【医師の本音を聞く2】医師が求める製薬企業の情報提供のあり方とは?医師座談会(後編)
現在製薬企業は、新たなコミュニケーションサービスなどを含めて、さまざまなツールやサービスを駆使しながら、医師に情報提供を行なっています。それでは、医師は製薬企業に対して、どのようなチャネルによる、どのような情報提供を望んでいるのでしょうか?今回は、この点を中心に医師のニーズを探っていきます。
座談会参加医師
A医師:都内にて開業医として診療に従事。50代。診療科は内科、外科、消化器内科、乳腺外科を標榜。主な所属学会は日本外科学会、日本消化器内視鏡学会、日本消化器病学会、日本乳癌学会。製薬企業からの依頼で監修や社内講師を引き受けることもある。区医師会の理事も担当している。
B医師:都内にて開業医として診療に従事。50代。診療科は耳鼻咽喉科、アレルギー科、小児耳鼻咽喉科。主な所属学会は日本耳鼻咽喉科学会、日本めまい平衡医学会。これまでに製薬企業から招かれ社内講演会を2回受けた。
C医師:都内にて開業医として診療に従事。50代。診療科は整形外科、リハビリテーション科。主な所属学会は日本整形外科学会、日本骨粗鬆症学会。過去に製薬企業からの依頼の監修や講演を行った。
デジタルツールによる情報提供が活発な一方で、MRとの面会はまだまだ価値がある
司会:現在先生方は、MRと面会する機会はどれくらいありますか?
A医師:平均すると、1日あたり3人前後くらいだと思います。
B医師:私も、MRが来ればいつでも会うようにしています。MR1人あたり、2週間に1回くらい来ますね。
C医師:私はだいぶ前からアポイント制にしています。アポイントも、MRからの依頼内容を確認して、ちゃんとした用事であれば会います。例えば、講演会の案内や薬の使用方法の変更などの大事な話の場合、アポイントで会いますね。ただの挨拶とかだけなら、アポイントは入れません。MRとの面談は、平均すると週に2件くらいです。
司会:2020年以降、特にこの1年では、MRとの面会の頻度や方法に何か変化はありましたか?
A医師:2021年は、MRに会っていませんね。そういえば、その頃から某外資系製薬企業のMRとはWeb面談になりましたね。今では2社の外資系製薬企業がWeb面談を続けています。他の製薬企業は皆さん対面が多いです。
B医師:私はWeb面談をしたことがないです。時間をかけてWebで面談をする必要がないと思っています。MRには用事があれば来てもらっていますし、そこで話せば済みます。また、実際の診療をしていると、Web面談の約束はできません。面談の約束をしても、必ずしもその時間に面談できないことも多いためです。その日の患者さんの来院人数や診察の状況にもよりますから。
C医師:私は変わらないですね。アポイント制にしていることもあるでしょう。COVID-19禍の頃は一時的にMRの訪問が少なかったかもしれませんが。
司会:MRとの面会時に、特にどのような情報を得たいとお考えでしょうか?
A医師:まず新薬についてですね。次に医療制度や診療報酬改定の変更点、そして治療についての話し合いや意見交換をしたいです。
B医師:私の専門の耳鼻咽喉科の場合、MRから聞くのは薬剤の比較についての話が多いです。そのような時は、内容をよく聞きます。中には「有意差は出ていないものの、当社の薬剤の方が良い傾向が出ています」と説明するMRもいますが、そういうMRの話は信用しません。一方で、小児に使える薬剤は少ないという現状もあります。そういう時に、小児用に処方可能になる適応追加、用法用量といった情報提供は大変助かります。
C医師:薬剤の適応、使える症状、どういう患者さんに投与するのが良いか、その薬剤の作用機序などを聞くと勉強になりますね。MRからじゃないと得られない情報は、医師にとって非常に大切です。
医師は製薬企業に対して、新たなツールによる利便性の向上よりも、正しい内容の情報提供を求めている
司会:現在製薬企業は、さまざまなデジタルツールの活用や、新しいサービスを取り入れて、先生方に情報提供を試みています。SNSやチャットボットなどの新たなコミュニケーションツールを駆使している製薬企業もあります。これらを利用することはありますか?
A医師:私は使わないですね。登録しても、そこから先は使わないと思います。製薬企業が新たに導入するデジタルツールを私が使わない理由は、自分が欲しい情報がそこにはないからです。
B医師:私も使わないです。私のLINEには、仕事を入れたくありません。他のツールも含めてデジタルの活用が広がることは分かりますが、私はやはりMRとの対面が一番だと思っています。デジタルツールによる情報提供であっても、その製薬企業を信用することにはつながらないです。提供される情報の質が問われているということですね。
C医師:情報提供で大事なことは方法ではなく、内容です。これが本質です。だから、どんなデジタルツールを使おうが、私は提供された情報が自分に役立つか、正しい情報かという点が大事です。
司会:製薬企業の情報提供チャネルにはオウンドメディアやメールマガジン、Web講演会など各種ありますが、それらの中でよく利用するものはありますか?
