アステラス製薬の転換期にブランド中心組織はどう機能するのか ―日本マーケットトップインタビュー&期初会議レポート

アステラス製薬株式会社では、患者軸を中心とした体制に移行し、コマーシャルとメディカルアフェアーズでは、ブランドを中心に据えた体制への変革が進んでいます。数年後に主力製品の特許切れを控え、ポートフォリオ転換期に入る同社では、5年ぶりに策定された経営計画2026への期待と今後の変革を共有するため、2026年4月初旬、日本マーケットの期初会議が行われました。
Medinewでは、日本マーケット約1,200名が一堂に会したこの会議の模様をレポートするとともに、日本コマーシャルヘッド 河野順氏、メディカルアフェアーズ(以下、MA)ジャパンヘッド 堀聡志氏の両名にインタビューしました。
機能別組織からブランド中心の組織へ。その転換により、現場では何が変わりつつあるのでしょうか。ポートフォリオ転換期を乗り越えるための同社の戦略に迫ります。
転換期をどう乗り越えるか―1,200名が期初会議で共有
期初会議の初日、会場には、アステラス製薬日本マーケットの社員(コマーシャル、MAなど)約1,200名が集結しました。この会議の中で、代表取締役社長CEOの岡村直樹氏はアステラスのこれまでの発展の軌跡と現在地、そして経営計画2026に込めた期待を語りました。
代表取締役社長CEO「組織変革の浸透を経営計画2026へつなげる」
同社は成長を促進するために変革を進めてきました。この変革の背景には、最上位の経営軸を「地域軸」から「機能軸」へ、そして最終的には「患者軸」へと進化させてきたアステラスのこれまでの変革の積み重ねがあると、岡村氏は話します。
2005年にアステラス製薬が誕生した頃は、米国・欧州・日本といった地域のトップがそれぞれに権限を持ち、各国の特性に合わせる地域を主軸とした組織でした。その後、グローバル全体でブランドやマーケティングといった機能を軸とした組織へ移行しました。各機能に必要なケイパビリティが高まり、シナジーが生まれるようになった一方で、バリューチェーンが縦割りになる弊害が生じました。
そこで、2025年に患者さんを中心に考える「患者軸」の下で、医薬品の研究開発から上市、ライフサイクルマネジメントまでを一気通貫で、シンプルに推進する体制に変えることにし、VALUE Creation(研究開発)とVALUE Delivery(コマーシャル& メディカルアフェアーズ)、VALUE Enablement(コーポレート・製造)を新設しました。 また、2024年から、患者さんにとっての「価値」最大化を起点としたマインドセットと働き方への変革として、 ブランド中心の考え方である「Brands@Center(ブランズアットザセンター)」を打ち出しています。

岡村氏は、こうしたBrands@Centerが浸透し、機能を超えた協働成果もあって、2025年度の同社実績が好調だったことを強調しました。現在の主力ブランドであるイクスタンジの独占販売期間満了を前に、重点戦略製品(ブランド)が大きく成長。2025年度決算では重点戦略ブランドで前年比50%成長を達成したといいます。
そのうえで岡村氏は、今後の重要課題として「Elevate the Peak - Flatten the Dip(山を高く、谷を平らに)」を掲げました。重点戦略ブランドの売上の最大化に注力して、イクスタンジの独占販売期間満了後の減収の影響を軽減させ、その後の成長へとつなげることを示した目標です。その実現のためには、2026年度に5つの重点戦略ブランドの成長のモメンタムを継続し、日本でも主力ブランドの売上を最大化することが重要です。機能横断チームで自律的に進んでいけるように、この期初会議での学びを有効に使ってほしいとして、話を結びました。

日本コマーシャルヘッド「真の目標はチャンピオンで“あり続ける”こと」
続いて、日本コマーシャルヘッドの河野氏が登壇し、日本コマーシャルにおける2025年度までの進捗と、2026年度の目標を語りました。
河野氏は、2024年度に掲げた「顧客からの信頼でチャンピオンを目指す」という目標に、着実に近づいているという手応えを示しました。
