「MRの役割変化」は進んでいる?本社との連携の実際とこれから|MRの声を聞く2026

「MRの役割変化」は進んでいる?本社との連携の実際とこれから|MRの声を聞く2026

製薬マーケティングでオムニチャネル戦略が重視されるなか、MRの役割を見直す必要性も語られています。Medinew主催のマーケティングイベント「MDMD2026 Summer」でも複数の講演において、さまざまなチャネルと医師をつなぐ「オーケストレーター」としての役割をMRに期待する考え方が示されました。
こうした構想は、実際のMR活動にどこまで反映されているのでしょうか。異なる製薬企業に所属する3名の現役MRに聞きました。

参加者プロフィール

<Aさん>

外資系大手製薬企業MR。MR歴21年。現在は大都市圏にてオンコロジー領域を担当。ターゲット施設数は14軒。ターゲット医師数は約40~50名。現在の活動は対面:リモート=9:1。


<Bさん>

外資系製薬企業MR。MR歴22年。現在は地方にて複数県を担当。ターゲット施設数は30軒程度。ターゲット医師数は約40名。現在の活動は対面:リモート=9:1。


<Cさん>

内資系大手製薬企業MR。MR歴16年。現在は大都市圏にて特定の疾患領域を担当。ターゲット施設数は30〜40軒。ターゲット医師数は40〜50名。現在の活動は対面:リモート=9:1。

アポイント制とリモートで変わったMR活動

──ここ5~10年でデジタルチャネルが増え、MRの仕事の進め方も変わってきたと思います。特にコロナ禍は、大きな転換点だったのではないでしょうか。皆さんが一番変わったと感じるのは、どんなところですか。


Aさん:訪問の仕方ですね。昔は病院へ行き、アポイントなしで医師に会うことも一般的でしたが、コロナ禍を機に基本的にアポイント制になりました。今も対面活動の半分強は、事前にアポイントを取って訪問しています。


MRにとっては、活動しづらくなった面もあります。ただ、医師にとっては、製薬企業の担当者がアポイントもなく院内で待っているような状況が減って、メリットも大きかったのではと感じます。


Bさん:アポイント制の訪問が増えたことで、訪問の「量」よりも「質」を重視する風潮が出てきたように思います。以前は訪問回数をいかに増やせるかが勝負でしたが、今は一回一回の面談の質をどう高めるかが意識されるようになっていますね。


Cさん:リモートが当たり前になったことは大きな変化でした。特に病院の医師との面談ではリモートがすっかり定着していますし、Web講演会も一般的になり、リアル開催より集客しやすくなったと感じます。

コンテンツ視聴データから医師の関心を探り、面談内容を調整

──Web講演会が一般的になったというお話がありましたが、医師の視聴情報などは皆さんにどのように共有され、普段の活動にどう使われていますか。


Cさん:講演会の翌日、本社マーケティングから視聴者リストとフォローの指示がメールで届きます。そこで担当医師が視聴したかを確認し、指示に沿って対応しています。


ただ、視聴の有無をこちらから話題にすることはありません。自分が案内した講演会であれば、「先生、見ていただけましたか」と確認して、演題や演者に関連する情報を提供します。案内していない講演会の場合は、視聴したことには触れず、「こういう講演会があったのですが」と切り出し、関連する情報を提供しています。


Bさん:当社も本社から全国の視聴者リストがまとめて届くので、そこから担当医師を自分で探しています。視聴の有無をこちらから話題にしない点も同じです。


普段提供している情報とは違うテーマの講演会を担当医師が見ていた場合は、さりげなく関連する話題を出し、医師が自然に講演会について触れてくれるような流れを作っています。


視聴情報を得たからといって、面談のタイミングを早めることはしていないですが、もともと面談頻度が高いので、結果的に講演会後2週間以内にはフォローできています。


Aさん:本社主催のWeb講演会については、当社も同じような運用です。ただ、本社主催は全体の5%ほどで、ほとんどが各エリアの営業所が企画している講演会です。


担当医師に他の営業所主催の講演会を案内して、先生が登録されると、主催側のMRから「ご案内ありがとうございます」などお礼の連絡が来るといったように、営業所間で情報共有が行われています。講演会が終わった後には、実際に医師が何分視聴したかまで確認できるようになっています。


視聴情報を得たからといって、アポイントの日程は動かせません。そこで、次のアポイントを待たずに施設に立ち寄り、視聴の話は出さないままさりげなくフォローすることもあります。



