AMTUL(アムツール)とは?医薬品マーケで医師の処方行動を可視化する5ステップと活用法

製薬マーケティングの成果を最大化するには、初回処方の獲得だけでなく、医師に自社の医薬品を継続処方してもらうことが重要です。購買行動モデル「AMTUL(アムツール)」は、医師が医薬品を認知してから継続処方に至るまでの行動変容を5段階で整理したフレームワークで、製薬マーケティングとの親和性が特に高いモデルです。
本記事では、AMTULの基本概念・AIDMAとの違いのほか、製薬マーケティングにおける各フェーズの具体的な施策を解説します。
- AMTUL(アムツール)とは?基本概念と医薬品分野での位置づけ
- 製薬マーケティングでAMTULが重要視される背景
- AMTULとAIDMA(アイドマ)の違いと使い分け
- 製薬マーケティングでAMTULを活用するメリット
- 医師の行動変容を定量的に可視化できる
- フェーズ別に最適なチャネル・メッセージを設計できる
- 顧客ロイヤルティ(LTV)向上を体系的に目指せる
- オムニチャネル戦略の設計基盤になる
- 医師の処方行動を可視化するためのAMTULの5ステップ
- 1. Awareness (認知)
- 2. Memory(記憶)
- 3. Trial(試用)
- 4. Usage(利用)
- 5. Loyalty(愛用)
- AMTULを活用した製薬マーケティング施策の実践ポイント
- フェーズをまたいだ「ナーチャリングの連続性」を意識する
- AMTULをカスタマージャーニーマップと組み合わせる
- AMTULを有効活用して継続利用率の向上を
AMTUL(アムツール)とは?基本概念と医薬品分野での位置づけ
AMTUL(アムツール)とは、1970年代に経済評論家の水口健次氏が提唱したAIDMAに、「顧客ロイヤルティ」の概念を加えた購買行動モデルです。
AMTULでは「顧客が商品やサービスを購入し、継続利用に至るまでのプロセス」を分解し、モデル化されています。AMTULの構成要素は以下の通りです。
- Awareness (認知)
- Memory(記憶)
- Trial(試用)
- Usage(利用)
- Loyalty(愛用)
AMTULが特に医薬品カテゴリでも活用される理由は、製品が「一度購入して終わり」ではなく、継続利用・継続処方が前提となる性質を持つためです。AMTULは医師が自社製品を継続利用するプロセスの理解に役立ちます。
初回購入(初回処方)までを追うAIDMAでは、その後の顧客との関係性を捉えることができません。AMTULはまさに「初回処方後」に何が起きているかを可視化し、継続処方につなげるための設計図として機能します。
製薬マーケティングでAMTULが重要視される背景
近年、MRの数が減少傾向にあることや、コロナ禍を機に直接医師を訪問する機会も減っていることから、製薬企業による医師へのタッチポイントが高度化しているといえます。
その一方で、Webサイトをはじめとして医師が情報を収集するチャネルは多様化し、処方する医薬品についても医師自らが多くの情報を集められるようになり、製薬マーケティングはさらに煩雑化しています。
ヘルスケア業界でマーケティング支援を手がけるエム・シー・アイが医師約5,000人を対象に実施した調査(医師版マルチメディア白書2021年春号)によると、新薬の認知から継続処方に至るAMTULの全段階において、医師が理想とする情報収集チャネルの1位はデジタル系チャネル(インターネットサイト・ネット講演会)となりました。5年前の同調査ではMRチャネルが1位だったことと比較すると、デジタルシフトの加速が明確に表れています。
こうした環境変化のなかで、製薬企業が自社の収益を維持し続けるためには、自社製品の採用がなされた後も、継続的な処方を促さなければなりません。そこで、医師とのコミュニケーションにおけるLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を高めるために、ロイヤルティの概念に重きを置くAMTULを用いた行動分析の重要性が高まっています。
AMTULを活用することで、医師の状態に合わせたマーケティング施策を実施でき、継続処方へつなげることが期待できます。
AMTULとAIDMA(アイドマ)の違いと使い分け
AMTULは「AIDMA」を発展させた消費行動モデルです。AIDMAは、以下のように顧客の購買決定プロセスを段階的に表したアルファベットの頭文字をとって名付けられています。
- Attention(注意)
- Interest(関心)
