#2 顧客理解を深める「タグ」と「結果」の設計|データ連携で導く真の顧客価値

前回は、顧客理解の重要性について触れ、データの資産化を通じて「顧客を知る」ことが不可欠であることを強調しました。
今回はその続編として、顧客の現状を把握し、顧客エンゲージメントを高めるために必要となる基盤作りと、コンテンツタグを含めた取り組みの重要なポイントについてご紹介します。
(Veeva Japan株式会社 コマーシャルストラテジー バイス・プレジデント 山下篤志)
記録・タグ・コンテンツをつなげる:顧客データの基盤をつくる
エンゲージメント活動の基本は、コンテンツとチャネルの組み合わせによって、顧客の行動やマインドに変化を促すことです。しかし、その活動によって得られるリターン(成果)を最大化するためには、そこで生まれた情報をデータとして記録・活用していくことが欠かせません。たとえ顧客の行動や意識に明確な変化が見られなかったとしても、次回以降の施策、あるいは他の顧客やチャネルへの応用につながる“価値あるデータ”が生み出されていれば、その活動は決して無駄にはなりません。
そのためには、以下の4つの要素をしっかりと記録する必要があります。
- What(何を:コンテンツ)
- When(いつ:日時)
- How(どうやって:チャネル)
- Result(結果:行動・反応)
上3つはすでにシステム上で自動的に記録している製薬企業が増えていますが、「結果(Result)」の記録については人の判断が伴うことが多く、設計や運用に特別な配慮が求められます。
そしてこの「結果(Result)」を意味ある形で記録・分析するには、「What(コンテンツ)=情報の中身」が、顧客にどんな変化をもたらすものなのかを、あらかじめ明確にしておく必要があります。この設計が曖昧なままでは、成果の定義も評価の軸もあいまいになり、「とりあえず作る」「とりあえず届ける」といった、属人的で非効率な施策に陥りかねません。
だからこそ、マーケティング活動の仮説構築フェーズでは、「この情報によって顧客の何がどう変わるのか」という視点を組み込むことが重要なのです。
コンテンツと結果を結ぶ「タグ」設計
ここで重要となるのが、タグの活用です。タグは、「そのコンテンツにどのような情報が含まれているか」「どのような目的で作られたものか」をインデックス化する役割を持っています。
タグ設計にあたっては、以下のような要素を全社・領域・製品横断で共通化し、階層的に整理しておくことが理想です。
(例)
- 治療領域別タグ(糖尿病/がん/希少疾患など)
- 対象者タグ(専門医/若手医師/薬剤師など)
- ステージタグ(Awareness/Interest/Trial/Usage)
- 目的タグ(情報提供/行動喚起/反論応酬など)
なお、タグの設定目的についても注意が必要です。
「検索性の向上」「利用状況の把握」「情報伝達度の計測」など、企業側の管理都合に偏ったタグ設計になっていないかを確認するとともに、「顧客のジャーニー」や「その時々のコンテキスト」といった顧客視点に基づく設計が組み込まれているかどうかも考慮します。
両者が混在しないよう、目的ごとにタグを使い分け、構造を明確に設計することが重要です。
記録・タグ・コンテンツの設計は相互に連動しており、その整合性が欠けると、エンゲージメント活動を通じたデータ資産化は進まず、「顧客を知る」ことにも限界が生まれてしまいます。
顧客理解を深める「現在地」の把握と変化の可視化
マーケティングの基本は、「顧客の要望に応えること」です。ただし現代では、それに加えて良質な顧客体験の提供が、極めて重要な要素となっています。
目指すべきは、顧客に必要な情報を適切なタイミング・方法で提供することにより、望ましい行動を促し、最終的には「処方」につながるルートを顧客とともに歩むことです。そしてその先には、患者さんの治療や健康への貢献という、より大きな目的があります。
この一連のプロセスをカーナビゲーションに例えると、分かりやすいでしょう。目的地が分かっていても、「現在地」が分からなければ、適切なルートを導き出すことはできません。
顧客もまた、常に同じ場所にいるわけではなく、状況や関心、知識の段階などが日々変化しているため、「現在地(現在の顧客状態)」は常にアップデートし続ける必要があります。
前回触れたとおり、「顧客を知る」ためには、まず既存のデータ資産を把握することが出発点です。その上で、不足している情報をどのように補完するか、さらにどのようにして新たなデータを取得していくかといった観点が求められます。
ここでも、タグが重要な役割を果たします。タグは、前段で述べたようにコンテンツ設計の整理要素であると同時に、顧客行動の可視化や効果検証のための分析単位としても機能します。
タグの明確な設計はコンテンツの管理だけでなく、以下のような「顧客の軌跡やインサイトの可視化」に直結します。
- 顧客がどのような情報に触れたのか
- それによりどのような行動変化があったのか
例えば、ある特定のタグが付与されたコンテンツを受け取った顧客と、そうでない顧客との行動結果を比較・分析することで、そのキャンペーンやコンテンツの効果を定量的に評価することができます。すると、施策改善サイクルが回り、「点」ではなく「線」として継続的に価値を高めていくことが可能になります。
このように、コンテンツ作成、情報提供から効果測定までの一連の流れを支える構造を、「コンテンツ・サプライチェーン」として設計することが重要です。
タグ設計やデータ構造はROI算出の要素に
近年、多くの企業で「コンテンツROI」や「チャネルROI」に関する議論が活発化しています。しかし、タグ設計やデータ構造の不備、あるいは結果検証の仕組みが不在のままでは、ROIの算出は困難です。
ROIの最大化を実現するためには、次のような要素が前提条件となります。
- タグの設計と統一実装
- 分析に耐えうるデータ設計と構造化
- 存在しないデータの取得手段(新たなデータソースや行動ログの活用など)の確立
これらの基盤が整ってはじめて、ROIに基づく意思決定や戦略的な改善活動が可能となります。
ここまで、顧客エンゲージメントをさらに高めるためには、顧客の現状を正確に把握し、行動変化を促す設計が重要であることをお伝えしてきました。その基盤として、「What(何を)」「When(いつ)」「How(どうやって)」「Result(結果)」の視点でコンテンツ・チャネル・反応を記録し、構造化されたタグを活用することで、データ資産を蓄積し、顧客理解を深めていく取り組みについて解説してきました。
次回は、この仕組みを構築するための重要なポイントと、AIによって実現できる価値についてご紹介します。
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