他業界マーケに学ぶ「行動設計」手法-製薬企業も使えるナッジ・診断・コミュニティマーケ事例集

他業界マーケに学ぶ「行動設計」手法-製薬企業も使えるナッジ・診断・コミュニティマーケ事例集

患者の行動変容を促す患者向けプロモーションや疾患啓発施策を検討する際には、「何を伝えるか」だけでなく、「どう行動につなげるか」という設計視点が欠かせません。

本記事では、他業界で実施された直近のマーケティング事例をもとに、ユーザーの行動を自然に後押しし、次のアクションへと導く「行動設計」の考え方を整理しました。ナッジ、診断、コミュニティの3軸から具体例を紹介しつつ、製薬企業の疾患啓発や患者向け施策にどう転用できるのかを考察します。

1. ナッジ・デザイン系

ナッジ・デザイン系の施策は、ユーザーの選択肢を制限したり強制したりせず、「つい、良い方向に行動したくなる」ように環境や情報の出し方をデザインするマーケ手法を指します。

例えば、疾患啓発サイト内で行うプッシュ通知やポップアップだけでなく、「行動の結果をすぐに見せる」「みんなで作る/参加する」などの設計も、ユーザーの行動を後押しするナッジとして機能します。

事例① 国連WFP「ShareTheMeal」

2015年に国連WFPが公式寄付アプリとしてローンチした「ShareTheMeal」は、2023年時点で200カ国以上からユーザーが参加し、総寄付数2億食以上の支援を達成しました。 ユーザーは、アプリ上で支援先(例:イエメン、ナイジェリア、パレスチナ など)を選び、1回0.8ドルから寄付できる設計で、学校給食、栄養支援、緊急支援などに使われます。

国連WFP「ShareTheMeal」
出典:国連WFP「ShareTheMeal」(https://sharethemeal.org/ja)

「ShareTheMeal」では、「今、あなたの寄付がどの国の誰にどんな支援として届いているか」を、目標設定やストーリー、寄付回数・食数のカウントを通じて可視化しています。

例えばウクライナ危機、ガザ危機、アフリカの干ばつなど、特定の緊急支援キャンペーンでは、寄付が何万食に達したか、どんな支援プログラムに活用されたかを継続的にユーザーに共有。ユーザーはただ寄付をするだけでなく、「自分の一回の寄付が大きなインパクトの一部になっている」と、自身の行動による効果や影響を実感でき、継続寄付やキャンペーンへの参加に前向きになると考えられます。

結果、ウクライナでは550万食以上、パレスチナでは756万食以上の支援を届けるなど、危機対応のたびにアプリを通じた寄付が短期間で集まり、迅速な食料支援の実現につながっています。

事例② 沖縄メディアのLINE共創マップ

オンライントラベル株式会社が運営する沖縄専門メディア「沖縄ラボ」は、2025年10月〜11月末にかけて、LINE上でユーザー参加型キャンペーン「みんなでつくろう!沖縄マップ」を実施。全国の沖縄ファン約1万人から「推しスポット」情報を集め、2025年末に「みんなでつくる沖縄マップ2025年版」としてまとめて公開するプロジェクトです。

沖縄マップ
出典:沖縄ラボ「みんなでつくろう!沖縄マップ」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000133407.html)

参加者は、「沖縄ラボ」のLINE公式アカウントを友だち追加し、トーク画面からカテゴリを選択し、お気に入りスポットと写真(任意)を送るだけ。投稿した全員には、完成した「みんなで作ろう!沖縄マップ」のPDF版をプレゼントし、「自分の投稿がマップの一部になる」という共創感と軽いインセンティブによって参加を後押しするナッジになっています。

製薬企業ではどう展開できる?

ShareTheMealの「行動インパクト即時可視化」や沖縄ラボの「共創型参加促進」から、製薬企業の疾患啓発への応用を考えてみましょう。例えば、ユーザーの行動ログを健康インパクトとして可視化する方法が考えられます。「1週間服薬継続でリスク○%改善見込み」といったビジュアルフィードバックは、服薬継続のモチベーション維持につながります。

また、「症状チェック→相談メモ作成→振り返り記録」といった小さなステップを連鎖させることで、サイトの継続利用や、受診へのCVを自然に促せます。「みんなで作る生活ハックマップ」のように、患者の投稿を集める共創型コンテンツも効果的です。生活習慣病やアレルギー領域で特に応用しやすく、ゲーミフィケーションと組み合わせればさらに効果が高まります。

