AI時代に変わる製薬コンテンツの作り方と届け方-制作・審査DXの最前線|MDMD2026 Summerレポート

医師の情報収集行動のデジタル化や生成AIの普及により、製薬企業には、限られたリソースで多チャネルのコンテンツを適切な形式で届ける体制づくりが求められています。
2026年6月に開催された「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2026 Summer」では、株式会社シャペロン 執行役員の原口剛嘉氏が、『既存資材をAIで「高速変換」製薬プロモーションの制作・審査DXの最前線』と題し、既存資材を活用したコンテンツ展開から進化するAI審査まで、製薬プロモーションにおけるAI活用の現在地を解説しました。
デジタル・AI時代に見直される製薬コンテンツ戦略
2025年に日経リサーチが実施した「医療情報提供のDX実態調査」によれば、製薬企業からの情報収集に、主にデジタルツールを活用していると答えた医師の割合は、2021年の約3割から2025年時点では約7割へと増加しています1)。医師の情報接点がデジタルへ移行する中で、製薬企業も情報提供のあり方を見直す必要が生じています。
さらに、この需要増大に応えるリソースが追いついていないという問題もあります。製薬企業全体で従業員数や営業部門の人員削減が続いており、MRやマーケターの数は縮小傾向にあります。デジタル化への需要は高まる一方で、それを担う人員は減っているため、生産性の向上も急務となっています。

一方で、デジタルコンテンツの量を増やせば十分というわけではありません。デジタルコンテンツの制作量が毎年約20%増加している一方で、77%のコンテンツがごく限られた回数しか使用されない、または一度も使用されていないという調査結果が報告されています2)。
原口氏は、一定量のコンテンツは必要であるものの、医師に求められるフォーマットや内容を作り続ける「質」の観点も重要だと説明します。
コンテンツは「人」だけでなく「AI」に読まれる時代へ
さらに近年は、生成AIを通じた情報収集も広がっています。原口氏は、生成AIの普及により、検索結果の上部やAIチャット上で情報が要約され、ユーザーが個別サイトを訪問せずに情報を得るケースが増えていると指摘し、今後は、AIに情報を取り上げてもらうために「いかにAIに見てもらうか」という視点も重要になると説明しました。
Web上のコンテンツが「人が見る」世界から「AIが見る」世界へ急速に変化している例として、AIクローラーと人のトラフィック比率の変化が挙げられます。2025年初頭時点でAnthropicのクローラーと人のトラフィック比率は6,000対1でしたが、2025年6月頃には60,000対1に達しています3)。

こうした変化を踏まえ、原口氏は、コンテンツをAIに取得されやすい状態にしておく重要性を説きます。
その一例が、PDF資材のHTML化です。製薬企業のオウンドサイトでは、製品情報概要や患者向け指導箋などがPDFで掲載されているケースがあります。しかし、PDFだけでなくHTML形式でも公開することで、AIクローラーが情報を取得しやすくなります。AI検索の時代では、「何を作るか」だけでなく、「どの形式でどこに置くか」まで含めて設計することが、情報提供の戦略として求められるといえるでしょう。
AIによる既存資材を活用したコンテンツ展開
では、増え続けるコンテンツ需要に、限られたリソースでどう応えればよいのでしょうか。こうした状況で重要になるのが、社内に蓄積された既存資材をベースに、用途に応じて形式を変えて展開する考え方です。
同社が提供するコンテンツ制作AIは、リーフレットや製品説明会スライド、講演会動画などをもとに、動画・HTML・サマリーなどの多様なフォーマットへコンテンツを展開します。

