地域フォーミュラリとは?全国展開の最新動向と製薬マーケティングへの影響

地域フォーミュラリとは?全国展開の最新動向と製薬マーケティングへの影響

「地域フォーミュラリの全国展開」は、2025年6月の骨太方針に明記され、2026年でも推進する方針が引き継がれました。都道府県には2026年度中に検討の場を設けることも求められています。一方、策定・運用が開始されているのは一部の地域にとどまり、進行状況や対象薬効群には地域差があるのが現状です。本記事では、地域フォーミュラリの仕組みや全国展開に向けた動向、製薬マーケティングへの影響、今後求められる対応について考察します。

地域フォーミュラリとは

厚生労働省は、地域フォーミュラリを以下の通り定義しています1)


地域の医師、薬剤師などの医療従事者とその関係団体の協働により、有効性、安全性に加えて、経済性なども含めて総合的な観点から最適であると判断された医薬品が収載されている地域における医薬品集及びその使用方針


地域で薬剤選択の考え方を共有し、患者に良質な薬物療法を提供することが目的です。また、地域で使用する全ての医薬品を網羅するものではなく、対象とする薬効群を選んで作成されます。

病院フォーミュラリが一つの医療機関を対象に、院内の医師や薬剤師などによって作成・運用されるのに対し、地域フォーミュラリは地域全体を対象とし、地域の医師や薬剤師などの医療関係者と関係団体が協働して作成・運用します。


また、地域フォーミュラリは、単に後発医薬品への一律の切り替えを求める仕組みではありません。収載薬は原則として有効成分の一般的名称で表記し、合理的な理由がある場合には特定の銘柄を選定して販売名を明記できます。収載薬の使用はあくまで推奨という位置付けであり、医師の処方や掲載されていない医薬品の使用を制限するものではなく、すでに治療を受けている患者に使用中の医薬品の変更を強いるものでもありません2)

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全国展開に向けて進む地域フォーミュラリの最新動向

地域フォーミュラリは、骨太方針への明記や都道府県に対する検討の場の設置要請を通じて、全国展開に向けた動きが進んでいます。ここでは、国の政策動向から都道府県への協力要請、現在の導入状況までを順に紹介します。

骨太方針2025で「全国展開」を明記し2026年も方針を継続

地域フォーミュラリをめぐる政策は、2025年以降に大きく動いています。2025年6月13日に閣議決定された骨太方針2025では「地域フォーミュラリの全国展開」が明記されました3)


さらに、2026年7月21日に閣議決定された骨太方針2026でも、地域フォーミュラリの全国展開が引き続き掲げられました。長期処方やリフィル処方箋の活用、休薬・減薬などとともに、給付の効率化・適正化を図る施策の1つとして示されています4)


2025年に「全国展開」が明記され、2026年も同じ方向性が継続されたことで、地域フォーミュラリは複数年にわたって全国への普及が進められる政策課題となっています。

2026年度中に検討の場を設けるよう都道府県に要請

厚生労働省は2026年3月、都道府県に対し、2026年度中に地域フォーミュラリの策定に向けて検討する場を設けるよう協力を求めました。年度内に求められているのは地域フォーミュラリそのものの策定ではなく、策定に向けた検討の場の設置です1)


2026年度診療報酬改定では「地域支援・医薬品供給対応体制加算」の施設基準に、地域の医療機関や薬局、医療関係団体と連携し、取り扱う医薬品の品目について情報共有や事前の取り決めを行っておくことが望ましいとする内容も盛り込まれています。地域フォーミュラリそのものを直接評価する加算ではありませんが、地域単位で医薬品供給や情報共有を進める動きとして、関連する政策動向の1つといえます5)

地域フォーミュラリの導入状況と先行地域の事例

2026年3月30日付の厚生労働省通知では、策定中3件を含む地域フォーミュラリは23件、1件以上策定している都道府県は15道府県とされています1)。一方、日本フォーミュラリ学会が公式サイトで公表している独自調査では、2026年2月時点で実施30地区、準備中31地区の計61地区とされています6)


学会調査では、地域フォーミュラリのリストが存在する地域を「実施」、関係者が実施の意思を示して準備を進めている地域を「準備中」として、人脈・報道・ホームページなどを活用して集計しています。厚生労働省とは集計方法や対象範囲が異なるため、数値を単純には比較できません。


