医師のリアルなデジタル行動を可視化!ログスケによる新たなプロモーション分析のかたち|MDMD2025 Summerレポート
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2025年6月に製薬・医療機器業界の有識者が集結し開催されたMedinew Digital Marketing Day(MDMD) 2025 Summer。本記事では、株式会社インテージヘルスケア ヘルスケアソリューション事業部 事業部長 町田脩氏による講演「ログスケが紐解く!医師のデジタル行動とデジタルプロモーション効果の真実」より、これまでにない解像度で医師のデジタル行動パターンを可視化する新たな手法についてレポートします。
製薬企業が観測できる医師のデジタル行動の限界を打破するデータ収集手法
町田氏は、現在の製薬企業が直面するデジタルマーケティングの課題について「これまで製薬企業が把握できる医師のデジタル行動は極めて限定的だった」といいます。自社オウンドサイトではログインがない状態では医師の属性把握が困難であることや、サードパーティーでの配信コンテンツは自社分に限られ、接触の有無程度の情報しか得られなかったためです。さらに、公的なサイトや学会サイトなどその他の医療サイトにおける医師の利用状況を把握することは事実上不可能でした。

同社では、このような観測範囲の制限を根本的に解決するために、新たなサービス「ログスケ」を提供しています。同サービスは、パネル調査に協力する医師に適切な同意を得た上で、 ブラウザログデータを収集するという手法を採用しています。収集されるデータには、URL接触日時、接触秒数、リファラー情報、検索サイトや対話型AIへの入力テキストなど、詳細な行動履歴が含まれています。
ログスケから分かる医師のリアルなデジタル行動
ログスケが収集するデータからは、医師のデジタル行動パターンが浮き彫りになります。実際の事例として、深夜1時59分にメドピアのサイトにアクセスした医師の行動が紹介されました。
この医師は、メドピアを起点に複数の製薬企業の製品ページへと短時間で遷移するなど、 わずか5分の間に複雑な情報収集のジャーニーが見られました。
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また、「肥満症 診断基準」を検索した別の医師の行動分析では、Bing検索から複数の製薬企業の製品ページを経て、最終的に日本肥満症学会の詳細な資料に30分以上かけて深く接触する様子が記録されていました。このように具体的なカスタマージャーニーを可視化できることで、医師がどのような情報ニーズを持ち、どのようなプロセスで情報収集を行っているかが明確になります。
これまでのプロモーション分析では、主にWebサイトやチャネルごとに縦割りでの評価が中心でした。町田氏は、ログスケの特徴として、こうした「サイト軸」の評価から「医師軸」への転換が実現できる点を強調しました。一人の医師がどの施策に、どの順番で接触し、どのような行動をとったのかを網羅的に把握できるため、施策単位では見落とされがちだった情報の連動性や行動変容の兆しが、医師ごとの視点で鮮明になります。

「医師の態度変容を促したログ」「顧客ニーズを捉えられるログ」の視点で深掘り
町田氏は、製薬企業にとって価値のあるログデータを2つの観点から整理しました。
まず「医師の態度変容を促したと考えられるログ」として、興味や想起、処方といった行動変容につながる情報接触を特定することの重要性を挙げました。もう一つは「顧客ニーズを捉えられるログ」で、医師の能動的な情報収集行動から真のニーズを読み取ることができると説明しました。
具体的な指標の事例として、「①長い接触時間」「②サイト内の周遊行動(直帰率)」「③検索行動」「④特定ドメインの利用」という4つのKPIを提示しています。

KPI①接触時間×②直帰率
ログスケでは、医師が各コンテンツにアクセスした際の接触時間や、その後すぐに離脱したかどうかを示す直帰率といった指標も取得可能です。
例えば、接触時間が短くても直帰率が低いコンテンツは、単に一度見ただけで終わらず、医師が関心を持ち、ほかの情報へと自発的に遷移していることを示します。これら2つの指標を掛け合わせることで、単なる「閲覧数」では見えてこない質の高い情報接触を評価できます。