──こうしたデータを使うことで、医師の役に立てているという手応えはありますか。


Aさん:医師が何に関心を持っているかを把握したうえで話しに行けるので、少なくとも的外れな面談は減ったと感じています。医師の負担も軽くなっているのではないでしょうか。


Bさん:「これは興味がないだろう」と思って案内していなかったテーマに、実は関心を持っていたと気づくことがあります。これまで知らなかったニーズに沿って情報を提供できる点は、メリットだと思います。


Cさん:正直なところ、私はあまり実感がありません。もしかすると処方などの成果につながっているのかもしれませんが、医師が直接「役に立った」と言ってくれるわけではないので、実際の効果までは分からないですね。



──逆に、本社から届く情報や施策について、「もっとこうしてほしい」と思うことはありますか。


Cさん:本社から届く情報や方針は全国向けなので、地域によってはうまく当てはまらず、マーケティングとセールスの間に壁を感じることがあります。地域の特性まで踏まえた情報が届くのが理想ですが、そこまで本社に求めるのは難しいと思うので、全社的な方針を自分のエリアに合わせてカスタマイズし、売上を最大化するのがMRの役割だと受け止めています。


Bさん:本社が企画する講演会は、内容が少し大ざっぱなことが多く、「講演会を開催する」こと自体が目的になっているように感じることもあります。案内するためにMRに共有される情報も、「誰が、どのようなテーマで話すのか」「どのような医師に合った内容なのか」まで詳しくもらえれば、私たちも医師に案内しやすくなります。


Aさん:少しちゃぶ台返しのような話になりますが、そもそもWeb講演会の数をこれ以上増やすことは、必ずしも医師のニーズに沿っていないと思います。すでにWeb講演会があふれていて、医師も本当に関心のあるものしか見なくなっています。

部門連携は変わらず、本社への情報共有は限定的

──ここまでは、本社からMRへ情報が届く流れについて伺いました。では反対に、MRが医師から得た情報を本社へ伝えたり、他職種につないだりすることはありますか。その後、どのような対応が行われたかまで分かりますか。


Bさん:Web講演会に関すること以外で、こちらから本社マーケティングへ積極的に連絡することはほとんどありません。他職種で最もよくつなぐのはMSLですね。海外の症例や適応外の情報はMRから伝えられないので、MSLから医師へ説明してもらいます。


MRはMSLと医師の面談には同席できず、その内容が正式に共有される仕組みもありません。ただ、実際には、面談後にどのような話をしたのか、MSLに口頭で聞くことはあります。


こちらの意図がうまく伝わらず、想定とは違う方向へ話を進めたり、やや高圧的な話し方のせいで医師の機嫌を損ねてしまったりするMSLもいるので、連携には慎重になりますね。


Cさん:当社にも、医師の状況や関心を本社マーケティングへ組織的に共有する仕組みはありません。近くにいる担当者と会ったときに、雑談の中で話題にする程度です。


前職では、医師をMSLにつなぐこともよくありましたが、現在の会社にはMSL自体がいないため、そうした連携もありません。


Aさん:当社でも、より専門的・学術的な情報が必要な場合には、医師をMSLにつなぎます。ただ、本社と直接やり取りする機会はあまりありませんし、コロナ禍の前後で他職種との連携が変わった実感はないですね。

連携を後押しする評価や研修は未整備

──こうした本社・他職種との連携や、複数の接点をつなぐ活動は、個人の評価にも反映されていますか。


Cさん:前職にも現在の会社にも、そうした活動を評価する仕組みはありません。


Bさん:当社でも、会社共通の評価項目にはなっていません。ただ、個人のコンピテンシー目標に「部門間の橋渡しをする」といった内容を盛り込み、その達成度を評価してもらうことはできると思います。


Aさん:当社も、他部門と連携したこと自体が評価されるわけではありませんが、連携によって大きな成果が出た場合は、成果を生み出したプロセスの一つとして報告することで、評価につながる可能性はあります。


──では、デジタル情報の使い方や、本社・他職種との連携について、会社から研修やサポートを受ける機会はありますか。


Cさん:少なくとも私は受けたことがありませんね。


Bさん:当社にも、全くといっていいほどありません。


Aさん:正式な研修やサポートではありませんが、チームではこれまで月に一度、オムニチャネルやAIについて話し合ってきました。それが、デジタル情報の活用や他のチャネルとの連携について理解を深める機会になっていたかもしれません。

