医薬品マーケティングにおける4つのメディアの特徴と展望 ~ペイドメディア、オウンドメディア編~

医薬品マーケティングにおける4つのメディアの特徴と展望 ~ペイドメディア、オウンドメディア編~

コロナ禍によって、過去にないスピードで医師の情報収集におけるデジタル活用は加速しました。今後、より一層重要となるデジタルマーケティングを取り入れるために、製薬企業のマーケターは、マーケティングに活用できるメディアを理解しておく必要があります。本記事では、4つのメディアの概要についてご説明し、そのうちまずはペイドメディア、オウンドメディアの2つについて、それぞれの特徴やマーケティング施策への活用を解説します。

デジタルマーケティングで活用される4つのメディア・サービスの変遷

製薬企業のデジタルマーケティングで活用できるメディアは、「ペイドメディア」「オウンドメディア」「ソーシャルメディア」「新規メディア・サービス」の4つの種類に大別できます。

医師向けメディアの初期には、2000年前後にペイドメディアと呼ばれる医師向けの会員制サイトが相次いでローンチされました。

2010年代になると、製薬企業はオウンドメディア(製薬企業の医師向け会員制サイトなど)に力を入れ始め、ローンチと会員登録活動が活発に行われました。それまでは、非会員サイトで運用している企業も多かったため、閲覧者が医師なのかどうかもわからず効果検証ができないことや、コンプライアンス(医師認証を導入しておらず、非医療従事者でも情報が閲覧できた)などの理由が背景にあったと考えられます。

最近注目されているのは、LINEやTwitterをはじめとしたソーシャルメディアを利用した施策です。医師との新たな接点の構築や、患者啓発の施策が増えています。

さらにここ数年では、医師が創業した、医師のニーズに応えるような新規メディアやサービスのローンチが増えています。

この4種のメディアは、それぞれ特徴・特色が異なっており、適切に使い分け・組み合わせる必要があります。使い分けるためには、以下3つのポイントを把握しておくことが大切です。

  1. 情報発信のしやすさ(医師の利用頻度、自社のコントロール範囲、規制の強さなど)
  2. 予算の負担(配信費用の高低、運営・維持コストなど)
  3. 効果(即効性・持続性、範囲の広さなど)


医薬品のデジタルマーケティングに活用される4種のメディアの特徴

それぞれの現状と課題をまとめながら、今後の展望やマーケターの取り得る選択肢について解説します。
 

製薬企業のペイドメディア活用の現状と展望

医師向けメディアといえばペイドメディアが一般的で、製薬企業のデジタルマーケティングでの利用も常態化しています。一方で、特有の課題もあり、今後の新しい展開が望まれています。
 

ペイドメディアの現状:コロナ禍でMR連携サービスも加速

ペイドメディアは運営期間が10年以上と長く、ポータル的な情報を網羅しているため、多数の医師を会員化しているといった強みがあります。コンテンツの更新頻度も高く、内容も工夫されているため、アクセス率・リピート率ともに高い点も特徴です。ペイドメディアの膨大な会員数に対しての製品関連コンテンツの配信は、製品の認知や興味関心の惹起に有効です。

さらにコロナ禍を受け、面談頻度やカバー率が低下しているMRの生産性を向上させるために、製薬企業ではMRとペイドメディアの連携サービスの利用が加速しています。

<MRとペイドメディアの連携サービス(例)>

  • エムスリー:MRがm3.com上でターゲット医師と直接コミュニケーションを図れる専用プラットフォーム「my MR君」の利用企業が増加1), 2), 3)
  • メドピア:「MedPeer Talk」上でMRが医師にWeb講演会の招待状を送ることができる「インビテーションTalk」サービスの提供を開始4)


ペイドメディアの課題:既存サービスの効果は上限に達している可能性

ペイドメディアは、医師、製薬企業ともに長く利用し一定の成果は得られている一方で、既存通りのサービス活用だけでは、さらなる成果を生み出すのは難しい側面があります。
配信費用の関係で、製品単位のプロモーション予算では単発的な配信にとどまるケースもあるでしょう。また、コンテンツではなくポイント目当ての医師も存在し、会員医師がコンテンツ内容をしっかり閲覧しているとも限らないため、マーケターの伝達したいメッセージが、きちんと届いているか不安感を払しょくできないという意見もあるようです。

オウンドメディアや別のペイドメディアとの連携、MRとの高度な連携は、システムが別であるため難しい点も多く、独立した配信チャネルとしての利用が中心です。

また、ペイドメディアで取得される顧客の行動データは、製薬企業側が全てを入手することはできません。ペイドメディアのサービス規約の範囲に限定されており、自社が配信したコンテンツの開封や閲覧、視聴時間などの基本的データにとどまることがほとんどです。
 

