MR不要論を超えて。製薬大手3社が語る「MRにしか果たせない価値」と組織設計|MDMD2026 Summer基調講演レポート

医療現場の情報接点が多様化し、デジタル活用が加速するいま、MRチャネルの価値が改めて問われています。2026年6月に開催したMedinew Digital Marketing Day(MDMD)2026 Summerの基調講演では、製薬企業のマーケティング・事業責任者およびオムニチャネル推進リーダーが登壇。MRの役割変化と本質的な価値を整理し、これからのチャネル設計を考えるための論点が議論されました。
【登壇者】
講演:
- 武田薬品工業株式会社 日本オンコロジー事業部 事業部長 リグオリ ユウジ 氏
パネリスト:
- 田辺ファーマ株式会社 執行役員 マーケティング本部長 川野 清伸 氏
- アステラス製薬株式会社 日本コマーシャル カスタマーエクセレンス部 オムニチャネル アクティベーション グループ 吉田 栄一 氏
モデレーター:
- 株式会社医薬情報ネット 代表取締役/メディア事業部長 笹木 雄剛
基調講演:MRチャネルの価値を「再発見」する
基調講演では武田薬品工業のリグオリ氏が、事業責任者としての視点と自身のMR経験や海外駐在経験を交えながら、MRチャネルを取り巻く環境変化とこれからのMRに求められる本質的な価値を整理しました。
リグオリ氏はまず、MRチャネルを捉え直すべき背景として2つの環境変化を挙げました。1つは業界全体の構造変化です。業界全体でMR数は減少傾向にあり、多くの製薬企業が体制の見直しに直面しています。もう1つは、コロナ禍とテクノロジーの進化を経た、医療関係者の情報志向性の変化です。
立場上、「デジタルが進化した今、MRは本当に必要なのか」という質問を受けることが多いリグオリ氏は、この問いを「MR不要論」として扱うのではなく、「MRにしか果たせない価値がどこにあるのかを、より明確にしなければならない」と語ります。
MRにしか果たせない価値とは?
MRに求められる役割は、従来の情報提供から、医師の意思決定支援や医療関係者とともに行う課題解決へとシフトしています。
リグオリ氏は「情報の量や速度では、人間はもうデジタルやテクノロジーに勝てない。しかし、文脈を踏まえた対話や協働での課題解決は人にしかできない領域であり、そこにMRの価値を再定義する余地がある」と述べたうえで、MRチャネルを患者アウトカムや診療の質、ブランド価値への貢献という軸で捉え直す必要性を指摘しました。
また、医療現場を取り巻く変化として、医師の情報接点の多様化、判断に足る情報を選別したいというニーズの高まり、面会規制や働き方改革による地域差の拡大の3点を挙げ、こうした環境下でもなお、対面を含むMRチャネルの重要性は失われていないとの見解を示しました。
MRを中心に据えた新たなエンゲージメントモデル
武田薬品工業の日本オンコロジー事業部が、2025年7月から導入した新体制についても紹介されました。MRを最重要のカスタマーフェイシングチャネルとして中心に置きつつ、2つの機能を新設したモデルです。
1つは「フィールドマーケティングエキスパート(FME)」で、重要施設内の医師への活動支援や、次世代を含むKOLとのエンゲージメント向上、営業戦術の実行支援を担います。
もう1つは「チャネルプロモーター」で、デジタルチャネルの活動推進や分析、そしてリモートによる顧客対応を担当します。製品によっては担当施設をMRと重複させず、リモート専任MRのみで活動の突破口をつくる役割も持たせています。
こうした体制のもとで、環境変化に左右されにくい顧客エンゲージメントモデルの確立を目指しています。
チャネル設計の難しさと「オーケストレーション」
一方で、チャネル設計には難しさも伴います。短期のROIを可視化しやすいデジタルチャネルと、中長期の関係性構築に価値を持つMRのどちらにリソースを配分するかという投資判断は容易ではありません。KPIについても、従来のコール数や面談時間はシンプルな指標である反面、それだけでは測れない価値をどう評価するかという設計の課題が残ります。また、多様なチャネルや機能があるなかで、それぞれの役割をどう整理し組み合わせるかという難しさもあります。
これらの課題を踏まえたうえで、リグオリ氏は「MRが起点となり、最適なチャネルにつなぐ設計が必要ではないか」と話します。ペイドメディアやオウンドメディア、患者向けサービス、MSLなど多様なチャネルがあるなかで、MRが顧客エンゲージメント全体のオーケストレーションを担う姿を、目指すべき方向性として示しました。
海外経験から見えたMRの本質的価値
リグオリ氏は、欧州本社と北欧でオンコロジー領域を担当した4年間の駐在経験から、日本と欧州のMRの違いにも言及しました。欧州ではMRの数が圧倒的に少なく、医師へのアクセスも限られます。その分、一人ひとりに求められる専門性は高く、1回の面談で成果を出すことが前提になります。「量ではなく、いかに密度で勝負するか」。日本のMRにも、医師の意思決定を支えるパートナーとなること、科学的・客観的な情報を臨床の文脈に翻訳すること、企業のバリューを体現する接点となることが求められると話しました。
最後に今後のMRチャネル像について、「これからますますMRの役割は変わり、高度化していくだろう。同時に、MRは一人では完結できないチャネルになっていく。だからこそ、MRを価値創出のドライバーとして捉えたリソース設計が必要だと考えている」と述べ、講演を締めくくりました。
パネルディスカッション:各社が模索するMRの再設計
後半のパネルディスカッションでは基調講演の内容を受け、登壇者各自の立場からMRの役割再定義やチャネル設計の取り組み、KPIをめぐる課題認識が語られました。