KPI③検索行動
町田氏は、医師の関心の深さや情報ニーズを把握するうえで、検索行動に注目することが重要だと述べました。ログスケの特徴的な機能として、検索エンジンだけでなく対話型AIへの入力内容も収集できることが挙げられます。検索エンジンでは「製品名」や「企業名」「領域」といったキーワード中心の入力が行われる一方、対話型AIでは「○○(製品名)の△△試験の要約をして」や「糖尿病ガイドライン2025の変更点の要点を教えて」といった、より具体的で意図が明確な質問が入力されています。
町田氏は「対話型AIの利用率は現在約5%に留まっているものの、検索エンジンの検索意図を補完する重要な情報源として機能できるのではないか」と述べ、医師が真に求めている情報の内容や質を、より深く理解できる可能性を示唆しました。
KPI④特定ドメイン利用
サードパーティーの主要3サイト(エムスリー、メドピア、ケアネット)の医師の閲覧パターンを分析してみると、多くの医師が何らかのもしくは全てのサイトを閲覧しているという結果でしたが、約7%の医師は「いずれも未閲覧」という結果でした。これらの医師は、PubMedや厚生労働省などの公的サイトから情報収集を行っており、デジタルマーケティング手法ではリーチできない層と考えられます。少数ではあるものの、この層にどのようなアプローチを行うべきなのかも検討しておく必要がありそうです。
行動データによるプロモーション効果検証
サードパーティーにおける詳細な閲覧状況を知りたいという製薬企業の課題に対しても、調査が可能です。従来の効果検証では、自社コンテンツ同士の相対比較しかできませんでしたが、ログスケにより業界全体での相対的な位置づけを把握することが可能になりました。また、詳細な閲覧時間の分析により、長時間(5分以上)滞在してもらえているコンテンツをベンチマークとして、どのような施策が有効なのかといった検討の素材としても活用できます。
さらに町田氏は、ログスケを他のデータと組み合わせることで、より多面的なプロモーション評価に活用できると紹介しました。例えば、インテージヘルスケアでは医師の処方行動や純粋想起に関するアンケートデータを独自に保有しており、それらとログスケ上の行動ログをクロス集計することで、あるブランドに印象を持っている医師と、そうでない医師との間で、接触しているコンテンツにどのような違いがあるのかを比較できると説明しました。

実際の事例では、あるブランドが印象に残っている医師のグループとそうでないグループとで、閲覧されているコンテンツのランキングを比較。その結果、印象形成に寄与していたと考えられるのは、ライブセミナー形式の特定のコンテンツであることが明らかになったといいます。
このように、医師の行動ログに加えて、印象や意向、処方といったアンケートベースのデータを重ねることで、単なる「行動の記録」だけでは見えなかった態度変容や意思決定への影響までを捉えることが可能になります。
町田氏は、こうした分析を通じて、自社のブランドがどのようなコンテンツを通じて医師の記憶や行動に残っているのかを探索することができると述べました。
デジタル行動から医師のリアルを捉え、製薬マーケのPDCAを進化させる
町田氏は、製薬企業が行うPDCAサイクルの中でも、特にプランニングのフェーズにおけるチャネル設計やカスタマージャーニーの構築において、ログスケは有用な情報源となると語ります。さらに、プロモーション実施後のKPIの確認や施策評価、処方や早期コンバージョンへの影響を検証する場面でも、そのデータは根拠を提供します。
プロモーション施策を設計し、効果を見極め、次の一手につなげていくうえで、実際の行動に裏打ちされたログ情報は欠かせないものとなりつつあります。変化の激しい環境の中で、より正確に医師を理解し、より実効性の高いマーケティングを展開していくために、「医師のリアル」を捉える手段の重要性は今後さらに高まっていくでしょう。