製薬企業でも使える!機密情報を入力しない生成AI活用術

製薬企業でも使える!機密情報を入力しない生成AI活用術

普段の生活や業務の中で、生成AIを目にする機会が増えてきました。我々の仕事のあり方そのものを大きく変える可能性を持つ生成AIですが、活用のニ極化が進んでいるのもまた事実かと思います。活用を躊躇する方のなかには、機密情報の漏洩を気にして、積極活用を控えている方も中にはいらっしゃるかもしれません。今回の記事では、生成AIを利用する際のリスクとして挙げられることの多い「機密情報」を入力せずに、生成AIを活用する具体的な方法について紹介したいと思います。

生成AIの活用が進む製薬企業の例

ここ1~2年で製薬企業でも生成AI活用が進んできました。生成AI自身に「生成AI導入に関する製薬企業のプレスリリースを整理して」とリクエストすると、いくつかの製薬企業の導入事例がヒットします。

回答:
住友ファーマ:https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20230602.html
住友ファーマのプレスリリースによると、2023年5月26日に生成AIを用いたチャットツールの全社運用を開始しました。
『住友ファーマ株式会社は、2023年5月26日に、当社において生成AIを用いたチャットツール(以下「本ツール」)の全社運用を開始しましたので、お知らせします。
本ツールは、OpenAI Inc.(以下「OpenAI社」)が提供する「ChatGPT」と同等の機能を持つ対話型のウェブツールです。OpenAI社が提供するAIエンジンを利用しますが、OpenAI社が情報を二次利用しない環境となっています。本ツールの利用対象者は、当社の全従業員です。』

小野薬品:https://www.ono-pharma.com/ja/news/20230606.html
小野薬品のプレスリリースでは、2023年6月6日に生成AIの利活用を開始したことが発表されています。
『小野薬品工業株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:相良 暁、以下「当社」)は、国内外のグループ会社を含む全社員を対象として生成AI(人工知能)が利用できる環境を導入し、その本格的な利活用を開始したことをお知らせします。』

また、中外製薬の公式HPには、【AIを活用した新薬創出】というタイトルのついたページがあり、デジタルを活用した革新的な新薬創出について、具体的な事例がいくつか紹介されています。興味のある方は以下リンクにアクセスしてみてください。
https://www.chugai-pharm.co.jp/profile/digital/ai_technology.html

上記のようにいくつかの製薬企業の生成AIの本格導入・活用のニュースが簡単に見つけることのできる時代に入ってきました。

公表されていない情報も含めると、すでに多くの製薬企業で生成AIの本格利用が進んできている状況にあると考えられます。

用途は多様で、資料の作成や要約、アイデアの壁打ち、問い合わせ対応などの日常業務での活用や、医薬品候補分子探索、薬物動態予測、自然言語処理を用いた論文検索など、色々なユースケースをネット上で見つけることができます。

二極化する生成AIの活用

一方で製薬業界内のメンバーと交流した中で聞いた情報では、社内の生成AI利用のレギュレーションが厳しく導入が進んでいないといった意見や、実際の業務ではほとんど使用しないといった声も聞こえてきます。会社によっては「機密情報を入力するリスクがあるから生成AIは業務では使わないように」と指示が出ている会社もあるということでした。

会社によっても、生成AIに対するスタンスは異なるようです。

個人的にはこれだけ便利で、活用の用途が広いツールを使わないのは、非常にもったいないと感じています。

画像も作れて、アイデアの壁打ちもできて、リサーチもできて、というように活用方法は多種多様です。

企業として避けたいのは情報漏洩です。そのため、個人使用の生成AIに自社の機密情報を入力するのは避けてほしいという事情もよく理解できます。
そこで今回は、主にリサーチ業務を中心に、機密情報の入力を避けた生成AI活用について紹介したいと思います。

ツールの選び方

活用方法の紹介の前に、まずはツールの選び方について少し触れたいと思います。ツールを選ぶときには、個人的には「気軽さ」は重要なポイントです。まずは無料で試してみて、有用であれば有料プランに申し込むという流れが良いと考えています。

以下、試しに「無料で使える生成AIってなに?」と生成AI のCopilotに尋ねてみました。

回答:
『無料で利用できる生成AIツールには、以下のようなものがあります:

