働き方改革で変わった、医師の情報収集の実情|学会・リアル講演会・MR面談の時間減

医師の働き方改革の開始から1年。勤怠管理の厳格化、業務の効率化を強く求められる中で、医師は限られた勤務時間をどのように使い、どのような情報を求めるようになったのでしょうか。その実態を探るため、Medinewでは2025年2月、医師を対象に、勤務環境や情報収集の変化に関するアンケート調査を実施しました。
本記事ではその結果から、医師の診療・業務に割く時間の変化、それに伴う情報チャネルの使い方の変化、オウンドメディアとサードパーティメディアの影響力について分析します。
調査概要
医師250名を対象に実施した本アンケートでは、医師の働き方改革後の業務時間の実態および情報収集行動の変化、情報収集チャネル、特に製薬企業チャネルやデジタルチャネルの利用実態、製薬企業からの情報提供へのニーズなどについて調査を行いました。
サマリー
- 医師の総勤務時間に大きな変化はないが、診療や事務作業にかける時間は増え、学会・勉強会への参加時間は減る傾向にあった
- 医師の情報収集は、効率化を求めてデジタルシフトが加速。ニュートラルなメディアやデジタルチャネルを中心に、より高頻度に利用する医師が増加
- MR面談は頻度を抑える傾向にあるが、新薬をはじめとした薬剤情報に特化したニーズがあり、一定の接点を維持したい傾向がみられる
- 製薬企業の医療関係者サイトは利用者に限れば相対的影響度が高いが、利用率の上昇や他チャネルとの差別化が課題
診療時間を確保しつつ、会議・勉強会・学会は厳選する傾向
医師の週あたりの勤務時間は、医師の働き方改革施行の前後で平均値(47時間/週)・中央値(45時間/週)ともに変化は認められませんでした。40~49時間/週の医師が40%程度を占め、最も多数派となっています。
ただし、超過勤務の一部は是正傾向がみられ、70時間を超える長時間勤務者の一部では勤務時間が短縮し、もともとの超過幅が大きい人ほど改善幅も大きい傾向がありました。一方で、前年に勤務していなかった人が勤務に復帰した例もあり、勤務時間のばらつきは全体としてやや小さくなりました。
業務内容別にみると、「事務作業」や「診察」「手術」に割く時間が増加した医師は15~21%にのぼり、特に「事務作業」の増加が顕著でした。勤怠管理の厳格化でかえって手間が増えている可能性や、マイナ保険証対応なども負担になっている可能性も考えられ、タスクシェアや業務効率化に対するニーズが改めて浮き彫りとなりました。
一方で、「医療関係者などが実施する勉強会」「学会参加」「学会発表準備・論文執筆」にかける時間が減った医師は18~24%に達しています。オンラインへの移行の影響もあるかもしれませんが、自己研鑽の時間がやむを得ず削られている実態が浮かびます。
また、製薬企業との接点としては、「リアル講演会」や「MR/MSL面談」にかける時間は30%以上の医師で減少しており、働き方改革の前後で大きな変化があったといえます。一方で、「Web講演会」は22%の医師で増加しており、デジタルシフトの影響が顕著である側面もうかがえます。
勉強会や学会にかける時間が減っていることを考えると、自己研鑽・生涯教育の観点からも、製薬企業の講演会が満たせるニーズがあるかもしれません。
デジタル中心に「こまめな情報収集」へと変化。MR回帰の立ち位置は?