先行地域の1つである山形県酒田市では、2018年にアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)の地域フォーミュラリの運用を開始しました。2024年度のNDBデータを用いて患者数を分析した結果、オルメサルタン後発品の利用率は全国21%に対して酒田市32%、テルミサルタン後発品は全国17%に対して酒田市27%でした7)。推奨薬に利用が集中しており、リストに沿って地域全体の処方が標準化されていることがうかがえる結果です。


薬剤費への影響も定量的に示されています。酒田市のARBの薬剤費は、地域フォーミュラリ開始前の2017年度の約2.7億円から2024年度には約0.8億円まで減少し、プロトンポンプ阻害薬(PPI)も約2.6億円から約1.7億円に減少しました。厚生労働省は、人口約10万人の同市でARBのみで約2億円弱、PPIのみで約1億円弱の医療費削減効果があったとしています7)


ただし、全国的にも後発医薬品の使用は進んでおり、この減少には地域フォーミュラリ以外の後発品促進策の影響も含まれる点には留意が必要です。しかしながら、先発品(長期収載品)を持つ企業にとっては、一地域でこの規模の市場変化が起こり得ることを示す数字といえます。

地域フォーミュラリの普及で製薬マーケティングはどう変わるか

地域フォーミュラリの普及により、製薬企業が意識すべき関係者や医薬品の評価項目が広がる可能性があります。

前述のとおり、リストへの収載・非収載が処方を直接制限するわけではありませんが、地域の合意として推奨薬が示されることは、処方選択に一定の影響を与えると考えられます。

ここでは、影響を受けやすい領域、情報提供の対象、製品価値の伝え方という3つの側面から、製薬マーケティングへの影響を見ていきます。

対象薬効群はPPI・スタチン・ARBが中心、先発品は「選択順位」を争う立場に

令和7年5月時点で都道府県が把握していた地域フォーミュラリ17件の対象薬効群は、PPIが12件と最も多く、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)11件、ARB 9件と続きます7)。いずれも後発医薬品があり、同種同効薬の多い生活習慣病・消化器領域です。長期収載品を持つ領域は影響を受けやすい一方、後発品のない新薬やスペシャリティ領域は、現時点では対象になりにくいといえます。


また、リストに載るのは後発品だけとは限りません。八尾市のPPIでは、後発品を推奨薬としつつ、逆流性食道炎の場合のオプションとして先発品が選定されています7)。国も、第4期医療費適正化計画の基本方針に、「先発医薬品を含む医薬品の推奨される選択順位の決定を進める」と追記しており7)、先発品は一律にリストから外れるのではなく、条件付きの選択順位を争う立場になります。策定の検討段階で、自社品の臨床的な位置づけや経済性を示せるかが問われることになるでしょう。


なお、国は今後、全国の地域フォーミュラリを分析し、参考となる薬効群の成分リストを作成・公表する方針です1)。どの薬効群が全国的な検討対象になり得るかを示す先行指標として、注視しておきたい動きです。

医師中心の情報提供から地域の関係者を意識した対応へ

地域フォーミュラリの策定・運用には、医師だけでなく、病院・薬局の薬剤師、医師会、薬剤師会、行政、保険者などが関わります。厚生労働省も、地域の医師や薬剤師などによる組織を設け、関係団体の協力を得ながら合議の下で作成・運用し、行政機関や保険者の関与も検討するよう示しています2)


そのため、個別の医療機関や医師への情報提供に加えて、地域で誰が策定・運用に関わり、どのような枠組みで合意形成が進むのかを把握する視点が欠かせません。

価格中心の訴求から供給安定性や製剤特性を含む価値訴求へ

地域フォーミュラリでは、有効性や安全性、経済性だけでなく、適応範囲や品質、製剤の特徴、服用回数、安定供給を含めた製造販売業者の体制なども考慮して医薬品を選定します。薬価だけで採否が決まる仕組みではなく、患者や医療関係者にとっての使いやすさや、継続的に供給できる体制まで含めて総合的に評価される点が特徴です2)

そのため製薬企業には、価格面の優位性だけを訴求するのではなく、製剤特性や供給体制など、自社製品が地域医療にもたらす価値を具体的に示す視点が求められます。地域ごとの選定基準を踏まえて必要な情報を届けることも欠かせません。こうした評価項目の広がりは、MRが提供する情報の内容や、製品・薬効群ごとのマーケティング戦略にも影響する可能性があります。自社製品について、価格以外にどのような価値を示せるか、選定時の観点に沿って棚卸ししておく必要があるでしょう。