文章生成AIツール

  1. ChatGPT: OpenAIが提供するチャットツールで、自然な会話が可能です。無料版でも質問に対する返答や会話ができます。
  2. Copilot: Microsoftが提供するツールで、入力内容に基づいてテキストを生成します。無料版でも画像生成が可能です。
  3. Catchy: 株式会社デジタルレシピが提供するライティングツールで、キャッチコピーや記事作成ができます。無料プランでもすべての生成ツールを利用可能です。
  4. Notion AI: Notionに組み込まれたAI機能で、文章の生成や議事録作成が可能です。無料版でも20回まで利用できます。
  5. ラクリン: 株式会社makuriが提供するブログの文章生成に強いツールで、無料プランでも利用可能です。


画像生成AIツール

  1. Stable Diffusion: Stability AIが提供するツールで、リアルな画像からアニメーション風の画像まで生成できます。無料で利用可能です。
  2. Canva AI: Canvaに搭載されたAI機能で、プロンプトに基づいて画像を生成します。無料版で月に50回まで利用可能です。
  3. Adobe Firefly: Adobeが提供する画像生成ツールで、無料で利用できます。


これらのツールを活用して、さまざまなコンテンツを効率的に作成してみてください1。』

このような回答が返ってきました。

私が好んで使用しているのは、Copilotになります。普段Microsoft Edgeを利用しているので、Edgeを立ち上げればすぐにCopilotも使える手軽さが気に入っている理由です。ご自身がよく使うブラウザやツールがあるのなら、それに連携している生成AIを選ぶのが一番手軽な方法ではないでしょうか。

機密情報を入力せずに生成AIを活用する具体的事例

ここからは、機密情報を入力しなくても生成AIを活用できる6種類の事例を紹介します。

<リサーチ業務における活用事例>
1.競合調査
2.論文検索
3.情報収集

<メール作成やアイデア抽出における活用事例>
4.医師へのアポイントメールの下書き作成
5.企画案出しの壁打ち
6.英語論文を読む際のサポート役

主に使用する生成AIはMicrosoftが提供するCopilotです。効率的な情報収集ならびに情報整理、またアイデア抽出について具体例を紹介することで、読者のみなさんの日々の業務に応用いただきたいと考えています。

活用事例①競合調査

リサーチ業務での生成AI活用では、まずは競合調査が挙げられます。

以下の記事は「JRCT(Japan Registry of Clinical Trials):臨床研究等提出・公開システム」や企業の決算資料を用いて、競合会社・競合品の情報を検索、整理する具体的な方法について紹介したものです。効率的な競合調査に一役買ってくれますので、ぜひ参考にしてみてください。

活用事例②論文検索

論文検索での活用方法は、以下の記事で解説しました。

論文検索に特化した生成AIである「Consensus」について紹介したものです。Consensusは、公開されている学術論文から、ユーザーの質問に応じて情報を抽出し、結果を要約・集計してくれるAI搭載の検索ツールです。利用は無料で、アカウントを作成すれば誰でも使用できます。

活用事例③情報収集

情報収集では、幅広く生成AIを活用できます。オープンになっている情報から収集するので、機密情報を入力せずに回答を得られます。
なにか知りたい情報があった時に、Googleに入力して調べるのではなく、生成AI(Copilot)に質問することでさまざまなソースから回答を作成してくれます。

プロンプト(AIへの指示):
あなたはメディカルアフェアーズの担当者です。製薬企業が実施しているPSP(Patinet Support Program)の具体的事例を5つ教えてください。

回答:
もちろんです。以下に、製薬企業が実施している具体的な患者サポートプログラム(PSP)の事例を5つご紹介します。

1.日本イーライリリー株式会社の「いつでもそばに」プログラム:
このプログラムは、患者が治療を継続しやすくするためのサポートを提供しています。具体的には、治療に関する情報提供や、治療の進捗を管理するためのツールを提供しています1

2.ノバルティスの「Gilenya Go Program」:
多発性硬化症の患者を対象としたプログラムで、治療の開始から継続までのサポートを行います。患者教育、治療のモニタリング、専門家によるサポートが含まれます2

3.ファイザーの「Pfizer RxPathways」:
このプログラムは、患者が必要な薬を入手しやすくするための支援を提供しています。経済的支援、保険のナビゲーション、薬の提供などが含まれます3

4.アストラゼネカの「AZ&Me Prescription Savings Program」:
経済的に困難な状況にある患者に対して、処方薬の費用を軽減するための支援を行います。特定の条件を満たす患者に対して、無料または低価格で薬を提供します4

5.メルクの「Merck Helps」:
このプログラムは、患者が必要な薬を入手できるようにするための支援を提供しています。経済的支援、薬の提供、患者教育などが含まれます5

これらのプログラムは、患者の治療継続を支援し、生活の質を向上させることを目的としています。どのプログラムも、患者のニーズに応じた多様なサポートを提供しています。

このような回答が返ってきました。効率的に探したい情報がソース付きで出力されるので、リサーチ業務の効率化に役立ちます。

活用事例④KOL向けアドバイザリーボード関連メールの作成

製薬企業のマーケティング部門では、KOLとのコミュニケーションが重要な業務の一つです。特にアドバイザリーボード会議の運営においては、参加依頼や事後フォローなど、重要なメール作成が発生します。AIを活用することで、効率的にメール文案を作成できます。

プロンプト(AIへの指示): あなたは製薬企業のマーケティング部門で働いています。先日開催したアドバイザリーボード会議に参加した医師に、御礼と次回の市場調査協力依頼のメールを送ります。メールの下書きを作成してください。

回答:
以下は、アドバイザリーボード会議参加の医師向けの御礼と市場調査協力依頼メールの下書きです。

件名:アドバイザリーボード会議の御礼と市場調査へのご協力のお願い

〇〇先生

平素より大変お世話になっております。株式会社〇〇マーケティング部の△△でございます。

先日は、弊社アドバイザリーボード会議にご参加いただき、誠にありがとうございました。先生から頂戴した貴重なご意見は、今後の製品戦略に大変参考になりました。

つきましては、新製品の市場性評価に関する調査を計画しており、先生に引き続きご協力をお願いしたく存じます。30分程度のウェブ会議形式での実施を予定しております。

以下の日程でご都合はいかがでしょうか。
* 〇月〇日(〇)〇〇時〜〇〇時
* 〇月〇日(〇)〇〇時〜〇〇時

ご参加可能な日時をご返信いただけますと幸いです。何卒よろしくお願い申し上げます。

敬具

△△株式会社 〇〇マーケティング部
電話:〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
メール:△△@〇〇.co.jp

このような下書きが作成されます。もちろんこの文面のままメールを送信することはないと思いますが、型があることでメール作成の時間短縮に繋がります。

活用事例⑤企画案出しの壁打ち

新たなアイデアを考える時のパートナーになってもらうAI活用方法です。さまざまなソースから参考になる情報をアウトプットしてくれます。役割や場面設定をしてあげることでより具体的な回答が返ってきます。

プロンプト(AIへの指示)1回目:
あなたは製薬企業に最近転職しました。新たに管理職として組織を率いることになりました。チームビルディングが行える企画を考えたいと思っています。何か良いアイデアはありますか?

回答:
新しい職場での管理職としてのスタート、おめでとうございます!チームビルディングは、チームの結束力を高め、コミュニケーションを円滑にするために非常に重要です。以下にいくつかのアイデアを提案します:

  1. 戦略シミュレーション:実際のビジネスシナリオを模擬し、チームで問題解決に取り組む活動です。リソース配分やリスク評価などを通じて、戦略的思考を鍛えることができます1
  2. オリエンテーリング:地図とコンパスを使って未知の地形をナビゲートする活動です。チームで協力してルートを計画し、チェックポイントを通過することで、ナビゲーションスキルとチームの協調性を高めます1
  3. エスケープルームチャレンジ:制限時間内にパズルを解き、手がかりを見つけて部屋から脱出するゲームです。問題解決能力やコミュニケーションスキルを向上させるのに役立ちます2
  4. 料理対決:チームをいくつかのグループに分け、指定された材料で料理を作る競争です。創造力を刺激し、楽しい雰囲気の中でチームワークを強化します1
  5. 信頼の落下(トラストフォール):目を閉じて後ろに倒れる参加者を、周りのチームメンバーが受け止める活動です。信頼関係を築き、チーム内のサポート感を高めます2


これらの活動を通じて、チームの結束力を高め、効果的なコミュニケーションを促進することができます。どのアイデアが一番興味を引きますか?また、他に特定のニーズや目標があれば教えてください。さらに具体的な提案を考えます!

もうすこし医薬品に特化した内容にできればと考えたので、以下のようなリクエストを入力しました。

プロンプト(AIへの指示)2回目:
製薬企業に特化したテーマにしたいのですが、なにか良い方法はありますか?

