2025年を振り返り、2026年の変化を先読みする|有識者らによる製薬業界の主要トピック総まとめ

2025年を振り返り、2026年の変化を先読みする|有識者らによる製薬業界の主要トピック総まとめ

2025年、製薬業界では生成AIの本格活用やオムニチャネル施策の深化などデジタル活用が進む一方で、医師の情報行動や現場ニーズの多様化によりMRチャネルの価値があらためて見直されるなど、リアルとデジタルの最適な関係が問われる場面も増えました。

2026年にはどのような変化が起き、製薬マーケターは何を見据えて準備すべきなのでしょうか。本記事では、各方面の有識者の皆さまに、2025年の主要トピックの振り返りと、来年に向けた視点や注目テーマを語っていただきました。

▼本記事とのタイアップ企画として、セミナーを開催予定です!ぜひご視聴ください。

製薬業界を動かした今年の変化と、2026年への備え:寄稿者による特別トークセッション
2025.12.24
製薬業界を動かした今年の変化と、2026年への備え:寄稿者による特別トークセッション

医薬×地域×産業で広がる製薬の新しい価値創造(株式会社EN・医療法人社団季邦会 代表取締役/理事長 鎌形 博展 氏)

2025年は、医療DXと生成AIが急速に実装段階へ移行し、医療現場と製薬企業の双方で「業務の再設計」が進んだ一年でした。医療現場ではAIドキュメンテーションや症状分類支援が広がり、医師・看護師の働き方は変化し始めています。一方で、情報が高度化するほど医師が求めるのは“本当に使える知識”であり、MRチャネルの価値は「情報提供」から「診療と経営に効く伴走」へと再定義されつつあります。

2026年に向けて重要なのは、単にオムニチャネルを強化することではなく、臨床ワークフローと医療機関の経営課題を同時に捉えたソリューション型アプローチだと考えています。薬剤の特性が診療効率や再診率、スタッフ負荷、安全性にどう影響するかまで可視化し、医療機関の経営改善につながる提案が求められます。

さらに、今後の製薬マーケティングは、連携先が医療機関にとどまらない点も特徴的です。医師個人、薬局、訪問看護、介護事業者、自治体、保険者、企業、スタートアップなど、“医薬×地域×生活×産業”が一体化する広域連携が不可欠になります。慢性疾患の増加や地域医療の負荷を考えれば、治療は病院内だけで完結せず、生活圏まで広がるからです。
製薬企業は、その広域ネットワークの“ハブ”として力を発揮できます。疾患管理プログラム、地域データ分析、企業向け健康支援、AI・Deeptechとの協業など、薬剤価値を“治療”から“行動変容・医療システム改善”へと拡張するチャンスが広がっています。

2026年は、医薬品の提供者から、医療の持続可能性を共に創るパートナーへと進化できるかが問われる一年です。現場の医療法人としても、産業としての製薬企業との新たな共創を大いに期待しています。

関連記事:
働き方改革の最前線、医師が気になる他院の取り組みは?-メディカルジョブアワード2025
現役医師3名が開陳!オムニチャネル時代のMRや製薬マーケに対するホンネ

株式会社EN・医療法人社団季邦会 代表取締役/理事長 鎌形 博展 氏    
医師・薬剤師・社会医学系専門医指導医。元中外製薬のMR。救命救急・災害医療のバックグラウンドを持ち、現在は在宅医療と内科クリニックの経営を行う医療法人社団季邦会 理事長。医療×キャリア×DXを軸としたヘルスケア企業「株式会社EN」代表として、医師のキャリア支援「Med-Pro Doctors」や医療機関の経営戦略・新規事業開発を推進している。 慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)で医療政策を学び、大学発ベンチャー起業の経験を持つ。政策・現場・経営の三位一体の視点を強みに、医師キャリア、地域医療、医療経営、DX化をテーマに講演・寄稿多数。

逆ざや拡大で揺れる病院経営。製薬企業への影響は?(日本医業経営コンサルタント協会 東京都支部 高橋 洋明 氏)

2025年の医療現場は、医療機関、特に病院の経営状況の厳しさが非常に増した1年でした。日本国内の物価上昇や為替の円安、人件費の高騰などが続く一方で、診療報酬は十分に引き上げられていません。その結果、収入が支出に追いつかない逆ざやの状況が広がり、赤字に陥る病院が日を追うごとに増えています。

2026年診療報酬改定に向け、2025年秋から中医協ではさまざまな議論がなされています。3大臣による改定率や中医協の答申は2025年11月24日現在では不明ですが、次回の改定でも診療報酬本体はプラス、薬価はマイナスとなる可能性が高いと私は見ています。おそらくこれまでの薬価改定よりもさらに厳しい改定になるのではないかと予想します。日本の国家予算の中で、社会保障関係費が増え続ける中、医療費や介護費を手厚くするなら薬価を下げ、足りない財源を国債の発行で補うしか打ち手がないためです。
薬価が下がるなら、その分製薬各社の経営陣は自社医薬品の処方患者数を増やして業績の維持・伸長を目指すため、製薬業界全体の競争が一層激化すると考えられます。