A医師:私はありませんね。MRから頼まれてその製薬企業のサイトに登録したことはあります。おそらく10社くらいは登録したと思います。ですが、登録しただけで実際にはアクセスすることはありません。たまにMRから「当社のWebサイトにもっと見に来てください」と言われて2、3度アクセスして、また見ないという状況ですね。
B医師:私も登録でおしまいですね。Webサイトなどのメディアを見ることはありません。見るとしたら、MRから依頼されたときや、学会で著名な信頼できる医師のコンテンツの場合です。
C医師:私も登録しても見ませんね。製薬企業の情報はアーカイブが揃っていて見たいものがすぐに見られるようになっていると思いますが、わざわざそれを見に行くこと自体があまりありません。
司会:製薬企業のWeb講演会に参加したいと思うきっかけはありますか?
A医師:私はありませんね。Web講演会だと、質問がしにくいと感じるからです。
B医師:私は、Web講演会が役立つ内容であれば見ますね。医療制度の解説や、新薬の使い方などがテーマのWeb講演会は見ます。
C医師:私はWeb講演会をよく見ますが、それもやはり内容次第です。
医師が求める情報は、医師の業務に直結する情報
司会:製薬企業には、どのような情報提供を希望しますか?
A医師:製薬企業に限らず、私は情報提供というのは配信頻度よりもライブが良いと思っています。メールマガジンにしても頻繁に配信されますが、それよりも生が大事です。直接演者に質問できる方が勉強になります。学会などで演者の先生に直接質問でき、本音や診療上のコツなどを聞ける方が、私には役に立ちますね。
B医師:医療制度の解説は欲しいですね。薬剤で言えば、高額な新薬であっても、開業医ならこうすれば使えるといった情報は大変ありがたいです。例えば、難病指定されている疾患の治療の場合、高額療養費など複雑な制度が関わることがありますが、これも正しく理解して活用すれば患者さんの費用の負担を軽減できますので、ありがたい情報です。患者さんにとってもメリットがありますから、大事です。
C医師:私も情報の内容次第ですね。製薬企業の人が自社の薬剤の話を解説するよりも、実際に処方している医師の話を聞きたいです。
A医師:製薬企業が医師に提供する情報は、新薬の情報は絶対に欠かせません。新発売はもちろんですが、適応拡大、用法用量の変更、添付文書の改訂なども絶対に必要な情報です。また、医療制度ももちろん絶対に欠かせない情報に含まれます。こういう時にMRが来てくれるのが一番ありがたいですね。
C医師:製薬企業のWebサイトには、ぜひアーカイブを充実させて欲しいです。知りたいときにすぐ知れると助かります。MRからの情報提供ということであれば、まずこちらの状況を察知していただきたいです。日によってで医師の状況は変わるので難しいのですが、忙しい時に来ないでいただきたいのです。以前、MRの中で「先生、僕はいつ来るのが先生の都合に良いですか?」と尋ねてきたMRがいました。そういうMRは評価しますし、薬剤の話も聞きます。やはり、基本は「人対人」なのですよね。
今回の座談会では、製薬企業が検討しているデジタルツールや新しいサービスの活用もさることながら、それ以上にMRからの情報提供の重要性が医師から指摘されました。
さまざまなデジタルツールやSNSなどの登場で、製薬企業と医師のコミュニケーションのスタイルが多様化しています。それに伴い、医師の情報収集の仕方やコミュニケーションの好みも変わってきました。したがって、製薬企業からの情報提供は、医師それぞれの嗜好に合わせることがますます重要になっています。
また、座談会の中で興味深かったコメントとして、
「提供される情報の質が高く医師にとって有益な情報であれば、情報提供の際のチャネルは関係ない」
「SNSは医師仲間のLINEだけで、他のSNSはやっていない。医学部時代の同級生でLINEのグループを作っていて、自分がわからないことはそのLINEグループに聞けば、誰かがちゃんと正しいことを教えてくれる。Dr to Drが有効なのです」
というコメントもありました。
製薬企業がさまざまなデジタルツールを駆使しても、医師が「自分や患者さんにとって役に立たない情報だ」と判断したら、いかに最新で高額なツールを用いた情報提供であっても見向きもしないことが改めて分かります。医師への情報提供はその手段だけでなく、情報の内容や価値もしっかりと検討した上で提供する必要があることを再確認できました。
本日は、貴重なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました。