【医師の本音を聞く2】医師はどこから情報を集めているのか?医師座談会(前編)
COVID-19禍の前後で、製薬業界のマーケティングやプロモーションは、大きく変化しています。このような変化は、医師にはどのように見えているのでしょうか?医師の情報収集活動に変化はあるのでしょうか?それらを明らかにするために、臨床現場で精力的にご活躍されておられる3名の医師にお集まりいただき、現在の医療に関する情報収集の仕方や製薬企業の情報提供活動がどのように見えているか、たくさんの本音を伺いました。
座談会参加医師
A医師:都内にて開業医として診療に従事。50代。診療科は内科、外科、消化器内科、乳腺外科を標榜。主な所属学会は日本外科学会、日本消化器内視鏡学会、日本消化器病学会、日本乳癌学会。製薬企業からの依頼で監修や社内講師を引き受けることもある。区医師会の理事も担当している。
B医師:都内にて開業医として診療に従事。50代。診療科は耳鼻咽喉科、アレルギー科、小児耳鼻咽喉科。主な所属学会は日本耳鼻咽喉科学会、日本めまい平衡医学会。これまでに製薬企業から招かれ社内講演会を2回受けた。
C医師:都内にて開業医として診療に従事。50代。診療科は整形外科、リハビリテーション科。主な所属学会は日本整形外科学会、日本骨粗鬆症学会。過去に製薬企業からの依頼の監修や講演を行った。
医師の現在の情報収集の手段は、三者三様
司会:先生方は現在、ご自身の専門や疾患、治療薬などに関する情報を、どのような手段で収集しておられますか?
A医師:ほぼインターネットですね。私の場合は日経メディカルがほとんどです。m3.comやメドピアにも登録していますが、内容を詳細にはあまり見ていません。情報提供される頻度は、m3.comが多いです。毎日メールが届くので、気になるのがあれば見ています。次が日経メディカルですね。
B医師:私はMRが一番多いですね。MR以外からの情報収集では、m3.comが多いかもしれません。会員ではあるものの見ていないサイトは、私もありますね。割合としては、MRからの情報が6割、他が4割くらいですね。MRは毎日何名か来てくれるので、忙しくない時は会うようにしています。そこから教わることが勉強になることもありますね。
C医師:私が一番活用しているのは、製薬企業が案内するWeb講演会ですね。これが一番勉強になります。講演する医師の話をリアルに聞けることが良いです。その次は、m3.comとMRが同じくらいの割合くらいですね。それに日経メディカルが続く感じかなと思います。私の専門の整形外科だと、他の診療科と比べると情報の更新が落ち着いていてネタが少ないという背景があります。
デジタルチャネルの活用度合いは、医師ごと、チャネルごとに差がある
司会:情報収集の際、SNSはお使いになりますか?
A医師:私は使わないですね。
B医師:私も使わないです。
C医師:私も全然使わないですね。特にCOVID-19の流行以降は、いい加減な情報がTwitterなどのSNS上に急激に増えて、有益な情報を探すことが難しくなったと思います。それもあって、SNSは使わないです。
司会:最近の製薬企業から提供される情報は、WebサイトやMR、Web講演会、患者向けであれば患者サポートプログラムのアプリなど、さまざまな方法で提供されています。これらについては活用されていますか?
A医師:薬のことを調べる時は製薬企業のサイトにアクセスすることはあります。MRは、私のところにもよく来てくれるので、彼らからも直接話を聞きますね。Web講演会は、COVID-19直後には私もよく見ていましたが、今は見なくなりましたね。アプリは見たことがないです。
B医師:製薬企業のWebサイトは、MRから登録して欲しいと言われて会員になりましたが、見ていませんね。製薬企業のWebサイトを見ていなくても、MRがよく来てくれているので、その時に確認すれば済むのです。Web講演会は、専門医の単位が取得できるものは積極的に見ます。そうでないWeb講演会は見ていません。アプリはわからないです。
C医師:やはりWeb講演会が一番役に立っていて、次がMRです。製薬企業のWebサイトは見ていません。多くの製薬企業のWebサイトは、見たい情報がすぐに見つからないという印象です。
司会:A医師とB医師は、何か調べたい時、欲しい情報によって、どこから情報収集するかを使い分けていますか?