医療機関側では2040年の新地域医療構想の実現に向けたさまざまな取り組みが検討されています。電子カルテ情報の共有化など、これまで考えられなかった新たな医療提供体制が構築されつつあり、病院と近隣の診療所の連携も一段と進んでいきます。こうして地域全体で無駄のない医療提供が促進される中、地域を包括的に支え、安心・安全な地域医療の実現に貢献する製薬企業は、安定した業績を上げるでしょう。

関連記事:
【2024年診療報酬改定を先取り】製薬企業のマーケティング担当者が診療報酬改定を読み解くコツ
製薬マーケティングに活かす地域医療の基礎知識【前編】地域医療構想の現状と2040年に向けた変化とは?

公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会 認定登録 医業経営コンサルタント 高橋 洋明 氏    
約29年、医療・製薬業界に携わる。MR、製薬業界へのマーケティング支援、MRの採用・教育・スキルトレーニング、RWDからのInsightsの提供とマーケティングへの活用を経て、現在は個人事業主として複数の企業のビジネスの支援を手掛けている。病院経営コンサルティングも継続して研鑽を積んでいる。

小児領域のビジネスチャンス、そして生成AI活用能力が分岐点となる2026年(外資系製薬企業経営企画部所属/製薬キャリア3.0 こういち氏)

2025年の製薬業界は、政策的支援とデジタル技術の進展が交差する一年となりました。個人的に注目したのが小児適応に対する薬価優遇の拡充です。従来は加算比率が5%程度にとどまるケースが多かったものの、2025年には10%から20%の比率で評価される品目も数多く登場しました。これにより企業が小児領域に積極的に参入するインセンティブが高まり、希少疾患や小児慢性疾患に対する新薬開発が加速していくことが期待されます。患者家族の切実なニーズに応えるだけでなく、社会的評価と収益性を両立させる新たなモデルが形成された年であったように思います。製薬マーケターはライフサイクルマネジメントの観点から必ず小児適応のビジネスケースを検討していくことが求められます。
 
一方、マーケティング活動における生成AIの導入も本格化しました。具体的には、資材レビューへのAI活用が進展し、販促資材や学術資料のチェック工程にAIを組み込むことで、表現の適正性や最新エビデンスとの整合性を迅速に確認できるようになりました。導入している企業はまだ限られているかとは思いますが、これにより承認プロセスの効率化とコンプライアンス強化、また費用削減が同時に実現しています。さらに、市場調査へのAI活用では、SNSや医師向けプラットフォーム上の膨大なデータを解析し、疾患領域ごとの関心度や治療ニーズをリアルタイムで把握する事が以前よりも容易になりました。従来は数か月単位で行われていた調査が短期間で可能となり、マーケティング戦略の即応性が飛躍的に高まっています。
 
2026年を展望すると、小児領域の開発促進はインセンティブに加え、国際的な共同研究や治験ネットワークの拡充によりさらに進展し、恩恵を受ける患者さんが増えることが期待されます。一方で生成AIは、DX格差の拡大が起こると予想します。つまり、生成AIを効果的に活用し、業務に深く組み込める企業と、そうでない企業との間で、生産性と収益のDX格差が拡大していく年になるのではないかということです。生成AIによる成果を最大化するには「生成AIを使いこなすための学び」が不可欠です。単なるツール導入にとどまらず、社員教育や事例共有を通じて、AIを正しく理解し戦略的に活用できる人材を育成することが、2026年の競争力を左右する重要な要素となるでしょう。
 
関連記事:小児適応取得の価値が高まる今、製薬マーケターが取るべき対応は?

運営ブログ:製薬キャリア3.0 こういち 氏    
大学卒業後、外資系製薬会社に入社。営業、メディカル、デジタル戦略部、製品戦略部を経て、現在経営企画部にて勤務。製薬・ヘルスケア・キャリアに関する情報をブログやTwitterを通じて発信中。
X(旧Twitter):@seiyaku_career

生成AI活用からAIエージェントとの協働時代へ(中外製薬株式会社 参与・デジタルトランスフォーメーションユニット長 鈴木 貴雄 氏)

2025年を象徴する最大のトピックは、業務を自律的に遂行する「AIエージェント」の登場です。
従来の生成AIは文章作成や情報整理が中心でしたが、AIエージェントは複数のタスクを自律実行し、業務プロセス自体を変革する可能性を示しました。製薬業界では、医療情報の収集・分析、マーケティング、MR活動から研究、臨床開発、生産まで、バリューチェーン全体で活用領域が広がった一年でした。

