製薬企業における疾患啓発のデジタルプロモーション事例8選

製薬企業における疾患啓発のデジタルプロモーション事例8選

DXが進む製薬業界では、疾患啓発を目的としたデジタルプロモーションを展開する製薬企業が増えています。そこで本記事では、疾患啓発における製薬企業のデジタルプロモーション事例を、症状検索エンジンやアプリ、動画や画像、デジタル広告の活用などの視点から8つ紹介します。各取り組みの目的や特徴なども踏まえて紹介しているので、プロモーションを展開する際のアイデア出しにお役立てください。

製薬企業におけるデジタルプロモーション活用のメリット

スマートフォンの普及やSNSの浸透に伴い、製薬企業の患者向けプロモーションの手段は、この10年で大きな変化を見せています。

従来の疾患啓発活動と言えば、市民公開講座や病院での患者教室などオフラインでのイベントがメインでした。しかし今では、インターネットやSNSから疾患啓発を行うことで、医療情報を手軽に伝えられます。

場所や時間を選ばず、情報を必要としている人に適したプロモーションを行えることがデジタルを活用したプロモーションのメリットです。

製薬企業のデジタルプロモーション事例8選

症状検索エンジンとの協業やアプリとの連携など、各社がデジタルを活用したさまざまなプロモーション施策を実施し、疾患啓発に注力しています。

製薬企業が疾患啓発目的に実施したデジタルプロモーション事例を、以下に8つ紹介します。

症状検索エンジンとの協業事例

症状検索エンジンでのプロモーションでは、症状の検索結果のページに病名と関連する製薬企業のオウンドメディアや疾患啓発サイトへのリンクを表示。既に自分に生じている気になる症状に対する情報を求めているユーザーに向け、ダイレクトに疾患啓発を行えます。

ファイザー株式会社

ファイザー

ファイザーは、切迫性尿失禁(UUI)をはじめとする過活動膀胱(OAB)に悩む人ができるだけ早期の段階で医療機関を受診できるよう、症状検索エンジン「Ubie(ユビー)」と協業しています。

UbieでUUIやOABに関連する症状が検索されたときに、ファイザーが運営する疾患啓発サイト「UUI相談室」へのリンクを表示したところ、全国で約1,700人の医療機関受診に繋がったと推計されています1)

Ubieは、スマートフォンやPCから質問に回答することで、その症状について相談可能な医療機関を調べられる症状検索エンジン。OABは、症状を相談しにくいため特に女性の受診率が低いことが課題です。Ubieで症状を検索した後にUUI相談室で医療機関の受診に関する医師や患者の声、検査や診察の流れなどの情報提供をすることで、受診できる医療機関を調べようという行動変容に繋がったと考えられます。

協和キリン株式会社

協和キリン

協和キリンは、希少疾患の1つである「FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症」の認知拡大と適正受診を広めるため、症状検索エンジンUbieと協業。Ubieで該当する症状を検索すると、協和キリンが運営する疾患情報サイト「くるこつ広場」へのリンクが表示されます2)

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は非常に希少な疾患であるため、確定診断までに時間を要してしまうことが課題となっています。Ubieで症状を検索した患者に、「くるこつ広場」で詳細な情報を提供することで、疾患の認知を広げ、早期受診、早期発見につなげようとする取り組みです。

アプリとの連携事例

スマートフォンを利用する環境が整備されるとともに、通信量を抑えられるなどの点からアプリを利用するユーザーが増加。製薬業界でも、ヘルスケア関連のアプリと連携して疾患啓発を行う事例が見られます。

協和キリン

武田薬品工業は、「フォン・ヴィレブランド病(VWD)」の理解促進と早期発見、適切な診察をサポートするため、女性のカラダとココロを管理するアプリ「ルナルナ」と提携しています3)

