【書評】『コトラーのマーケティング5.0』から考える「人間×テクノロジー」|編集部が選ぶ!製薬マーケティングに効く一冊 #04

世界的に知られるマーケティングの巨匠、フィリップ・コトラーが提唱する「マーケティング5.0」を、製薬マーケティングに置き換えたら何が見えてくるのか――。そんな問いから手に取ったのが『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』です。Medinew編集部による「編集部が選ぶ!製薬マーケティングに効く一冊」、第4回は、今なおマーケティングの世界に大きな影響を与え続けている、フィリップ・コトラーによる本書を紹介します。
今回の一冊

『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』
著者:フィリップ・コトラー、ヘルマワン・カルタジャヤ、イワン・セティアワン
監訳者:恩藏直人
訳者:藤井清美
刊行日:2022年4月20日
発行:朝日新聞出版
著者について
フィリップ・コトラーは、「現代マーケティングの父」とも称される世界的なマーケティング研究の第一人者です。マーケティングという領域を体系化し、現在に至るまで世界のマーケティング実務やMBA教育に大きな影響を与え続けています。
共著者のヘルマワン・カルタジャヤは、経営コンサルティング企業マークプラス社の創業者であり、執行役会長。英国公認のマーケティング協会から「マーケティングの未来を形作った50人のリーダー」の1人にも選出されています。また、イワン・セティアワンは同社のCEOとして、企業の経営戦略やマーケティング戦略の設計を支援しています。
「テクノロジー」の本ではなく、「人間×テクノロジー」の本
コトラーは、マーケティングの進化を「1.0=製品中心」「2.0=顧客中心」「3.0=人間中心」ととらえてきました。その後、デジタル時代の「4.0」を経て、デジタル・テクノロジー時代のマーケティングを考える「5.0」が、2021年に原著、2022年に日本語版として刊行されました。
本書の内容を一言で表すなら、テクノロジーで人間中心のマーケティングを進化させるための方法論です。
その中身として提示されるのが、「データドリブン」「予測」「コンテクスチュアル」「拡張」「アジャイル」という5つの要素です。データを収集・分析して意思決定につなげ、予測によって先回りし、顧客の文脈に応じた体験を提供する。そして、テクノロジーによって人間の能力を拡張し、組織として素早く実行・改善する。これが本書の描くマーケティング5.0です。
5.0を製薬マーケティングに置き換えてみる
本書の5つの要素は、製薬マーケティングの実務にも置き換えて考えることができます。なかでも応用しやすいのが、「データで顧客を理解する」「次の行動を予測する」「その時々の文脈に合わせる」「テクノロジーで人間の能力を拡張する」という4つの視点です。
データドリブンと予測:データから次の一手を考える
例えば、医師のWeb閲覧、メールへの反応、Web講演会への参加、MRとの面談など、製薬企業にはさまざまな顧客接点のデータが蓄積されています。
しかし、重要なのはデータを「持つ」ことではありません。データから顧客の関心や行動を理解し、さらに「次に何を必要とするのか」を予測し、マーケティング活動につなげることです。
「何が起きたか」を分析するだけでなく、「次に何が起こるか」を予測する。本書から得られるデータドリブンと予測の視点は、そんな一歩先の活用を考えるきっかけになります。
コンテクスチュアル・マーケティング
さらに一歩進めると、オムニチャネルの考え方も変わってきます。
これまでのオムニチャネルでは、「MR、メール、Web、講演会など、どのチャネルをどう組み合わせるか」が重要なテーマでした。一方、本書の「コンテクスチュアル・マーケティング」の視点から考えると、その先にあるのは、「その医師が今どのような状況にあり、何を必要としているのか」という問いです。
同じ医師でも、診療上の疑問を抱えているとき、最新情報を探しているとき、治療選択肢を検討しているときでは、必要とする情報は異なります。つまり、オムニチャネルの次に求められるのは、「チャネルの最適化」から「文脈の最適化」への進化なのかもしれません。
拡張マーケティング
そして、もう一つ重要なのが「拡張」です。本書では、AIなどのテクノロジーによって人間の能力を拡張するという考え方が示されています。
これを製薬マーケティングに置き換えてみると、例えばAIが医師の情報接触履歴や関心領域を整理し、次に提案すべきアクションの候補を提示する。一方、MRは、AIには代替しにくい対話や関係構築により集中する、といった役割分担が考えられます。
「AI 対 MR」ではなく、「AI × MR」。テクノロジーによって人間の役割をなくすのではなく、人間とテクノロジー、それぞれの強みを組み合わせる。本書が示す「拡張」という考え方は、その具体像を描くヒントになります。
なぜ今、「コトラーのマーケティング5.0」なのか
本書は生成AIやAIエージェントなど、2026年の最新テクノロジーを知るための本ではありません。それでも今、読む価値があるのは、テクノロジーとマーケティングをどう結びつけるかという「考え方」が示されているからです。
本書全体を通じて伝わってくるのは、「人間か、テクノロジーか」という二者択一ではないというメッセージです。データ分析や予測など、テクノロジーが得意とすることはテクノロジーに任せる。一方で、人間にしかできない判断や対話、共感は人間が担う。両者の強みを組み合わせることで、顧客により大きな価値を提供する。それが本書の描く「人間×テクノロジー」のマーケティングです。
生成AIやAIエージェントの活用が加速する中、問われているのは「AIで何ができるか」ではなく、「マーケティング戦略を実現するために、AIに何をさせるのか」です。テクノロジー時代のマーケティングをどう設計するかを考えたい人に、手に取ってほしい一冊です。
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