地域フォーミュラリの普及に製薬企業はどう対応するか

2026年度中に全都道府県で検討の場が設けられれば、「どの地域で、どの薬効群が対象になるか」が今後順次決まっていきます。リストが固まってから動くのでは、製薬企業が打てる手は限られます。鍵になるのは、地域ごとの現状をどれだけ早く把握できるかと、選定から運用後までの各段階でどんな情報を届けられるかの2点です。

地域ごとの策定状況を把握してエリア戦略に反映する

地域フォーミュラリは、地域ごとに策定の進行状況や対象薬効群、検討に関わる団体、選定基準などが異なります。厚生労働省の調査でも、策定に参加する団体は薬剤師会や医師会をはじめ地域によって異なり、策定に向けた検討の場についても、新たに設置する場合と既存の会議体を活用する場合があります1)


製薬企業には、全国一律の戦略だけでなく、自社製品に関連する薬効群が対象となっているか、どのような関係者が検討に関わっているか、策定や更新がどの段階にあるかを把握し、エリア戦略へ反映する視点が必要です。そのためには、エリア担当者が得た情報をマーケットアクセスや渉外、メディカル、営業企画などと共有し、本社の製品戦略と地域での対応を連動させることが求められます。


地域単位でのデータ分析の進め方や、エリア担当者と本社の連携づくりは、以下の記事で詳しく解説しています。


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選定時から運用後まで必要な情報を提供する

地域フォーミュラリへの対応は、医薬品の選定時だけで完結するものではありません。策定時には各医薬品を比較するための情報が必要となる一方、作成後も最新情報に基づいた更新が行われます。


厚生労働省は、新医薬品や後発医薬品の薬価収載などに合わせた定期的な更新に加え、診療ガイドラインの改訂などによって対象疾患領域の薬物療法に変化が生じた場合も、更新のタイミングとして挙げています2)


こうした運用を踏まえると、製薬企業には選定時の情報提供にとどまらず、運用後も新たなエビデンスや安全性・適正使用情報、供給状況などを必要に応じて届ける視点が求められるでしょう。地域フォーミュラリの更新に必要な情報を継続的に提供することが、地域における適切な医薬品使用を支える一助となります。

地域フォーミュラリの今と、製薬企業が押さえるべき視点

地域フォーミュラリは、骨太方針への明記や都道府県に対する検討の場の設置要請を受け、全国展開に向けた動きが進んでいます。一方、策定・運用状況やリストの対象となる薬効群などは地域によって異なり、全国一律に対応できるものではありません。


製薬企業には、地域ごとの策定状況や検討体制を把握し、エリア戦略や製品戦略へ反映する視点が求められます。さらに、選定時のエビデンスや製剤特性、供給体制に関する情報だけでなく、運用後も安全性や適正使用、供給状況、医療経済性などの情報を継続して届けることが、地域フォーミュラリの普及を見据えた対応につながります。


地域フォーミュラリをめぐっては、2026年度中の都道府県での検討の場の設置に加え、国による参考となる薬効群の成分リストの作成・公表や、取組状況調査(年2回程度を予定)の結果公表など、今後も節目となる動きが続きます1)。どの薬効群が全国的な検討対象となるのか、担当エリアの検討がどの段階まで進むのか、引き続き国と地域の動向に注目していきましょう。


<出典>※URL最終閲覧日(2026.08.10)

1)厚生労働省,2026.03.30,地域で協働して作成する推奨薬リスト(地域フォーミュラリ)について(協力依頼)

https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001683947.pdf

2)厚生労働省,2023.07.07,フォーミュラリの運用について

https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001561816.pdf

3)内閣府,2025.06.13,経済財政運営と改革の基本方針2025

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2025/2025_basicpolicies_ja.pdf

4)内閣府,2026.07.21,経済財政運営と改革の基本方針2026

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/2026_basicpolicies_ja.pdf

5)厚生労働省,2026.07.01,令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】

https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001717704.pdf

6)一般社団法人日本フォーミュラリ学会

https://formulary.or.jp/

7)厚生労働省,2026.02.12,第4期医療費適正化計画における地域フォーミュラリについて

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001654422.pdf