マーケティング担当者が語る|製薬企業がデータ活用で目指すべき真のゴールとは/MDMD2023 Autumnレポート

マーケティング担当者が語る|製薬企業がデータ活用で目指すべき真のゴールとは/MDMD2023 Autumnレポート

2023年9月末に開催したMedinew Digital Marketing Day(MDMD)2023 Autumn。小野薬品工業株式会社 香川勇介氏、アムジェン株式会社 田中友理氏、株式会社JMDC 小沢晴久氏の3名をゲストに迎え、株式会社医薬情報ネットの笹木がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、データを取り扱う際に感じている課題やターゲティングの考え方、製薬企業が目指すべきゴールなどについて、リアルな本音を伺いました。

課題は、データの取捨選択と正しく理解する力

製品の出荷データやオンラインでの各種活動データ、MR活動のデータはもちろん、保険者や医療機関などのリアルワールドデータ、学会や論文といった医師個人の学術活動データなど、今製薬企業は幅広いデータをマーケティング活動に利用できる状況です。最近では、PHR(personal health record;個人健康記録)の活用も広まってきています。

数年前に比べると飛躍的にデータの種類、量が増えている現状において、製薬企業が抱えている課題について伺いました。

データはポジションや部門の違いを超える共通言語

笹木:さまざまなデータが溢れている現在、データ活用において感じている課題について教えてください。

香川:マーケティング活動の結果を測定し、その結果から学んだものを次回以降の活動にフィードバックすることで、どのようにマーケティング活動の最適化を実現していくかが課題です。大量のデータに圧倒されてしまい、成果を向上させるための効果測定をどこから手をつけていいかわからない状態に陥っているケースもあると感じています。

ブランドマネージャーのような製品をリードする責任のある担当者は、マーケティングに投じる費用の正当性を示すと同時に、成果を大幅に改善していかなければなりません。一方で、製品のブランディングやマーケティングを実践していくなかで、認知率向上といった活動は、短期間で売上に直結するものではありませんが、非常に重要なものになります。そうしたマーケティング活動をどのように上層部に理解してもらうのかも大事な課題と考えています。

例えば、効果を判断する指標(KPI)の設定が周囲にきちんと受け入れられているかという点も重要だと思います。社内で納得できるデータを取捨選択して、きちんと分析しマーケティングを効果検証、最適化していく必要があると感じています。

小沢:「社内で納得できる」という点では、データは垣根を超えた共通言語になりやすいと思います。

製薬企業は、メディカルとコマーシャルの大きく2つの活動があります。最終的なビジョンは同じであっても、短期的に考えるとメディカル側がゴールとするところとコマーシャル側がゴールとするところは若干違うことが多いのではないでしょうか。

例えば、同じペイシェントジャーニーを見ても、両者で知りたいことや見方が違うということは発生するだろうと思います。一方で、データというものはファクトなので、共通言語になりやすいです。最終的なビジョンに向かって一緒に考える一つの材料として、データが活用できると思います。

データを読み解く能力がより一層重要に

田中:データの種類が増え、表現できる内容が多岐にわたってきているのはとてもいい変化だと捉えています。一方で、データを扱う側の理解力、解釈のスキルが同時に求められるようになってきた印象があります。

近年はビジネスを取り巻く環境変化がとても早いので、例えば「これはいつのデータなのか」「どういった属性の顧客データなのか」「何を意味するデータなのか」ということから、マーケティングを取り巻くどういった状況の変化が読み取れるかを理解していないと、逆に見誤ってしまうリスクもあります。データを正しく解釈し、今はどのような状況にいるのかを理解する能力も必要になってきています。

データを駆使したターゲティングで、製薬企業は地域医療に貢献できる

笹木:マーケティング活動の中でも、ターゲティングにおけるデータ活用が進んでいます。具体的な実態や課題をお聞かせください。

香川:これまでは、市場性や売上の高い顧客に対して優先的にターゲティングを実施してきました。全ての顧客の中からいかに重要性の高い顧客の特徴を把握し、新規顧客の獲得や育成、そして自社から離れないように維持していくことも重要な課題として捉えています。そして、最適なセグメンテーションの設定についても、マーケティングや営業戦略を考えた場合、領域や製品に応じて状況が大きく異なるため、非常に難しいことを課題として捉えています。加えて製薬企業には、市販後の有効性、安全性の情報収集や伝達という大きな使命があります。このマーケティング格差を乗り越えるためには、顧客価値をベースにしたマーケティング活動が重要になってくると考えています。

