医師の全体像を可視化し、“納得感あるターゲティング”基盤をつくる|MDMD2025 Autumnレポート

医師ターゲティングはいま、「誰を選ぶか」というリストづくりから、「なぜその医師を選ぶのか」を言語化するフェーズに入っています。医師にまつわるさまざまなデータを、どのように活かし、医師理解の精度とターゲティングの納得感を高めるかが問われています。
ミーカンパニー株式会社 データベース事業部 コンサルタントの小関未来氏は、Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2025 Autumnで、医師データベース構築の最新動向と、医師理解につながるターゲティング設計の考え方を紹介しました。
医師ターゲティングは、磨き続ける“思考のサイクル”
製薬マーケティングに欠かせない医師ターゲティングは、「対象医師を絞り込む作業」ではありません。
小関氏は、これを“どの市場で、どの価値を、どの医師に届けるか”を定義し続ける思考のプロセスと位置づけます。つまり、医師ターゲティングは単発の分析やリストアップではなく、戦略を現場につなげるための思考のサイクルそのものです。
その目的は、限られたリソースの中で最も価値を届けられる医師層を見極めることにあります。
小関氏は「ターゲティングは一度決めて終わりではなく、実行と検証を通じて磨き続けることが重要」と話します。完璧なデータや唯一の正解は存在しないからこそ、プロセスを通じて製薬企業各社が「納得できる選び方」を追求する姿勢が欠かせないのです。
データ駆動型とMR裁量型:2つのアプローチをどう使い分けるか
医師ターゲティングと一口に言っても、その設計思想や実行方法は企業によってさまざまです。小関氏は、ターゲティングには大きく「データ駆動型」と「MR裁量型」という2つのアプローチがあると説明します。
両者は、データ活用の目的が大きく異なります。
データ駆動型は、客観的なデータをもとに仮説を立て、ターゲット医師を定義していく方法です。データで考える道筋をつくり、医師ターゲティングの納得できる理由を見つけます。
一方、MR裁量型は、現場での経験や感覚を重視し、柔軟にターゲットを見極めていくスタイルです。現場のMRが判断しやすいリストを整え、データでその行動を後押しします。
データ駆動型は全体最適を意識しやすく、一貫性のある設計ができる一方で、現場の温度感や細やかなニュアンスを拾いにくい点が課題です。MR裁量型は、実際の行動にはつながりやすいものの、属人的になりやすく、再現性を保ちにくい傾向があります。
どちらが優れているということではなく、目的やフェーズに応じて最適な設計を選ぶことが重要です。
近年では、MR数の減少や訪問規制の影響で、データを起点としたターゲティングが急速に拡大しています。個々の感覚に頼るだけでなく、医師データを活用して全体を俯瞰し、本社と現場の共通の出発点とするターゲティングが進んでいるのです。小関氏は「データと現場を切り離すのではなく、本社がデータで方向性を示し、現場で知見を重ねて磨いていくことが大切」と話します。
データを組み合わせ “医師の全体像”を可視化。納得感あるターゲティングへ
ターゲティングの精度を高めるためには、単一の指標ではなく、医師を多面的に理解することが欠かせません。小関氏は、「医師の“解像度”を上げる」「医師の“いま”を捉える」「医師の“つながり”を可視化する」という3つの視点から、医師の全体像を描く重要性を説きます。
医師の“解像度”を上げる:専門性をより正確に把握する
同じ診療科に属していても、医師が注力する領域は一様ではありません。例えば婦人科領域では、不妊治療、周産期、婦人科腫瘍など、専門性の方向性はさまざまです。
ミーカンパニーでは、診療科・専門資格・専門領域タグといった複数のデータを組み合わせ、一人ひとりの医師の専門性や関心領域をより細かく可視化しています。こうした「医師の解像度を上げる」取り組みにより、ターゲット選定の質を底上げします。
医師の“いま”を捉える:臨床ポテンシャルを理解する
医師の勤務先は一つとは限りません。同社の保有データに基づくと、医師は平均2.3施設に勤務しており、また所属機関の規模や機能も多様です。小関氏は、「どの施設で、どの立場で、どのくらい診療しているか」の把握が重要だと述べます。
同社が保有する勤務先・役職・外来コマ数などのデータを用いることで、医師の臨床現場でのポテンシャルをより正確に捉えることができます。
例えば、外来コマ数のデータは患者接点の多さを示す指標として重要です。また、役職のデータは、施設内での立場や役割を示す重要な指標となります。ミーカンパニーではこれらのデータを年2回更新し、最新の現場を反映できるよう整備を進めています。
こうしたデータ項目に、製品の特性や戦略目的に応じた重み付けを行い、医師一人ひとりの重要度や優先度を数値化すれば、「なぜこの医師を優先するのか」をロジカルに説明できます。さらに、製薬企業の保有する売上データや活動実績データなどと組み合わせれば、スコアの妥当性の検証や、より現場実感に沿った重み付けも可能になります。
医師の“つながり”を可視化する:影響力とネットワーク構造を把握する
医師同士のつながりには、卒業大学や勤務歴、共同研究、学会活動など、さまざまな形があります。これらの関係性をデータで可視化することで、ネットワークの中心にいる医師や情報発信力の高い医師を特定できます。
小関氏は「“誰に届けるか”だけでなく、“誰を通じて届けるか”という視点も必要」と指摘し、医師同士のつながりの中心にいる医師の把握は、戦略的な情報展開やKOL連携を考える上での新しい視点として活用できると説明しました。
部門連携で磨く「納得できる医師の選び方」
医師ターゲティングの質を高めるには、データ分析だけでなく、組織横断の連携が欠かせません。そのためには、マーケティング、営業企画、メディカルなど、各部門が持つ知見を持ち寄りながら設計を磨き続けることが重要です。
マーケティング部門は市場構造や競合状況の分析を、営業企画部門は現場での実行計画や施策評価を、そしてメディカル部門は疾患知見や科学的エビデンスを提供します。それぞれが異なる視点からデータを読み解くことで、医師理解の解像度がさらに高まります。
このような部門連携のサイクルが、組織全体で「なぜこの医師を選ぶのか」という納得感を共有する基盤となります。
小関氏は最後に、「私たちも日々、クライアントの皆さまと対話を重ねる中で、医師ターゲティングの正解は一つでなく、磨き続けていくものだと実感している。皆さまと同じように試行錯誤を重ね、データと真摯に向き合いながら、より良い医師ターゲティングの形を一緒に探していきたい」と締めくくりました。

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