AIがもたらすマーケプロセス統合とヘルスケア個別化の最前線|CES2026 マーケ・展示編

AIがもたらすマーケプロセス統合とヘルスケア個別化の最前線|CES2026 マーケ・展示編

2026年1月6日〜9日、米ラスベガスで開催された世界最大級の最先端テクノロジーイベント「CES2026」。日本マーケティング協会主催のCES2026速報セミナーで、株式会社ディライトデザイン代表 法政大学大学院 客員教授の朝岡崇史氏は、CES2026の主要な基調講演を紹介し、フィジカルAIの潮流と価値提案の文脈の変化を解説しました。

後編となる本記事では、マーケティングに関連する基調講演、およびヘルスケア領域の最新テクノロジーを深掘りして解説。さらに、こうした変化を踏まえた日本企業の「勝ち筋」について、朝岡氏の考察を紹介します。

▼CES2026の解説前編はこちら
AIで変わる価値創出の構造。最先端テック企業のCEOプレゼンをマーケ視点で読み解く|CES2026基調講演編

Havas:「統合されたAI」が創造性を強化するマーケティング戦略パートナーへ

CESには、2015年より、広告・エンターテインメント・コンテンツ制作に特化したサブ会場「C Space」が設けられています。CES2026の同会場では、フランスの大手広告会社グループであるHavas(ハバス)のヤニック・ボロレCEOが初日1月6日の基調講演に登壇。マーケティングにおけるAI活用の新たな指針を示しました。
 
ボロレ氏は、P&Gで長年グローバル・マーケティング責任者を務めたジム・ステンゲル氏と対談し、その中で「AIを単なる効率化ツールではなく、人の創造性を強化する戦略パートナーとして位置づける」と宣言。マーケティングのプロセス全体をAIで統合し、クライアントとの共創価値を最大化するという構想を語りました。
 
そこで発表されたHavas独自の戦略ツール「Converged. AI(統合されたAI)」は、市場分析からマーケティング戦略の立案、パーソナライズされたデジタルコンテンツの制作、レポーティング・ダッシュボードまで、異なる部署でタスクを分担しながら一気通貫でクライアント企業にデジタルコミュニケーションサービスを提供するマーケティング統合プラットフォームです。

AI駆動のマーケティング統合基盤「Converged. AI」
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

Havasは、今後数年間で4億ユーロ(約730億円)を投資し、Converged. AIを基盤とした次世代マーケティング企業としての競争力強化を図ります。
 
このプラットフォームの使用によりクライアントとの間で共創価値が最大化され、キャンペーンの透明性や精度が向上してROI(投資対効果)が改善されたことが報告されています。
 
さらに、生成AIが作成したペルソナ(特定の顧客クラスターを代表する仮想の人物像)に対してデプスインタビューを行うデモも紹介されました。こうしたAI活用法は、今後のマーケティングの形を変える可能性があります。

クライアントとの共創価値を最大化
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

AIと相性のよいデジタルヘルス領域のテクノロジー

CES2026では、デジタルヘルス領域も大きく注目された分野でした。デジタルヘルスはAIが得意とするパーソナライゼーションとの相性がよいためであり、ここ数年続いているトレンドだと朝岡氏は考えています。
 
昨年のCESから、デジタルヘルスに関するカンファレンスも実施されるようになりました。例えば、AI専門家や政府関係者も登壇したパネルディスカッション「イノベーションヘルス:テクノロジー主導の未来に向けた政策」では、AIエージェント、次世代診断、ロボティクス、創薬、量子技術を活用した健康・長寿技術といったテーマが取り上げられました。

医療機器・アクセシビリティ

CES2026 Innovation Awards(応募された最先端テックからCES主催者が指名した審査員により選出される賞)受賞テクノロジーを中心に、朝岡氏が注目した医療機器・ヘルスケア関連ソリューションを紹介します。

Earflo(オーストラリア)

子ども向けの中耳炎緩和デバイスです。子どもが飲み物を飲むときに、鼻から正確に制御された少量の空気をやさしく送り込むことで耳管を開き、中耳炎で溜まった液体を排出させます。ユーザー体験の向上にゲーミフィケーションの考え方を取り入れているほか、診断のデータを医師と共有するためにAIを活用しています。

Earflo(オーストラリア)
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

Naqi Neural Earbuds(カナダ)

顎の締め付けやまばたき、顎の動きといった目に見えないほどの微細な顔のジェスチャーを検知し、スマホやPCを操作できます。四肢麻痺の患者やシニアのデジタル活用を支援します。