- Desire(欲求)
- Memory(記憶)
- Action(行動)
「見込み顧客の注意を引き、商品やサービスに関心を寄せてもらい、ニーズに合わせて具体的に訴求していく」という流れは、AMTULと変わりがないように思えるかもしれません。
AMTULとAIDMAの最大の違いは「製品購入後の状態」に言及しているかどうかです。
AIDMAが初回購入までの一方向的なプロセスを説明するモデルであるのに対し、AMTULは継続購入・継続処方までを視野に入れた長期的な行動変容モデルです。
AIDMA | AMTUL | |
|---|---|---|
焦点 | 初回購入(初回処方)まで | 継続購入(継続処方)まで |
対象期間 | 短期的な購買行動 | 長期的な態度変容 |
定量化 | 各ステップの定量化は困難 | 各フェーズをKPI指標で定量測定できる |
製薬マーケでの使いどころ | 新規採用医師数を増やしたい場合 | 処方継続率・ロイヤルティ向上に課題がある場合 |
AIDMAでは、「顧客ロイヤルティ」や「LTV(顧客生涯価値)」の概念が十分に反映されません。一方AMTULは、各フェーズに対応するKPI指標を設定できるため、「どのフェーズにボトルネックがあるか」を数値で把握できます。
各フェーズと対応するKPI指標の目安は以下の通りです。
フェーズ | KPI指標の例 | 指標の意味 |
|---|---|---|
Awareness(認知) | 再認率 | 製品名を提示した際に「知っている」と回答した医師の割合 |
Memory(記憶) | 再生率 | ヒントなしで製品名を自力で想起できた医師の割合 |
Trial(試用) | 使用経験率 | 過去に1回以上処方したことがある医師の割合 |
Usage(利用) | 継続処方率・処方頻度 | 一定期間内に複数回処方している医師の割合 |
Loyalty(愛用) | 推奨意向率(NPS) | 他の医師に製品を推奨したいと回答した医師の割合 |
これらの指標を定期的に計測することで、「認知は取れているのに試用フェーズに進まない」「試用フェーズへは進んだが継続されない」といった課題を客観的に特定し、優先的に手を打つべき施策を絞り込むことができます。
両者の特性を踏まえた上で、「初回処方する医師の数を増やしたい場合はAIDMA」「製品の継続率に課題がある場合はAMTUL」と目的に合わせて使い分けましょう。
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製薬マーケティングでAMTULを活用するメリット
AMTULを製薬マーケティングに取り入れることには、具体的に以下のようなメリットがあります。
医師の行動変容を定量的に可視化できる
AMTULの各フェーズには、対応する測定指標(再認率・再生率・使用経験率・継続処方率など)が存在します。
これにより、「認知は取れているのに試用フェーズに進まない」「試用フェーズへは進んだが継続されない」といったボトルネックを数値として把握することができます。感覚的な施策立案から脱却し、データに基づいた意思決定が可能になります。
フェーズ別に最適なチャネル・メッセージを設計できる
医師が「まだ製品を知らない段階」と「すでに処方経験がある段階」では、必要な情報もアプローチすべきチャネルも大きく異なります。
AMTULを活用することで、「この医師は今どのフェーズにいるのか」を把握した上で、適切なタイミングに、適切なチャネルで、最適なメッセージを届ける施策設計が可能になります。
顧客ロイヤルティ(LTV)向上を体系的に目指せる
製薬マーケティングにおけるLTVとは、一人の医師が長期にわたって自社製品を処方し続けることで生まれる累計的な価値です。AMTULはAwarenessからLoyaltyまでを一気通貫で設計するモデルであるため、単発の施策ではなく「医師との長期的な関係構築」を体系的に進めることができます。
オムニチャネル戦略の設計基盤になる
MRによる対面訪問・メール・Webセミナー・オウンドメディア・チャットボットなど、医師とのタッチポイントが多様化するなかで、AMTULはオムニチャネル戦略の骨格として機能します。
各チャネルをAMTULのどのフェーズに位置づけるかを整理することで、チャネル間の連続性を確保し、医師の処方行動を段階的に前進させる設計が可能です。
医師の処方行動を可視化するためのAMTULの5ステップ
ここからは、AMTULを使って医師の処方行動を可視化するための5ステップについて解説します。
1. Awareness (認知)

