医師向けサイト閲覧時の行動と心理を視覚化する、ヒートマップ分析入門

Webサイトのパフォーマンス向上には、ユーザー行動への深い理解が不可欠です。しかし、Google Analyticsなどのアクセス解析では、ページビュー数や離脱率といったデータは把握できても、ユーザーがどの部分に注目し、どこで興味を失ったのかまでは見えてきません。
そこで新たな打ち手となり得るのが、「ヒートマップ分析」です。サイト上でのユーザー行動を色分けして視覚化することで、直感的にユーザーの心理を理解できます。
本記事では、ヒートマップ分析の基本と製薬マーケティングにおける活用方法を解説します。
製薬マーケティングでヒートマップが必要な理由
製薬企業のWebサイトは、一般的な企業サイトに比べて、情報量が多く構造も複雑になりがちです。各種規制などへの対応が必要で、さまざまな文書のPDFが置かれ、ドメイン構造は複雑で、免責事項も多々載せざるを得ない。「どこに何があるか」を直感的に理解しづらい設計になりやすいのが実情です。
その結果、ユーザーである医師側からは「欲しい情報になかなかたどり着けない」「目的の情報を見つけやすいサイトにしてほしい」といった声がよく挙がることになります。
▼関連記事
【DL資料あり】医師の情報収集方法および製薬企業との関わりに関する調査レポート2024年版 -オウンドメディア編
一方で、製薬企業サイトではコンプライアンスや社内審査プロセスの制約もあり、大規模なコンテンツ刷新やA/Bテストを高頻度に行うことは現実的ではありません。
だからこそ、「図表の配置を入れ替える」「モバイルでの情報の出し方を変える」「ナビゲーションメニューを調整する」といったコンテンツ・UIの改善にも、担当者個人やチームメンバーの感覚だけでなく、たしかな裏付けが求められます。
そうした状況にあって、「ユーザーがどこで迷っているのか」を可視化し、サイト改善の意思決定のエビデンスの一つとなるのが「ヒートマップ分析」です。専用ツールをWebサイトに導入することで実施できます。
ヒートマップ分析で「どこを見て」「クリックして」「離脱する」か分かる
ヒートマップ分析は、Webサイト上でのユーザーの行動を色分けで表現する分析手法です。
ユーザーがよく注目した箇所を赤、あまり注目されなかった箇所を青といったグラデーションで表示するため、Webサイトの課題や改善点を直感的に一目で把握しやすくなります。
ヒートマップ分析ツールには有料・無料のものがありますが、ユーザー行動を総合的に把握するために、多くのツールには以下の3つの機能が備わっています。
アテンションマップ
アテンションマップは、ユーザーがWebページ上の各エリアにどれくらいの時間とどまったか、つまり熟読したかを可視化します。ユーザーが長く見た箇所は赤や黄色、あまり見なかった箇所は水色や青色で表示されます。
ユーザーの興味や関心の度合いが分かるので、人気コンテンツや相対的に分かりにくい箇所を発見できます。
例えば以下の例は、製薬マーケティングのフレームワークに関するMedinew記事のアテンションマップです。読者からは解説スライドが比較的注目されていたことが分かります。
クリックマップ
クリックマップは、ユーザーがWebページ上のどこをクリック(またはタップ)したかを可視化します。赤い箇所はクリック回数が多く、水色や紫はクリック回数が少ない場所です。
これは特に、ボタンやリンクなどの有効性を評価するのに役立ちます。また、リンクではない要素がクリックされている「誤クリック(デッドクリック)」の発見にも不可欠です。画像やテキストがリンクだと誤解されてクリックされているなら、UI設計の改善が必要なサインです。
例えば、以下はMedinewトップページのクリックヒートマップです。上部のカルーセルを左右に動かしたり、記事一覧のボタンを押したりと、最新記事を確認する動きが目立っています。
スクロールマップ
スクロールマップは、ページのどの深さまでユーザーが到達したのか、つまりそのページを離脱した地点を可視化します。コンテンツのどこでユーザーが興味を失ったのかを特定するのに役立ちます。
例えば、以下はMedinewで最近公開された医師コラム記事のスクロールマップです。来訪したユーザーの7割が、コラムの最後までスクロールしたことが分かります。
ヒートマップで得たインサイトの活用方法
従来のアクセス解析ツールは、ページビュー数や滞在時間、離脱率などの「結果」を計測するためのものです。一方、ヒートマップ分析は、「なぜそのような結果になったのか」というユーザーの意図や具体的な行動パターンを可視化し、定性的なインサイトを提供します。
