【書評】『ザ・マーケティング・イシュー』から考えるAI時代のマーケター生存戦略|編集部が選ぶ!製薬マーケティングに効く一冊 #03

生成AI登場以降、加速度的に変化が進むマーケティング業界。製薬マーケターとして活躍を続けていくには、その現在地把握と未来予測のための情報のキャッチアップが欠かせません。
日本のマーケティング研究・実務における主要な論点とトレンドを整理した最新ベストセラー『ザ・マーケティング・イシュー 10年後も必要とされる日本企業の課題と解決策』では、日本のマーケティング業界を代表する専門家11人が、組織・コミュニケーション・顧客分析・BtoBといった観点から課題と解決策を提示しています。
本記事ではその内容をもとに、Medinew編集部が「製薬マーケティングに効く」視点でマーケターの生存戦略を読み解きます。
今回の一冊

編著者について
編著者の田中洋氏は、日本のブランディング研究の第一人者で、日本マーケティング学会会長や日本消費者行動研究学会会長を歴任してきました。同氏が編纂した本書は、コンサルティングファーム代表、事業会社CMO、マーケティング・リサーチの専門家など、各分野で活躍するマーケティング専門家11人が各章を分担執筆しています。
日本企業の「マーケティング・イシュー」とは
本書では、近年のデジタルマーケティングや生成AIの急速な発展を視野に入れ、10年後も顧客から必要とされる企業・ブランドとして生き残るための道筋を示しています。
4部構成・全11章にわたり以下のテーマが扱われています。
- 第Ⅰ部:日本企業の総合的なマーケティング課題(CMOの必要性/ブランド成長メカニズム/AI時代に求められる人材)
- 第II部:メディアとコミュニケーションの課題
- 第Ⅲ部:顧客分析の課題(世代間ギャップ/AI時代のデータ解釈/マーケティング・リサーチの構造的課題など)
- 第Ⅳ部:BtoBとグローバルの課題
本書が提示する「マーケティング・イシュー」とは、日本企業に共通する構造的な課題です。個別の施策ではなく、「意思決定の前提」「組織のあり方」「データとの向き合い方」といった根本的な問題を指摘します。
生成AIの普及により、リサーチ分析やコンテンツ制作といった「作業」のハードルが下がる一方で、こうした根本的な課題はむしろ顕在化し、競争力の源泉は「どう読み解き、意思決定するか」へと移行しつつあります。そうした中でマーケターが卓越性を発揮するには、例えば、次のような転換が求められるでしょう。
転換①:直感や納得からエビデンスへ、「戦略ごっこ」からの脱却
エビデンスベースドマーケティング(EBM)の名著『戦略ごっこ』(2023年発行)を執筆した芹澤連氏は、本書の第2章で、改めてEBMの要諦を解説。AI時代に求められるアップデートを説いています。
これまでマーケティングの現場では、理論に納得感さえあれば、それが実証されている事実でなくても受け入れられがちでした。あるフレームワークが、「大手企業での成功事例がある」「著名なビジネス書に書かれている」といった理由だけで、正しいと認識されるような状態です。しかし、そうした思考停止は「戦略ごっこ」の温床であり、それを乗り越えてEBMへの転換が必要です。そのためには、マーケティングの経験的一般則を学ぶことが推奨されます。
例えば、その一つがダブルジョパティの法則(ブランドの浸透率とロイヤルティは相関する)です。こうした一般則を学ぶことで、例えば以下のような事実が分かります。
- マーケティングで顧客の離反を止められるわけではない
- ターゲットを絞り込めばROIが向上するわけではない
- STPは思考のフレームとしては役立つが、事実ではない(ただし、ローンチ前後に限れば役立つ可能性もある)
- ターゲティング×第一想起は強い指標ではない(特定の状況・目的での助成想起、すなわちカテゴリーエンドポイントを増やすことが重要である)
製薬マーケティングでは、一般消費財のマスマーケティングとは異なる傾向が認められる場合もありますが、その差異も含めて、施策がエビデンスで裏付けられているかを常に意識することが重要です。
転換②:活躍マーケターのキャリアは「高度な専門性」から「M字型人材」へ
情報収集や広告出稿、定型的分析といった業務(作業)は急速にAIへと代替され始めています。かつて戦略コンサルタントが数週間を制作に費やしていたような精緻なマーケティングレポートも、GeminiやNotebookLMといったAIツールにかかれば瞬時に生成できます。
こうした時代にあって、マーケターが生き残るために重要なのが、本書が提示する「M字型」人材を目指すことです。
長らく、1つの深い専門領域と、幅広い周辺領域の知識を兼ね備える「T字型」が理想のキャリアだとされていました。しかし、周辺領域の細分化・高度化による習熟コスト上昇に伴いその難度はますます上昇しており、「T字型」を目指そうとしても、専門領域に特化した「I字型」に留まってしまう可能性は低くありません。
そこで、AI時代には、自らの専門性を軸に、以下を兼ね備えた「M字型」の専門性を目指すことが重要です。
- 周辺の多領域(Multi)を「60点」の精度で理解し
- AIを媒介(Medium)として活用して実務基盤を構築し
- 融合(Merge)することができる
製薬業界では部門分断によるサイロ化が長らく強調されており、こうした視点は特に重要となるでしょう。
転換③:データは「読み解く時間を持つ」ことがカギに
多くの製薬企業が、SFAやCRMにデータを蓄積・保有するようになっています。一方で、それを顧客理解や意思決定に十全に活かしきれていないケースも少なくありません。
AIは需要予測や施策運用を高速で自律的に行えるようになってきていますが、その結果として動いた感情や価値観を語るのは、現状では人の役目だと本書は指摘します。データを集めるだけでは意味がなく、解釈と統合、熟成のプロセスを経て初めて価値になるということです。
例えば、以下のような工夫を心がけると、データを解釈する視点を持ち続けるための一助になります。
- 数値だけでなく、現場のできごとや顧客の声を一緒に時間軸に並べてみる
- KPIの確認時は、必ず相反する数値を並べてみる(例:CTRに対する滞在時間など)
- KPIを語る前に、提供した製品が顧客にもたらした意味を語る
また、営業活動の属人化、それに伴う顧客データや営業活動データの未整備も、マーケティングの成果を阻害する要因です。MAやSFA、CRMを技術的・構造的にスムーズに連携させ、さらに商談の音声データなどの非構造化データも蓄積してAI学習に使えるようにできるかが分かれ目になります。
データを組織の情報資産として蓄積し、AI活用できる状態(AI-Ready)にすることが重要です。AIは、その前提となるデータが整って初めて機能します。
次の10年を生き残るマーケターへ
本書が提示する最新知見は、マーケティングの戦術・業務レベルでのアップデートに留まらず、意思決定の前提から見直しを迫ります。
直感ではなくエビデンスを重視すること、専門性のみを極めるのではなくAI活用で他領域にも「60点」で携われるようになること、そしてデータ保有からデータ活用へと視点を深めること。これらの転換を進められるかどうかが、AI時代における製薬マーケターの活躍を左右するといえるでしょう。
個々に追いかけようとすると、情報の海におぼれそうになるような難解なマーケティングの最新トピックスを、分かりやすく網羅的に学ぶことのできる一冊でした。
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