A医師:自分から情報収集する場合は、Googleで検索しますね。その方が、他のツールやサービスよりも早く知りたいことを知れて便利という印象です。
B医師:私の場合は、MRと話していると、MRが一生懸命なんですよね。自分が知らないことを教えてくれることもあります。例えば高額療養費などに関する医療制度や、それに伴う薬剤の使い分けなど、すごく勉強になることをMRから教わったことがありました。それは印象に残っていますね。
司会:新薬を採用する際や、治療薬・治療法の切り替えを検討する場合は、どのような方法で情報を収集していますか?
A医師:MRから聞きますね。新薬が発売になると、MRが必ず紹介に来ますから、その話を聞いて、必要があれば説明会をしてもらいます。その上で新薬を採用するか決めます。
B医師:私もMRです。
C医師:私もMRから新薬について聞いて、採用可否や治療法をどうするかを検討します。
医師の情報収集は、隙間時間に行われる。主な関心ごとは、医療制度や新薬など
司会:情報収集するタイミングはいつでしょうか?
A医師:朝の診療開始前の10分ですね。うちは内視鏡検査を朝1件入れていまして、その検査の準備の合間に、届いたメールをざっと見ます。その中で気になった情報は、後で見直します。
B医師:私は、MR以外から情報を得るのは、主に夜です。気になったものを見る程度ですが。
C医師:私は昼の空いている時間に情報収集します。朝と夜は忙しいので情報収集しません。
司会:1日あたりの情報収集に費やす時間は、どれくらいでしょうか?
A医師:私は多分20分くらいだと思います。
B医師:私も10〜20分くらいですね。必要があればもう少し情報収集するかもしれません。
C医師:毎日は情報収集していないです。だいたい週に4回くらい、1回あたり20〜30分くらい情報収集します。
司会:情報収集する内容は、どのようなものが多いでしょうか?
A医師:医療制度が多いですね。点数の話や疑義照会など、COVID-19が流行し始めてしばらくの間は、厚生労働省のホームページに毎日アクセスして調べていました。区の医師会の仕事の関連もあって、常に最新のCOVID-19関連の情報を集めなくてはいけなかったのです。これはかなり大変でした。しかも当時はしょっちゅうやり方が変更になりましたから。
B医師:私も医療制度や療養、診療報酬の点数などの情報は見ます。逆に、医師向けの学会誌とかまでは見ませんね。
C医師:私も保険点数や制度の変化は、必ずチェックします。今だと、COVID-19の2類への対応や請求の仕方の変更など、仕事に直接関わることを情報収集しますね。
ウィズコロナの考えが広まりつつある現在、訪問してくれるMRが重要な情報源であることが、今回の座談会では確認できました。これは、MRを介した情報提供による製薬企業の業績アップというこれまでのビジネスモデルが今でも通用しているという裏付けにもなるかもしれません。
一方で、MR活動を補完する目的で導入・運用しているWeb面談、SNSなどは、あまり活用されていないようでした。これには、GPではHPと比較してMRの訪問規制解除が進んでいるといった理由もあるでしょう。
また、製薬企業のWebサイトには、必要がなければアクセスしないという意見が多く聞かれました。m3.comやメドピアなどの医療者向け情報提供サービスでも、医師は情報の中身をしっかり吟味し評価した上で情報の取捨選択をしているということもうかがい知れました。
新たなデジタルツールやSNSといったコミュニケーションのサービスが登場し、広く使われている中、医師がそれらを重要視していないことにはなんらかの理由がありそうです。
次回はそこを深掘りして、医師が製薬企業からの情報提供にどのようなことを求めるのかを明らかにしていきます。