回答:
製薬企業に特化したテーマでチームビルディングを行うのは素晴らしいアイデアです!以下にいくつかの具体的な提案をします:

  1. 新薬開発シミュレーション:チームをいくつかのグループに分け、それぞれが新薬の開発プロジェクトを担当します。研究、臨床試験、規制承認などのプロセスを模擬し、最終的に市場に出すまでの計画を立てます。これにより、製薬業界の複雑さとチームワークの重要性を理解することができます。
  2. 医薬品クイズ大会:製薬業界に関する知識を競うクイズ大会を開催します。薬の成分、作用機序、歴史などに関する質問を用意し、チームで協力して答えを出します。楽しみながら知識を深めることができます。
  3. 患者シナリオワークショップ:実際の患者シナリオを基に、チームで最適な治療法を考えるワークショップを行います。患者の背景や症状を分析し、最適な治療計画を立てることで、実践的なスキルを磨くことができます。
  4. 製薬工場見学ツアー:実際の製薬工場を見学し、製造プロセスや品質管理の重要性を学びます。見学後にディスカッションを行い、学んだことを共有することで、チームの理解を深めます。
  5. 健康促進チャレンジ:チームで健康促進活動を行います。例えば、ウォーキングチャレンジや健康的な食事コンテストなどを企画し、健康意識を高めると同時にチームの結束力を強化します。


これらの活動を通じて、製薬企業ならではの専門知識やスキルを活かしながら、チームビルディングを行うことができます。どのアイデアが一番興味を引きますか?また、他に特定のニーズや目標があれば教えてください。さらに具体的な提案を考えます!

このようなアウトプットを出してくれました。なにかアイデアを考えたいときの壁打ち相手として、さまざまなヒントをくれるのも生成AIの面白いところです。

活用事例⑥英語論文を読む際のサポート役

生成AIは、論文の理解を深め、効率的に情報を抽出するツールとしても活用可能です。論文全体、または特定のセクションを生成AIに入力し、要約を生成してもらうことができます。複雑な内容を簡潔に把握でき、論文全体の構造を掴むのに役立ちます。

より正確な要約を得るためには、論文のタイトル、著者、出典などを合わせて入力すると良いでしょう。 

また、論文中に出てきた専門用語がわからない場合、生成AIに質問することで、その用語の定義や関連する情報を簡単に得られます。専門用語だけでなく、論文の文脈におけるその用語の意味を尋ねると、より深い理解につながります。

生成AIを上手に活用するためのプロンプトのコツ

ここまで製薬企業で実践できる「機密情報を入力しない」生成AIの具体的な活用事例をご紹介してきました。最後に生成AIを上手に活用するためのプロンプトのコツについてまとめます。

1.具体的に指示を出す
良くない例:「AI技術と創薬の記事を作成して」
良い例:「10代の若者向けに、最新のAI技術と創薬について分かりやすく説明する記事を300字で作成してください。語り口はカジュアルで、比喩を多用してください。」

2.役割を設定する
例:「あなたは経験豊富な製薬企業のマーケティング担当者です」
例:「あなたは製薬企業の疫学担当者です」

3.制約条件を設ける
例:「○○に該当する論文を10本出力して」
例:「○○に関して、500字以内でまとめてください」

4.反復と修正
反復: 複数のプロンプト(指示)を試して、最も良い結果が出るものを探しましょう。
修正: 生成された結果に対して、さらに具体的な指示を与えることで、より良い結果を得られます。

5.確認
時々誤った情報を出力することがあるので、必ず内容があっているかどうかを確認するようにしてください。Copilotはソース元を掲載してくれるので便利です。

身近な業務から生成AIを活用していく

生成AIは、上手に活用することで強力な業務サポートツールになります。また業務サポートツールという域を超えて、我々の仕事のやり方を大幅に変える可能性を秘めているツールであるとも感じています。

個人的な感覚ですが、生成AIについては、使える人と使わない人の二極化が今後ますます加速化していくと感じています。私自身もプロの方に比べると十分活用しているとは言えないレベルですが、業界外の人達のユースケースをネット検索したり、YouTube検索したりすることによって、情報を得るように努めています。

まだまだ勉強中の身でありますが、本記事の内容が皆さまの日々の業務に役立てば幸いです。運営しているブログでは、製薬企業で勤務する上で役に立つ情報やマインドセットについても発信しています。ぜひご覧ください。

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