Naqi Neural Earbuds(カナダ)
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

ORPHE INSOLE(日本)

この「スマートインソール」は、日本のスタートアップ企業が手がけたヘルスケアソリューションです。靴の中敷きに6つの圧力センサーと6軸のモーションユニットを内蔵し、歩行データを解析することで、リハビリやスポーツ科学、予防医学に応用可能です。

ORPHE INSOLE(日本)
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

予防医学・スリープテック

米国は国民皆保険制度がなく、病気になって受診すると多大な費用がかかります。そのため、予防医学に対するニーズが非常に高いことが特徴です。

Withings(フランス)

スマート体重計の「Body Scan 2」は、わずか90秒で体組成に加えて心電図や血圧など、細胞レベルの健康状態を測定・解析。AIが健康改善を支援します。

Ceragem(韓国)

韓国の毎年CESに出展している「脊柱セラピー」企業が、今年はホームセラピーブースを展示。ユーザーが座るだけでバイタルデータを計測し、リラクゼーションを提供するAIヘルスケア空間を提案しました。

予防医学 バイタルデータを感知、健康改善をサポート
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

WillSleep

首に装着し、1日15~30分間のパーソナライズされた電気信号を送ることで経皮的に迷走神経を刺激し、薬に頼らずに不眠やストレス、うつ症状の改善を図るデバイスです。米国では不眠症の人が多く、薬に頼ってしまい過剰摂取(オーバードーズ)が社会問題となっているため、その対策として期待されています。

スリープテック 快眠ベッドから電気による神経刺激へ
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

旭化成のエイジテックも着実な進歩

日本企業の中では、旭化成が高齢化社会の課題解決技術(エイジテック)として介護現場の負担軽減を目指したソリューションを展示していました。
 

  • スマートオムツ:尿を電極とし、バッテリー不要でデータを飛ばす仕組みを持つスマートオムツ。昨年も同様のソリューションを出展していましたが、今年はそれに加えて新たに排尿の回数・量を検知するAIアルゴリズムを搭載しました。これにより、おむつ交換のタイミングを予測し、介護者の負担を軽減します。
  • 転倒検知ソリューション:カメラを使わず、ミリ波レーダーで室内の人の動きを高頻度に検出し、AIで転倒を10秒以内に判定。通報につなげます。プライバシーへの配慮が必要な浴室やトイレでも、カメラを使わずに転倒を即座に発見できるため、事故の防止や早期対応につながります。
エイジテックにおける旭化成の取り組み
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

フィジカルAI時代の日本企業の勝ち筋

最後に、CES2026全体を通した考察として、朝岡氏は日本企業がフィジカルAIの時代に勝つためのキーワードを提示しました。

ロボット・自動運転・工場/倉庫はフィジカルAIで繋がった実態世界である

CES2026では、NVIDIAのフィジカルAIプラットフォームが大きく耳目を集めました。フィジカルAIの中核概念とは、AIが物理(フィジカル)世界の構造・因果関係・時間変化を学習し、現実世界で今何が起きているのかを理解し、次に何が起きるのかを自律的に予測できるようになる「世界基盤モデル(World Foundation Model:WFM)」だと、NVIDIAは定義しています。
 
しかし、この定義から考えれば、ロボットや自動運転、工場・倉庫といったフィジカルAIの活躍する現場は、いずれもWFMに連なる一つの実態世界に過ぎないため、実は別々の市場ではなく、業界の垣根を超えた共通の市場なのです。しかも、どの現場であっても、フィジカルAIの進化するプロセスは共通しています。その一つしかない共通の市場で戦いを挑むことは分の悪い勝負といえるでしょう。
 
例えばCESや周辺の最先端テック市場において、テスラは電気自動車(EV)メーカーから人型ロボットメーカーへ(オプティマスという人型ロボットを今年から量産開始)、同じくボストン・ダイナミクスを傘下に持つ韓国のヒュンダイも自動車メーカーから人型ロボットメーカーへ(CES2026の記者会見でお披露目されたアトラスも今年から量産開始)シフトしようとしていると、朝岡氏は推察しています。

現場にある「実践知」を把握し、成功につなげるには 

こうした激しい市場競争を前提とすると、「フィジカルAIへのゲームチェンジ後の勝ち筋は、ハードウエアを作る戦いに参入することではなく、各産業ドメイン、各現場で使うための完成度の高いソフトウエアを作ることだ。優秀なソフトウエアさえ作れるなら、ハードウエアの部分は価値共創パートナーに委託した方が効率はよいはずだ」と、朝岡氏は提案します。