「Awareness(認知)」は、消費者が「ある企業の商材・サービスや商品を知る前段階」を意味しています。製薬マーケティング視点でみれば、この段階の医師は「まだ自社製品について知らず、認知していない」状態です。
医師の認知度を確かめるためには「再認率」を測ることが有効です。製薬マーケティングでの再認率とは、製品名を提示した際に「その製品を知っている」と認識できる医師の割合を指します。
製薬企業がAwarenessの段階にいる医師に取るべきアプローチは「認知獲得」です。まず製品を知ってもらうことを目指し、デジタル・リアル双方の施策を組み合わせましょう。
<医師の心理状態>
- 効果的な処方薬を知りたい
<有効な施策例>
- MRによる情報提供
- コンテンツマーケティングによる情報発信
- デジタル広告
2. Memory(記憶)

「Memory(記憶)」は、消費者が各商材の名前や機能、価格、セールスコピーを覚えているかどうかを表す状態です。製薬マーケティングでいえば、医師が自社製品の名前や適応などの情報を知り、大まかな概要について記憶している段階です。
医師の記憶度合いを確かめるためには「再生率」をKPIとして測ります。再生率は、製品情報のヒントを与えた医師のうち、製品名を自力で思い出せる医師の割合によって表します。
自社製品を医師に記憶してもらうには「継続的な情報提供」が有効です。単発の接触ではなく、複数チャネルを通じた反復的な情報提供が記憶の定着につながります。
<医師の心理状態>
- 製品のことはなんとなく覚えている
- 本格的な処方検討に入ったらもっと情報を集めよう
<有効な施策>
- メールマーケティング
- オウンドメディアによる情報発信
- セミナーの実施
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3. Trial(試用)

「実際に商品を利用してみよう」という段階まで検討が進んでいる消費者は、AMTULでは「Trial(試用)」の段階に当てはまります。消費者を医師に置き換えると「まだ処方したことのない薬剤の採用を検討しており、本格的に処方する前に効果や安全性を試したい」というニーズです。
Trialは本格的な購買決定を促進する上で重要なフェーズです。医師は本格処方前の検討を通じて効果や安全性への理解を深めるため、この段階での満足度が高ければ継続処方率の向上につながります。
Memoryの段階にいる医師にTrialを促すためには、MRによる詳細な製品特性の説明や、他施設での処方事例の共有といった「ニーズの喚起」が必要です。医師ごとに異なるニーズをとらえ、パーソナライズされた提案を行うことでTrialに至る確率を高めることができます。
<医師の心理状態>
- 初回処方に向けて、製品の有効性や安全性などの詳細部分まで把握しておきたい
- 担当する患者に適しているのか知りたい
<有効な施策>
- MRによる細かな製品特性の説明
- 他施設での処方事例の共有
- 医師の患者層に合わせたパーソナライズドな情報提供
4. Usage(利用)