診療時間は確保しつつ、総勤務時間の削減を求められるという環境変化の中で、医師の情報収集方法にも変化が表れています。
診療・業務に関する情報収集の「頻度」を尋ねた設問では、ほぼ全ての情報チャネルで利用頻度の増加傾向が認められました。
特に専門誌・論文などのニュートラルな情報源やデジタルチャネルを中心に、「月1回以上」の高頻度での利用が増加しており、タイムリーかつクイックな情報取得を意識した行動が見られました。
一方、リアル(対面)で実施される学会や勉強会、講演会については、高頻度での利用は減少傾向にありました。ただ、これらの会合についてもWeb実施の場合は利用頻度が増えており、コロナ禍を経てオンラインの情報収集が医師のニュースタンダードとなっている実態が鮮明になったといえます。
製薬企業のチャネルでも同様に、デジタルチャネルの使用頻度の増加が目立ちます。MR・MSLとの面談は、高頻度に行う医師が減少する一方で、月数回~年数回の面談を行う医師の割合は増加しており、面談の頻度を抑えつつも接点は維持したいという意向がうかがえます。
製薬各社ではMR回帰傾向が強まっており、MR中心のオムニチャネルを重視したい意向がみられます。MR・MSL活用を視野に入れている医師の増加に呼応し、対面ならではの価値提供ができる「必要な時に面談できる存在」としてのMR・MSLの確立が求められます。
製薬企業サイトは「利用されれば影響度が高い」チャネル
各情報チャネルについて、利用頻度に続き、「臨床判断の際にどの程度重視するか」を尋ねたところ、「書籍、専門誌」「他の医師からの情報」「学会、勉強会」「オンラインの論文情報」などのニュートラルな情報源でやはり最も重視度が高く、75%以上の医師が「とても重要視」または「重要視」と回答しました。
次いで「医師向けメディア」(60%)、「MR、MSL」(52%)、「製薬企業主催の講演会」(49%)、「製薬企業の医療関係者向けサイト、メールマガジン」(42%)の順となっています。
製薬企業の医療関係者向けサイトは、コロナ禍で大きく力を入れる企業が増えたとはいえ、医師への浸透率は他チャネルに比べると未だ高くないと考えられます。そこで本調査では、利用率も加味した分析を実施しました。
具体的には、主要な製薬企業の一覧を提示し、「よく閲覧する製薬企業サイト」を1番目から5番目まで尋ねたところ、1社以上を指定して「よく閲覧する」と回答した医師の割合は46%にとどまりました。一方で、医師向けメディアの利用率は、m3.com(88%)を筆頭に高く、製薬企業サイトにとっては新規会員・ファン獲得の余地が依然大きいことが分かります。
一方で、先の質問で医師自身が選んだ「よく閲覧する製薬企業サイト」と主要医師向けメディアを並べ、臨床判断への影響を尋ねた設問では、製薬企業サイトも利用率に比して高い影響力を持つことが示されました。各情報源の利用者に限定した臨床判断への影響度は、医師向けメディアで最も高いm3.comの影響度が55%だったのに対し、製薬企業医療関係者向けサイトの影響度は58~66%にのぼったのです。
利用者に対する相対的影響力は製薬企業の方がむしろやや強く、閲覧行動を喚起できるならば、製薬企業のオウンドサイトは強いチャネルとなり得ることが示唆されました。
MRには薬剤特化のニーズあり。オウンドサイトは他チャネルとの差別化がカギ
医師が各情報源に対して求めている情報を尋ねた設問では、チャネルによってそれぞれ異なるニーズがあることが明らかになりました。
医師は、専門誌や論文などのニュートラルな情報源、医師向けメディアに対しては「診療の最新トレンド」を求めています。一方、製薬企業チャネルに対しては、講演会や医療関係者向けサイトには同じく「診療の最新トレンド」を求めていますが、MRには「新たに上市した薬剤の情報」を強く求める傾向があります。
MRによるディテーリングが処方に強く影響することから、製薬各社はMRを重視したチャネル設計を意識する傾向が強まっていますが、それが裏付けられた結果といえるでしょう。
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一方で、製薬企業の医療関係者向けサイトに対しては、特定の情報ニーズを有していない医師が比較的多く、他チャネルに比べて強い特徴を有していない状況が明らかになりました。製薬企業オウンドサイトの利用を促進し、医師から重視されるチャネルとして育てていくためには、扱う情報や利用シーンを明確にした差別化が必要になるといえます。
そのヒントの一端となりそうなのが、先の質問で医師自身が選んだ「よく閲覧する製薬企業」について、その企業の医療関係者向けサイトを利用する理由を自由記述で回答してもらった設問です。
そこでは、「情報が分かりやすい」「使いやすい」といったコンテンツやUIへの評価がよくみられたほか、やはり「○○○(製品名)をよく使うから」「頻用薬の情報が載っている」といった、薬剤の情報収集のためという回答がよく目立ちました。医師の求める薬剤情報を、分かりやすいコンテンツ・UIで伝えることが、製薬企業サイトの利用促進には必須と考えられます。
一方で、医療関係者向けサイトの利用理由を尋ねた設問であるにもかかわらず、「対応が親切・丁寧」「担当MRが熱心で信頼がおける」「講演会が豊富」といった、オムニチャネルの一環としての有用性を支持する回答が多様な形で見られたことも興味深い点でした。
医師にとっては、製薬企業のオウンドサイト、MR、講演会といった各チャネルへの評価は、その企業への評価として一体的に形成されており、各チャネルが連携して対応していくことが重要であると、改めてうかがえた結果だと言えるでしょう。
「医師の製薬企業主催講演会の活用実態とニーズ調査2024」レポート資料をダウンロード
本記事で紹介したデータを含む「医師のデジタルチャネル利活用および製薬企業との関わりに関する調査 2025年版」のフルレポートは、以下ページより無料でダウンロードいただけます。今回ご紹介したデータのほかにも、医師が「よく閲覧する」と回答した製薬企業TOP5や、新薬が出たときの採用意向に関するクロス分析なども掲載しています。ぜひご覧ください。
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