AIで変わる価値創出の構造。最先端テック企業のCEOプレゼンをマーケ視点で読み解く|CES2026基調講演編

AIで変わる価値創出の構造。最先端テック企業のCEOプレゼンをマーケ視点で読み解く|CES2026基調講演編

2026年1月6日〜9日、米ラスベガスで開催された世界最大級の最先端テクノロジーイベント「CES2026」。同イベントを現地取材した株式会社ディライトデザイン代表 法政大学大学院 客員教授の朝岡崇史氏は、日本マーケティング協会主催のCES2026速報セミナーにて、世界の最先端テックトレンドをマーケティング視点で読み解きました。

本セミナーレポートでは、その内容を前後編で紹介。前編では、NVIDIAをはじめとする主要企業の基調講演から、AIがもたらす産業構造の変革を探ります。

CES2026の全体像:現実世界で「行動」するフィジカルAIが本格化へ

CES(シーイーエス)は、毎年1月初旬にラスベガス全域で開催される、世界最大級の最先端テックイベントです。B2B、B2Cを問わずあらゆる産業の最先端の民生技術が集結する場となっており、今年は世界160カ国から4,100社以上が参加し、約14万8,000人が来場しました。

▼CESの概要やおすすめの歩き方の基本解説(2024年版)

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2024.02.19
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ブランド戦略と顧客体験(CX:Customer Experience)の専門家ならではのマーケティング視点でCESを毎年取材している朝岡氏は、今年のCESを読み解くキーワードとして「AI Everywhere, for Everyone — and Beyond」を挙げました。
 
CES2026の多くの基調講演で「AI Everywhere」という表現が繰り返されており、まさにAIは「どこでも誰にでも」使われる時代となりつつあります。さらに「その先」として、フィジカルAI(Physical AI)の実装や次世代の情報処理インフラとして量子コンピューティングの有用性が強調されていたと、朝岡氏は指摘します。

フィジカルAIは、昨年のNVIDIAの基調講演で大きく注目されましたが、今年はさらにテーマの核心となっています。生成AIは従来、デジタル空間上で「思考」し、企業のAIエージェント導入やデジタルヘルス、スマートホーム、エンタメ領域などで活用されることが期待されてきました。しかしそれだけでなく、今や現実世界(フィジカル空間)で起きる出来事を「目で見て」判断し、推論能力を高めながら自律的に「動いて」実行するフィジカルAIへと進化しつつあります。
 
自動運転車、人型ロボット、自動物流ロボット、建設・農業・鉱業機械の自動化、AIで最適化されたスマートファクトリーなど、あらゆる産業機器がフィジカルAIによって急速に実装の段階へ進みつつあります。

朝岡氏は、このトレンドを牽引する最先端テック企業の基調講演のポイントを紹介し、そこから見える産業の未来について解説しました。

NVIDIA:すべての産業をフィジカルAIへ導くプラットフォームを構築 

NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、CES2026の開幕前日となる1月5日、プライベートな基調講演「NVIDIA LIVE at CES2026」を開催。6,000人の聴衆を前に、AIが現実世界で行動する存在になるというフィジカルAIのビジョンを強調し、AIハードウェアでのリーダーシップを維持しつつ、異業種の共創パートナーと組んでフィジカルAIの時代に向けた、エコシステム構築を目指していることを明らかにしました。

NVIDIA Live at CES2026
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

まずフアン氏が示したのは、AIが物理世界の構造・因果関係・時間変化を学習し「この世界で何が起きているのか」「次に何が起きうるのか」を自律的に理解・予測するフィジカルAIの現実世界学習プラットフォーム「NVIDIA Cosmos(コスモス)」のアップデート版です。ロボットや自動運転車がいきなり現実世界のデータだけで学習を行うのは高コストかつ非効率なため、以下のプロセスで生成AIが生み出す3Dの合成データを使ってAIに高速かつ高効率で現実世界を学習させるための仕組みです。
 

  1. 動画学習:数百万時間分のビデオデータで、物理(フィジカル)の基本を学習させる
  2. デジタルツイン:現実を再現した3D仮想空間(デジタルツイン)で、画像・テキストデータ・センサーログなどから生成AIが生み出した動画データを使ってシミュレーション(練習)を行わせる
  3. 未来予測:「もし~したらどうなるか」という未来予測映像の生成と検証を繰り返し、推論能力を高める
  4. 実装:賢くなったAIをロボットや車に搭載し、フィジカルAIとして現実世界へ送り出す