例えば、講演会動画からサマリーレポートや短尺動画を作成すれば、リアルタイムで参加できなかった医師へのフォローや、MRによる事後のアプローチにも活用しやすくなります。ある外資系製薬企業では、これまでプロダクトマネージャーが手作業で行っていた講演会サマリーの作成をAIで代替し、クオリティを維持したまま社内展開のスピードを大幅に改善しています。
また、論文や診療ガイドラインから、その解説スライドと動画を一気に制作することも可能です。同社が関わったある疾患啓発のプロジェクトでは、社内基準の厳格化により、エビデンスレベルの高い論文を引用したコンテンツが必要になったものの、論文購入から著作権処理、スライド制作、動画化を全て広告代理店に依頼するとコストが増大することが懸念されました。そこで、これらのフローを同社が一貫して行い、AIが制作部分を担うことで、プロジェクトのコスト削減に貢献したといいます。
さらに、原口氏はAIによる医師セグメント別の自律的なコンテンツ最適化についても触れました。対象医師の治療姿勢や検討段階に応じて、コンテンツのトーンや情報の提示順序をAIが最適化し、医師一人ひとりに合わせたストーリーを生成することは、すでに実用段階にあります。複数の資料を活用し、AIが自律的にコンテンツを生成する機能についても、現在開発を進めており、今後の提供を見据えた取り組みとして紹介しました。

同じ資材を一律に届けるのではなく、届ける相手や利用場面に応じてコンテンツを最適化することが重要であることが示されました。
制作スピード向上とともに変わる審査体制
既存資材の活用やAI制作によってコンテンツ供給量が増えるほど、審査部門への負担も高まります。原口氏は、審査業務では業務負担の増大、審査基準のばらつき、指摘の抜け漏れ、外部依頼のコストなどが課題になりやすいと説明しました。制作部門にとっても、審査に時間がかかれば情報提供のタイミングを逃し、差し戻し対応に時間を取られることになります。
こうした課題に対し、AI審査が担える領域は広がりつつあります。講演では、講演会スライドや各種資材を対象に、ファクトチェック、品質チェック、表現チェックをAIで行う仕組みが紹介されました。所定のフォルダや専用画面にアップロードするだけで、タイムリーに審査結果を確認することが可能です。また、審査システムとの連携にも対応が進んでいるようです。

さらに、過去スライドとの照合や、PubMedを参照した出典整合性などのメディカルチェックも対応が可能だといいます。
実際の審査業務にAIを取り入れるときに最も気になるのが判定精度です。原口氏によると、講演会スライドを対象としたAI+専門家レビューの指摘再現率は、2025年6月には80%程度でしたが、同年10月には95%程度まで向上しました。当初は専門家チームによる最終確認を経た上での納品を行っていましたが、精度向上にともない、講演会スライドと特定項目製品情報概要については、現在はAIのみでレビュワー代替ができる水準に達しました。説明会スライドや総合製品情報概要については、引き続きアルゴリズムの改善を進めており、2026年夏までに同様の水準へ引き上げることを予定しているといいます。

AI時代の製薬プロモーションに求められる視点
本講演で原口氏は、医師の行動特性に応じた情報提供を行うため、既存の社内資材をAIでチャネルや用途に合わせた形式へと最適化・展開するアプローチを提案しました。コンテンツをゼロから作り直す必要がないため、低コストかつ短リードタイムで各セグメントへの柔軟な配信が可能になるとのことです。またAIによる審査も、すでに一部資材では人手を介さずに完結できる水準に達しています。
情報収集のデジタル化やAI検索の広がりによって、製薬マーケターには、既存資材をどう活かし、どの形式で情報を届けるか、制作スピードと審査品質をどう両立するかを一体で考えることが求められています。多岐にわたる対応が求められる中、AIを活用した制作・審査のDXはその突破口の1つとなりそうです。
<出典>※URL最終閲覧日2026.06.15
1) 株式会社日経リサーチ, 医療情報提供のDX実態調査、医師約7,000人が回答〈前編〉
(https://service.nikkei-r.co.jp/report/healthcare_id302)
2) Veeva, Veeva Systems Inc., Veeva Pulse Field Trends Report Q4 2022
(https://www.veeva.com/resources/veeva-pulse-field-trends-report-4q22/)
3)Axios, Axios Media, 2025.06.19, Publishers facing existential threat from AI, Cloudflare CEO says
(https://www.axios.com/2025/06/19/ai-search-traffic-publishers)
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