医師の処方行動を可視化|購買行動モデル「AMTUL」の考え方や製薬マーケでの活用方法

医師の処方行動を可視化|購買行動モデル「AMTUL」の考え方や製薬マーケでの活用方法

製薬マーケティングの成果を最大化するためには、初回の処方だけでなく、自社製品を採択いただいた後の「継続処方」も目指す必要があります。消費者の愛着形成に焦点を当てた「AMTUL(アムツール)」は、医師が継続処方に至るまでのプロセスを理解するためにも役立つ購買行動モデルです。

今回はAMTULについて、製薬マーケティング視点で役立てるために必要な知識や施策例を紹介します。

AMTUL(アムツール)とは?

AMTUL(アムツール)とは、1970年代に経済評論家の水口健次氏が提唱したAIDMAに、「顧客ロイヤルティ」の概念を加えた購買行動モデルです。

AMTULでは「顧客が商品やサービスを購入し、継続利用に至るまでのプロセス」を分解し、モデル化されています。AMTULの構成要素は以下のとおりです。

  1. Awareness (認知)
  2. Memory(記憶)
  3. Trial(試用)
  4. Usage(利用)
  5. Loyalty(愛用)

製薬マーケティングにおいても、AMTULは医師が自社製品を継続利用するプロセスの理解に役立ちます。

近年、MRの数は減少傾向1)にあり、COVID-19の感染拡大を機に直接医師を訪問する機会も減っていると考えられます。その一方で、Webサイトをはじめとして医師が情報を収集するチャネルは多様化し、処方する医薬品についても医師自らが多くの情報を集められるようになりました。

競合他社の製品と比較・検討が容易になった状況で、製薬企業が自社の収益を維持し続けるためには、新たに自社製品を採用していただいた後も、継続的な処方を促さなければなりません。そこで、医師とのコミュニケーションにおけるLTV(顧客生涯価値)を高めるために、ロイヤルティの概念に重きを置いているAMTULを用いた行動分析の重要性が上昇しているのです。

AMTULを活用することで、医師の状態に合わせたマーケティング施策を実施でき、継続処方に繋がることが期待できます。

AMTULを製薬マーケティングで活用する際に意識したい「顧客ロイヤルティ」

AMTULは、「顧客ロイヤルティ」の考え方を落とし込んだ行動モデルです。顧客ロイヤルティとは、顧客が商品・サービスに対して感じる「愛着」「信頼」を指します。

一般的に、顧客ロイヤルティが高ければ「リピート率の向上」と「口コミの拡散」が期待できるとされています。製薬マーケティング視点でみれば、自社製品を利用し、ロイヤルティも高まっている医師には「自社製品を長期にわたって利用してもらえる」「医師仲間と評判を共有してくれる」といった形で、好影響をもたらす可能性があるでしょう。

AMTULと「AIDMA(アイドマ)」の違い

AMTULは「AIDMA」を発展させた消費行動モデルで、見込み顧客が初回購入に至るまでのプロセスを複数のフェーズに分けて、理解するために役立ちます。

AIDMAは、AMTULと同様に見込み顧客の各フェーズにおける状態を表したアルファベットの頭文字をとって名付けられています。

  • Attention(注意)
  • Interest(関心)
  • Desire(欲求)
  • Memory(記憶)
  • Action(行動)


一見、「見込み顧客の注意を引き、商品やサービスに関心を寄せてもらい、ニーズに合わせて具体的に訴求していく」という流れは、AMTULと変わりがないように思えるかもしれません。

しかし、AMTULは“製品購入後の状態”にも言及されている点でAIDMAとは異なります。その違いを端的にあらわすと、以下のとおりです。

AIDMA…製品の「初回購入」までの消費行動モデル
AMTUL…製品の「継続購入」に至るまでの消費行動モデル

両者は上記のように明確な違いを持っているため、「初回購入する医師の数を増やしたい場合はAIDMA」「製品の継続率に課題がある場合はAMTUL」と、場合に合わせて使い分けましょう。

医師の処方行動を可視化するためのAMTULの5ステップ 

ここからは、AMTULを使って医師の処方行動を可視化するための5ステップについて解説します。

1. Awareness (認知)

「Awareness(認知)」は、消費者が「ある企業の商材・サービスや商品を知る前段階」を意味しています。

製薬マーケティング視点でみれば、この段階の医師は「まだ自社製品について知らず、認知していない」状態と言えるでしょう。

医師の認知度を確かめるためには「再認率」を測ることが有効です。製薬マーケティングにおける再認率は、製品名を提示した際に「その製品を知っている」と認識できる医師の割合を指します。

製薬企業がAwarenessの段階にいる医師に取るべきアプローチは「認知獲得」になります。例えば「MRによる情報提供」「コンテンツマーケティング」などの施策を実施して、“まず製品を知ってもらう”ことを目指しましょう。

AMTUL-Awareness

<医師の心理状態>

  • 効果的な処方薬を知りたい。


<有効な施策例>

  • MRによる情報提供
  • コンテンツマーケティングによる情報発信
  • デジタル広告


2. Memory(記憶)

「Memory(記憶)」は、消費者が各商材の名前や機能、価格、セールスコピーを覚えているかどうかを表す状態です。

製薬マーケティングでいえば、医師が自社製品の名前や適応などの情報を知り、大まかな概要について記憶していることがMemoryの段階であると定義できるでしょう。

医師の記憶度合いを確かめるためには「再生率」を測ることが有効です。再生率は、製品情報のヒントを与えた医師のうち、製品名を自力で思い出せる医師の割合によって表します。