ペイドメディア活用の展望:新規サービス導入か、別メディアに注力か

ペイドメディア側からは、新規サービスに取り組む方針が続々と打ち出されています。

<ペイドメディアの新規サービス(例)>

  • エムスリー:製薬企業営業マーケティング支援サービス「メディカルマーケター」の導入薬剤数が100薬剤を突破5)、7Pプロジェクトで塩野義製薬や武田薬品と新しいサービスを開始6), 7)
  • ケアネット:中期経営計画、医薬DX事業:デジタルと人が融合したハイブリッドモデルで市場成⻑を牽引8)
  • メドピア:中期経営方針①医薬品マーケティングのインフラに進化~株式会社EPフォースの完全子会社化~9)

こういった新規サービスは、これまでのサービスよりもコストや導入のための工数がかかる可能性もあり、効果は未知数です。また一定規模以上のプロジェクトになると、他製品を含めた企業規模での意思決定になり、マーケター自身でコントロールできない部分が出てきます。

新規サービスについては継続的に注視しつつ、まだ利用していない新規サービスの導入を検討したり、導入に向けた社内調整に動いたりすることがマーケターの選択肢の一つになります。

一方で、オウンドメディアなどの別メディアにリソースを割くことも重要な選択肢になります。オウンドメディアでは継続的に取り組み、検証と改善を繰り返しながら、持続的に効果性を高める覚悟が必要です。即効性は薄いかもしれませんが、こちらの選択肢の方が予算や意思決定面では現実的であり、担当する製品の状況によっては十分検討に値する選択肢と想定されます。

ペイドメディアの現状と課題、展望

製薬企業のオウンドメディア活用の現状と展望

近年製薬企業が注力しているオウンドメディアは、深い顧客データを取得できるため、今後のデジタルマーケティングの鍵となるメディアです。オウンドメディアの高度化にはシステムやツールだけでなく、組織体制などさまざまなハードルがあり、今後の展開に注目です。

オウンドメディアの現状:高度なデジタルマーケティングの中心になる

多くのオウンドメディアは運用期間が数年~10年前後であり、ようやく会員数が数万人以上の一定数に達しているといった状況なのではないでしょうか。

自社でデータを蓄積できる点、配信費用が抑えられる点が強みで、コストを抑え、データを利活用したデジタルマーケティング施策が焦点となります。オウンドメディアやCRM(顧客関係管理)と、MA(マーケティングオートメーション)などのITツールを組み合わせることで、より高度なデジタルマーケティング施策の実施が可能です。

▼製薬企業におけるデジタルマーケティングの5つの価値について解説したこちらの記事もおすすめです

【製薬企業におけるデジタルマーケティングの全貌|後編】営業・マーケを革新させる5つの価値
2022.09.26
マーケティング戦略
【製薬企業におけるデジタルマーケティングの全貌|後編】営業・マーケを革新させる5つの価値

オウンドメディアの課題:高度化は一筋縄ではいかない

オウンドメディアは、ポータル的なメディアではないため、医師が会員登録するための明確な理由が必要です。したがって、会員数の増加が最初のハードルとなります。

また、自社製品関連のコンテンツ作成には、コンテンツの幅や、更新頻度などに限界があります。医師が自ら検索することで訪問するPull的な側面が強く、Push施策に注力しすぎると顧客からすればメールが増加し煩わしく感じてしまうなど、エンゲージメントが下がる可能性もあります。そのため、オウンドメディアでは頻繁に訪れてもらう点が課題となりがちです。

さらに、オウンドメディアでは深い顧客行動のデータを蓄積できる一方で、会員のみのデータに限定されること、データ頻度がまばらであることが多く、意義のあるデータを蓄積するためには継続的な改善が必要です。実際のコンテンツ作成を担当しているのは個別の製品マーケティングチームで、オウンドメディアを管理しているのはデジタル関連の担当者という場合が多いことが考えられますので、戦略的に改善・運用することは意外と簡単ではないでしょう。

評価の高いオウンドメディアに育て、デジタルマーケティング施策として活用するためには組織体制や運用体制構築に加え、専門人材やマーケターの知識・経験の育成が必須です。
 

オウンドメディア活用の展望:成功事例を重ねつつソフト・ハード面の継続的強化を

オウンドメディアを活用したMAの事例などが散見され始めています。現状のオウンドメディアには限界がありながらも、活用できるデータが蓄積され始めているのも事実です。現状で利用可能なデータを使って新しい施策を積み重ねることで、組織課題を徐々に解消しつつ、成功事例のパターンを蓄積することが重要です。

