製薬ビジネスで広がるオープンイノベーション事例-単独では解けない医療課題を乗り越える

医療を取り巻く環境が変化する中、製薬企業には治療薬の提供のみならず、医療や社会課題の解決に広く主体的に関与する役割が期待されるようになってきました。こうした中で、製薬企業がハブ(Hub)となり、業界の枠を超えた企業や医療機関、官民学を結びつけることで、疾患啓発や患者支援のあり方に新たな価値が生まれています。
本記事では、国内の事例をもとに、自社の施策や接点のあり方を見直すうえでのヒントを探ります。
製薬企業が主体となったオープンイノベーションが広がる背景
製薬企業におけるオープンイノベーションは、創薬やデジタルヘルス、医療インフラの整備など、さまざまな領域で進められています。その背景には、医療環境の変化、医療費抑制政策や研究開発費の高騰を受けた製薬企業の収益性低下、新薬開発の難易度上昇などにより、医薬品を創出して販売するという単一のビジネスモデルが限界を迎えつつあることなどが挙げられるでしょう。
また、少子高齢化や医療費の増大に伴い、社会から製薬企業に求められる役割は疾患の治療のみにとどまらず、未病・予防から予後のケアまでを含めたトータルヘルスケアへと拡大しています。
こうした構造的な変化を受けて、デジタル技術の進展により異業種のヘルスケア参入も相次ぐなか、近年では患者や生活者との接点や価値提供のあり方に関わる領域において変化が起きています。製薬企業が持つ疾患への知見と、異業種の企業や医療機関、自治体などが持つデータやテクノロジーを掛け合わせながら、個社では解決できない複雑な課題に取り組む動きが広がっているのです。
以下では、ビジネスやマーケティングの観点から、生活者との接点や患者支援での価値提供における国内事例を取り上げます。
アストラゼネカ「i2.JP」-5年で560の組織が集うヘルスケア共創ネットワークに
アストラゼネカが2020年11月に立ち上げたi2.JP(Innovation Infusion Japan)は、製薬企業が関与するオープンイノベーションの代表的な事例の一つです。他製薬企業のみならず、スタートアップ、医療関係者、自治体、アカデミアなどが参画し、患者中心の実現を目指し連携が進められています1, 2, 3)。
7社・団体でのスタートから5年を経て、参画組織は560以上に拡大。年間130件超のビジネスマッチングを実現し、実際に多くのプロジェクト創出につながっています。
例えば、自治体やデータ関連企業と協業し、健診データの活用により慢性腎臓病(CKD)の疾患啓発を実施した事例や、通信会社のデータプラットフォームを活用し慢性閉塞性肺疾患(COPD)の疾患啓発を実施した事例、そのほか服薬アドヒアランスについての産官学での課題深堀り型共創ワークショップなど、多くのアプローチが試みられてきました。
患者の受診前後や日常生活も含めた課題に対し、異業種のデータやチャネルを組み合わせながらアプローチが進められており、単一の企業では難しい領域にも、複数のパートナーの連携によって取り組みが広がっています。
塩野義製薬・アステラス製薬・NTTデータ-DTx流通基盤の共同構築
塩野義製薬・アステラス製薬・NTTデータの3社は、デジタルセラピューティクス(DTx)の普及に向けた流通プラットフォームの構築を進めています4)。DTxは新たな治療手段として期待される一方で、流通や運用に関する課題が多く、個社単独での対応が難しい領域です。
今回の取り組みでは、製薬企業とIT企業がそれぞれの強みを持ち寄り、処方から利用までのプロセスを支える基盤づくりが検討されています。医療機関側の運用負荷や流通の標準化といった課題に対し、複数企業で対応することで解決を図ろうとする動きといえるでしょう。
新たな治療手段の普及においては、個社だけでは解決しきれない領域が存在する場合もあります。こうした領域に対しては、他企業と連携しながら解決を図る進め方も有効です。自社の力で完結する前提で実現可否を考えるのではなく、どの部分を外部と分担すれば実現可能か、という視点で捉えることも一つの考え方といえます。
エーザイ-保険・食品・自治体と連携した認知症支援の取り組み
エーザイは、認知症をとりまく社会課題の解決に向けて、発症前から治療後までを一体で捉えソリューションを提供する認知症エコシステムの実装に取り組んでいます5, 6)。保険会社や自治体、食品関連企業などとの連携を進め、認知機能チェックツールの提供や保険商品の共同開発、生活支援サービスなど、医療機関の外側にある接点も含めた患者支援の取り組みが広がっています。
この取り組みは、ペイシェントジャーニーにおける治療フェーズにとどまらず、発症前の気づきからその後の生活に至るまでの一連の流れを視野に入れたものです。単一の製品・サービスでは対応しきれない各領域において、異なる企業やサービスと連携し補完することで、患者への価値提供が可能となっています。
患者をとりまく課題に対し、個別の施策を積み上げるのではなく、全体を俯瞰したうえでどの段階にどのような支援を配置するのかを整理し、適宜外部のリソースを活用し実行可能かどうかを検討していく。全体の中での役割や順序を意識して設計していく視点が重要であることが伺える事例です。
治療の枠を超え、医療・社会課題の解決を牽引するハブへ
これらの事例で見たように、製薬企業が主導するオープンイノベーションは、疾患啓発や患者支援、医療インフラの整備など多様な領域へと広がっています。単独では解けない複雑な医療課題に対し、製薬企業が持つ疾患への深い知見やエビデンス構築力と、異業種が持つテクノロジー、データ、顧客チャネルを掛け合わせることで、新たな価値が生まれているのです。
自社の強みはどこにあり、リソースの足りないどの部分を外部パートナーと補完し合うべきか。業界の垣根を越えて設計・実行のハブとなり、患者中心のエコシステムをいかに構築していくかが、これからの製薬企業のビジネスにおいて重要な鍵となるはずです。
<参考>※2026.4.15最終閲覧
1) i2.JP(https://www.i2jp.net/)
2) i2.JP, ~「i2.JP」4周年に向けて~ ヘルスケア共創のパイオニアとして「多様性」×「集合知」で「患者中心」の社会実装を実現(https://www.i2jp.net/case/case_22.html)
3)Answers News, アストラゼネカ「i2.JP」設立5年、560もの企業・団体の参画を集めたワケ(https://answers.and-pro.jp/pharmanews/32074/)
4)NTTデータ, 2025. 5.26, DTx流通プラットフォームの開発・運用に向けた3社間基本合意書を締結(https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2025/052602/)
5)エーザイ株式会社, hhceco(hhc理念+エコシステム)(https://www.eisai.co.jp/innovation/ecosystem/index.html)
6)エーザイ株式会社, パートナーとの連携(他産業・自治体)(https://www.eisai.co.jp/innovation/ecosystem/collabo/index.html)
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