自社製品を医師に記憶してもらうには「継続的な情報提供」が有効です。「メールマーケティングやオウンドメディアでの情報発信」「Webセミナーの開催」などの施策を行って医師と継続的な接点を持ち、情報提供を続けて記憶の定着を図りましょう。

AMTUL-Memory

<医師の心理状態>

  • 製品のことはなんとなく覚えている。
  • 本格的な処方検討に入ったらもっと情報を集めよう。


<有効な施策>

  • メールマーケティング
  • オウンドメディアによる情報発信
  • セミナーの実施


3. Trial(試用)

「実際に商品を利用してみよう」という段階まで検討が進んでいる消費者は、AMTULにおいて「Trial(試用)」の段階に当てはまります。

消費者を医師に置き換えると「まだ処方したことのない薬剤の採用を検討しており、本格的に処方する前に効果や安全性を試したい」というニーズです。

Trialは本格的な購買決定を促進する上で重要なフェーズであり、次のプロセスへの進行を決定する重要な行動と言えます。

医師は本格処方を行う前段階で検討を進めることにより、効果や安全性など製品への理解を深められるため、本格的な処方時の満足度が向上している状態になれば、継続処方率の上昇を図れるでしょう。

Memoryの段階にいて、自社製品を記憶している医師にTrialを促すためには「MRによる細かな製品特性の説明」「他施設での処方事例」などによる「ニーズの喚起」が必要です。

この際に、医師ごとに異なる需要をとらえ、パーソナライズされた提案を行えばTrialに至る確率の向上が期待できます。

AMTUL-Trial

<医師の心理状態>

  • 初回処方に向けて、製品の有効性や安全性などの詳細部分まで把握しておきたい。
  • 担当する患者に適しているのか知りたい。


<有効な施策>

  • MRによる細かな製品特性の説明
  • 他施設での処方事例の共有


4. Usage(利用)

AMTULの「Usage(利用)」は、消費者が特定の商品・サービスを日常的に利用している状態を指しています。

製薬マーケティングにおいては「自施設で、製品を日常的に処方している段階」と言えるでしょう。Trialの段階で、製品に対する満足度が高かった医師は本格処方に至り、継続的な利用を検討してくれる可能性が高まります。

医師が“継続利用”の段階にいるかどうかは、自社製品の購買頻度に着目しましょう。もし、「再購入までの期間が大きく空いている」という状況であれば、それはまだ自社製品を本格的に利用しているとは言い切れないためです。

なお、場合により「記憶→試用→利用」ではなく、試用のステップを飛ばして「記憶→利用」のプロセスが踏まれるケースがあります。

この段階で製薬企業が目指すべき目標は「処方採択後の満足度アップ」です。「MR面談やメールでのフォロー」や「問い合わせにつながるチャットボットの設置」などを実施して、処方の促進を図りましょう。

AMTUL-Usage

<医師の心理状態>

  • しばらく処方を続けてみて、効果的なら継続しよう。


<有効な施策>

  • 処方促進のためのアフターサポート(MR面談やメールでのフォロー、オウンドメディアから問い合わせできるチャットボットの設置など)


5. Loyalty(愛用)

AMTULで、消費者の購買行動モデルの最終段階に位置しているのが「Loyalty(愛用)」です。Loyaltyとはそもそも「忠誠心」を意味していますが、AMTULでは「日常利用を超えて消費者が特定の商品・サービスに愛着を持っている段階」と定義されています。

製薬企業に置き換えると「数年スパンで、医師が継続的に製品の処方を続けてくれている状態」と言えるでしょう。

この段階に至るまでには、自社製品を利用してくれている医師に向けた継続的なサポートが必要です。例えば、「定期的なMRからの連絡」「有効性・安全性に関する最新データの提供」「適応追加情報の迅速な共有」などの施策を行えば、自社製品をより長く処方していただける可能性も高まります。

AMTUL-Loyalty

<医師の心理状態>

  • 患者さんへの有効性や安全性に満足している。
  • 企業側のサポート体制に満足している。


<有効な施策>

  • 定期的なMRからの連絡
  • 有効性・安全性に関する最新データの提供
  • 適応追加などの情報の迅速な共有


AMTULを有効活用して継続利用率の向上を

AMTULを活用した製薬マーケティングを実施すれば、医師が自社製品を愛用してくれるようになるまでの各段階で「どのようなニーズを持っているのか?」「どのようなアプローチをするべきなのか?」を可視化できます。AMTULを活用して、製品の処方を採択いただいた後の継続利用率アップを目指しましょう。

<出典>※URL最終閲覧日2023.03.24
1)公益財団法人MR認定センター, 2022.09, 2022年版 MR白書 -MRの実態および教育研修の調査-「I.MRの概要について」(https://www.mre.or.jp/files/co/page/attachment221201/mre_info/Investigation/whitepaper/2022/2022hakusyo-1-6.pdf