- Brands@Center:機能別ではなくブランド別に組まれたブランドチームが主体となるオペレーションモデル。2年前の営業組織再編、1年前のMAコマーシャル統合を経て、ブランドチームの連携がさらに密になり、顧客対応の迅速化などにより顧客からの評価が向上
- オムニチャネルの高度化:ブランドごとに機能拡充を進めており、5Rコミュニケーション(最適な顧客・タイミング・メッセージ・チャネル・頻度)」を精緻化
- 流通改革:特約店との新たな戦略的パートナーシップを構築
こうした変化は社員一人ひとりにも及んでおり、目的意識を持って仕事に取り組むメンバーほど自己成長を遂げ、達成感やモチベーションも高まっているというのが河野氏の見立てです。
そのうえで河野氏が強調したのは、「チャンピオンに“なる”ことではなく、“あり続ける”こと」へのこだわりでした。顧客からの信頼は、一度獲得して終わりではなく、日々積み上げて守り続けていくもの。だからこそ、日本マーケットもまた、変革の継続でこそ強くなります。さらに、人材の力を競争優位性の源泉に変えていくためには、明確な目的意識に加え、コミュニケーション力が必要です。特にリーダーやマネージャー層には、一方的に指示を“伝える”のではなく、その背景や意図まで相手に“伝わる”コミュニケーションへと転換し、メンバーの自律的な行動を促していく方針を明らかにしました。
河野氏は、「一人ひとりの成長が、顧客から信頼され続ける組織をつくり、それが競争優位性の源泉にもつながる」と述べ、社員と組織双方の進化に期待を寄せました。
MAジャパンヘッド「“顧客のために”から“顧客と共に患者さんのために”へ」
次に登壇したのは、MAジャパンヘッドの堀氏です。2025年11月にアステラス製薬に参画した堀氏は、同社について「患者さんに価値を届けたいという強い思いがあり、科学的・技術的な専門性も高い」と評価したうえで、今後の日本MAの成長に重要な3つのポイントを挙げました。
1点目は進化です。Brands@Centerのもとで、ブランドチームとMAとの関係性をさらに強化するため、以下のような最適化を図り、社内外でのMAの存在感を高めていきます。
- ブランドチームのブランドヘッド直下にブランドメディカルリードを新設
- MAが提供する価値のナラティブ(ストーリー)を策定
- MSLによる提供価値を最大化するためのトレーニング
2点目はインパクトです。堀氏は、MAの成果は活動量ではなく、患者さんへのインパクトとアウトカムへの貢献で測るべきだと考えます。こうしたマインドセットの転換により、“顧客のために”から“顧客と共に患者さんのために”へと意識が変わり、医療関係者と科学的なパートナーシップを築けるようになります。
そして3点目は人です。「自分はこの会社で何ができるのか」「今日の仕事が未来の成長にどうつながるのか」を主体的に考え続ける。こうした自問自答が個人を成長させ、組織を強くすると堀氏は話しました。
この3点がそろえば、「サステナブルなチャンピオン文化が育つ」と堀氏。これらの点が全て経営計画2026につながるとして、「顧客に最も信頼される会社であり続ける。その未来に向けて、共に歩んでいきましょう」と呼びかけました。
パイプラインの理解を深め、未来への期待感を共有
さらに今年度の期初会議では、リーダーシップチームとの交流セッションや、研究開発戦略・パイプラインの理解促進プログラムも設けられました。
河野氏は、同社の研究開発戦略で採用されている「フォーカスエリアアプローチ」を改めて説明しました。同社では、「疾患」「バイオロジー」「モダリティ/テクノロジー」を掛け合わせて、「がん免疫」「遺伝子治療」「再生と視力の維持・回復」「標的タンパク質分解誘導」の4つの重点領域に注力しています。

その上で、これら重点領域の研究開発のリーダーも登壇し、ブランドポートフォリオの変化や各パイプラインの開発進捗が詳細に紹介されました。各科の医療関係者との関係値を高めるアセットがあること、海外のみならず日本発での医薬品の開発も進んでいることが強調され、「ポートフォリオ転換期の先を見据えた強力なパイプラインが揃っており、今後に期待してほしい」と力強く締めくくられました。
日本マーケットトップインタビュー:2026年度の変革
日本マーケットの組織と社員に向けて今後への期待を示した、日本コマーシャルヘッドの河野氏とMAジャパンヘッドの堀氏。