主語を「顧客」に転換する。オムニチャネル設計の本質
まず、業界がたどってきたチャネルの変遷を振り返る議論から始まりました。シングルチャネルからマルチチャネルへの移行によって顧客への接触範囲と頻度は圧倒的に増えた一方、断片的な情報提供にとどまっていたという反省があり、それを踏まえたオムニチャネル設計への転換が各社で進められています。
その本質として語られたのは、「自分たちがやりたいこと」から「顧客が必要としていること」へと主語を転換すること。そして、個々の施策を単発で終わらせず、顧客のジャーニーに沿って複数のチャネルをつないでいくシークエンス設計へと組み換えることです。
また、適切な顧客(Right customer)に、適切なコンテンツ(Right content)を、適切なチャネル(Right channel)で、適切なタイミング(Right timing)に届けるという従来の4Rの考え方に、適切な頻度(Right frequency)の観点を加えた、5Rのコミュニケーションで顧客体験の向上を図る重要性も強調されました。
ツール導入だけでは変わらない。問われるチェンジマネジメントとKPI
CRMやAIといったツールを導入するだけではMRの成果は変わらない、という意見も挙がりました。医師とMRの接点をどう設計し、それを顧客体験や患者アウトカムにどうつなげるか。そして、テクノロジーを前提とした働き方や役割、プロセスをどう作り直すか。こうしたチェンジマネジメントこそが重要だという指摘です。研修の対象も疾患知識や情報提供スキルにとどまらず、MRが成果を出せるよう社内の各部門がどう支えるかという環境整備の必要性にも話が及びました。
KPI設計については、ジャーニー設計が進むほど、単発のチャネル評価では成果を測れなくなります。そのため、チャネルの組み合わせがもたらす効果を顧客ごとに評価するモデルの検討を進めているという取り組みの共有もありました。
医師が情報を求める「トリガー」と、機能連携の再設計
医師が情報を欲するタイミングをどう捉えるかも、大きな論点となりました。医師が目の前の患者に新たな診療課題を見出し、検索サイトやAIで情報を探し始めるその瞬間こそが、情報提供の適切なタイミングです。そのシグナルをいち早く察知し、間を置かずにチャネルを連動させてアプローチするモデルの設計が、すでに始まっているといいます。
そのトリガーの把握においては、施設単位の深いインサイトはMRが、エリア単位の大きな動きは別の機能が捉えるなど、役割ごとに取得できる情報が異なります。そのため、機能間の連携がこれまで以上に重要になるとの見解が示されました。
また、リモート専任MRについても議論がありました。リモートであっても提供できる情報の範囲はMRと変わらないため、単体で顧客への新たな付加価値を生み出すのは難しいという指摘です。ただし、リモート専任MRは面談前の準備に時間をかけやすい分、プロモーションの範囲内で提供できる情報の質を高めやすいといいます。そのため、リモート専任はMRと競合するチャネルではなく、MRの活動をサポートする存在として位置づける考え方が語られました。
あわせて、MRとMSLの役割分担を、どのチャネルを使うかではなく、顧客とどのタイミングで関わるかという観点から再定義するプロジェクトの動きも紹介されました。
MRを起点にチャネルを「オーケストレーション」する時代へ
デジタル化の加速とともに、MRチャネルは「残すか、減らすか」という議論になりがちです。しかし本講演で問われたのは、その手前にある「どんな価値を、誰のために提供し続けるのか」でした。情報の量や速度ではデジタルに及ばなくても、医師の意思決定に寄り添い、課題解決をともに進めることは人にしかできません。MRを顧客エンゲージメントの中心に置きながら、多様なチャネルとどう連動させ、その価値をどう測るのか。KPI設計をはじめ、答えの出ていない論点は残りますが、チャネル設計を見直すうえで多くの示唆が得られる講演となりました。


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