ヒートマップ分析から得られたインサイトは、数値データだけでは見えない「ユーザーの実際の行動」を直感的に分かりやく可視化するものです。例えば、「離脱率が高い」という数値からは原因が分かりませんが、ヒートマップを見れば「重要な情報の手前で読むのをやめている」「CTAボタンに気づいていない」といった具体的な問題が一目で把握できます。
こうしたインサイトの把握は、CTA(コールトゥアクション)への誘導やコンバージョンの達成を向上する施策を考える際に役立ちます。ここではその方法をご紹介します。
目標地点(コンバージョン)をまず確認
Webサイトでは、運営の目標として、来訪したユーザーに促したいアクション(コンバージョン)を設定します。そのコンバージョンにユーザーを誘導するためのボタンやリンクはCTAと呼ばれます。
▼関連記事

製薬企業の医療関係者向けサイトのコンバージョンは、ユーザーの「お問い合わせ」や「資料請求」、「製品情報」や「Web講演会」のページ閲覧であることが多いです。会員化されている製薬企業サイトも多いため、そうしたサイトでは医療関係者による会員登録やログインがコンバージョンに設定されていることもあります。
ヒートマップ分析では、こうしたコンバージョンへの導線(CTA)が、ページ内で適切に設置されているか、ユーザーに認識されているか確認する視点が最も重要です。
視覚化された行動データからインサイト抽出
ヒートマップ分析ツールの各マップからは、以下のような具体的なインサイトと課題、それに対応するための改善施策を考えることができます。
マップの種類 | 視覚化されるユーザー行動 | 分析のポイント | 改善施策の例 |
|---|---|---|---|
アテンション | ページの特定箇所に滞在した時間 | ・見てほしいのに無視されている箇所は? ・思いがけず熟読されている箇所は? | ・分かりにくい箇所の削除や図表化 ・潜在ニーズへの対応の強化 |
クリック | 関心を持って操作を試みた箇所 | ・押してほしいCTAはクリックされているか? ・思いがけずクリックされている箇所はないか? | ・CTAの配置調整、最適化 ・非リンク要素のデザインの調整、明確化 |
スクロール | ページのどこまでを閲覧したか | ・見てほしい箇所まで表示されているか? ・大きな離脱が発生している箇所は? | ・CTAの位置調整、目次の追加や表示速度の改善 ・ニーズが低い箇所の削除や調整 |
課題を起点に改善サイクルを回す
ヒートマップ分析で可視化されたWebサイトの課題を、改善施策につなげるには、次のようなステップが必要です。
1.分析する
ヒートマップで、コンバージョンに関わるユーザー行動を確認しましょう。想定と異なる動きを見つけたら、「なぜこのような行動が起きているのか?」という問いを立て、仮説を構築します。
例)CTAがクリックされない場合、以下のような原因が考えられます。
・文字などが多すぎて分かりにくい
・CTAがページの深すぎる箇所にある
・他のコンテンツの方が目立っている
・ユーザーの興味や来訪の意図とずれている
2.比較する
多くのヒートマップ分析ツールでは、セグメント別やデバイス別での比較も可能です。さらに、ヒートマップ分析だけでなく、アクセス解析で得られる数値データ(直帰率、滞在時間、CVR)と統合して考えることもできます。
例)モバイルユーザーだけ滞在時間が短いページは、ユーザーニーズには合っているのに、モバイルでのユーザビリティが悪い可能性があります。そのページ内で拡大縮小操作が多く発生しているなら、図表が小さすぎて見づらいという仮説の裏付けになり得るでしょう。
3.改善する
構築した仮説をもとに、改善施策を考えます。
・CTAが目立っていないなら、デザインや配置の変更で改善されるかもしれません。
・コンテンツとユーザーの来訪の意図がずれていそうなら、流入経路のテキストやバナーの方を調整する、もしくは読まれていない箇所を削除することも一案です。
・思いがけず熟読されている潜在的な人気コンテンツは強化し、より目立つ位置に配置することも考えましょう。
4.検証する
改善施策の効果を検証しましょう。異なるデザインやレイアウトのA/Bテストを実施できる場合は行います。あるいは、多くのヒートマップ分析ツールでは期間を区切った分析が可能なので、修正の前後での比較もできます。