田中:ターゲティング精度を上げるという観点において、データはターゲティングを次のステップへ進めていく非常に重要な要素になると思います。例えば、MRが地域の営業活動の中で蓄積したさまざまな情報を形式知化していくプロセスの中で、データと掛け合わせることで再現性が高いものにできる可能性があります。

日本国内でも地域によってさまざまな問題を抱えており、地域差がどんどん大きくなってきています。その医療課題を自社製品とともに解決していく上で、「誰がどのような問題に直面しているからこういった解決策が必要だ」というように、最適なタイミングで解決策を提供できるようになれば、より丁寧なターゲティングができるようになると思います。

小沢:マーケティング活動がマスから1to1に向かっているのは間違いありません。マーケティング活動のゴールの一つには、満たされない患者さんをどのように満たすかという点があります。リアルワールドデータからは、まだ満たされてない患者さんがどこにいるのかいうことが見えるようになってきています。一つのデータだけではなく、いくつかのデータを掛け合わせることで可視化するということに取り組む製薬企業が増えてきている印象です。

データドリブンマーケティングの真のゴールとは

笹木:データドリブンマーケティングの真のゴールをどのように設定すればよいでしょうか?

香川:データドリブンマーケティングの真のゴールは、顧客にとって、我々が担当するブランド(薬剤)やサービスの価値を理解していただくこと、つまりベネフィットを創ることだと思っています。

マーケティングの最も大事な役割は、市場の創造です。マーケティングは顧客が最も評価する属性を変化させて市場を創造し、結果的に顧客のニーズを創り出していると思います。これは、画期的なテクノロジーを持つ医薬品が市場に出てきたとしても、顧客のニーズに合致していなければ、テクノロジーだけでは売れないということを示しており、そこにはマーケティングや営業の体制を含めてさまざまな要因が絡んでいます。製薬会社は医療従事者のパートナーとして、データをさまざまな角度から分析をすることで、我々が担当するブランド(薬剤)の価値を、医師や患者さんが最も評価する属性、つまりニーズに応じて提供していくことが、今後必要になってくるだろうと思います。

田中:私も、多様化する医療従事者や患者ニーズに対して、製薬企業が自社製品を通じて価値創造ができ、顧客満足度を上げることが真のゴールだと考えています。

マーケティングは、製品や医療環境の理想とする状態と今の現実の間にあるギャップを埋めていく活動です。その際に、データは強力な武器になります。データを活用すれば、問題解決のプロセスの中で原因特定の精度が一気に上がるからです。担当エリアで何が、どのようなトレンドで起こっているのか、それが他の地域と具体的に何が違うか、または傾向が全く違う医療機関があったとしたらそこでは何が起こっているかなど、定性的に見れば原因ややり方の違いが見つかり解決に繋がります。

医療従事者も製薬企業も、究極の目標は患者さんのアウトカムを改善していくということに尽きます。地方で抱えている課題と、都心部で抱えている課題が全く異なる日本において、さまざまなデータを駆使すれば地域の今の医療課題を解決するアクションを提案できるかもしれません。そうしたコミュニケーションをとっていくことで、医療従事者と製薬企業は、ともに地域の医療課題を改善し、患者さんのアウトカムを改善するためのパートナーになれると思っています。

小沢:マーケティングという活動をターゲティング、ブランディング、メッセージングに分けた場合、ターゲティングについてはデータ活用がかなり進んできているだろうと思います。これからはブランディング、メッセージングの部分が勝負になると思っています。
例えばデータをただ単純に伝えるだけではなく、MRやMAの方もワクワクするような活用の仕方をすることで、医療従事者、さらには患者さんに最適な薬剤や情報が届くことに繋がるのではと考えています。顧客をワクワクさせるものでありたいということが私の中では一つのゴールです。

笹木:今回のディスカッションでは、マーケティング戦略立案における現在のデータ活用の課題や今後向かうべき方向、データドリブンマーケティングが医師や患者さん、あるいはMRの活動にどのようなベネフィットをもたらすのかについて、現場で活躍する3名にお話しいただきました。

本日は貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。