#7 PSP、医師はどう見てる?|Dr.心拍の「製薬本社にちょっと言いたい」

#7 PSP、医師はどう見てる?|Dr.心拍の「製薬本社にちょっと言いたい」

こんにちは、勤務医として臨床に携わりながら、専門的知見を生かしてさまざまなヘルスケア企業とお仕事をしているDr.心拍と申します。普段医療メディアやSNSで発信をしております。臨床医が本音で語る連載シリーズとして、製薬企業の情報提供や、医療現場との関係性について感じていることをお話しします。

前回は医師の「忙しい」の裏に潜む本音についてお話しました。

今回は、近年製薬企業の方が取り組まれているPSP(Patient Support Program)について、医師目線での所感を本音でお話しします。

まずはじめにお伝えしたいのですが、医師にPSPについて聞いても、大概の医師からは「PSPって何?」という反応が返ってくると思います。恥ずかしながら私も1年前くらいに初めて知りました。それも製薬企業本社の方とお話しする機会があり、たまたまその単語を聞いて知ったという感じです。

以前私のメディアでも肺癌免疫療法治療薬に関するPSPを取り上げたり、炎症性腸疾患に関連したPSPについて消化器専門医の先生を取材した記事を掲載したりしました。

PSP自体は患者さんの治療継続に必要な情報提供や治療中の副作用管理など、役立つ部分もあると思います。しかしながら、実際にその運用を誰が管理するのかという視点で見ると導入が困難だと感じます。アプリでアラートが出た場合に、医療機関側の誰がそれを確認して患者さんに連絡を取り、場合によって受診を促すのかなどが必要となります。それらのフローにより業務が増えるのにもかかわらずその業務に診療報酬はつかないのです。

ただでさえ診療報酬改定で医療機関の経営が厳しいという状況下で、業務負担がさらに増えることは我々にとって歓迎できることではありません。もちろん患者さんにとっては非常にサポーティブになるとは思います。しかし残念なことに、そういった精神論だけでは医療は成り立たないのです。

#4 治療方針の決定要因は患者さんの希望だけではないのコラムにおいて、「MRを含む製薬企業の方は、ペイシェントジャーニーという用語で一見患者一人ひとりが抱える背景を重要視しているように聞こえます。しかしながら、我々医師はそのような用語が普及する前からずっとそういうことを考えながら診療しています。」とお伝えしました。

この言葉の背景には、製薬企業の方に医療現場をもっと知ってほしいという想いがあります。専門用語のように取ってつけたワードでなんとなくわかったような気になるのではなく、現場を知る必要があると思います。

製薬企業の方は、なかなか普段医療現場を見る機会はないと思いますが、場合によっては医療現場を学ぶ研修などがあると良いのかもしれませんね。もっと製薬企業の方には医療現場に近い立ち位置を目指していただきたいと思っています。ぜひ一緒に良い医療を提供していただければと思います。

話を戻しますが、現状のPSPについては課題が多く、まだまだ普及は難しいと考えています。保険診療の枠組みの中でいかに良い医療を提供し、それが医療関係者にとっても現実的な業務フローとなるようにしていくか、製薬企業側からもサポートいただければ変わってくるかもしれません。

さて、今回はPSPについて医師の本音をお話しました。医療の現場はまだまだイメージがわきにくいと思います。ぜひお声掛けいただければ製薬企業の方へ勉強会なども行っておりますのでお気軽にお問い合わせください。

【編集後記】
今回は医師の視点からみたPSPについて、Dr.心拍氏に所感を伺いました。PSPは治療継続率向上のみならず、医療関係者-患者-製薬企業の三者間の関係性強化やブランド認知度向上なども見据えて多くの製薬企業で提供されるようになってきていますが、まだ医療現場においてPSPの概念は十分に浸透していないようです。患者への説明用資材を提供するだけでなく「PSPによって患者をどうサポートできるか」といったPSPの意義を説明し、ご理解いただければ導入もよりスムーズになるのではないでしょうか。

また、患者さんのためという想いは共通していても、医療現場の実情を十分に理解せずにサービスを設計してしまっては、本来の目的を果たすことはできません。Dr.心拍氏の「医療現場をもっと知ってほしい」という指摘を真摯に受け止め、現場の医療関係者とのコミュニケーションを深めながら、医療現場に自然に溶け込むPSPの在り方を模索していく必要がありそうです。医療関係者、患者、製薬企業すべてにとって価値のあるプログラム実現に向けて、まずは医療関係者の想いや業務環境に目を向けることが効果的なPSP設計の第一歩となりそうです。

(Medinew編集部)