フィジカルAIのゲームチェンジ 勝ち筋は何か?
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

そして、各産業ドメインの現場固有の課題を解決するソフトウエアを作るためのカギになるのが、実践知(Practical Knowledge)の把握です。
 
実践知とは、現場経験を通じて培われた、特定の状況で適切に判断し行動するための生きた能力であり、熟練した専門家が持つ賢明な判断力です。理論知や形式知とは対照的であり、言語化が難しいノウハウや勘所を含むことが多いと考えられます。
 
長年現場と向き合い、手厚い保守や運用を通じて顧客の現場を理解してきた日本企業。「トヨタ生産方式」はその最たるものですが、その他の多くのモノづくり企業にも多くの実践知が眠っているはずです。
 
ただし、組織や階層の枠組みを超えて、それらをフィジカルAIに組み込むためには、現場の専門家が持つ「暗黙知」を「実践知」として理解し、NVIDIAのようなAIの専門家の言葉を解釈する「通訳」が必要です。その役割を朝岡氏は「実践知ナビゲーター」と命名しました。

「実践知ナビゲーター」として世界へ

フィジカルAI時代の勝ち筋は、NVIDIAなどのAIプラットフォーマーと、フィジカルAI導入を目論むモノづくり企業の間に入り、実践知ナビゲーターとして実践知を提供し、現場へのAI実装を成功させる価値共創パートナーのポジションを確立することにあると朝岡氏は考えます。
 
CES2026の出展企業の中でも、Siemens(シーメンス)やCaterpillar(キャタピラー)は以下のような資質や強みを持ち、そのような勝ち筋を自力で掴みつつあるだけでなく、実践知ナビゲーターとして地位を築くことも十分可能と朝岡氏は感じています。
 

  • 伝統的な企業だが、最先端テックへのチャレンジ精神が極めて高い
  • メーカーだが、手厚い保守・点検のプロセスを実施しており、得意先の現場を深く理解している(実践知がある)
  • 戦略的オファリングを進め、価値共創パートナーとの間でエコシステムを構築している

 
CES2026に出展した日本企業の中では、富士通が人とロボットが協働する空間を最適化する「Spatial World Model(空間世界モデル)」で「現場力(すなわち実践知)」をアピールしました。富士通は、AIインフラはNVIDIAと提携し、ハードウエア(ロボット)は中国・韓国の企業に委託してエコシステムを構築しています。

CES2026で「現場力」をアピールした富士通の戦略
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

日立も社会インフラにAIの力を適用するフィジカルAIソリューションスイート「HMAX」を武器に「社会イノベーション事業」にフォーカスしていますが、2024年春からNVIDIAと提携し、公共部門や民間のインフラ系企業を共創パートナーにするという形でエコシステムを構築しようとしているように見えます。

CES2026で「社会インフラ」にフォーカスした日立の戦略
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

日本企業は過去十数年、「スマイルカーブ」の中でも企画開発・サービスという付加価値の高い部分をGAFAM(米国企業)に握られ、部品調達・製造・納入販売という付加価値の低い、レッドオーシャンの領域に追いやられて韓国や中国の新興モノづくり企業と厳しい戦いを強いられてきました。

スマイルカーブ 日本企業のポジションを優位な立ち位置へシフト
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

しかし、NVIDIAなどと共創のエコシステムを構築することが前提になるものの、実践知ナビゲーターとしてフィジカルAIを導入したいハードウエア企業との間に入れば、企画開発・サービスのレイヤーに上がることができます。「その中で競争力の高い価値共創のエコシステムを構築し、次のステップで日本国内の成功事例をグローバル市場にも横展開できれば、日本企業にも明るい将来が見えてくる」と、朝岡氏は期待しています。

▼CES2026の解説前編はこちら

AIで変わる価値創出の構造。最先端テック企業のCEOプレゼンをマーケ視点で読み解く|CES2026基調講演編
2026.02.27
AIで変わる価値創出の構造。最先端テック企業のCEOプレゼンをマーケ視点で読み解く|CES2026基調講演編

本セミナーを主催した公益社団法人 日本マーケティング協会は、「マーケティングの力で、より豊かで持続可能な社会の実現に貢献する」のパーパスの下、最新のコンセプトやテクノロジー、トレンド、サクセス・ストーリーなどの紹介、新しい領域の開発、業界企業の最新動向など、企業が持続的成長を続ける上で欠かすことのできない「マーケティング」について、豊富な情報を発信しています。
https://www.jma-jp.org/