2026年は、AIエージェントのビジネス導入が進み、人とAIが協働する新しい働き方が本格化すると予測しています。
製薬業界は、厳格なルールの下で逸脱のない業務遂行が求められるため、単なる効率化だけでなく「確実でミスのない仕事」が重要であり、こうした定型業務はAIが得意とする領域です。一方、最終判断、AIに対するガバナンス、価値創造を高めるための挑戦は人が担うべき領域であり、ここに人間の強みが発揮されます。

「AIをどう使いこなすか」「いかにAIに知識を教え込むか」が、個人や企業のパフォーマンスを左右する時代に突入します。
ただし、人とAIエージェントの真の協働にはまだ時間がかかるでしょう。だからこそ今から、戦略的思考力、倫理的判断力、共感力といったAIエージェント時代に求められる人間力を見極め、継続的にスキルを磨くことが重要です。AIに代替されない価値を持つ人財への投資こそが、2026年以降の競争力を決定づけるのです。

関連記事:生成AIの全社活用を目指して-中外製薬が取り組む内製と協働による基盤構築

中外製薬株式会社 参与 デジタルトランスフォーメーションユニット長 鈴木 貴雄 氏    
2000年にNTTコミュニケーションズ株式会社に入社。大手法人向けのSaaS開発やコンサルティングを経て、米国で金融基幹系システムのアーキテクトとプロジェクトマネジメントに従事。帰国後、グローバル営業戦略推進責任者、中国南部拠点総経理、グローバルIT事業者の営業責任者などを歴任。2018年にマイクロソフトへ転職し日本及びアジアにおけるグローバル顧客のDXアドバイザリーチームの責任者を務める。2024年より現職。

2025年製薬業界トレンドから読み解く、2026年のマーケティング戦略(ユーシービージャパン株式会社 免疫・炎症事業部 HSマネジメント部長 川野 清伸 氏)

2025年の製薬マーケティングを振り返り、2026年のトレンドを想像すると、いくつかのトピックスが浮かび上がってきます。
 
1. 生成AIの実装ギャップを埋める年へ
2025年、業界横断的に生成AI活用が注目を集め、数多くのカンファレンスやセミナーで議論されました。しかし、R&Dなどのバリューチェーンの上流フェーズに比べて、マーケティング領域においては「議論」と「実装」の間に大きなギャップが存在しています。先進的な企業においても概念の構築もしくは概念実証(PoC)レベルにとどまり、実業務への本格的な統合には至っていないのが現状です。
 
2026年は、このギャップを埋める重要な転換点となるでしょう。先行企業と追随企業の差が開き、AI活用の成熟度が将来の競争優位性を左右すると予測しています。
 
2. 外部サービスの戦略的活用が差別化の鍵に
次世代医療基盤法の整備により、健診結果やカルテなどの医療情報を活用した多様なサービスが次々と誕生しています。並行して、ヘルステック・スタートアップの急増もきっかけとなり、サードパーティーメディアのエコシステムも急速に拡大・多様化しています。
 
一方、ソリューションの導入側である製薬企業のリテラシーが十分ではない点が課題として挙げられます。外部のカンファレンスなどに参加してみると、データ活用についてはメディカル部門では着実に進んでいる一方で、コマーシャル部門ではまだ模索しながら取り組んでいる印象を受けます。 各サービスの特性、データの質と量などの特徴を理解し、戦略的に組み合わせて活用できる企業が、医療関係者へのリーチにおいて優位性を築くことができるのではないかと考えています。
 
3. Back to Basic-テクノロジー時代における本質回帰
我々を取り巻く環境は加速度的に進化しています。テクノロジーの基礎知識習得は必須条件となりました。
しかし、真の競争優位性は「人間にしかできない価値創造」にあると思います。深い顧客インサイトの発掘、共感を生むストーリーテリング、倫理的判断―これらの本質的なマーケティング能力を、テクノロジーで増幅させる。また、行動経済学などの新しい知見を取り入れることも大切になってくるでしょう。今後、この両輪を回せる人と組織が、2026年以降の製薬マーケティングを牽引していくと確信しています。
 
※記載内容は著者個人の見解であり、著者が所属する企業の見解や方針を代弁・表明するものではありません。また、記載内容は著者が所属する企業の状況に関するものではなく、あくまで著者の認識における製薬企業一般の話であることをご承知おきください。
 
関連記事:
「対面回帰」だけでは語れない、製薬企業の情報提供戦略の現在地
第5回 生成AI時代に求められる製薬マーケターの進化と組織変革|製薬マーケ部門担当者と考えるオムニチャネル時代の包括的なブランドプラン

