生成AI利用率100%の先へ、AIエージェントが変える製薬企業DX|SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2026

デジタル技術の進化とともにDXへの注目が高まる中、塩野義製薬は2023年より「SHIONOGI DATA SCIENCE FES」を毎年開催しています。同社のDX事例や、データサイエンスによる業務課題の解決法などを紹介するもので、毎年多くのビジネスパーソンが視聴するオンラインイベントです。
今年3月には「データとともに進化する、社会の“日常”」をテーマに、業界の第一線で活躍する講師陣が集結。AIによるデータ活用・運用法を磨くためのヒントとして紹介された多くの実績や経験談などから、製薬企業のマーケターに特に示唆深いポイントを中心に、その内容を振り返ります。
「生成AI利用率100%」を目標に掲げる塩野義製薬―データを前提とした経営への転換
医療用医薬品の提供にとどまらず、デジタルツールを含めた新たなヘルスケアサービスによって、独自に進化を続ける塩野義製薬。同社では、「新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出す」というグループビジョンのもと、感染症やQOL疾患の治療薬をグローバルに届けていくことや、積極的な投資による新製品・新事業の拡大を成長の軸に据え、次世代型のヘルスケア企業へと変革を進めています。こうした変革を進める上で、同社が重視しているのがDXです。
同セミナーの特別講演に登壇した代表取締役会長兼CEOの手代木功氏は、「DXを単なるツールの導入や効率化の取り組みで終わらせる気はない」と明言。経営判断や現場の意思決定を「データを前提としたもの」へ変え、新たな価値を創り出していくことこそが真のDXであるとの考えを示しました。
またその実現のためには、従業員一人ひとりの働き方や考え方そのものを変える必要があるとも指摘し、現在「生成AI利用率100%」を目標に掲げ、全社的な活用を推進していると言います。
この取り組みの目的は、「使わせること」ではなく「デジタルを前提とした働き方への転換」であり、手代木氏は、「待ちから挑戦へ」「受け身から創造へ」という行動変容こそが企業全体の地力を高め、変革を支える文化につながると強調しました。
さらに、2025年には鳥居薬品や日本たばこ産業の医薬事業がSHIONOGIグループに加わったほか、本社を創業の地から大阪梅田へと移転するなど、組織や環境そのものを変革しながら多様な知見や文化を取り込み、新たな価値創出を目指しているという塩野義製薬。
「変革は大きな一歩から始まる必要はない。日常の中の小さな改善や違和感への気づき、その積み重ねが大きな変化につながる」――こうした手代木氏のメッセージから、DXを“現場主導の文化変革”としてとらえる同社の姿勢がうかがえました。
「AIを使う」時代から「自分のエージェントを作る」時代へ
「SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2026」は、「Session1:データサイエンスの最前線」、続く「Session2:データサイエンスのこれまでとこれから」の2部構成で、全13講演が行われました。
中でも、「AIエージェントが進化する時代の企業の再創造について」と題し行われた、アクセンチュア株式会社 執行役員 データ&AIグループ日本統括 AIセンター長の保科学世氏による講演では、これからの医薬品開発や患者の潜在ニーズの発掘による新たな製品開発の検討には、社内知見だけでなくAIエージェントの活用が不可欠であることが語られました。
同社の調査によると、大規模言語モデル(LLM)の進化によって、日本では平均44%の労働時間が大きく影響を受ける可能性があるといいます。中でもライフサイエンス領域におけるそのインパクトは大きく43%、ヘルスケア分野でも37%が影響を受けると説明。特に製薬業界では、コーポレート領域の業務は自動化の余地が大きく、一方でバイオエンジニアや統計解析者などの専門職は、自動化だけでなくAIによる強化の恩恵を大きく受けるとし、製薬業界は生成AIの活用価値が高い業界であるとしました。

その上で保科氏は、2026年の大きな潮流として、「AIエージェントの民主化」を挙げています。これまでは専門開発者が構築していたAIエージェントが、今後は一般生活者でも簡単に作れるようになり、アクセンチュアでも全社員がAIエージェントを作成できるようトレーニングを進めていることを明かしました。
「今年は、『AIを使う』時代ではなく、『自分のエージェントを作る』時代に入ってきている」
この言葉は、マーケターにとっても象徴的です。AIは単なる業務支援ツールではなく、“自分専用の思考パートナー”として活用される段階へ進み始めているのです。
AIエージェントが自ら行動し、エージェント同士が連携
さらに保科氏は、AIエージェントが担う領域の広がりについても言及しました。
従来のエージェントは、アイデア出しやドラフト作成など、人間の支援が中心でした。しかし今後は、エージェント自身が意思決定や実行まで担う世界が到来すると予測しています。例えば、商品の購入や予約などのデジタル行動だけでなく、ロボットと連携した「フィジカルAI」の進展によって、AIが物理的なアクションを担う可能性が出てきています。
講演では、NVIDIAとGE HealthCareによる自律型画像診断システムの事例も紹介。これは、X線や超音波検査において、患者の体位調整から撮影、画像品質確認までをAIがサポートする取り組みです。
保科氏は、こうしたAI活用が医療関係者の負担軽減や診断品質の標準化、地域医療格差の解消などにつながり得るとし、医療現場におけるAIの可能性を展望しました。
顧客理解を変える「デジタルツイン」の可能性
今回の講演で取り上げられた「顧客・生活者のデジタルツイン」は、製薬マーケターにとっても注目すべきテーマです。
アクセンチュアでは現在、「国民の縮図エージェント」を構築し、マーケティング施策やニーズ分析に活用しています。これは単なるペルソナではなく、思考回路や価値観まで一定再現したAIエージェント群のこと。例えば「アルツハイマー型認知症に関心を持つ人々」を抽出し、それぞれの不安やニーズ、関心の広がり方までシミュレーションできます。さらに、そのニーズをもとに施策案を生成し、AI上でテストマーケティングまで行うことも可能だといいます。

従来、生活者インサイトの探索や施策検証には多くの時間とコストが必要でした。これに対し保科氏は、AIエージェントを活用することで、そのサイクルを圧倒的に高速化できる可能性を示しました。
製薬マーケティングにおいて、患者・医師・その他医療関係者など多様かつ複雑なステークホルダー理解が求められる中、こうした技術は大きな武器になり得るでしょう。
求められるのは「変化を前提にした経営マインド」
講演の最後に保科氏は、AI時代に求められるのは、単なる技術導入ではなく「再創造のマインド」だと語りました。
AIエージェント同士が連携し、自律的に行動する社会では、企業もまた変化し続ける必要があります。変化に適応する柔軟性と、従来の常識を前提にしない発想が、これまで以上に重要になるといいます。
また、その先には、患者個人の状態やニーズに応じて、AI同士が最適な治療やサービスを調整する「究極の個別化医療」の実現も見据えられています。

今回のイベントを通じて見えてきたのは、DXやAI活用が単なる業務効率化にとどまらず、データを起点に顧客理解や意思決定のあり方を変え、新たな価値創出につなげる取り組みであるということ。製薬企業のマーケターにとっても、AIを「使う」だけでなく、どのような価値につなげるのかを構想し、実装していく視点がより重要になるでしょう。
【関連コンテンツ】







.png%3Ffm%3Dwebp&w=640&q=75)


