「重要医師」は疾患領域で変わる。4つの実例に学ぶデータドリブンな医師ターゲティング|MDMD2026 Summerレポート

「重要医師」は疾患領域で変わる。4つの実例に学ぶデータドリブンな医師ターゲティング|MDMD2026 Summerレポート

医師の所属履歴や専門資格、外来コマ数など、医師ターゲティングに活用できるデータは多様化しており、「重要医師」の要件も疾患領域や戦略によって変わります。

2026年6月開催の「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2026 Summer」では、ミーカンパニー株式会社の山村奈津子氏が「疾患領域で変わる、医師ターゲティング―市場性と影響力から読み解く“重要医師”―」と題し、データから重要医師を発見するプロセスを4つの実例とともに紹介しました。

医師データ活用の最新動向。9割が「ターゲティング」目的

ミーカンパニーは約32万人の医師情報を格納したデータベースをはじめ、医療機関や薬局、介護などの施設系データベースを提供しています。山村氏によると、医薬品業界における同社のデータ活用の中心は医師データと医療機関データの利用で、約9割を占め、用途の9割は市場分析やターゲティングといいます。

近年の特徴として山村氏が挙げたのが、医師ごとのポテンシャル推計を目的とした活用です。機械学習の説明変数としてデータを使用するケースが増えているほか、所属履歴や海外留学経歴を用いて医師同士のネットワークを把握する取り組みも進んでいます。また、希少疾患領域では、医師のプロフィール上でしか確認できないニッチな学会資格データを使用する事例も見られるようになっています。

こうした動向を踏まえ、山村氏は「医師をより高い解像度で理解しようというニーズが年々高まっている」と指摘します。重要医師の定義が企業によって異なる中で、ターゲティング手法も多様化しており、AIの普及によって技術的なハードルが下がった今、問われているのはデータをどう組み合わせるかという「発想力」だと語りました。

医師データ活用の動向
2026.6.4(株)ミーカンパニー『疾患領域で変わる、医師ターゲティング―市場性と影響力から読み解く“重要医師”―』資料より抜粋

事例1.血液内科領域における医師ポテンシャルのスコアリング

初めに紹介されたのは、血液内科領域における重要医師のスコアリング事例です。

現場主導で作成されていた既存ターゲットリストの見直しを目的としたものの、売上データに基づいて施設ターゲティングを行うと対象医師数が膨大になるため、より効率的に優先順位をつけたいという取り組みでした。


同社はまず、「基本的専門性」「製品適合性」「集患性」「組織内影響力」という4つの要素で重要医師を定義。それぞれの要素を専門資格の有無や疾患領域の適合、外来コマ数、役職などの具体的なデータに落とし込みました。

Step1:データの選定
2026.6.4(株)ミーカンパニー『疾患領域で変わる、医師ターゲティング―市場性と影響力から読み解く“重要医師”―』資料より抜粋

さらに企業ニーズに基づいた要素ごとの重み係数と属性ごとの配点を設定し、それらを掛け合わせることで医師一人ひとりのスコアを算出。そのスコアに基づいて医師のティアを設定することで、施設規模に左右されない統一された基準でターゲットを構造的に捉えられるようになったといいます。これは、主に病院勤務医が中心となる疾患領域で活用が進んでいる手法です。

事例2.学会データ×所属履歴で「同門ネットワーク」を可視化

2つ目は、医師同士の「同門ネットワーク」を可視化した分析です。


本事例の出発点となったのは、「医師の周囲には学会や施設を通じて形成される同門ネットワークがあり、特に基幹病院を中心とした同門ネットワークは地域診療に大きな影響を及ぼしているという感覚がある。しかし、誰がどのような関係にあるかを正確に把握できず、施策立案・実行のハードルになっている」という相談でした。


この仮説を検証するために、まず、グループ企業である株式会社医薬情報ネットが提供する学会情報データベースと連携してターゲット疾患の演題発表実績を持つ医師を抽出。第一演者や座長といった情報を加味しながら、ネットワークの中心に位置するKOLを特定しました。次に、共同発表の実績と同一勤務先での在籍期間の重複という2軸から、KOLと関係する医師の結びつきの強さをスコア化しました。


