消費行動モデル「AIDMA」を活用した製薬プロモーションとは?考え方や使い方を解説

消費行動モデル「AIDMA」を活用した製薬プロモーションとは?考え方や使い方を解説

製薬マーケティング施策を立案する際、医師が医薬品を処方するまでの認知から購買(契約)に至るまでの行動を体系的に理解する必要があります。製薬企業のマーケティング担当者が医師の購買プロセスを理解するのに役立つ消費行動モデルはいくつか存在しますが、今回は「AIDMA(アイドマ)」について、製薬マーケティングで役立つ理由や使い方を解説します。

医師の行動を理解する際に役立つAIDMA(アイドマ)とは?

AIDMAとは、消費者の購買決定までのプロセスを複数のフェーズに分けて説明した消費行動モデルの1つです。AIDMAは、以下のように顧客の購買決定プロセスを段階的に表したアルファベットの頭文字をとって名付けられています。

  • Attention(注意)
  • Interest(関心)
  • Desire(欲求)
  • Memory(記憶)
  • Action(行動)


近年、製薬企業の医師への情報提供プロセスは、MRによる対面での情報提供活動だけでなく、デジタルを含めさまざまなチャネルを駆使した多様なものへと変化しつつあります。背景にあるのは、コロナ禍によって医療機関への訪問規制がかかったり、リアルでの学会・講演会開催が制限されたりといった影響を受け、医師が自らインターネットを用いて情報収集を行うようになったことが挙げられます。
(医師の情報収集の方法および製薬企業との関わりに関する調査レポートについての記事はこちら
 
例えば、MRから医薬品の情報を受け取る、3rdパーティメディアを閲覧する、インターネット上で領域や製品の情報を検索するなど情報収集の手段・方法はさまざまです。

AIDMAは、このような複雑化した医師の購買プロセスを理解・把握するために活用できる消費行動モデルといえます。一例として、以下のように当てはめることができます。

医師の購買プロセスの理解・把握に活用可能なAIDMA

医師の行動分析に役立つAIDMAの5つの構成要素 

ここからは、AIDMAの各要素について解説します。

1. Attention(注意)

「Attention(注意)」は、「消費者が商品やサービスについて知るフェーズ」を指します。製薬マーケティングでは、まず医師に自社製品の存在を認知してもらうフェーズです。

「Attention」のフェーズにいる医師は、MRやインターネット(医師向けの3rdパーティメディア、製薬企業による医師向けオウンドメディアなど)から情報を得ることで、製品やサービスの存在を意識するようになります。

医師に自社製品の存在を知ってもらうためには、医師向けのオウンドメディア運用を行い、SEO対策に取り組むことも有用です。

2. Interest(関心)

「認知した商品やサービスに対して、消費者が関心を抱くフェーズ」を指すのが 「Interest(関心)」のフェーズです。一般的にこのフェーズにいる消費者は、TVCMやSNS、インターネット広告で何度も目にする企業・製品情報について「もっと知りたい」と興味を抱きます。

製薬マーケティングでは、プロモーション活動を行うことで、医師の心理をInterestのフェーズに引き上げます。自社製品を認知した医師にメルマガ配信やWeb講演会によって関心を持ってもらえれば、問い合わせの促進につながるでしょう。

3. Desire(欲求)

「Desire(欲求)」は、「消費者が関心を持っている商品・サービスを実際に使ってみたいと思う」状態を指します。このフェーズで行うべきはニーズの喚起です。

Desireのフェーズにいる医師には、オウンドメディアのコンテンツやMRからの情報提供により製品の安全性、有効性などを伝え、「使用すれば患者の悩みに寄り添った適切な処方ができそうだ」と必要性を感じてもらうことで購買欲求を高められるでしょう。

4. Memory(記憶)

 「Memory(記憶)」は、リマインドによって製品理解を深めた上で記憶してもらうフェーズを表しています。消費者は一度その商品やサービスに興味を持ったとしても、購買を即決するわけではありません。Memoryフェーズの消費者に対しては、購買に至るまでに「記憶の呼び起こし」が必要です。

製薬マーケティングにおいても同様で、さまざまなチャネルを通して医師に製品情報を提供することで、購入動機を喚起させます。Web講演会は新薬上市時だけでなく、対象領域の学会開催の周辺時期や、対象疾患の患者が増える時季を考慮するなど適切なタイミングでの実施が望ましいでしょう。また、対面やWeb上でのMR面談、オウンドメディアでの情報発信は定期的に行い、医師へのアプローチを行いましょう。

5. Action(行動)

「Action(行動)」のフェーズは、「商品・サービス購入に至る前の最終フェーズ」に位置しています。このフェーズにいる消費者へ行うべきは「機会提供」です。

例えば、一般的なBtoCの消費商材では「今すぐに欲しいわけではない」「買い方がわからない」などの理由で、消費者が購入を見送るケースも珍しくありません。

製薬マーケティングでも「製品の有効性や安全性の情報が不十分」などの理由から医師が処方を見送るケースが考えられます。そういった課題を解消し、処方の意思決定をしてもらうためにMRによる面談・説明会の実施、オウンドメディア上の製品・領域情報コンテンツの強化を行う必要があります。

AIDMAを改良したAISASとは?どう使い分ける?  

