2026年度診療報酬改定を読み解く|人手不足・コスト高騰時代の製品価値の伝え方

2026年度診療報酬改定を読み解く|人手不足・コスト高騰時代の製品価値の伝え方

日本の医療提供体制は今、歴史的な転換期を迎えています。2025年秋に成立した「医療法等の一部を改正する法律(改正医療法)」は、2040年頃を見据えた抜本的な構造改革を定めたものであり、これを受けて実施される「令和8年度診療報酬改定」は、その改革を具現化するための極めて重要なステップとなります。
本記事では、これら二つの重要な方針を理解し、製薬企業のプロマネがこれからどのような視点でマーケティングプランを構築すべきかを詳述します。

(公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会 認定登録 医業経営コンサルタント 高橋 洋明)

2025年秋 改正医療法が描く「2040年へのロードマップ」

まず理解すべきは、改正医療法が「2040年頃を見据えた医療提供体制を確保するため」の基盤であるという点です。政府は、高齢化に伴う医療ニーズの変化や人口減少を見据え、地域での良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の構築を目指しています。

この法改正の核心は、以下の3点に集約されます。

(1)地域医療構想の再定義
これまでの「病床数」中心の管理から、「入院・外来・在宅医療、介護との連携を含む将来の医療提供体制全体の構想」へと進化しました。さらに、医療機関が「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「急性期拠点機能」などを報告する「医療機関機能報告制度」が創設されます。

(2)医療DXの法的義務化
 政府は「令和12年(2030年)12月31日までに、電子カルテの普及率を約100%にする」という極めて高い目標を掲げました。電子カルテ情報共有サービスを通じた情報の共有は、もはや努力目標ではなく、政府の責務として「実現しなければならない」事項となっています。

(3)医師偏在の是正
都道府県知事が「重点的に医師を確保すべき区域」を定め、医師手当の支給や外来医師過多区域への新規開設制限(事前届出制など)を行う権限が強化されました。

プロマネの皆さまがここで押さえておきたいのは、「医療機関は今後、単独で存在するのではなく、地域全体の機能分担とデジタルネットワークの中に組み込まれる」という方向性です。

令和8年度診療報酬改定の基本認識と重点課題

改正医療法が定める構造改革を「点数によるインセンティブ」で加速させるのが、令和8年度診療報酬改定です。

今回の改定も、改正医療法といった国の考えに基づいて検討されました。具体的には、2040年頃を見据えるかたちで「全ての地域・世代の患者が適切に医療を受けることが可能で、かつ、医療関係者も持続可能な働き方を確保できる医療提供体制の構築」が掲げられています。

特に重点課題として挙げられているのが、物価や賃金、人手不足などの、多くの医療機関を取りまく環境の変化への対応です。

現在の医療機関は、以下の三重苦に直面しています。

  1. 物件費の高騰:医療材料費、食材料費、光熱水費、委託費等の上昇
  2. 人件費の上昇と人材確保:医療関係者の処遇改善(賃上げ)の必要性
  3. 人手不足:労働力減少の中での業務継続


これに対し、診療報酬では業務の効率化に資するICT、AI、IoT等の利活用の推進やタスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進を強力に評価する方針です。

「治す医療」から「治し、支える医療」へのシフト

プロマネが注目すべきもう一つの大きな潮流は、「治し、支える医療」の実現です。

改定方針では、患者の状態に応じた入院医療の評価に加え、以下の項目が具体的に示されています。

  • 在宅療養患者や介護施設入所者の緊急入院を受け入れる「後方支援機能」の評価
  • リハビリテーション・栄養管理・口腔管理を一体とした「高齢者の生活を支えるケア」の推進
  • 入退院支援の円滑化


これは、自社医薬品が「急性期の治療効果」だけでなく、「いかにスムーズに患者を在宅や介護の現場へ戻せるか(=後方連携への貢献)」という視点で評価される時代が来たことを意味しています。

プロマネに求められる「パラダイムシフト」

これまで多くのプロマネは、「自社医薬品が薬物療法において、いかに高い有効性(Efficacy)と安全性(Safety)を持っているか」をメインメッセージとしてきました。しかし、改正医療法と今回の診療報酬改定を踏まえると、そのメッセージだけでは、もはや医療現場の心には響きにくくなっています。

なぜなら、現場の医師や病院経営者は、臨床での治療成績以前に「人手が足りない」「経費が高騰して赤字」「DX対応に追われている」という切実な経営課題に直面しているからです。

