な紫外線を浴びないことが大切です *4 。そこで、アメリカの日焼け止めブランドSun Bumは、皮膚がん予防のために日焼け止めの使用を啓蒙するキャンペーン「We Are Not Bananas(わたしたちはバナナじゃない)」を実施しました。

常に日光にさらされているアメリカ各州の銅像たちにバナナスーツを着せて紫外線から守るという一風変わった内容で、「日焼け止めが塗れない銅像はバナナスーツを着て紫外線から守る必要があるが、人間はバナナになることなく日焼け止めで守ることができる」といったメッセージを投げかけました。ジャストフィットするように設計されたバナナスーツを着た銅像はSNSでも話題になり、多くの方に皮膚がん予防として日焼け止めの必要性を発信できました。

ユニークなアイデアを発想のヒントに

疾患啓発キャンペーンは、得てして通り一遍の企画になりがちです。目の前にある課題に対して、特に不安をあおるようなアイデアをはじめ、今回ご紹介したアイデアがそのまま使えるわけではありませんが、「世の中にはこういった課題解決のアプローチがある」という事例を数多く知っておくことは、アイデアを考えたり選んだりする際に役立つはずです。


<参考> ※URL最終閲覧2022年3月7日
・米・大腸がん検査を啓蒙するための、コントのようなすれ違いを描く動画, PR EDGE. https://predge.jp/210460/
・サウジアラビアのIKEAが考案した、乳がんのセルフチェックを促す“しこり”のあるクッション, PR EDGE. https://predge.jp/231610/
・「エイズは死の病ではない」仏・公衆衛生局が啓発動画を公開, PR EDGE. https://predge.jp/229183/
・高齢者の夜間に起こるケガをホラーに描いた、大人用おむつのCM, PR EDGE. https://predge.jp/216071/
・「わたしたちはバナナじゃない」米日焼け止めブランドによる皮膚がん啓発キャンペーン, PR EDGE. https://predge.jp/198026/
・We Are Not Bananas |Skin Cancer Awareness, Sun Bum. https://www.sunbum.com/pages/we-are-not-bananas-skin-cancer-awareness

*1 大腸がんとは, 国立がん研究センター 中央病院. https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/colorectal_surgery/140/index.html
*2 ストップエイズ!今は「不治の特別な病」ではなく、コントロール可能な病気です。まずは早めに「HIV検査」を, 政府広報オンライン. https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201305/2.html
*3 高齢者の夜間頻尿 転倒や骨折の危険も(東邦大学医療センター大橋病院泌尿器科 関戸哲利診療部長), 時事メディカル. https://medical.jiji.com/topics/2134
*4 皮膚科Q&A, 日本皮膚科学会. https://www.dermatol.or.jp/qa/qa2/q08.html