ユーザーが迷わないサイトを作る|製薬企業のためのヒューリスティック分析入門

ユーザーが迷わないサイトを作る|製薬企業のためのヒューリスティック分析入門

ヒューリスティック分析とは、ユーザビリティの専門家が経験則(ヒューリスティクス)に基づく評価基準を用いて、Webサイトの問題点を体系的に洗い出す定性的な評価手法です。

製薬企業のWebサイトは、正確性や厳密性を担保しながら多様な情報を届ける必要がある一方で、構造が複雑化しやすく、重要な導線でユーザーが迷いやすいという課題を抱えています。本記事では、医師向けサイトや疾患啓発サイトを例に、ヒューリスティック分析が製薬マーケティングで有効な理由とその具体的な実践ステップ、成功のポイントを解説します。

ヒューリスティック分析とは

ヒューリスティック分析とは、「直感や経験則から来る気づき(ヒューリスティクス)」に基づいてWebサイトを評価し、使い勝手の問題点を特定する定性的な評価手法です。
 
UIやUXの原則に合わせたチェックリストを用意し、それに沿ってUI・UX専門家やWebサイト担当者が実際にWebサイトを操作しながら、「迷い」「不安」「行動の妨げ」を感じる箇所を抽出します。
 
特に、会員登録や資料ダウンロードなど、ユーザーの目的が明確な導線を評価する場合に有効です。ユーザー調査(ユーザビリティテスト)や大掛かりなログデータ分析に比べると、短期間かつ低コストで具体的な改善仮説を立てられる点が最大の特徴です。 

製薬マーケでヒューリスティック分析が必要な理由

重要な導線に焦点を絞り、UI/UXを手早く評価できるヒューリスティック分析は、以下の理由から製薬マーケティングでも重要な手法といえます。
 

  • 離脱しやすさの改善

製薬企業の運営するWebサイトは、情報の正確性や厳密性を求められる一方で、膨大な情報を提供しているため、複雑な構造になりがちです。特に医師向けサイトでは、限られた時間で必要な情報に迅速にアクセスできないことがユーザーにとって大きなストレスとなり、導線の分かりにくさはそのまま離脱につながります。

 

  • コンバージョン導線の最適化

製薬企業の運営するWebサイトは、いずれも明確な目的(KGI:Key Goal Indicator)とユーザーに期待する行動(コンバージョン)が設定されており、そこに向けた導線をスムーズに保つ必要があります。

 
表 製薬企業が運営する各サイトの目的と導線の工夫

サイト種別

目的

期待する行動の例

導線の工夫の例

医療関係者向けサイト

処方最大化、適正使用

  • 資材ダウンロード
  • 会員登録
  • 製品情報へのワンクリック導線
  • 固定CTAの配置
  • ログインの簡便化

患者向けサイト

アドヒアランス向上、疑問解消

  • 服薬支援ツールの使用
  • 症状・悩み別の入口設計
  • ステップ型ナビゲーション
  • 相談窓口への接続

疾患啓発サイト

潜在患者の発掘

  • セルフチェック
  • 病院検索
  • 専門医受診
  • セルフチェックへのCTA強調
  • チェック後の受診勧奨への接続
  • 離脱ポイント前のリマインド

コーポレートサイト

企業信頼度向上

  • プレスリリース閲覧
  • 採用応募
  • 重要情報への即時アクセス
  • 情報の階層整理
  • ナビゲーションの明確化

ヒューリスティック分析の特徴

低コストかつ短期間で実施可能

ヒューリスティック分析は、数人の評価者がWebサイトを閲覧するだけで実施できます。そのため、大掛かりなログデータ分析やユーザー調査に比べると、低コストかつ短期間での仮説構築が可能です。
 
医師向けサイトは膨大な情報量を有することが多いですが、その場合は目的を絞ったヒューリスティック分析が有効です。「コンテンツの回遊性」や「薬剤情報の検索性」、MRを含めた他チャネルとの連携のハブとなる「会員登録への導線」など、重要な評価ポイントに絞って分析することで、コストを抑えることができます。 

数値では測れない潜在的問題を発見可能

ヒューリスティック分析は、アクセス解析では見えないユーザー心理上の障壁を特定できます。例えば、以下のような課題です。

  • 目的のページまでの階層が深すぎる
  • リンクであることが分かりづらい
  • ラベルの用語が直感的に理解できない
  • 画面ごとに操作ルールが違う
  • 専門用語が適切に解説されていない
  • 重要な警告文や注意事項が目に入らない

プロトタイプでも評価可能

製薬企業のWebサイトでは厳格な審査プロセスがあるため、実装後の修正は大きな負担になります。ヒューリスティック分析はワイヤーフレームやデザイン案の段階でも実施できるため、早い段階でUX上の課題を解消できれば、手戻りを最小限に抑えられます。

ヒューリスティック分析の実践の5ステップ

ヒューリスティック分析は、次のような5つのステップで実践します。
 

  1. 分析の目的とターゲットの明確化
  2. 評価指標の選定とチェックリスト作成
  3. 評価の実施と問題点の抽出
  4. 問題点の優先順位付け
  5. 改善施策の立案

 
ここでは製薬企業の医師向けサイトを例に挙げて、ヒューリスティック分析の具体的なやり方について解説します。 

STEP1:分析の目的とターゲットの明確化

最初に、ヒューリスティック分析で「何を改善したいのか」を言語化し、分析するWebサイト・ページの範囲を明確化します。例えば、医師向けサイトを分析する場合でも、以下のいずれを目的とするかで見るべき範囲や着眼点は大きく変わります。
 