そのためには、マーケターも従来通りのプロモーション施策のみに固執せずデジタルマーケティング施策に挑戦し、さまざまな専門家の力を借りることができるよう調整することが大切になります。オウンドメディアの担当者や、場合によってはIT部門、ITベンダーとの連携も必要です。一方で、オウンドメディアの担当者も積極的にマーケターとコミュニケーションをとり、IT部門やベンダーとのハブとなり、マーケターをサポートしながら、粘り強くオウンドメディアを改善することが大切です。さらにDMP(データマネジメントプラットフォーム)やCDP(カスタマーデータプラットフォーム)などのデータ統合ITツールの導入も検討しながら、IT基盤を強化することが重要な方針になります。

コンテンツの種類、閲覧数やリピート率の改善、その他データ蓄積を増やしていくには、中期的な目線で継続することを覚悟する必要があります。

いくつかのデジタルマーケティング施策を展開し、失敗から学びつつ、成功事例を一つでも創出すれば、さらなる展開に弾みがつくでしょう。すぐに大きな成果を目指すより、小さな成功事例を重ねて、継続と改善ができるように進めることがポイントです。

オウンドメディアの現状、展望

成熟してきたペイドメディアとオウンドメディアは新たな挑戦へ

すでにペイドメディア、オウンドメディアでさまざまな施策を展開されているかもしれませんが、どちらのメディアも新たな挑戦フェーズに入っています。まだまだ進化する可能性は十分にあり、必要なのはアイデア、試行錯誤と小さな成功事例です。

本記事からペイドメディア、オウンドメディアの特徴とさらなる可能性を十分に理解し、新しいデジタルマーケティング施策に挑戦してはいかがでしょうか。次回は、「ソーシャルメディア」「新規メディア・サービス」について解説します。

<出典>※URL最終閲覧2022年12月12日
1)エムスリー, 2021.06.24, リモートコミュニケーションプラットフォーム「my MR 君」をファイザー全 MR に導入 ~デジタル技術を活用した情報提供活動への移行を支援~
https://corporate.m3.com/assets.ctfassets.net/1pwj74siywcy/4gGY3IjKRxxfEvvasOPMaQ/87e0e8eca7d4c087f32c9b38fa82b7aa/20210624_PR_J.pdf
2)エムスリー, 2020.06.08, アステラス製薬、リモートディテーリングサービス「my MR君」によるMRからの情報提供を開始 ~デジタルトランスフォーメーションの加速を支援~
https://corporate.m3.com/press_release/2020/20200608_001609.html
3)エムスリー, 2020.08.31, 新たな医師コミュニケーションプラットフォームを武田薬品工業と構築 ~my MR君をベースに新規コミュニケーション機能を開発~
https://corporate.m3.com/press_release/2020/20200831_001633.html
4)MedPeer, 2022.02.28, MedPeerのダイレクトコミュニケーションサービス「MedPeer Talk」、MRがWeb講演会の招待状を医師に直接送ることができる 「インビテーションTalk」サービスの提供を開始
https://medpeer.co.jp/press/9920.html
5)エムスリー, 2021.11.10, 製薬企業営業マーケティング支援サービス「メディカルマーケター」の導入薬剤数が 100 薬剤を突破 ~リモートチャネル×データ×ヒトで製薬企業の営業生産性向上を支援~
https://corporate.m3.com/assets.ctfassets.net/1pwj74siywcy/2RBiyWOxGmHMlmhIuvCBUR/293efe29fbc7398799fdeab02307b320/20211110_Press_J.pdf
6)エムスリー、塩野義製薬, 2019.10.04, エムスリーと塩野義製薬による疾患課題解決を目的とした合弁会社「ストリーム・アイ株式会社」の設立について
https://corporate.m3.com/ir/release/2019/pdf/20191004_01.pdf
7)エムスリー、武田薬品工業, 2022.04.21, 希少疾患の認知向上を目指し、疾患検索システム「Docpedia CaseSearch」を共同で開発 ~PubCaseFinderの技術を活用し、m3.com上に疾患検索機能を構築~
https://corporate.m3.com/assets.ctfassets.net/1pwj74siywcy/34SBl3aSgKTDZLlissbLjh/bb00206fef3ce8866d7440614117e12e/20220421_Public_J.pdf
8)ケアネット, 2021.05.19, 中期経営ビジョン(2021〜2025)
https://www.carenet.co.jp/wswp/wp-content/uploads/2021/05/ir_20210519-a.pdf
9)メドピア, FY2022 3Q 決算説明資料
https://ssl4.eir-parts.net/doc/6095/ir_material_for_fiscal_ym/122196/00.pdf