したがって、プロマネは今後、マーケティングメッセージを以下のように進化させる必要があります。

1.「臨床的価値」から「経営的・オペレーショナル価値」へ

例えば、複数の薬剤を組み合わせた治療レジメンを提案する際、「A薬はB薬より奏効率が5%高い」という訴求よりも、「A薬を用いたレジメンは調製の手間が少なく、看護師や薬剤師の業務時間を1日あたり〇〇分削減できるため、人手不足の中での生産性の向上(業務改善)に直結する」というメッセージの方が、現在の病院経営層には遥かに強力なインパクトを与えます。これは基本方針にある「業務効率化・負担軽減等の業務改善による人材確保」に合致する提案だからです。

2. 「薬剤費」から「トータルコスト・生産性」へ

物件費が高騰し、赤字経営に苦しむ病院に対し、単に薬剤ごとの薬価を論じるのではなく、「自社医薬品の使用により入院期間を短縮でき、病院の回転率(病床利用の効率)を向上させることで、結果として病院の収益性を改善する」あるいは「投与回数の削減により、注射針やルート、テープなどの消耗品費を抑制できる」といった、病院経営のPL(損益計算書)に直接寄与するロジックを構築しなければなりません。

地域医療ニーズに合致したマーケティングプラン作成のポイント

最後に、プロマネが自社医薬品の提供価値を地域医療のニーズに合わせるための、具体的なマーケティングプラン作成のポイントをまとめます。

ここでは、都道府県ごとといった地域単位でのプランニングではなく、医療提供体制に着目したプランニングを解説します。地域ごとに医療提供体制が異なりますから、プロマネが全ての医療圏ごとにプランニングすることは非現実的です。

このプランの考え方や作り方を地域の営業所長に共有し、プロマネのマーケティングプランを地域ごとに実行してもらえる形を目指しましょう。

1. ターゲット病院の「機能報告」を分析する

改正医療法で新設される「医療機関機能報告制度」により、各病院が「急性期拠点」なのか「在宅医療等連携」なのかが明確になります。自社医薬品が、その病院が目指す機能(例:高齢者救急の積極的受け入れ)を、人手を増やさずにいかに実現できるかをプランの核に据えてください。

このことにより、病院の機能に応じてMRのターゲティングや訪問回数の目標設定といったエフォートの最適配分を見直す必要が出てくるかもしれません。

2. 医療DX環境への適合性を組み込む

「令和12年までの電子カルテ普及率100%」という政府目標を見据え、電子カルテ情報共有サービスや電子処方箋のフローの中で、いかに自社医薬品を地域のフォーミュラリに組み込むかが重要になります。

医療機関間の電子カルテの普及と情報共有は、自ずと地域フォーミュラリを形成することにつながります。このことをきっかけに、基幹病院の専門医の治療レジメンを参考にする開業医も増えるでしょう。その際、専門医の薬物療法に自社医薬品が含まれていなければ、その地域での自社医薬品の売上拡大は難しくなります。

3. 「地域完結型」の価値を定義する

地域医療構想が「外来・在宅・介護との連携」を含む全体構想になったことを踏まえ、病院内での治療完結ではなく、「退院後の介護施設での管理のしやすさ」や「訪問看護師との情報共有の容易さ」などを製品の付加価値として定義してください。

これは、患者の居場所がどこであっても一貫した治療レジメンで治療を継続できる体制を作る、ということでもあります。

患者が在宅医療に移行すると、医療機関での薬物療法が「金銭負担を軽減したい」といった患者の希望によって、特定の医薬品の変更あるいは中止に至ることが頻繁にあります。このようなことも、医薬品の売り上げに影響します。

製品価値の再定義が求められる時代へ

令和8年度診療報酬改定は、医療機関にとって「生存戦略としての効率化」を迫るものです。製薬企業のプロマネは、自社医薬品を単なる「治療の道具」としてではなく、「人手不足とコスト高騰に悩む医療現場の生産性を向上させ、病院経営を安定させるためのソリューション」として再定義しなければなりません。

「効果があるのは当たり前。その上で、私たちの製品は病院の働き方をどう変え、経営をどう助けるのか」。

この問いに答えるマーケティングメッセージこそが、2040年に向けた新たな医療提供体制の中で、医療関係者から真に求められるものとなります。


<参考文献>※URL最終閲覧日2026.03.02
1) 厚生労働省医政局, 2025.12, 医療法等の一部を改正する法律の成立について(報告), 第122回社会保障審議会医療部会 資料4
https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001606327.pdf
2) 厚生労働省, 2025.12, 令和8年度診療報酬改定の基本方針
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_66904.html
3) 厚生労働省保険局, 2025.12, 令和8年度診療報酬改定の基本方針の概要, 社会保障審議会医療部会
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001607287.pdf

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