「ルナルナ」アプリから受診・相談サポートを行える「ルナルナ メディコ」内にある「月経異常・止血異常のセルフチェック」を武田薬品工業が提供しています。このチェックシートに回答することで、VWDの可能性について確かめることができ、VWDの可能性がある場合は医療機関への受診が促されます。

また、セルフチェック欄から武田薬品工業が運営する疾患啓発サイト「フォン・ヴィレブランド病.jp」にもアクセスできるので、より詳細な疾患情報を得ることも可能です。

セルフチェックの結果、VWDの可能性がある患者がルナルナ メディコを利用して受診した際に、医師には武田薬品が運営する医師向け疾患啓発サイトが表示されます。患者だけでなく医師への疾患啓発にも活用している事例です。

今後は、ルナルナに登録した月経のデータからVWDの可能性を示唆する情報を医師が確認できるようにする予定とのことで、より早期診断につながると期待されます。

田辺三菱製薬株式会社

田辺三菱製薬

田辺三菱製薬は、ワクチン接種管理アプリ「Health Amulet(ヘルス アミュレット)」を運営するミナケアのデータを活用し、帯状疱疹ワクチンの接種者・未接種者約4,000名にアンケートを実施4)。接種の決め手やハードルについての意識調査では、ワクチン接種に対するリアルな声が集められました。

さらに、Health Amuletのシェア機能を使い、ワクチン接種者がアプリからSNSなどに接種の情報を発信する形で、ワクチン接種の理解を広める啓発活動を展開。アプリとSNSを活用し、効果的に疾患啓発を行なっている事例です。

動画や画像によるプロモーション事例

最近では、疾患啓発サイトなどで、動画や画像を活用した疾患啓発プロモーションを展開する事例も一般的です。動画形式で情報を届けることで、わかりやすくリアリティのあるプロモーションを行えます。また、デジタルアートを活用した新しい取り組みもみられています。

MSD株式会社

MSDは、子宮頸がん予防の啓発活動として運営する「もっと知りたい子宮頸がん予防」のサイト内に特設ページを開設5)

子宮頸がんの患者や家族と日々向き合う医師への取材に基づいて描かれた漫画とコミックムービーにより疾患啓発を展開しました。漫画は、「ホタルノヒカリ」で知られる人気漫画家のひうらさとるさんが担当しています。

また、サイト内には女優の桜井日奈子さんを起用した子宮頸がん予防啓発のCMも掲載。人気漫画家や女優を起用した動画は若い女性の目に留まりやすく、疾患予防に興味を持ってもらう工夫が見られる事例です。

日本ベーリンガーインゲルハイム

日本ベーリンガーインゲルハイム
※画像はイメージです。

「膿疱性乾癬(GPP)」の患者の声をもとに、“患者さんの未来を照らす”世界初6)のデジタルアートプロジェクト「Illuminate Tomorrow」が始動しました。グラミー賞受賞プロデューサー「ジョン・エッチェン」が率いるクリエイティブチーム、およびNFTメタバース事業を行う「Anifie Inc.」と共創し、疾患啓発を行なっています。

GPPは、乾癬の中でも唯一指定難病とされる病気で、主な症状である皮膚症状、関節の痛みなどに加え、発熱などの全身症状もあります。患者数が少ないことから、同じ病気を持つ方との交流の機会も少なく、孤独を感じることも多いと思われます。そうした暗闇の中にいる患者を明るく照らそうというのがこのプロジェクトです。

Illuminate Tomorrowでは、参加者のコメントや参加時間などの情報を集約化させたNFTの形にされ、永遠に残るかたちで保存されると言います。疾患啓発とデジタルアートが結びついた、とても興味深い事例です。

ディスプレイ広告の活用事例

広告枠のあるWebサイト内に動画や画像を表示し、自社サイトへと誘導するディスプレイ広告。病院検索サイトや検索エンジンで啓発対象となる疾患が検索された際に、疾患啓発サイトの広告が表示される事例を紹介します。