AIDMAと似た消費行動モデルの代表例として「AISAS(アイサス)」が挙げられます。AISASとは、AIDMAの考え方をベースに、インターネットが普及した現在の消費行動にブラッシュアップしたモデルです。

AISASの各プロセスについては、以下のように定義されています。

  • Attention…注意
  • Interest…関心
  • Search…検索
  • Action…行動
  • Share…共有


AIDMAとAISASは「消費者の購買心理を理解する」という目的は同じですが、消費者の属性や行動の傾向よって使い分けることができます。

医師にこれらの消費行動モデルを当てはめる場合は、例えば、オフラインでの接点が多かったり、デジタル志向度が中程度であったりする医師へのアプローチであればAIDMAを用います。

一方で、デジタル志向度が高い医師、もしくはインターネット上でのコミュニケーションが可能な医師の場合はAISASを活用すると、より深く医師の購買行動を理解できるようになります。

Dual AISAS(デュアル・アイサス)とは?

AISASにはWeb上で消費者がとる行動に最適化したバージョンである「Dual AISAS」も存在し、「A+ISAS」とも表記されます。構成要素については以下の通りです。

  • Activate…起動・活性化
  • Interest…関心
  • Share…共有・発信
  • Accept…受容・共鳴
  • Spread…拡散


通常のAISASと比較してインターネット上の情報拡散に焦点を当てたもので、Web掲示板やSNS経由で商品・サービス情報が拡散していくプロセスをモデル化しています。

AIDMA・AISAS以外の消費行動フレームワーク

医師の行動を整理するのに役立つフレームワークはAIDMA・AISAS以外にも存在します。またそれぞれ別の記事で詳しく解説しますが、本記事では簡単な概要を紹介します。

AMTUL(アムツール)

「AMTUL(アムツール)」は、消費者の「信頼」「愛着」にフォーカスした行動モデルで、構成要素は以下の通りです。

  • Aware…認知
  • Memory…記憶
  • Trial…試用
  • Usage…利用
  • Loyalty…愛用


AMTULでは、商品やサービスを購入してもらうだけでなく、消費者との深いリレーション(関係性)の構築も盛り込まれています。AIDMAは購買行動のみを指しているのに対し、AMTULは「試用→利用→愛用」といったプロセスを経ているのが特徴です。そのため、自社製品を長期にわたって処方してもらいたい場合に医師の行動を整理するのに役立ちます。

AIDCA(アイドカ)

「AIDCA(アイドカ)」は、AIDMAと同時期に提唱された購買行動モデルで、直接的なコミュニケーションによって購買を図る「ダイレクトマーケティング」のプロセスを整理したものです。

  • Attention…注意
  • Interest…関心
  • Desire…欲求
  • Conviction…確信
  • Action…行動


AIDCAにおいては、商品やサービスの価値について納得する「Conviction(確信)」が最も重要なフェーズとされており、ここに注力することで購買決定を後押しします。

AISCEAS(アイシーズ)

前述のAISASと同じく、インターネットにおける購買行動をフェーズ分けした「AISCEAS(アイシーズ)」は、下記の構成要素から成り立っています。

  • Attention…注意
  • Interest…関心
  • Search…検索
  • Comparison…比較
  • Examination…検討
  • Action…行動
  • Share…共有


AISCEASの特徴は「検索」「比較」「検討」といった、インターネットでの購買行動における比較・検討が含まれている点です。AISASよりもWeb上の購買プロセスを細分化しているため、より詳しくネット検索を活用すると思われる医師の消費行動を理解・把握する際に活用できます。

製薬企業におけるAIDMAの活用例

製薬マーケティングにおけるAIDMAの活用例について紹介します。

<医療従事者のAIDMA例>

  • Attention(注意)

MRとの面談や医師向け3rdパーティメディア、製薬企業による医師向けオウンドメディア製品を目にする。

  • Interest(関心)

認知したタイミングでWeb講演会を知る。

  • Desire(欲求)

製薬企業の医師向けオウンドメディア上に対象領域・疾患に関する資材があることを知り、取り寄せる。

  • Memory(記憶)

Web講演会後のメールやMRとの面談で、製品情報に関する情報を受け取る。

  • Action(行動)

自施設での処方向け、他社製品との比較や製品を実際に使用した他の医師からの情報収集を行う。

あくまで一例ですが、医師の行動を段階的に整理すると、認知から処方決定まで到達させるために自社がとるべき施策がイメージしやすくなります。

AIDMAを使って医療従事者の行動を理解しよう

AIDMAを活用すれば、医師の購買プロセスを可視化するだけでなく、各フェーズに位置する医師が「何を考えているのか?」「具体的な施策は何か?」といったことまで把握しやすくなります。AIDMAを生かし、医師の購買行動を理解したマーケティング施策を実施しましょう。