後日改めて、期初会議の狙いとブランド中心組織への転換による手応え、今後の展望について伺いました。
顧客から最も信頼される組織づくり
―期初会議では、2026年度の目標の一つとして、「Elevate the Peak - Flatten the Dip(山を高く、谷を平らに)」が共有されました。このメッセージには、どのような課題意識があったのでしょうか。また、それにどのように対応していこうと考えていますか。
河野:アステラス製薬で最も大きな売上規模を持つイクスタンジが、世界各地で特許切れを迎えていきます。その転換期を乗り越えるため、重点戦略ブランドの売上の最大化に注力して、イクスタンジの独占販売期間満了後の減収の影響を軽減させ、その後の成長へとつなげること、さらにオペレーションの効率化によって利益率も高めていく。そのような思いを、この目標に込めています。
その実現に向けて私たちがやるべきことは、やはり顧客から最も信頼される組織をつくり、ブランド価値を最大化していくことに尽きます。その意味でも、ブランドチームを中核に据え、全社員が一体となって患者さんへの価値提供に向き合える体制を整えることが大切ですし、一人ひとりが主体的に目標を持って動ける人材を育てていくことも重要だと考えています。
堀:加えて言うと、上市を見据えて今まさに開発が進んでいるパイプラインも含めて、革新的な医薬品をできるだけ多くの患者さんに届けていくことも、私たちが責任を持って果たさなければならない義務だと考えています。
―今回の期初会議では、パイプラインについてかなり詳しく進捗が紹介されていたのが印象的でした。なぜ、このようなプログラム構成にされたのですか。
堀:パイプラインに対する期待感を、社内でもっと共有したかったのです。オンコロジー領域だけでなく、他のスペシャリティ領域でもさまざまな医薬品の開発が進んでいますし、中には独自技術により、アンメットメディカルニーズに応えられる可能性が見えてきたものもあります。そうした“ワクワク感”を、しっかりと伝えたいと思いました。
また、「今日と明日がつながっている」ことを意識してもらう狙いもありました。パイプラインとは、今の取り組みが将来どんな価値につながるのかを時間軸で見せてくれるものです。逆に言えば、明日価値を届けるためには、今日しっかり取り組む必要がある。そう伝えたかったのです。
ブランド中心組織がもたらしたマインド変化と機動性向上
―2024年後半にBrands@Centerを打ち出し、2025年4月にはMA・コマーシャルを統合して、ブランド中心の組織と働き方への転換を進めてきました。この1年で、具体的にどのような変化がありましたか。
河野:最大の取り組みは、やはりさらなるヒエラルキー解消とブランドチームへの権限委譲ですね。
まず、営業組織で典型的なマーケティングといった機能軸での責任者のレイヤーを廃止し、コマーシャルヘッド・MAヘッドの直下にブランドヘッドがいるという、フラットな体制にしました。従来はメンバーそれぞれに上司がいて、目標や予算を管理していましたが、それを変更してブランドチームが目標と予算を持つようにし、ブランドチームとメンバーが直接関わる場面を増やしてきたのです。
結果的に、それが一人ひとりのマインドセットの変化につながりました。メンバーはブランドチームから方針や重点事項、キャンペーンを共有される中で、上司ではなく、ブランド価値を見据えて主体的に動けるようになってきました。上司も役割の変化を認識し、指示を出すというよりも、メンバーのケイパビリティを高めるサポート役に移りつつあります。
ブランドチームを中心としたスムーズな情報共有により、機動性も上がりました。例えば、MAやマーケティングのメンバーを通じて顧客ニーズや他社の動きを捉えたら、すぐに対策を考えて実行に移すことができます。意思決定も含め、事業スピードは確実に上がったと感じています。
堀:MAにとって一番大きいのは、やはりコマーシャルとの共同リード体制ですね。特に今年度からは、ブランドヘッドの直下にブランドメディカルリードを置いたことで、MAはコマーシャルとより対等な立場で、ブランドに対する発言力と責任を持つようになります。この変化は、特定の疾患領域を「狭く深く」極めてきたMAのメンバーにとって、ビジネスやコマーシャルの戦略まで含めた、より広い視野を持つ機会にもなっています。