ユーシービージャパン株式会社 免疫・炎症事業部 HSマネジメント部長 川野 清伸 氏    
武田薬品工業 マーケティング部門にて糖尿病薬、炎症性腸疾患治療薬のローンチを担当。Japan Oncology Business Unitに異動後、同社初の肺癌領域への参入および同社初のMarketing Automationの導入に従事。2022年、ユーシービージャパンにマーケティング部長として転職、約3年半で7つの新しい効能追加をリードした。2025年11月よりHS(化膿性汗腺炎)のマネジメント部長としてセールス&マーケティングを担当。また、製薬ビジネス研究会共同代表、HMICアドバイザリーボードメンバーとして精力的に活動している。ミクス、Medinewでコラムを連載中

MRの進化と挑戦:AI時代における価値創造と信頼構築(アステラス製薬株式会社 日本コマーシャル カスタマーエクセレンス部 部長 森岡 真一 氏)

2025年は、デジタルチャネルや生成AIの活用がさらに進化した一年でした。製薬企業のポートフォリオが専門化する中、MR活動の評価は面談の「量」に加え、より「質」を重視した形へシフトしてきています。特に生成AIの進歩は、面談スキルの質的評価や改善を可能にし、各社がMR教育に積極的に取り入れ始めています。

製薬業界では、MRの役割が単なる「情報提供者」から「医療課題解決のパートナー」へと進化することが期待されています。そのため、科学的根拠に基づく情報提供力と、医療現場のニーズを的確に捉える課題解決力が、これまで以上に重要になります。

こうした変化を背景に、2026年4月からMR認定制度が改定されます。最大のポイントは「生涯学習」を軸に、MR自身が主体的に学び続ける仕組みへの転換です。また、成果目標を定めた体系的な枠組みとして、実践を通じた資質向上を促す仕組みも強化され、医療関係者から信頼されるパートナーとなることが期待されています。

2026年は、MRが「自ら学び、自ら価値を証明する」ための進化の年です。生成AIやリアルワールドデータを活用した提案力と、人間ならではの信頼構築を両立できるMRこそ、医療および患者さんに貢献できる存在となります。

いくらデジタルやAIが進化しても、最後に価値を生み出すのは「人」です。MRの皆さんには、その強みを信じて挑戦し続けてほしいと思います。また、MRが強みを発揮できる環境を整え、デジタルと人の力をどう組み合わせていくかは、我々にとって重要なテーマとなるでしょう。

関連記事:
オムニチャネル、何をどう動かす?より良い実践のコツを聞く|製薬4社マーケ・CX座談会
生成AIで越える製薬オムニチャネルの壁。他業界事例とワークショップで探る次の一歩|MDMD2025 Autumnレポート

アステラス製薬株式会社 日本コマーシャル カスタマーエクセレンス部 部長 森岡 真一 氏    
MRとしてキャリアを開始後、プロダクトマーケティング部で循環器・内分泌領域のメディカル業務やブランドマネージャーを歴任。同領域グループリーダー就任後、米国グローバルコマーシャル部門に異動しNew Product Planning、Strategic Operation、Established Brandのマネジメントポジションを経験したのち、帰国後はデジタルコミュニケーション部でオムニチャネル戦略を推進。2023年より現在のカスタマーエクセレンス部長として、研修・分析・イベント・オムニチャネル推進などコマーシャル全般を横断的にリード。2024年からはMR認定センターが主導するMR認定制度改定に向けた企業委員会委員長として、新制度策定・推進にも注力している。

2026年、製薬マーケティングは何を設計し直すべきか

2025年は、生成AIを中核とするデジタル技術が製薬業界において「導入」から「実践」への一歩を踏み出した一年でした。MR活動や患者向け施策を含むマーケティングのあらゆる領域で、これまでのやり方が少しずつ問い直され始めています。

一方で、皆さまから寄せられたコメントから浮かび上がるのは、「テクノロジーを使うこと」自体がゴールではないという共通認識です。AIやデータの活用はあくまで手段であり、本質は医療現場や地域、患者にとって“何が変わるのか”を見据えた設計ができているかにあります。

2026年に向けて、製薬マーケティングに求められるのは、施策やチャネル単位の最適化を「目的」にするのではなく、医療制度、地域医療、医療機関の経営、そして人の役割まで含めた構造理解を前提に、最適化すべき打ち手を選び直す価値設計ではないでしょうか。その中で、デジタルやAIをどう組み込み、人にしかできない価値をどこに残すのか。その判断が、企業や個人の競争力を分けていく年になると考えます。

▼本記事とのタイアップ企画として、セミナーを開催予定です!ぜひご視聴ください。

製薬業界を動かした今年の変化と、2026年への備え:寄稿者による特別トークセッション
2025.12.24
製薬業界を動かした今年の変化と、2026年への備え:寄稿者による特別トークセッション