競合の動きを読み、次の一手を描く。業界最高水準データで進化させる製薬ブランド戦略|MDMD2026 Summerレポート

競合他社のメッセージングや学会での発表内容を素早く捉え、戦略に活かせているでしょうか。2026年6月開催の「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2026 Summer」では、Evaluate Japan株式会社 APAC地域統括ソリューションコンサルタントの吉富 志保氏が登壇。業界最高水準のデータと競合情報分析を活用してブランド戦略を進化させるアプローチを紹介しました。
2030年に向けて加速する市場、しかし成長の「中身」が変わる
吉富氏は、Evaluateが毎年発行するレポート「World Preview 2025」のデータをもとに、製薬市場の現状と展望を示しました。そのキーメッセージは、不確実性が高まるなかでも医薬品への需要そのものは強く、市場は今後も拡大を続けるというものです。
世界の処方薬売上は右肩上がりで、2030年には1兆7,560億ドルへ到達すると予測されています。年平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は2016年から2024年までの4.9%に対し、2024年から2030年は7.4%へと加速する見通しです。吉富氏は、市場は維持ではなく加速の局面に入ると説明します。

一方で、その成長の「中身」は大きく変わろうとしています。従来のように幅広い領域が一律に伸びるのではなく、特定の疾患と新しい治療カテゴリーへ成長が集中していくためです。象徴的な例が、GLP-1を中心とした肥満・代謝領域です。この領域だけで年率20%近い成長が見込まれ、2030年には市場全体の約1割を占める可能性があるといいます。免疫・炎症領域も存在感を強めており、250億ドル規模の売上が見込まれている製剤もあるとのことです。
吉富氏は、市場全体が伸びるという安心感に依存せず、その成長を自社が取り込めるポジションにいるかを問う姿勢が重要だと指摘します。成長の原動力となる製品設計や適応拡大、提携戦略を持っているかが問われる時代になっています。
新規モダリティへのシフトと、価値が集中するパイプライン
続いて吉富氏は、その成長の源泉をモダリティの観点から分解しました。結論として、市場成長のドライバーはADC(抗体薬物複合体)や多重特異性抗体といった新規モダリティの伸びが大きいと予測されています。金額ベースでも、バイオ医薬品は2025年に低分子医薬品を上回って市場の51%を占め、2030年には57%へ、トップ100製品の3分の2以上へと拡大する見込みです。

将来価値の高いパイプラインも、一部の領域に強く集中しています。NPV(正味現在価値)で見た価値の高いR&Dプロジェクトの上位は消化器や内分泌領域が占め、2030年にはGLP-1関連の薬剤がトップ10のうち5製品を占める見込みです。オンコロジー領域では二重特異性抗体医薬品が挙げられ、ピーク売上は270億ドルと予測されています。また、2026年に上市が見込まれる注目薬剤としても、GLP-1関連、続いてCAR-T療法やTYK2/JAK阻害剤、IL-23関連などが挙げられました。ただし、個々の売上規模で見るとGLP-1が突出して大きく、それ以外は比較的分散する構造です。つまり今後の市場成長は、上市前後にある一部の大型製品によって強くけん引されることになります。
成長の裏で進む、大規模な特許切れ
市場が拡大する一方で、その裏側では既存製品の売上が失われていきます。吉富氏は、特許切れによる売上消失というもう一つの論点を示しました。特許切れで失われる売上は2028年に約1,000億ドルまで急増する見込みで、主な要因はブロックバスターの特許切れです。特許リスクにさらされる市場の比率も通常の3〜4%前後から約7%近くへ上昇し、今後5年間では失われる売上の合計が3,000億ドルを超える可能性があります。

成長を担う領域の見極めも欠かせません。過去と将来の成長率を分析すると、最も突出しているのはGLP-1で、次いでオンコロジーと免疫領域が堅調に推移します。吉富氏は、ここから読み取れる2点のポイントを指摘します。1つ目は、「アンメットニーズの大きさと市場拡張性」です。GLP-1は肥満という巨大市場を取り込み、従来の医薬品市場の枠そのものを広げています。2つ目は「適応拡大の可能性」で、免疫領域やオンコロジー領域では一つの薬剤が複数の疾患へ展開され、成長を持続させます。3つ目は「技術革新の集中」です。ADCや多重特異性抗体などのイノベーションが特定領域に偏ることも成長格差の要因です。結果として、成長領域に資本と技術がさらに集まる好循環が生まれていると吉冨氏は述べました。
マーケティングを支える「競合インテリジェンス」
こうしたマクロトレンドを踏まえ、講演の後半ではEvaluate Japanの競合情報分析(CI:Competitive Intelligence)プログラムについて紹介されました。吉富氏は、マーケティングを「患者価値を最大化するための戦略的な機能」と位置づけます。有効性や安全性に加え経済性まで踏まえた価値訴求が求められるなか、同社のCIプログラムはまず一貫した情報のベースライン確立を支援します。競合の現状や将来の動き、それが自社に持つ意味を部門横断で共有し、常に最新のデータへ誰もがアクセスできる仕組みを整えることで、脅威と機会の判断を組織全体で揃えられます。

将来の競争環境を可視化する競合ランドスケープ
具体的なサービスとして、まず競合ランドスケープの作成が挙げられます。競合パイプラインをフェーズ別に俯瞰し、作用機序や投与経路も示して現在と将来の競争環境を可視化します。今後6カ月から1年の主要イベントをタイムラインで示すことで注目点の共通認識を持てるようにし、主要競合品を有効性や安全性などで比較して、新たなデータが出た際の自社アセットの位置づけの変化も検証できます。
競合を継続的に追うプレイブック
主要競合の詳細分析では、製品の属性や強み、臨床・ターゲティング戦略、ライフサイクル管理などを企業・製品レベルで整理します。四半期や毎月更新することで競合戦略の変化を洗い出し、社内で参照できるプレイブックとして機能させます。各製品の価値提案の変遷を探るメッセージング分析や、プロモーション活動のモニタリングも継続的に行います。
速報性を高める学会カバレッジとアラーティング
競合監視の柱の一つが学会カバレッジです。情報収集は欠かせない一方で時間的負担が大きいため、同社は学会サイトを自動でスクレイピングし、独自のオントロジーで抄録を疾患や製品、企業へ自動マッピングして手作業を削減します。会期中はコンサルタントが目や耳となって主要セッションや競合ブースを押さえ、その日のうちに速報を届け、会期後には報告会も開きます。
加えて、重要な市場動向に絞って即時あるいは48時間以内に報告するアラーティングサービスもあり、いずれもコンサルタントがインパクトや意味を分析して迅速な判断を後押ししています。
競合情報を、意思決定のスピードに変える
今回の講演では、拡大を続けながらもその中身を大きく変える製薬市場の姿と、そこで競合情報をいかに戦略へ転換するかという視点が示されました。市場が伸びるかどうかではなく、どの領域に、どのモダリティで、どの時間軸で需要と投資が集中するのかを見極めることが、これからのブランド戦略の起点になります。そして、その見極めを支えるのが競合情報です。集めた情報を部門間で共有し、判断のスピードにつなげられるかどうかが、これからの製薬企業のマーケティングで重要になりそうです。
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