 
「NVIDIA Cosmos」の昨年との違いは上記プロセス3.の未来予測、すなわち推論能力の進化になります。また、こうした膨大なデータ処理に対応する次世代の情報処理インフラとして、電力効率や推論性能のボトルネックを解消したAIプロセッサ「Vera Rubin(ベラ・ルービン)」を2026年後半には提供予定とのことです。
 
人型ロボットや自動運転、工場や倉庫の自動オペレーション、農機具や鉱山機器の自動化、AIを駆使した創薬や医療を含むあらゆる産業は、すべてフィジカルAIでつながった実態世界であり、産業の垣根を横断するエコシステムの構築が実現されることが提示されました。

フィジカルAIで共創し自動運転車やロボットを生み出す
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

Siemens:産業界を根本から変える「産業AI革命」を推進する

ドイツの伝統的な総合テクノロジー企業Siemens(シーメンス)のローランド・ブッシュCEOは、1月6日の基調講演で「産業AI(Industrial AI)は、かつての電力普及がもたらした産業革命に匹敵する」と述べた上で、AIを物理世界に埋め込むことに貢献する同社のポリシーを強調しました。

シーメンス ローランド・ブッシュ氏 基調講演
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

例えば、同社はNVIDIA、KION(ドイツ)、アクセンチュアがタッグを組んで提供する巨大倉庫のオペレーションにおいて設計・エンジニアリング・運用までを一気通貫でカバーするAIネイティブ技術を提供しています。また、ペプシコとの取り組みでは生産ラインの配置や運用を工場のデジタルツインを作成してシミュレーションすることで最適化を行い現実に反映することで、手戻りのない効率化を実現しています。
 
また、BtoC用に開発されヒット商品になっているレイバン・MetaのスマートグラスにAIエージェントを実装して現場投入し、経験の浅い作業員に対して機械操作の手順を支援するデモも披露されました。作業員がトラブルに直面した際、スマートグラス越しの視界をAIが解析し、音声やXR画像を使ってトラブル対応の方法やマニュアルをリアルタイムで提供するものです。

経験不足の現場従業員をアシスト レイバン・メタ・(スマート)グラス for SIEMENS Industrial AI
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

さらにブッシュ氏は、NVIDIAやMicrosoftとの長期的な協業戦略についても紹介。

NVIDIAのファン氏を壇上に招き、産業AI戦略や産業AIオペレーティングシステムの構築、AI駆動のスマートファクトリー計画などを語ったほか、MicrosoftともCopilotを使ったAIツール連携と広域展開について話し合いました。

Caterpillar:伝統的重機メーカーもデジタル+AIを基盤にしたイノベーターへ

米国の建設・鉱山機械大手Caterpillar(キャタピラー)からは、ジョー・クリードCEOが1月7日の基調講演に登壇しました。創業100年を超える伝統企業である同社は、最先端のAIやデジタル体験も、すべて物理インフラ(重機・設備・建設現場)が支えているという考えのもと、デジタルとAIを基盤としたイノベーターへと進化することをアピールしました。

キャタピラー ジョー・クリード氏 基調講演
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

その一例が、現場作業者を支援する対話型AIアシスタント「CAT AI Assistant」です。同社が保有する建設・鉱山機器の膨大な稼働データと独自のデータ基盤を活用しており、「この警告灯は何?」「この機械のメンテナンス計画に必要な部品は?」「過去7日間の燃費を教えて?」といった問いかけに対し、膨大なマニュアルやリアルタイムデータからタブレット上のAIエージェントが音声とテキストで即座に回答します。
 
また、自動化が実現されている鉱山機器に加えて、建設機器の分野においても複雑な現場条件下での安全と効率を確保するための「自律運転技術」の拡大が発表されました。クリード氏は「自律技術は人の役割を奪うのではなく、人を危険から守り、安全で効率的な作業現場を実現する」と語り、現場を知悉する企業ならではのフィジカルAI活用指針を示しました。
 
なお、CaterpillarもNVIDIAとの協業拡大を示しており、NVIDIAのAIプラットフォームを活用した重機のエッジAI(現場で動作するAI)や音声アシスタント機能を実装する計画を壇上で共有しました。 

