【2026年最新】治療用アプリの保険適用ラッシュまとめ 。製薬マーケティングに迫る3つの変化

2025年から2026年にかけて、治療用アプリ(DTx)の承認・保険適用が相次いでいます。2024年時点で保険適用は2製品でしたが、現在は薬事承認済み6製品、うち保険適用は5製品に拡大。対象領域は生活習慣病から精神・神経領域へと広がり、製薬企業の関わり方も多様化しています。本記事では治療用アプリの最新状況を整理し、製薬マーケティングへの影響を展望します。
新たに3製品が保険適用に。治療用アプリ、6年目の転換点
治療用アプリとは、疾病の治療を目的として薬事承認を受けたプログラム医療機器です。医薬品と同じように医師が「処方」し、患者が自身のスマートフォンなどで日々使用します。医薬品・医療機器に続く「第3の治療」とも呼ばれ、認知行動療法をはじめとする行動変容へのアプローチをデジタルで提供できる点が最大の特徴です。なお、どのようなプログラムが医療機器に該当するかの考え方は、厚生労働省のガイドラインおよび事例データベースで示されています1)。
Medinewでは2024年4月に、治療用アプリに対する医師の認知度や処方経験がまだ低い実態をインテージヘルスケアが実施した医師調査とともに紹介しました2)。それから2年ほど経過し新たな製品の保険適用が相次いだ今、治療用アプリには「開発」に加えて、承認された製品をどう医療現場や患者に届けるかという課題が現実のものになりつつあります。本記事では最新の承認・保険適用状況を一覧表で整理したうえで、製薬マーケティングに迫る変化を考察します。
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承認済み治療用アプリは6製品、うち保険適用は5製品(2026年8月時点)
2020年に国内初の治療用アプリ「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」が承認されてから約6年が経ちます。長らく「保険適用は2製品」という状況が続いてきましたが、2025年9月から2026年6月までの約9ヶ月間に3製品が新たに保険適用され、承認済み6製品(うち保険適用5製品)となりました。対象領域も、禁煙・高血圧からアルコール依存症、小児ADHD、不眠障害、うつ病へと広がっています。
承認済みの治療用アプリ
アプリ名 | 開発・販売 | 適応(使用目的の概要) | 承認 | 保険適用 |
|---|---|---|---|---|
CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー | CureApp | ニコチン依存症 | 2020年8月 | ○(2020年12月) |
CureApp HT 高血圧治療補助アプリ | CureApp | 成人の本態性高血圧症の治療補助 | 2022年4月 | ○(2022年9月) |
CureApp AUD 飲酒量低減治療補助アプリ(HAUDY) | CureApp/販売:沢井製薬 | アルコール依存症(減酒が治療目標となりうる患者) | 2025年2月 | ○(2025年9月) |
ENDEAVORRIDE(エンデバーライド) | 塩野義製薬(米Akili社より導入) | 小児期におけるADHDの治療補助 | 2025年2月 | ○(2026年6月) |
サスメド 不眠障害用アプリ Medcle(旧称:Med CBT-i) | サスメド | 不眠障害の治療支援 | 2023年2月 | ○(2026年6月) |
リフトンD | DTアクシス | 薬物療法で改善しない中等度以上の抑うつ症状が残存するうつ病患者の精神症状の緩和 | 2025年8月 | ×(評価療養として保険診療と併用可) |
※2026年8月時点の公開情報をもとに編集部作成
Medcleをめぐっては、サスメドが2021年12月に塩野義製薬と販売提携契約を締結し、2026年6月の販売開始に至りましたが、2026年8月26日、両社は同契約の終了を発表しました3)。契約終了の理由は公表されていません。
上表のうちリフトンDのみ保険適用ではなく、「評価療養」(保険適用外の医療を保険診療と併用できる制度)の対象として提供されています4)。探索的治験の結果に基づき早期に承認する「二段階承認」の第一段階で上市された治療用アプリ初の事例で、評価療養の対象となる原則4年間のうちに臨床データを集め、保険適用を目指すとされています5)。
なお、収益構造の面でも、治療用アプリには医薬品と異なる点があります。例えば、今回保険適用された2製品の償還価格は、Medcleが企業希望価格49,458円に対し24,100円、ENDEAVORRIDEが同29,914円に対し14,500円と、いずれも希望価格の半額程度で査定されました。算定価格にも上限があり、Medcleは患者1人につき1回、ENDEAVORRIDEは2回が限度とされています7)。処方の継続に応じて収益が積み上がる医薬品とは構造が異なるため、保険適用後にどのように医療現場への定着と収益化までを進めるかは、治療用アプリの浸透を考えるうえで課題といえそうです。
開発中・申請中の主な治療用アプリ
承認済み製品に続くパイプラインも着実に育っています。現在公表されている主な開発中・申請中の治療用アプリは以下のとおりです。
開発 | 適応 | 状況 |
|---|---|---|
CureApp/沢井製薬(SWD002) | NASH(非アルコール性脂肪肝炎) | 2024年1月より第III相試験開始 |
CureApp | 慢性心不全、慢性腰痛症、がん | 開発中 |
サスメド/あすか製薬 | PMS(月経前症候群)・PMDD | 特定臨床研究を実施中 |
サスメド | 乳がん 他 | 開発中 |
CureApp×第一三共 | がん治療支援 | 2020年に共同開発を発表 |
※2026年8月時点の公表情報をもとに編集部作成。CureApp×第一三共は2020年の発表以降の公表情報が確認できていないため、記載内容は当時の発表に基づく6)。
治療用アプリの広がりが製薬マーケティングにもたらす3つの変化
