【書評】『君は戦略を立てることができるか』から考えるマーケティング戦略の再設計|編集部が選ぶ!製薬マーケティングに効く一冊 #02

「戦略とは何か?」と聞かれて、スッキリ答えられるでしょうか。
Medinew編集部による「編集部が選ぶ!製薬マーケティングに効く一冊」、第2回は音部大輔氏著『君は戦略を立てることができるか 視点と考え方を実感する4時間』を紹介します。
本書は、曖昧に使われがちな「戦略」を「目的と資源」という視点から定義し、実践的に解説しています。P&Gや資生堂でマーケティング組織を率いてきた著者が、戦略立案の考え方とプロセスを体系的にまとめた一冊です。
今回の一冊

著者について
著者の音部大輔氏は、P&Gに17年間在籍し、アリエールやファブリーズなどのブランドマネジメントを経験した後、ダノン、ユニリーバ、資生堂などでマーケティング担当副社長やCMOとしてマーケティング組織の構築と強化を主導してきた人物です。2018年に独立し、コンサルタントとして消費財や化粧品をはじめ、家電、輸送機器、放送局、電力、D2C、さらには医薬品やBtoBなど、国内外の多様なクライアントのマーケティング支援を手がけています。
戦略とは、「目的」達成のための「資源」利用の指針である
製薬マーケティングの現場でも「戦略」という言葉は日常的に使われています。しかし、その意味するところは人によってまちまちです。
「長期的な計画」「方向性」「施策の優先順位」…。同じチーム内でさえ、異なるニュアンスで使われていることは珍しくないのではないでしょうか。
本書では、戦略を次のように定義しています。
「戦略とは、目的達成のための資源利用の指針」
どんな目的であろうと、達成するためにはさまざまな資源(ヒト、モノ、カネ、時間など)が必要となりますが、その資源には限りがあります。だからこそ、資源をどう配分し活用するかの「指針」が必要になる、というのが本書の主張です。
音部氏は、多くのマーケターが学ぶ「経営戦略論」という学問領域は、戦略的な経営のために使う考え方であって、日々のマーケティング戦略には活かしにくい場合があると指摘しています。例えば、SWOT分析や5フォース、PEST分析など。これらがうまく機能しているならそのまま継続しても問題ありません。しかし、日々の業務ではこうしたフレームワークに使いづらさを感じている方もいるのではないでしょうか。本書では、日々の意思決定を支える実践的な「戦略の型」を提供することを目指しています。
本書が提示する戦略立案の6ステップ
本書の核となるのが、「目的と資源」という視点と6つのステップに分解した戦略策定の考え方です。
ステップ1:目的を明示する
まずは課題を見つけるために、目的を明確にします。目的を設定する際には、すべての関係者が理解できるよう、具体性が重要です。そうした目的の設定には「SMAC」という概念が役立つと紹介しています。これはSpecific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Consistent(一貫性がある)の頭文字をつなげた単語です。SMACを使うことで、解釈の余地なく目的を設定することができます。
ステップ2:目的を再解釈する
設定した目的を、複数の視点から捉え直します。ここでのポイントは「目的が達成されたとして、何をしたか?」という問いを立て、未来から逆算して考えることです。たとえば「前期より売上を20億円増加する」という目的の場合、「新規顧客を○万人獲得した」「既存顧客が○回多く使ってくれた」といった複数の達成像が浮かび上がります。こうして出てきた再解釈の一つひとつが、戦略の候補案になります。
ステップ3:資源を探索する
戦略のもうひとつの構成要素である「資源」を広く洗い出します。資源は、自分たちが自由に使える「内的資源」(人材、製品、予算、時間、知識、経験、ブランド力など)と、運用可能な「外的資源」(広告会社、メディア、取引先、ロイヤルユーザーなど)に分けられます。いかに自社固有の資源を見つけられるかが重要なポイントです。
ステップ4:資源優勢を確立する
ステップ2で出した戦略の候補案ごとに、投下可能な資源を示し、両者を比較します。資源の保有量が多いほど勝つ確率は上がるため、総資源量で優位に立てる候補案が「勝てる戦略」になるという考え方です。
ステップ5:文章に書く
ステップ4で決めた目的の再解釈案と資源を基に、戦略を文章化します。文章にすることで曖昧さを排除し、チーム内で共有可能な形にします。
ステップ6:組織に展開する
戦略を組織に共有するだけでなく、メンバーが「自分ゴト化」できるようにします。
「目的×資源」の視点で、製薬マーケティングを捉え直す
本書が提示する戦略立案のステップをふまえると、製薬マーケティングの実務にも活かせる視点がいくつか浮かび上がります。
例えば、「目的の再解釈」(ステップ2)では、製薬企業では「売上○億円」「処方シェア○%」といった数値目標が掲げられるのが一般的ですが、「どの診療科で伸ばすのか」「新規処方を増やすのか、継続率を高めるのか」「認知の問題か、選ばれていない問題か」、同じ数値目標でも再解釈の仕方によって打ち手の方向性はまったく異なります。
「資源の探索」(ステップ3・4)では、資源を自社が自由に使える「内的資源」と、運用可能な「外的資源」に分けて考えています。これを製薬企業に当てはめると、内的資源にはMR、医療関係者向けサイト、Web講演会、メディカルアフェアーズ、疾患啓発コンテンツなどが挙げられます。一方、外的資源としてはKOL(Key Opinion Leader)、広告代理店や制作会社、学会やガイドラインなども含まれるでしょう。こうした内外の資源を広く洗い出すことで、打ち手の幅は大きく変わってきます。
そのうえで本書はもうひとつ重要な視点を指摘しています。それが「選択と集中」です。本書でいう選択と集中とは、複数ある目的の再解釈案(戦略の候補案)からひとつを「選択」し、そこに資源を「集中」させることです。候補案を複数持つことは安心感につながりますが、分散すればするほど一つひとつに投入できる資源は薄まります。ひとつに絞ることで資源を注ぎ込み、資源優勢を確立するという考え方は、製薬マーケティングにおいても意識しておきたいポイントではないでしょうか。
「戦略」を共通言語にするために
製薬マーケティングでは「戦略」という言葉が日常的に飛び交う一方、その定義がチーム内で揃っていないことも少なくありません。「目的と資源」というシンプルな要素で戦略を捉え直すことが、ブランドプランの議論や日々の意思決定をどう変えるのか。そのヒントが詰まった一冊だと感じました。
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