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楽しさが行動を変える。製薬マーケに効く「ゲーミフィケーション」の力

2. インタラクティブ診断系

診断・インタラクティブ系は、クイズやチェックリストを通じてユーザーの情報を引き出し、パーソナライズされた結果+次の行動提案を返すことでエンゲージメントとCVを高める手法です。

DtoCでは商品レコメンド、BtoBではリード獲得・ナーチャリングに活用され、通常の記事やPDFなどの静的コンテンツと比較して、診断コンテンツはリード獲得率が数倍以上になるケースも報告されています。

事例③ サプリ・美容ECのパーソナライズ診断

健康食品・美容ECでは、パーソナライズ診断を活用した提案が広がっています。トリコ株式会社のパーソナライズビューティケアブランドであるFUJIMIは「3分診断」で肌悩み・栄養状態をチェックし、一人ひとりに合ったサプリメントやプロテインを提案。

FUJIMIパーソナライズサプリ
出典:FUJIMI「パーソナライズサプリメント」(https://fujimi.me/supplement)

そのほか、株式会社ファンケルの「パーソナルワン」では、WEBアンケートと尿検査を組み合わせ、顧客に合ったサプリメントを提案しています。

FANCL「Personal ONE」
出典:FANCL「Personal ONE」(https://www.fancl.co.jp/healthy/personalone/index.html)

パーソナライズ診断要素を取り入れることで、質問回答が「自分ごと化」され、結果ページから、購入などの納得感ある次の行動につなげる設計が強みです。

事例④ すごい改善「Excelスキル診断クイズ」

Excel研修・業務改善支援を行う株式会社すごい改善は、Funda Naviと協業し「Excelスキル診断クイズ」をWeb・SNS上で展開。Excel業務が多い会社員をターゲットに、1分程度で解ける3問構成のクイズを通じて、ユーザーのスキルギャップを可視化する診断コンテンツです。

すごい改善「Excelスキル診断クイズ」
出典:すごい改善「Excelスキル診断クイズ」(https://navi.funda.jp/quiz/excel-check-lv1)

クイズ回答後にメールアドレスを入力すると、診断結果とビジュアルベースの解説コンテンツが表示される設計で、リリース1ヶ月で参加者1,155人、メールアドレス取得655件を達成。CV率は約57%に達しました。SNSでの拡散も76RT、シェア経由の流入425人を記録し、新規リード獲得に大きく貢献しています。

製薬企業ではどう展開できる?

患者向け疾患啓発では、サプリ診断型やスキル診断型を応用できます。例えば、生活習慣病やアレルギー領域で「症状・生活習慣チェック」を実施し、回答後に「知っておくべき情報」や「医師に聞くべき質問リスト」を見せる設計が考えられます。すごい改善の事例のように、結果ページで「なぜこの情報が重要か」をビジュアルでわかりやすく解説することで、信頼感を高め、受診を促します。

医療関係者向けであれば、ウェビナーや症例検討会のフォローとして「今日の1問クイズ」を定期配信する方法が考えられるでしょう。回答結果に応じてe-Learningや製品情報へ分岐させれば、ナーチャリングを自動化できます。

そのほか、医師向けのメルマガに論文などをもとにした疾患に関するクイズコンテンツを掲載し、医療関係者向けサイトのアクセスへとつなげる施策なども考えられます。

いずれもゼロパーティデータ(ユーザー自身が意図的に提供した回答履歴などのデータ)を活用し、パーソナライズ施策の基盤に発展させやすい点が魅力です。

【関連記事】
「ファーストパーティデータ」とは?製薬マーケで欠かせない理由と活用法

3. ピアサポート・コミュニティ系

ピアサポート・コミュニティ系は、同じ悩みや目標を持つユーザー同士をつなぎ、ブランドが場を提供することでエンゲージメントとロイヤルティを高める手法です。参加者のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)向上や口コミ拡散が主な成果で、日本企業でも株式会社カインズや株式会社スノーピークが成功事例として知られています。

事例⑤ CAINZ「CAINZ DIY Square」

CAINZはDIY愛好家向けコミュニティ「CAINZ DIY Square」を2021年に本格始動し、オンラインでの作品投稿・ノウハウ共有と店舗イベントを連動させています。