共同発表回数と在籍重複期間の双方で平均を有意に上回る医師群は、長年の密接な協力関係が認められるため、同門区分で「高」と判定されます。このようなスコアによって、ネットワークの構造を可視化しました。


こうして得られたリストは、講演会の企画やコンテンツ配信、MRの訪問戦略などに活用されているとのことです。

同門分析モデル
2026.6.4(株)ミーカンパニー『疾患領域で変わる、医師ターゲティング―市場性と影響力から読み解く“重要医師”―』資料より抜粋

事例3.診療所市場では裾野から遡ってAOLを見つける

3つ目は、診療所を主市場とする製品領域での事例です。ここで着目するのはKOLではなくAOL(エリアオピニオンリーダー)、すなわち豊富な診療経験に基づいて開業医の日常的な疑問を解消し、地域の医療コミュニティのハブとなる医師です。


興味深いのは、そのアプローチの順序です。事例2ではKOLを起点にネットワークを広げましたが、本事例ではまず情報提供の対象となる診療所医師を網羅的に抽出。その上で所属履歴や共同発表データを遡り、過去に勤務や研究を共にした経験のある医師の中からAOL候補を割り出していくという手法です。

プロジェクトスコープ(例)
2026.6.4(株)ミーカンパニー『疾患領域で変わる、医師ターゲティング―市場性と影響力から読み解く“重要医師”―』資料より抜粋

愛知県の皮膚科領域で実施した調査では、開業医と何らかのつながりを持つ医師が約190名抽出され、関係性スコア上位10%にあたる19名がAOL候補となりました。上位の医師は学会発表実績を持ちながら実臨床にも深く携わっており、大学病院のある地域に偏ることなく各エリアの基幹病院から抽出できたといいます。

事例4.介護領域と接点を持つ「見過ごされがちな医師」を発見する

最後に紹介されたのは、近年相談が増えているという介護領域との接点に着目した事例です。認知症や脳血管疾患の領域を中心に、外来・入院だけでなく在宅や介護までを一連の患者動線として捉える動きが出てきていると山村氏は指摘します。


活用できるデータは大きく2つあります。1つは介護施設に出入りする嘱託医のデータで、全国約8,400名がオープンデータで確認できます。もう1つは利用者の急変時に対応する協力医療機関で、全国約19,000件に上ります。その内訳を見ると無床診療所が6割を占め、200床未満の中小病院も多く含まれており、一般的な施設ターゲティングでは優先度が低くなりがちです。しかし、その背後には介護施設があり、潜在的に多くの介護施設利用者が存在している可能性があります。


具体的なプロセスとしては、東京都と大阪府を対象に、要介護度4〜5の利用者を多く抱える施設と連携する医療機関を抽出し、連携先の介護サービス提供者数と利用者数の2軸で上位5%を特定。さらに医師単位まで分析を掘り下げ、各医師が担当する施設の利用者数と専門資格を掛け合わせることで、「認知症ならこの医師」「リハビリ関連ならこの医師」というように、優先的にアプローチすべき医師を高い解像度で見極めることができました。

嘱託医ターゲティング:医療機関
2026.6.4(株)ミーカンパニー『疾患領域で変わる、医師ターゲティング―市場性と影響力から読み解く“重要医師”―』資料より抜粋

手元のデータも「光の当て方」で価値が変わる

4つの事例に共通するのは、特別なデータをゼロから揃えるのではなく、既存のデータの見る方向や組み合わせ、加工方法を工夫することで、多様なターゲティング課題や戦略目的に応えている点です。山村氏は「新しく珍しいデータを購入することも1つの選択肢だが、今手元にあるデータも光の当て方を変えることでさまざまな領域、戦略に活用できる」と述べ、講演を締めくくりました。


疾患領域や主市場が変われば、重要医師の定義もアプローチの起点も変わります。自社の戦略にとっての「重要医師」とは誰なのか。その問いをデータで定義していくプロセスこそが、これからの医師ターゲティングの精度を左右するのではないでしょうか。

 

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