こうした分析・改善は、1回で終わりではありません。ユーザー行動は時とともに変化するため、改善サイクルを継続的に回すことが大切です。
ヒートマップ分析の試し方と選び方
ヒートマップ分析ツールは、完全無料のものからエンタープライズ向けまで多数存在しています。まずはいくつか試し、使い勝手がよければ本格導入に向けて選定に入るのがよいでしょう。
どのツールも、分析を行うには対象のWebサイトにトラッキングコードを埋め込む必要がありますが、初期設定は専門知識がなくても比較的容易です。なお、製薬企業の既存のWebサイトでは導入済みのケースも多いと考えられますので、まずは関係者や技術部門に確認することをおすすめします。
ツール選定では、次の観点を整理すると検討しやすくなります。
- 取得できる行動データ:確認したい種類のヒートマップを取得できるか、デバイス別・セグメント別の比較が可能か。
- 既存環境との整合性:アクセス解析などの既存の分析基盤や社内システムと連携できるか。データの保管などのセキュリティ面は社内的に問題ないか。
- ガバナンス:タグの実装方法、権限管理、データ保存やエクスポートなどが、社内の運用ルールやセキュリティポリシーに適合するか。
無料でも試せる、主要ツール比較
主要なヒートマップ分析ツールをまとめたので、比較時の参考にしてください。完全無料のツールもある一方、高機能やエンタープライズ向けを謳う有料プラットフォームも存在します。
(※料金や機能は変更される可能性があるため、導入時には各ツールの公式サイトで最新情報をご確認ください。)
Microsoft Clarity
完全無料で使用できるMicrosoftの行動分析ツール。セッションリプレイや AI Copilot、Google Analytics連携などを備え、小規模サイトから大規模サイトまで対応している。
ミエルカヒートマップ
コンテンツSEOと相性が良い国産ツール。PVベース課金。熟読エリアの可視化やA/Bテストに強み。GEO(AI検索最適化)やAIコンテンツ制作にも対応している。
User Insight
コンテンツ作成からWeb接客までできる国産ツール。PVベース課金。属性別分析や詳細なフォーム分析など、組織的なサイト改善を行える設計。
Ptengine
ECサイトのマーケティングに強い。月3,000PVまで無料。ノーコードのサイト編集やA/Bテスト、ポップアップ配信などのWeb接客機能が特徴。
Mouseflow
国内外の大手企業で使われており、月500セッションまで無料。高品質なセッションリプレイやフォーム単位の離脱分析、フリクションスコアやファネル分析に対応。
Contentsquare
グローバルエンタープライズ向けのUX分析ツール。月20万セッションまで無料。インパクト分析やウェアハウス連携、AIエージェントなどを備える。
ヒートマップで顧客理解を深め、情報提供の最大化を
ヒートマップ分析は、Webサイト上でのユーザーの行動を視覚的に捉え、「なぜその結果になったのか?」を解明する強力なツールです。製薬オウンドメディアや医療関係者向けWebコンテンツの改善、効果測定、最適化などのさまざまな場面で活用できます。
複雑になりがちな製薬企業のWebサイトだからこそ、医師の実際の行動データに基づいた改善が重要です。Webデザインや分析に詳しくなくても、直感的にユーザーの行動を理解できるヒートマップ分析は、製薬マーケターにとって使いやすい武器となり得ます。仮説構築と検証のサイクルを意識した継続的な運用を取り入れ、医師が必要とする情報に確実に届くサイト設計を実現しましょう。
<出典>
1)製薬企業各社サイトの最新状況を把握できる「製薬企業マーケティングレポート2025年版」, https://www.medinew.jp/downloads/marketing/marketingreport-2025
2)Microsoft Clarity, https://clarity.microsoft.com/lang/ja-jp
3)ミエルカヒートマップ, https://mieru-ca.com/heatmap/
4)User Insight, https://ui.userlocal.jp/
5)Ptengine, https://www.ptengine.jp/
6)Mouseflow, https://mouseflow-jp.com/
7)Contentsquare, https://contentsquare.com/ja-ja/








.png%3Ffm%3Dwebp&w=640&q=75)