CAINZ「CAINZ DIY Square」
出典:CAINZ「DIY Square」(https://diy-square.cainz.com/)

オンライン投稿とオフライン体験を融合させ、継続参加を促す設計です。「オンラインで交流→リアルで体験→成果をオンラインで共有」というオンライン・オフライン連動設計の循環を作り、参加の継続性を仕組み化しています。

2025年9月時点で会員数10万人を突破し、登録者の購買単価は一般顧客比1.8倍に向上。ユーザー同士が「DIY仲間」として交流することで、来店頻度とロイヤルティを強化しました。

事例⑥ スノーピーク「Snow Peak Way」

アウトドアブランドのスノーピークは、キャンプイベント「Snow Peak Way」を全国の会場で年10回程度開催。ユーザー同士・スタッフが焚き火を囲み交流する本イベントは、抽選制の少人数イベントという特別感を提供することで、熱狂的なファンづくりに寄与しています。

スノーピーク「Snow Peak Way」
出典:スノーピーク「Snow Peak Way」(https://www.snowpeak.co.jp/event/spw/)

イベントでは幹部全員参加の「焚き火トーク」で直接意見交換を行い、イベント参加者はその様子をSNSで拡散。2025年も北海道から九州まで、10のキャンプ場で開催されました。リアルイベントで深い絆を形成し、ブランドを愛するファンを育てると同時に、参加者による口コミで、さらなるブランド認知を広げることにもつながります。

製薬企業ではどう展開できる?

患者向け疾患啓発では、同じ疾患を抱える人々が「生活のTips」を匿名で共有できるコミュニティの構築が考えられます。痒み対策、食事工夫、受診時の質問例など、患者のリアルな知恵を集め、「みんなの○○疾患ストーリー」として公開する方法もあります。

例えば、アトピヨはその好例で、アトピー患者が皮膚症状画像+治療記録を匿名投稿・時系列閲覧し、コメントで励まし合えるアプリです。DL数3万超、投稿画像6万枚を達成し、精神的負担軽減と情報交換を実現しています。

製薬マーケティングに求められるのは「説得」ではなく「行動設計」

本記事で紹介したナッジ、診断、コミュニティの事例に共通するのは、ユーザーを説得するのではなく、「行動しやすい状態をつくる」設計に重きを置いている点です。

行動の結果を即時に可視化する、参加のハードルを下げて共創感を生む、回答や交流を通じて自分ごと化を促す、といった仕組みが、ユーザーを自然に次のアクションへとつなげます。

製薬企業でも、疾患啓発サイトや患者向けコンテンツを単発で終わらせず、行動の連鎖として設計する視点が重要です。プロダクト理解と患者の生活文脈を結びつけ、受診・相談というCVに至るまでをどう支援するか。その設計力こそが、今後の患者向けマーケティングの差別化要因になります。

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<出典>※URL最終閲覧日2026.02.12

1)WFP, 2023.11.15, ShareTheMeal: WFP app reaches 200 million meals milestone (https://www.wfp.org/stories/sharethemeal-wfp-app-reaches-200-million-meals-milestone
2)PR TIMES, 2025.10.30, 日本最大級の沖縄メディア「沖縄ラボ」が、LINEで「みんなでつくる」沖縄マップを発表!(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000133407.html
3)PIVOT 公式チャンネル, 2024.09.10, 【ビジネスパーソン必見】サプリメントのパーソナライズサービス/尿検査で自分に必要な栄養素を「見える化」/約10億通り以上の組み合わせからなるオーダーメイド(https://www.youtube.com/watch?v=aISxz8qeVvo
4)Funda Marketing, 2024.12.17, CV率60%超!クイズでリード獲得に成功した株式会社すごい改善の事例(https://marketing.funda.jp/use-cases/sugoikaizen
5)CAINZ, 2021.11.02, DIYコミュニティ「Cainz DIY Square」が本格的にスタート 店舗とオンラインが融合した「場」で、人生を“自分好みにDIY !” (https://www.cainz.co.jp/news/3853/
6) &Fans, 2025.11.17, DIYファンの交流から広がる、購買体験。カインズのコミュニティサービス「CAINZ DIY Square」(https://andfans.rayout-inc.com/article/cainz/
7)繊研新聞社, 2016.08.27, スノーピーク流“熱狂”の作り方(https://senken.co.jp/posts/snowpeak-camp-160827