AMTULの「Usage(利用)」は、消費者が特定の商品・サービスを日常的に利用している状態を指します。製薬マーケティングでは、医師が「自施設で、製品を日常的に処方している段階」です。
Trialの段階で製品に対する満足度が高かった医師は本格処方に至り、継続的な利用を検討してくれる可能性が高まります。医師が「継続利用」の段階にいるかどうかは、自社製品の処方頻度や処方間隔に着目しましょう。再処方までの期間が大きく空いている場合は、まだ本格的な継続利用に至っていない可能性があります。
なお、場合によっては「Memory(記憶)→Trial(試用)→Usase(利用)」ではなく、試用のステップを飛ばして「Memory(記憶)→Usase(利用)」のプロセスが踏まれるケースもあります。
この段階で製薬企業が目指すべき目標は「処方採択後の満足度アップ」です。処方後のフォローアップを手厚くすることが、継続処方につながる鍵となります。
<医師の心理状態>
- しばらく処方を続けてみて、効果的なら継続しよう
<有効な施策>
- MR面談やメールでのアフターフォロー
- オウンドメディアから問い合わせできるチャットボットの設置
- 処方後の有効性・安全性に関するフィードバック収集
5. Loyalty(愛用)

AMTULで消費者の購買行動モデルの最終段階に位置するのが「Loyalty(愛用)」です。Loyaltyとはそもそも「忠誠心」を意味していますが、AMTULでは「日常利用を超えて消費者が特定の商品・サービスに愛着を持っている段階」と定義されます。
製薬企業に置き換えると「数年スパンで、医師が継続的に製品の処方を続けてくれている状態」です。ロイヤルティの高い医師は、他の医師へ製品を推奨してくれるインフルエンサーとしての役割を果たすこともあり、新規処方の拡大にも寄与する存在となり得ます。
この段階に至るまでには、自社製品を利用してくれている医師に向けた継続的なサポートが必要です。製品の価値を定期的に再確認してもらえるような情報提供を続けることで、長期的な処方継続につながります。
<医師の心理状態>
- 患者への有効性や安全性に満足している
- 企業側のサポート体制に満足している
<有効な施策>
- 定期的なMRからの連絡・情報提供
- 有効性・安全性に関する最新データの提供
- 適応追加などの情報の迅速な共有
- 講演会への登壇依頼
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AMTULを活用した製薬マーケティング施策の実践ポイント
AMTULを実際の施策に落とし込むには、各フェーズを個別に捉えるだけでは不十分です。フェーズをまたいだ医師とのコミュニケーションをいかに一貫して設計するかが、AMTULを機能させる上では欠かせません。
フェーズをまたいだ「ナーチャリングの連続性」を意識する
AMTULは各フェーズを個別に捉えるだけでなく、フェーズ間の移行をいかにスムーズに設計するかが実務上のポイントです。
たとえば、認知(Awareness)を獲得した医師を記憶(Memory)フェーズへ引き上げるためには、単発の情報提供で終わらせず、メールマガジンやオウンドメディアを通じた継続的な接点の維持が重要です。また、試用(Trial)から利用(Usage)への移行では、初回処方後のフォローアップが離脱防止のカギを握ります。
「どのフェーズにいる医師に、どのチャネルで、どのメッセージを届けるか」を一気通貫で設計することが、AMTULを概念整理にとどめず、実際の処方行動の変容につなげるために不可欠です。
AMTULをカスタマージャーニーマップと組み合わせる
AMTULの各フェーズは、カスタマージャーニーマップを作成する際の骨格としても活用できます。
縦軸にAMTULの5ステップ、横軸に「医師の行動・思考・感情」「タッチポイント」「施策」を並べることで、医師視点での体験を整理しやすくなります。まずは自社製品に関わる主要なタッチポイントを書き出すところから始めてみましょう。
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AMTULを有効活用して継続利用率の向上を
AMTULを活用した製薬マーケティングを実施すれば、医師が自社製品を愛用してくれるようになるまでの各段階で「どのようなニーズを持っているのか?」「どのようなアプローチをするべきなのか?」を可視化できます。
デジタルチャネルの活用とMRによる対面フォローを組み合わせながら、AMTUL各フェーズに応じた施策を一貫して設計し、初回処方後の継続利用率アップを目指しましょう。










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