医薬品マーケティングのRWD研究活用術-データベース選定のコツと失敗しない導入検討|ファーマIT&デジタルヘルス エキスポ 2026

RWD研究を成功させ、医薬品マーケティングに活用するエビデンスを得るためには、データベース選定時の十分な検討がカギになります。
2026年4月開催の「ファーマIT&デジタルヘルス エキスポ 2026」では、横浜市立大学医学群データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の清水沙友里氏が登壇。RWD研究の失敗パターンを回避するには、研究疑問の明確化から始まる導入検討プロセスが重要だと解説しました。医用工学研究所が協賛した本講演「RWD活用の成功確率を上げるデータ選定の視点──製薬企業が知っておきたいRWD活用法」の内容をレポートします。
「データを買えば答えが出るはず」は間違い
清水氏は本講演の冒頭、「データを入手して分析しさえすれば、よい答えが出るというわけではない」と明言しました。
RWD(リアルワールドデータ)は、治験などとは異なり、日々の生活や医療現場の業務から生み出される膨大なデータです。高齢者や多疾患併存といった通常の治験では組み入れられないような患者、倫理的に介入することが難しい条件などでも、現実世界に即したセッティングで実態や有用性を検討できます。一方、さまざまな背景・特性を持つ患者が混在するため、バイアスの問題があります。分析時にバイアスに対処することは簡単ではないため、データ選定の段階でそれを考えることこそがRWD研究の成否を左右すると、清水氏は強調しました。
具体的には、分析したい研究テーマが出てきた場合、①まず研究疑問を考え、②研究計画を組み、③データを選定します。この時点で、実際に分析できそうか否か(フィージビリティ)を判断する必要があります。研究疑問や研究計画があいまいなまま、先にデータを入手してしまうと、よい結果が出ずに研究が遅れたり、最初からやり直しになったりするのです。
例えば、以下はよくある失敗例だといいます。
・調べたいものが集まらない
例)希少疾患の患者を見たかったのに、中小規模病院のデータを入手してしまい、該当患者が含まれなかった。
・追跡期間を確保できない
例)入手したデータを抽出したところ、使用できる平均追跡期間が想定を下回ることが判明。そのため心血管イベントや死亡の発生率が低く、一般化可能性の問題が生じた。
・バイアス調整の変数が足りない
例)臨床アウトカムの分析で、重症度補正の鍵となる変数がデータに含まれない、あるいは不正確だった
RWD研究のデータ選定までのステップ
清水氏は、そうした失敗を避けて成功するためのRWD研究の準備プロセスを、体系的なステップとして整理しました。
臨床疑問をまとめ、研究疑問・研究計画に転化する
まず、臨床疑問を1行にまとめます。例えば、「産科危機的出血で子宮全摘術を受けた人はどのくらいいるのか?予後はどうなのか?」といった問いです。しかし、これだけでは実際の分析はできません。
そこで、次にその臨床疑問を、「対象期間は?」「対象者は誰?」「産科危機的出血の定義は?」「予後の定義は?」「重症度の定義は?」「何と比較する?」……と、一つずつ詰めて研究疑問に転化し、研究計画を書いていきます。
この各ステップで、研究疑問に答えるために必要なデータの条件を具体化できます。対象者を特定するにしても、傷病名コードをどう定義するのか、傷病名のみでは確度が高くなければ医薬品処方コードも組み合わせるのかといった要件があるでしょう。それらを詰めた後で、それを満たすことのできるデータソースを選定します。この順序が重要です。
研究疑問からRWDデータの要件を考える
研究疑問からRWDデータに求める要件を詰めていく際の6つのチェックポイントとして、清水氏は以下を挙げました。
- 目的:結果を何の意思決定に使うのか?
- 代表性:一般化可能性はどこまで必要か?
- 曝露・背景因子:因子の解像度はどこまで必要か?
- アウトカム:アウトカムを適切に定義できるか?
- 時間軸:追跡性と鮮度はどこまで必要か?
- 実行可能性:費用・契約や人材面などの障壁がないか?
特に重要なのは、「何の意思決定に使うのか」です。清水氏は「この部分は意外とぶれやすい。あれば便利だろうといったあいまいな動機のまま分析した結果、データが無駄になるケースもある」と述べ、まず目的を明確にすることが重要だと指摘しました。
他にも、アウトカムの定義も難しい問題です。例えば、再入院は定義が特に難しいアウトカムで、一つの入院エピソードの開始をどこにおくのか? 急性期から退院して回復期や慢性期病院に転院した場合はどう考えるのか? など、細かな部分を詰める必要があります。
さらに、実行可能性が問題になることもあります。例えば、日本全国の患者の全情報を知りたい場合、申請からデータ提供まで1年以上かかるようなケースも存在します。そうなると、予算を確保後、購入まで期間が空くことに社内理解を得られるかが障壁になるでしょう。
RWDデータベース別の特性と選び方
RWDデータベースの選定フローチャート
国内で使用できるRWDデータベースは、以下の3つに大別されます。
種別 | 疾患レジストリ | 電子カルテ | 保険請求 |
|---|---|---|---|
収集方法 | 特定疾患患者の詳細データを複数の医療機関から収集 | 複数の医療機関からレセプト・DPCに加えて電子カルテデータを収集 | 患者の保険診療関連データ(請求・DPC・レセプト・健診関係など)を収集 |
主要公的データベース | 全国がん登録 指定難病患者DB NCD | MID-NET NCDA | NDB KDB 介護DB |
特徴 | 疾患領域特化で高い精度 ただし利用に制限が多い | 検査情報を含み、データが深い。電子カルテ記載コメントなどを含む | 豊富なデータが存在 |
これらのRWDデータベースの選定は、以下のようなフローチャートで整理できます。