ここからは、治療用アプリの広がりが製薬マーケティングの実務にどう影響するのかを考えます。1つめはすべての製薬企業に関わる変化、2つめ・3つめは自社が治療用アプリの販売に関わる場合の変化です。
1. 補完にも競合にもなる治療用アプリ。まずは自社への影響の見極めを
承認済み6製品の使用目的は、治療の「補助」、医師が行う治療の「支援」、既存治療で改善しない症状の「緩和」といった位置づけであり、承認上、薬物療法を単独で置き換えるものではありません。ただし、高血圧や不眠障害のように「薬に頼らない治療」を価値として掲げる製品もあり、長期的には薬物療法の開始や継続に影響しうる点は押さえておく必要があります。
そして、自社医薬品と同じ領域に治療用アプリが登場することは、もはや例外的な出来事ではありません。開発中のパイプラインはNASH、慢性心不全、PMS・PMDD、がん治療支援へと広がっています。今後、自社領域に「第3の治療」の選択肢が現れる可能性を前提に動く必要があります。自社領域に該当製品が現れた場合の影響(処方フローのどこに入るか、対象患者層は重なるか)と対応の方向性をあらかじめ整理するなど、競合分析のフレームを医薬品だけで閉じないことが今後は重要になりそうです。
2. アプリの啓発活動・導入支援という新しい情報提供業務
1つめの変化はすべての製薬企業に関わる変化でしたが、販売提携や導入などで自社が治療用アプリを「売る側」になった場合には、マーケティングの実務にも変化があります。
治療用アプリを処方し保険算定するには、製品ごとに算定要件や留意事項(対象となる医療機関・医師の要件、指導管理の運用など)が定められており、単に製品の有効性を説明するだけでは処方に至りません。医療機関側から見れば、「どの診療科の誰が、どの要件を満たし、院内のどのフローで処方・患者説明・フォローを行うか」を設計する必要があります。医薬品でいう「導入支援」の比重が高い製品特性であり、もし自社で販売を担うことになれば情報提供活動の中身が変わっていくことになります。
外来の限られた時間でアプリの初回設定と使い方の説明をどう行うか、スマートフォン操作に不慣れな患者を誰がフォローするかは、医療機関だけでは解決しにくいポイントです。説明用資材やデモ環境、患者向けのヘルプデスクといった企業側のサポートメニューの充実度も、処方や継続利用を支える重要な要素になりそうです。
3. 患者向けコミュニケーションの比重が上がる
継続によって治療効果につなげることが重要である点は、治療用アプリも医薬品と同様です。一方で、継続のハードルの中身は異なります。治療用アプリでは日々の記録やセッションへの取り組みそのものが治療であり、服薬に比べて患者の能動的な関与が求められます。使い方を理解してもらう患者向け説明ツールや、継続を後押しするサポートプログラムの重要性は、医薬品とは異なる形で高まると考えられます。
費用の説明も患者コミュニケーションの重要な一部です。保険適用製品でも一定の自己負担が生じるほか、評価療養で提供されるリフトンDでは、診察などの保険診療部分と併用しつつ、アプリ利用料は保険給付の対象外として患者が負担します。「アプリに対して自己負担が発生する」ことを患者が理解し、治療上の価値を納得できるような説明も重要になります。
保険適用ラッシュの先へ。問われるのは浸透フェーズへの備え
治療用アプリが広がると、まず、どの製薬企業にも自社ブランドへの影響を確認する場面が出てくると考えられます。さらに自社が販売に関わる場合は、処方までの導入支援や、継続利用を支える患者コミュニケーションといった業務が加わります。疾患啓発や医療関係者への情報提供など、医薬品での経験を応用できる部分がある一方で、本記事で見てきたとおり、収益構造や導入プロセスは医薬品と同じではありません。医薬品マーケティングの延長と捉えるのではなく、何が使えて何が違うのかを見極めることが、治療用アプリと向き合う出発点になりそうです。今後の広がりを見据えて、まずは自社領域に関わる治療用アプリの製品やパイプラインの確認から始めてみてはいかがでしょうか。
<参考> ※URL最終閲覧2026年8月26日
1) 厚生労働省「医療機器プログラムについて」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179749_00004.html
2) Medinew「医師調査から製薬企業の治療アプリ参入を考察」(2024年4月24日) https://www.medinew.jp/articles/technology/application/drsurvey-app
3) 塩野義製薬株式会社 プレスリリース「不眠症治療用アプリに関するサスメド株式会社との販売提携契約終了に関する合意書の締結について」(2026年8月26日)
https://www.shionogi.com/jp/ja/news/2026/08/20260826_1.html
4) PR TIMES「うつ病治療補助プログラム「リフトンD®️」、評価療養の対象に」(2026年6月2日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000168748.html
5) 日本経済新聞「国内初うつ病治療アプリ チャットで行動変化促す、薬以外の選択肢に」(2026年6月1日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC151K00V10C26A5000000/
6) 第一三共株式会社 プレスリリース「がん治療を支援するモバイルアプリケーション開発提携のお知らせ」(2020年11月18日)
https://www.daiichisankyo.co.jp/media/press_release/detail/index_6538.html
7) 中医協 総会資料「医療機器の保険適用について(令和8年6月1日収載予定)」(2026年5月13日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001699500.pdf
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