MRを強化・補完するためのデジタルコンテンツ設計|MDMD2025 Summerレポート

MRを強化・補完するためのデジタルコンテンツ設計|MDMD2025 Summerレポート

MRの再評価とさらなる活用法の模索が進む中、デジタルコンテンツを最大限活用し、プロダクトマーケティングを強化するための工夫が求められています。
 
2025年6月に開催されたMedinew Digital Marketing Day(MDMD)2025 Summerでは、数多くのノンブランドコンテンツを手がけ、プロダクトマーケティングの推進を支援してきた株式会社医薬情報ネット マーケティングサポート事業部 アカウントリレーションチームの小川彰吾が登壇。実践的な経験に基づく知見と事例を織り交ぜて、チャネルの使い分けやコンテンツの最適化について講演しました。

医師の情報源として再評価されるMR

ミクスOnline1)の調査によれば、医師がMR(医薬情報担当者)を有用な情報源と捉える傾向は、コロナ禍以前の水準に近づいてきているようです。また、公益財団法人MR認定センターの調査2)でも、「MRと面会する価値がある」と答えた医師の割合が高いことが示唆されています。
 
コロナ禍の収束とともに、MRとの対面コミュニケーションの価値を再認識する医師が増えている一方、製薬企業によるMRの削減傾向は依然として続いており、MRの「需要と供給」のバランスが崩れている状況です。
 
こうした背景から、すべての情報提供をMRが担うのは現実的ではありません。MRが重要な局面で的確に対応できる体制をつくることが重要です。

MRの「サポート」「カバー」としてのデジタルチャネル

そこでカギになるのが、MRによる面談とデジタル施策の間で、連携と役割分担を行うことです。
 
まず、MRによる面談では、処方の可能性が高い医師や患者数の多い医師、あるいは当該製品に“いま”関心を示している医師などのターゲティングが重要です。
 
一方、デジタル施策は、MRの面談の効率化のための「サポートチャネル」、またMRが直接アプローチできない医師に情報を届けるための「カバーチャネル」として機能します。たとえば、過去の営業活動履歴やオンラインでの医師の行動履歴といったアクションデータを活用し、ターゲット医師の興味関心や専門性を把握しておくことが、効果的な情報提供につながります。また、自社サイトでの網羅的な情報発信に加え、外部プラットフォーム(サードパーティ)を活用した認知向上などによる補完が挙げられます。

デジタルチャネルの使い分け

自社サイトとサードパーティには、それぞれにメリットとデメリットがあります。
 
サードパーティは即効性に優れ、瞬発力や爆発力がありますが、コストが高くなります。また、ポイント獲得を目的として閲覧するターゲットがいる可能性もあります。
 
自社サイトは中長期的なコンテンツ活用に向いているものの、訪問数の確保やコンテンツ閲覧に向けた仕掛けが必要です。また、サイト構築の方法にもよりますが、閲覧した医師個人単位でのデータを確認できる一方で、会員制サイトではログインが必要になると一定数の離脱につながると考えられます。
 
短期的な成果が求められる場面ではサードパーティが有効ですが、中長期的には自社オウンドサイトの活用も視野に入れるべきでしょう。

オンラインでの主な情報提供手段
2025.6.4 (株)医薬情報ネット『プロダクトマーケティングを強化するデジタルコンテンツ設計』資料より抜粋

自社サイトへコンテンツを掲載する際の注意点

コンテンツを医師に届けるとき、MR経由と自社サイト経由とでは受け取り方に差が出てくることを認識しておく必要があります。たとえば、ターゲット医師が動画コンテンツを閲覧するとき、MR経由であれば医師の関心に応じたコンテンツを案内し、会話を通じて補足も可能です。
 
一方、サイト経由では、内容が不明なのにログインを求められる、しかも動画が長く、ポイントの解説などもない、といった障壁が視聴の妨げになることがあります。こうしたサイト特有の課題に対応するには、コンテンツ設計に工夫が求められます

自社サイトへコンテンツ掲載する際の注意点
2025.6.4 (株)医薬情報ネット『プロダクトマーケティングを強化するデジタルコンテンツ設計』資料より抜粋

デジタルコンテンツ設計の3つのポイント

コンテンツを医師に届けるための工夫として、「テーマ」「見せ方」「導線」の3つの観点からのコンテンツ設計が重要です。

1.テーマ

短時間で必要な情報を得たいというニーズに応えるには、1つのコンテンツで複数のトピックを扱うのではなく、テーマごとに分割するのが効果的です。段階的に、階段を一歩ずつ上っていくように理解を深めていく構成とし、1つのコンテンツを見た後、次のコンテンツを見せるような導線、仕掛けをつくります。
 
たとえば、消費者行動モデル「AMTUL」を参考に、あるサイトのコンテンツを分析してみましょう。1つの長い動画の中に疾患解説、診断、治療などが入っており、一方で記事はコンテンツ量が少なく偏りがある、というような状況が考えられます。これは、AMTULの流れがなく、情報収集するユーザーの視点で見ても情報収集しにくい環境です。