中外製薬株式会社

中外製薬では、病院検索サイト「病院なび」でリウマチに関する疾患が検索された場合に、ディスプレイ広告を表示しています(2023年6月現在)。

サイトのトップページ内に「リウマチは専門医による治療が必要な疾患です」など、リウマチ関連のバナーが表示されている際にクリックすると、中外製薬が運営する疾患啓発サイト「おしえてリウマチ」にジャンプ。数多くのユーザーが集まる検索サイトとの連携により、疾患啓発を展開しています。

リスティング広告の活用事例

GoogleやYahoo!などの検索エンジンで検索されたキーワードに紐づいて掲載される、テキスト形式の広告です。

検索結果の上部に表示されるなど、目に留まりやすいリスティング広告を利用することで、疾患の情報を求めるユーザーに向けていち早く疾患啓発を行えます。

ノバルティスファーマ株式会社

「多発性硬化症 病院」と検索すると、スポンサー(広告)としてノバルティスファーマが運営する疾患啓発サイト「多発性硬化症.jp」へのリンクが検索結果画面の上部に表示されます(2023年6月現在)。

多発性硬化症で病院受診を検討中のユーザーに向けて、疾患理解に役立つサイトの情報を発信しています。

記事広告の活用事例

記事広告は、「PR」「広告」など、宣伝目的であることが明記された記事形式でニュースサイトなどのWebメディアに掲載される広告のことです。

広告主ではなく、メディアのライターなどが第三者目線で執筆するため情報の信頼性が高く、潜在的なニーズを持つユーザーにアプローチしやすいことが特徴です。

【参考】中外製薬株式会社

疾患啓発目的ではないものの、製薬企業におけるデジタルプロモーションの一例として記事広告の活用例をご紹介します。

中外製薬は、2000年代に入り登場した「抗体医薬品」に関わるプロモーション記事をニュースメディアに掲載しました7)。抗体医薬品の基礎知識を分かりやすく解説しつつ、抗体医薬品開発に取り組む中外製薬の担当者がその可能性について語ることで、認知度拡大を目指しています。

デジタルプロモーションを活用して疾患啓発をもっと身近に

症状検索エンジンやアプリとの連携、ディスプレイ広告などデジタルプロモーションの方法は多種多様です。効果の高い疾患啓発を行うためには、そうした多種多様なデジタルプロモーションの方法から、患者像に合わせた方法を選ぶことが重要になります。

患者の適切な受診と治療を支援するために、効果的に疾患啓発できるデジタルプロモーションを活用しましょう。

<出典>※URL最終閲覧日2023.06.22
1)PR TIMES, 2023.03.13, Ubieとファイザー、症状検索エンジン「ユビー」と「UUI相談室」の連携で約17,000人の医療機関受診に繋がる(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000050.000048083.html
2)PR TIMES, 2023.02.28, Ubieと協和キリン、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の早期発見を目指し協業を開始(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000049.000048083.html
3)PR TIMES, 2022.04.19, エムティーアイの『ルナルナ』と武田薬品が希少疾患の疾患啓発で連携を開始(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001069.000002943.html
4)PR TIMES, 2023.04.20, ワクチン接種の普及にSNSを活用!株式会社ミナケア、田辺三菱製薬とのHealth Amulet活用実験の成果を発表(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000033.000060435.html
5)MSD株式会社, 2022.12.08, MSD、人気漫画家・ひうら さとる氏の啓発漫画「ストーリーで知る『子宮頸がん』」を公開 ~人気声優 梶 裕貴さん、花澤 香菜さんによるコミックムービーも掲載~(https://www.msd.co.jp/news/product-news-20221208/
6) PR TIMES, 2023.01.20, 世界初*のNFTアートを活用した膿疱性乾癬啓発プロジェクト「Illuminate Tomorrow」始動(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000349.000002981.html
7)NEWSPICKS, 2023.03.07, 【解説】ニーズが拡大し続ける「抗体医薬品」って何?(https://newspicks.com/news/7943256/body/