RWDデータベースの種類別の特性
どのRWDデータベースにも、種類ごとにその由来から来る特性と制約があります。清水氏は、これまれの研究経験から、具体例を挙げて注意を促しました。
例えば、疾患レジストリや学会主導のデータベースといった領域特化のデータベースは、希望しても実際には使用できない可能性も高いことに注意が必要です。学会員しか使えない、年1回の公募で採用されなければ使えない、といった制限がよくあるためです。
レセプトやDPCなどの保険請求データベースは、最も幅広い集団の最も豊富なデータを含み、日本では最も利用可能性が高い、と清水氏は指摘。「データを広く探しにいくような研究テーマであれば、保険者由来のデータ、病院由来のDPCデータが適合するだろう」と説明しました。ただし、交絡調整は必須です。また、レセプトではアウトカムが少なくなる、DPCでは詳細データが急性期病院内に限られるという点にも注意が必要です。
さらに、保険者由来のレセプトは、退職や後期高齢者医療制度への移行時に追跡が途切れるため、高齢者に多い疾患の長期追跡には不向きです。例えば70歳から80歳まで追跡したいとなった場合は、途中で必ず後期高齢者に移行して離脱するため、他の手法を考える必要があるでしょう。
電子カルテデータは、DPCデータよりも幅広い検査情報や重症例などを含むため、そうした情報が必要な研究テーマに適合します。また、検査情報を用いることで交絡調整をある程度正確に行えることも特徴です。ただし、全国規模の保険データベースよりは小規模であることが多く、病院をまたいだ継続追跡ができないことが多いため分析時に注意を要します。
▼電子カルテデータの活用事例 検査情報の値が含まれることにより可能な分析


RWDデータ選定の注意点
RWDの活用時には、選定段階では見えづらい注意点があります。清水氏は多くの研究に関わってきた経験から得たポイントを話しました。
入手可能性はデータベースにより大きく差
RWDデータを入手する際は、データベースにより申請要件が厳格であり、審査・利用条件も厳格に定められています。そのため、立場などによって費用・期間などの入手難度に差があります。また、入手スケジュールにも要注意で、特に厚生労働省への申請が必要なNDBなどで特別抽出を依頼した場合、相応の時間を要します。
データソースが同じでも提供内容は異なる
レセプト・DPC・電子カルテなど、同じデータソースをベースとしているデータベース間でも、それぞれに構成は異なり、実際に提供されるデータの項目・制約も異なります。例えば、「医療機関情報は出せないが、地域情報は出せる」といった制限がデータベースごとに存在するため、確認が必要です。
項目があることと、分析に使えることは別
レセプト・DPCに含まれる項目は一般公開されていますが、それぞれのデータベースに格納され、ユーザーに提供される際に、全ての項目がそろっているとは限らないことにも注意が必要です。利用予定のデータベースが実際には何を提供しているのか、必ず事前に提供範囲を確認しておく必要があります。
RWD活用は単体から使い分けへ
RWD研究の今後の潮流は、単一データソースを分析していた段階から、複数データソースを目的にあわせて組み合わせる段階へ移行しつつあると、清水氏は総括します。例えば、レセプトデータで全体を把握した後、より深い患者集団の分析に電子カルテデータを活用し、さらに別のデータベースで再現性を検証するといった重層的なアプローチです。
そのようにRWD活用の枠組みが複雑化する時代における成功のカギは、事業戦略に基づいて適切な課題を設定し、それを着実に一歩一歩進めていくチーム体制、各工程を支える基盤だと、清水氏は強調。「こうしたRWD活用は、全てを外製できるわけではない。『なんとなく』で依頼して、よい結果が手に入るということはほぼないと考えてほしい。自ら深く考えられるチームを作っていくことが重要だ」と、聴講者に向けて激励を送りました。









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