  • 会員登録の完了率の向上
  • 資材のダウンロード数の最大化
  • 特定の安全性情報の閲覧

 
また、分析対象のWebサイト・ページが、どのような医師をメインターゲットとしているのかの再確認も欠かせません。疾患の特性や製品のライフサイクルを踏まえ、リーチしたい医師像を改めて考えることで、ニーズに合致した情報提示ができているかをチェックできます。

STEP2:評価指標の選定とチェックリスト作成

UI/UX、ユーザビリティの一般原則をリストアップし、評価指標として使う項目を選定します。
 
例えば、以下はMedinewの有料調査サービス「Medinew Research」が提供しているヒューリスティック分析のチェックリストです。

ヒューリスティック分析のチェックリスト(Medinew Research)

それぞれのチェック項目は、○×判定だけで終わるのではなく、問題点が見つかったら以下の内容を合わせて記載できるようにします。
 

  • 問題箇所の画面キャプチャ
  • その問題によるユーザー行動への悪影響
  • 具体的な改善策の案

STEP3:評価の実施と問題点の抽出

実際の評価を行うフェーズでは、評価者が実際にサイトを操作しながら、チェックリストに基づいて問題点を抽出します。
 
多様なバックグラウンドを持つ複数の評価者が個別にチェックを実施し、最後に結果を統合すると、精度が高まります。それぞれの評価者が独立してレビューを行うことで、個人の主観や好みによる偏りをなくし、見落としも防ぎます。

STEP4:問題点の優先順位付け

抽出した問題点を、以下の3つの軸で数値化して優先順位を付け、課題として着手すべきか否かとその順番を決定します。
 

  • 発生頻度:どれくらい多くのユーザーが遭遇するか
  • 影響度:目的の行動がどれくらい妨げられるか
  • 修正コスト:改善にどれくらいのコストがかかるか

STEP5:改善施策の立案

課題を特定したら、実際の改善施策を立案します。その課題に上手く対処している好事例について、他業界も含めたWebサイトから探し、具体的な改善策をまとめます。

ヒューリスティック分析を成功させるポイント

ヒューリスティック分析は、抽出された問題点に対する改善策が実装されて初めて成果につながります。ここではヒューリスティック分析を成功させるポイントについて解説します。

評価は1人ではなく複数人で実施する

ヒューリスティック分析は、直感や経験則から来る気づきを活用するという特性上、評価者の経験や好みによるばらつきが生じやすいため、複数人で実施することで精度を上げます
 
ただし、そのWebサイトを日頃から見慣れている運営チームの担当者のみが評価者になると、客観的な評価が難しく、見落としが生じやすくなる可能性もあります。そのため、運営チーム外からも評価者を募り、多様なバックグラウンドを持つ評価者を集められるとなお良いでしょう。
 
あるいは、Webサイト分析の専門家に協力を仰ぐことも一案です。ヒューリスティック分析は内製で実施可能ですが、多数のWebサイトを分析してきた経験に基づいた、外部の専門家による客観的な視点を交えることで、より効果的な分析を実施できます。

競合サイトと比較する

競合他社や他業界の使いやすいと感じるWebサイトでもヒューリスティック分析を行い、ベンチマークとして比較するのが有効です。
 
例えば、自社と他社の医師向けサイトのトップからそれぞれ検索して、「特定の薬剤クラスの添付文書や関連資材を探す」「特定の悩みを解決するための情報を求めるための窓口を探す」といった行動を行い、そこまでの導線や分かりやすさ、行動のしやすさを記録してみましょう。
 
差が出やすいのは、ページの構造そのものよりも、ラベルの付け方や導線の出し方、注意事項の見せ方です。良い事例を見つけた場合は、それを優れていると感じた理由を言語化すると、改善策に落とし込みやすくなります。

分析結果をアクセス解析データで裏付ける

ヒューリスティック分析は定性的な評価のため、定量的なデータによる裏打ちが重要です。
 
例えば、アクセス解析で「登録フォームの途中離脱が多い」というデータが取れていれば、ヒューリスティック分析で「フォームの入力項目が多い」「エラー表示が分かりにくい」といった問題点が見つかったとき、結び付けて説明できます。
 
他にも、検索クエリやサイト内検索ログには、ユーザーが必要な情報を見つけていないサインが隠れている可能性が高いです。主要なボタンのクリック、資材ダウンロード、会員登録完了などをイベントとして計測しておくと、ユーザーの行動を追いやすくなります。
 
アクセス解析のデータは、改善サイクルを回していくための重要な基盤となります。ヒューリスティック分析に基づいた改善策を実行した後も、アクセス解析で変化を確認し、仮説と結果のズレを評価します。この振り返りが次の分析の精度向上にもつながります。

ヒューリスティック分析で「迷わないサイト」作りの第一歩を

製薬企業のWebサイトは、正確性や網羅性を担保する過程で情報が積み上がりやすく、重要な導線が埋もれてしまうケースも少なくありません。
 
ヒューリスティック分析は、数値だけでは捉えきれないユーザーの「迷いやすさ」を可視化し、短期間で問題点を整理できる手法です。これをUX改善の起点とすることで、よりユーザーが迷わずに目的を達成できるWebサイトの構築が可能になります。