既存コンテンツの見直し例 Before
2025.6.4 (株)医薬情報ネット『プロダクトマーケティングを強化するデジタルコンテンツ設計』資料より抜粋

そこで、たとえば長い動画はテーマ別に分けるなどして、コンテンツを細分化することが重要です。記事は、AMTULの各段階でバランスよく揃えます。そうすることで、ユーザーである医療関係者の興味関心を一歩ずつ高めることができます。

既存コンテンツの見直し例 After
2025.6.4 (株)医薬情報ネット『プロダクトマーケティングを強化するデジタルコンテンツ設計』資料より抜粋

2.見せ方

テキストと動画は用途に応じて使い分けるべきです。
 
テキストはSEOに強く、詳細な情報を効率よく伝えることができますが、読みづらさという課題があります。そのため、目次の設置や小見出しの活用、図表・イラストによる補完が効果的です。
 
一方、動画は感情やストーリーを直感的に伝える力がありますが、検索には不向きです。タイトルや概要文を工夫してカバーします。また、視聴時間が長くなる場合は、要点のテキストで補完したり、倍速再生機能を付けるといった視聴ハードルを下げる工夫が求められます。

3.導線

コンテンツを公開しただけでは効果は限定的です。ユーザーを誘導する「導線設計」が不可欠です。
 
たとえば、自社サイト内の導線では、扉ページからバナーで誘導する、記事本文にテキストリンクを挿入する、記事末尾では関連コンテンツへ誘導する、などがあります。
 
また、他チャネルからの誘導では、MA(マーケティング・オートメーション)ツールを活用したシナリオメールを送ったり、サードパーティ配信、DSP広告、SEO対策などが挙げられます。さまざまなデジタル施策を試しても頭打ちになっている場合は、郵送やFAX、雑誌への封入などのオフライン施策との連動も視野に入れると、接点の幅を広げることができるかもしれません。

導線 対応例
2025.6.4 (株)医薬情報ネット『プロダクトマーケティングを強化するデジタルコンテンツ設計』資料より抜粋

SEO対策はAIO対策へ?

最近、SEO対策の意義が薄れつつあり、他業界では、SEO施策に関わる予算を抑えはじめている企業もあると聞きます。Google検索の結果に、生成AIによる回答が表示されるようになり、従来の検索順位がコンテンツの露出に与える影響が小さくなっていることが一因と考えられます。
 
実際、Ahrefs(エイチレフス)の調査3)によれば、検索結果画面への生成AIによる回答(AI Overview)の表示開始後、検索1位の記事のクリック率(CTR)が34.5%減少したと報告されています。
 
また、Future Publishing社の調査4)によれば、米国・英国のユーザーの27%が検索時に生成AIを活用しているという結果も出ています。
 
このような状況を受け、いま注目されているのが「AIO(Artificial Intelligence Optimization)」「LLMO(Large Language Model Optimization)」「GEO(Generative Engine Optimization)」といった新たな最適化手法です。つまり、生成AIによる回答で自社コンテンツが引用元として取り上げられるようにするための対策です。
 
具体的には、SEOでも言われるE-E-A-T(経験、専門性、権威性、信頼性)の最大化のほか、より専門性の高い記事の制作が必要となります。加えて、生成AIが理解しやすいように、動画にタイトルや概要文を付与するなどの構造化データを最適化する工夫も重要です。

デジタルの特性を踏まえたチャネル・コンテンツ設計の深化を

本講演では、プロダクトマーケティングを強化する上で重要なチャネル・コンテンツ設計のポイントとして、以下が示されました。
 
①長期的な視点で、デジタルコンテンツの活用は重要である

  • MRが対応できない範囲をフォロー
  • デジタル派の医師の自発的な情報収集に対応
  • 個人の閲覧データを取得し、フォローすべきターゲットをMRにつなげる

②デジタルに合わせたコンテンツ展開を考える

  • テーマ=タイパを意識し、1コンテンツ1テーマを基本とし「知りたいこと」に端的に応える
  • 見せ方=記事や動画の特性を考慮し、必要に応じてコンテンツを補う
  • 導線 =さまざまな導線をうまく活用する

 
進化し続けるマーケティング環境において、これらの視点を踏まえた戦略が今後ますます求められるでしょう。
 
<出典>
1)ミクスOnline,  株式会社ミクス,  2025.02.01, 「MR」のインパクト コロナ禍以前の水準近くまで戻る
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=77802 ※最終閲覧日2025.06.12
2)公益財団法人MR認定センター, 2023.04, MR実態調査2022報告書
https://www.mre.or.jp/files/co/page/attachment221201/mre_info/Investigation/mr_survey_20230424-2.pdf ※最終閲覧日2025.06.12
3)Ahrefs, 2025.03.11, AI Overview が表示されることで、ページへのアクセス数が34.5% 減少!
https://ahrefs.com/blog/ja/ai-overviews-reduce-clicks/ ※最終閲覧日2025.06.12
4)tom’s guide, Future PLC, 2025.02.21, New study reveals people are ditching Google for AI tools like ChatGPT search — here's why
https://www.tomsguide.com/ai/new-study-reveals-people-are-ditching-google-for-the-likes-of-chatgpt-search-heres-why ※最終閲覧日2025.06.13