現場の関心はオムニチャネルからAIへ

──社内では、「オムニチャネル」や「オーケストレーション」という言葉は使われていますか。また、皆さん自身は、こうした考え方をどのように受け止めていますか。


Aさん:「オムニチャネル」は、3年ほど前から社内でよく使われるようになりました。先ほど言及した通り、月に一度、チーム内でもオムニチャネルをテーマとして扱う会議があります。Web講演会の視聴記録や訪問回数などのデータ活用は、今後も続けていきたいと思っています。


ただ、議論はすでに次の段階へ進んでいるとも感じます。医師がAIを使って簡単に情報を得られる今、MRやMSL、本社がそれぞれ情報を届けても、それだけでAIを超える価値を生み出せるとは思えません。


実際、チーム内の会議でも、オムニチャネルの話題はAIにほぼ吸収され、内容が薄くなっています。今考えるべきなのは、AIが普及する中で、MRがどう価値を出していくかではないでしょうか。



Cさん:前職では、「オムニチャネル」を会社の方針としてよく耳にし、それに沿った施策も現場へ下りてきていました。ただ、現在の会社ではほとんど聞きません。「オーケストレーション」という言葉も、今回初めて聞きました。


現在の会社は、施策の面で他の大手企業より遅れていると日頃から感じており、そのためにこうした言葉が出てこないのだと思っていました。ただ、今日のお話を聞いていると、自社が遅れているだけではなく、オムニチャネル自体が古いテーマになりつつあるのかもしれないとも感じますね。


Bさん:当社でも、「オムニチャネル」という言葉は時々聞きます。ただ、言葉だけが独り歩きし、「デジタルチャネルを活用すること=オムニチャネル」と捉えられている印象です。製薬業界はデジタル化そのものがかなり遅れているので、AI時代の今、オムニチャネルを議論していること自体、少し遅いのではないかと思います。「オーケストレーション」という言葉は、私も今まで聞いたことがなかったです。

AI時代に問われるのは、情報を見極めて医師と対話する力

──最後に、5年後のMRはどうなっていると思いますか。


Cさん:定期的にMR不要論が持ち上がりますが、時代に合わせて仕事を変えていくことで残っていくのではないでしょうか。


情報量ではAIが圧倒的ですが、AIが示した情報が実態と合っているかを確かめたり、「他の地域ではどのように使われているのか」「他の医師は実際にどのように使用しているのか」といった事例を伝えたりすることには、まだMRの役割があると考えています。


ただ、こうした部分も、数年後にはAIに置き換わっているかもしれません。だからこそ、AIを自分の活動にどう取り入れていくかが重要になると思います。


Bさん:MRの仕事自体はなくならないと思いますが、AIの発展によって、「量より質」という流れはさらに強まるかもしれません。


とはいえ、当社では最近、面会数を減らして質だけを高めても、売上が落ちてしまうため、結局は量も必要だという結論になりつつあります。結果的には、5年後もMR活動のあり方は今とそれほど変わっていない可能性もありますね。


Aさん:当社では、AIを活用しながらMRの将来像を検討しています。社内で示されている予測では、今後MRの人数は減少し、医療現場のニーズに見合った規模へと適正化されていくと見込まれています。


その中で生き残るには、医師との接点を確保することに加えて、膨大な情報の中から医師が本当に求めているものを選び、相手に合わせて加工したうえで、ディスカッションする力が必要だと思います。そうしたMRになるため、今はチームで定期的にAIリテラシーや活用力を高めるエクササイズを定期的に行っています。



──本日はありがとうございました。


3名の話からは、Web講演会の視聴記録など、他チャネルからMRへ届いた情報を面談に生かす取り組みが、それぞれの会社で行われていることが分かりました。


一方、MRが医師から得た情報を本社や他職種へ共有・連携する取り組みは限定的です。連携を促す評価や研修も十分には整っておらず、冒頭で触れた、MRが接点全体を束ねる「オーケストレーター」の構想は、現場に定着するまでには至っていない状況がうかがえます。


また、オムニチャネル以上に、AI時代におけるMRの価値へ関心が集まりました。情報量でAIと競うのではなく、情報の整合性を確かめ、医師の状況に応じた情報や実例を選び、対話につなげる。そうした価値が、これからのMRには一層問われることになりそうです。


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