Lenovo:デバイスを横断する「パーソナルAI」が実現する未来

PC世界シェアトップの中国企業であるLenovo(レノボ)のヤンチン・ヤンCEOは、「Smarter AI for All」を掲げ、クラウド側だけでなくPCやスマートフォンといったエッジ(端末)側でのAI実装を加速させる方針を示しました。

レノボ ヤンチン・ヤン氏 基調講演
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

発表の目玉は、複数のデバイスを横断してユーザーを支援するパーソナルAIスーパーエージェント「QIRA(キラ)」です。従来、AIアシスタントはデバイスごとに分断されがちでしたが、QIRAはPC、タブレット、スマートフォン、ウェアラブル端末などのデバイス間で同じAI体験を提供し、ユーザーの行動や文脈を理解してシームレスに提案や支援を行います。
 
例えば、QIRAのエコシステム内で常時利用可能なウェアラブルAI端末「Project Maxwell」を身につけて手ぶらで会議に出席すれば、その映像と音声をQIRAが記録・解析し、オフィスに戻ってPCを開いたときには既に議事録が作成されている、といった連携が可能になります。
 
Lenovoの基調講演には、NVIDIA、AMD、Intel、Qualcomm、Microsoftといった主要企業の経営トップも相次いで登壇し、一見、競合していると思われる最先端テック企業とも戦略的なパートナーシップを結んでいることが示されました。
 
例えば、LenovoのQIRAとMicrosoftのCopilotは競合するのではなく、連携して機能します。具体的には、QIRAはデバイス間連携の調整役として機能し、タスクに応じてCopilotをデバイス上(高速・プライバシー重視)またはクラウド上(大規模処理)のどちらで動かすかを判断します。こうした相互補完的な設計からは、同社がAIエコシステムのハブとしての地位確立を志向していることがうかがえます。 

単独から共創へ。産業の枠を超えたエコシステム競争の幕開け

近年の基調講演から朝岡氏が感じているのは、「AIが産業の主役になる時代、もはや一社単独で製品やサービスが完結する時代ではない」という流れです。
 
かつてのCESにおける基調講演は、自社の提供する価値がいかに優れており、人々の暮らしを便利にするかを示すという価値提案(バリュープロポジション)が主体でした。
 
しかし、2018年のNVIDIAの基調講演を潮目に、まず最先端テクノロジーの実装によってもたらされる世界観(テクノロジーナラティブ)を語り、価値提案を挟んで、共創パートナーと組んでエコシステム構築を提案する(戦略的オファリング)までを合わせて語るという文脈が重視されるようになりました。

最先端テック企業による「テクノロジーナラティブと戦略的Offering」
(公社)日本マーケティング協会、(株)ディライトデザイン「【ハイブリッド開催】最先端テクノロジーの祭典“CES2026”現地取材速報!JMAマーケティングマイスターによる現地取材生レポート!」資料より抜粋

フィジカルAIの時代が始まり、産業構造は大きく変化しようとしています。NVIDIAはCosmosという巨大なフィジカルAI学習のオープンプラットフォームを提供し、そのエコシステム上でSiemensやCaterpillarのような伝統的企業が顧客であるモノづくり企業と組んで生産現場の自律化を実現する。LenovoはAIエコシステム構築のため、サーバー側(NVIDIA、AMD)だけではなくエッジ側のAIエージェントを提供し、QIRAとCopilotが役割分担するような形で顧客目線で最適化する。各社の講演で共通していたのは、戦略的オファリング、つまり自社の強みを活かしつつ、最適な異業種パートナーと手を組んでエコシステム全体で鮮度(尖度)の高い価値を生み出す姿勢でした。
 
AIがデジタル空間を超え、フィジカル空間(現場)でも動き始めた今、企業に求められているのは、単独での性能競争のみならず、産業の枠を超えた水平分業型のWin-Winのパートナーシップをいかに築けるかです。
 
後編では、こうしたAI革命の波が「マーケティング」や「ヘルスケア」の領域をどう変えようとしているのか、CES2026で詳らかとなった最新事例をもとに解説します。

本セミナーを主催した公益社団法人 日本マーケティング協会は、「マーケティングの力で、より豊かで持続可能な社会の実現に貢献する」のパーパスの下、最新のコンセプトやテクノロジー、トレンド、サクセス・ストーリーなどの紹介、新しい領域の開発、業界企業の最新動向など、企業が持続的成長を続ける上で欠かすことのできない「マーケティング」について、豊富な情報を発信しています。
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