また、フィールドメディカルナラティブの導入も大きな転機です。これはMSLをはじめとするフィールドメディカルチームにとって、どのような行動がベストプラクティスなのかを示す「プレイブック(指南書)」です。自社ブランドのデータを一方的に伝えるのでなく、より広い領域も含めた双方向かつ深い科学的対話を実現する土台となり、顧客ニーズへの対応力、アジリティ(敏捷性)を高めます。
さらに、MAの存在意義を明示するバリューナラティブ(ストーリー)も策定しました。これはMAのメンバー自身に役割や責任の変化を理解してもらうためのものですが、同時に社内外に向けてMAの貢献を明示するものでもあります。
―MAの仕事への向き合い方そのものが大きく変わることになりますが、それに対し、メンバーの抵抗感はなかったのでしょうか。
堀:意外かもしれませんが、特にありませんでした。もちろん、これまで積み上げてきた専門性を否定せず、それを土台にして新たなビジネス的視点を加えていくという説明をしてきたことも要因の一つでしょう。ただ、何より大きかったのは、「患者さんへのインパクト」が既に共通言語になっていたことだと考えます。ブランド価値を高めることで患者さんへのアウトカムを改善していくという目標がMAに共有されていたからこそ、変化を自然に受け止められたのです。
ポートフォリオ転換期に問われる変革の継続
河野:ブランド中心の組織文化が根付き始めたからこそ、これからは、成果をどれだけ出せているかを厳しく見ていく時期になると考えています。ブランドごとのKPIを確実に達成することはもちろん、状況によってはより上位の目標を視野に入れ、インパクトを最大化していきます。
そのためにも、ブランドチームの運営体制はさらに改善する必要があります。権限を委譲したものの、チーム内での情報共有にとどまり機動的な意思決定まで踏み込めていない場面もまだ存在しています。まずは、リーダーシップトレーニングの実施や国内外の取り組みの共有を通じて、ブランドヘッドやブランドリードのリーダーシップを高めていく。そのうえで各メンバーに役割と責任を委ね、日常的に細かく情報共有を行うのではなく、必要な場面でチームが機動的に連携できるような状態にしていきたいと考えています。
堀:仰る通り、より厳密に成果を追求する段階に入っていると考えます。特にMAでは行動の総量で評価するのではなく、「患者さんに最もインパクトをもたらす活動」を見極め、それをきちんと測れるKPIを設定することが大切だと考えています。
また、人材育成も引き続き重要なテーマですね。共同リードのケイパビリティやリーダーシップを高めることに加え、全社員がそれぞれの立場でブランドにどう貢献しているのかを互いに理解し合うことが、今後ますます必要になってくるはずです。
転換期に求められる人材とは―ブランドを超えて活かせる強みを
―組織変革によりポートフォリオ転換期を乗り越えていこうとする取り組みを伺いました。最後に、Medinewの読者に向けて、こうした取り組みから得た示唆をメッセージとしてご教示ください。
堀:ポートフォリオ転換期というのは、もちろん難しい時期ではあるのですが、同時にとてもエキサイティングな時期でもあると思います。これまで有効な治療が見つかっていなかった領域の患者さんに、革新的な医薬品を届けられるチャンスでもあるからです。私自身、その未来には大きな期待を持っています。
河野:大切なのは、ポートフォリオが変わっても活きる強みを磨くことだと考えます。例えば、情報提供型ではなく対話型のMRは、責任領域やブランドが変わっても活躍できると思いますし、ブランド単位で組織を運営していれば、それぞれのブランド運営で得た知識や経験を新たなブランドの立ち上げに活かすことができます。オウンドメディアやオンラインMRといったオムニチャネルの取り組みも、新しい領域やブランドに展開していけるはずです。
そのうえでやはり欠かせないのは、変革を継続できる組織文化をつくること。製品の特許切れは、業界共通の避けられない宿命ですが、むしろ先回りして患者さんへの価値を創出し続けられる文化に変えていくことができれば、それ自体を強みにできると考えています。









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