「形式知」のみならず「暗黙知」も届ける、臨床課題起点の情報提供戦略|MDMD2026 Summerレポート

「形式知」のみならず「暗黙知」も届ける、臨床課題起点の情報提供戦略|MDMD2026 Summerレポート

生成AIの普及により、医師の情報収集行動は大きく変わり始めています。論文やガイドラインなどの情報を医師自身がAIで検索・整理できるようになった今、製薬企業にはどのような価値提供が求められるのでしょうか。
 
2026年6月に開催された「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2026 Summer」では、株式会社Medii 取締役 執行役員 COOの筒井亮介氏が、「臨床課題から紐解く、新たな製薬マーケティング戦略とは~成功事例とAI活用の最前線~」と題して講演しました。本講演では、生成AI時代の製薬マーケティングの変化と、それに対応する新たな情報提供のあり方について、実際のサービス事例を交えながら紹介されました。

医師の情報収集が「セルフ化」する時代

講演冒頭では、生成AIの浸透によって医師の情報収集行動が変化している現状が紹介されました。

  

Mediiが日経メディカルと共同で実施したアンケートでは、診断や治療方針といった臨床のコア領域で生成AIを利用している医師は全体の約30%であり、高度急性期病院の医師に絞って見ると42%に達しています。

 

医師の生成AI利用実態
2026.6.4(株)Medii『臨床課題から紐解く、新たな製薬マーケティング戦略とは~成功事例とAI活用の最前線~』資料より抜粋

つまり、医師の困りごと解決は「セルフ化」する傾向が進んでおり、必要な情報を医師自らAIで取得できるようになる中、従来のように論文や添付文書、ガイドラインなどの情報を届けるだけでは十分な価値を提供しにくくなる、と筒井氏は指摘しました。

製薬企業の情報提供でも「暗黙知」の価値が上昇

そこで重要になるのが、「形式知」と「暗黙知」の価値の違いです。形式知とは、論文やガイドライン、臨床試験データなど言語化・視覚化され誰もが客観的に理解できる情報を指します。一方、暗黙知とは、複雑な症例への対応や実臨床での薬剤選択、専門医が長年の経験から培った判断など、データ化されていない知見のことを指しています。

 

生成AIによる製薬マーケティングのパラダイムシフト
2026.6.4(株)Medii『臨床課題から紐解く、新たな製薬マーケティング戦略とは~成功事例とAI活用の最前線~』資料より抜粋

生成AIは形式知の検索・整理を得意とする一方で、暗黙知までは十分に取得できません。しかしながら、医師の情報がセルフ化している今、製薬企業のマーケティング活動の主眼であった形式知の価値は、今後低下することが予測され、AIでは収集できない暗黙知の価値は上昇すると考えられます。

  

だからこそ、今後は「専門医だからこそ語れる知見」や「ガイドラインには書かれていない判断」をどのように届けるかが、製薬企業のマーケティングにおける差別化要因になると、筒井氏は説明しました。

DtoDコンサルが生み出す臨床現場の行動変容

こうした考え方を具現化したサービスとして紹介されたのが、専門医へのオンライン症例相談サービス「Medii Eコンサル」です。

  

同サービスは、主治医が匿名で相談を投稿し、専門医が実名で回答する仕組みで、平均約40分という短時間で専門医からの回答が得られます。年間1万件の相談が寄せられ、回答協力する専門医は2,000名を超えているといいます。

  

特徴的なのは、相談内容の多くがガイドラインでは判断しきれない複雑症例である点です。

  

講演では、肺がん領域における複雑症例の相談事例も紹介されました。感染症を合併した患者への薬剤選択について相談が寄せられ、ガイドライン策定にも携わる専門医が、リスクとベネフィットを踏まえた実践的なアドバイスを提供。こうしたやり取りを通じて、主治医が新たな気づきを得て、結果的に新薬の選択という次のアクションにつながったといいます。

  

実際に利用した医師のアンケート回答によると、「考えていた診断が変化しそうである」「新たな治療選択の可能性が見つかった」といった回答も多く、単なる情報提供ではなく、実際の臨床行動に変化をもたらしていることが紹介されました。

  

Eコンサル利用医師へのアンケート結果
2026.6.4(株)Medii『臨床課題から紐解く、新たな製薬マーケティング戦略とは~成功事例とAI活用の最前線~』資料より抜粋

AI時代は「届けるタイミング」も重要になる

講演では、生成AI時代には情報そのものだけでなく、「いつ届けるか」が重要になることも強調されました。

  

医師は疑問が生じた瞬間にAIで情報収集を始めるため、届ける情報の内容やタイミングを逃さず関連情報を提示する必要があります。

  

Mediiでは、今年2月からAIエージェントサービスを開始。同社のAI検索サービスであるMedii QやEコンサルによって、医師が検索や相談を行った直後に、その内容に応じた情報や関連コンテンツを提示する仕組みを提供しているといいます。

  

AIエージェントで情報を欲する医師に適時にピンポイントで届ける
2026.6.4(株)Medii『臨床課題から紐解く、新たな製薬マーケティング戦略とは~成功事例とAI活用の最前線~』資料より抜粋

このサービスは、製薬企業のオウンドメディアやコンテンツとも連携できるため、情報ニーズが最も高いタイミングで適切な情報提供が可能になると説明しました。

「なぜそう判断したのか」が分かるデータがマーケティングを変える

最後に紹介されたのが、EコンサルやAI検索を通じて蓄積される「Medii Data」の活用です。

   

レセプトや電子カルテなどのデータは客観的事実であり「何が起こったか」(What)は分かる一方、「なぜその薬剤を選択したのか」「なぜ診断が遅れたのか」(Why)といった思考プロセスまでは把握できません。

  

RWDにおけるEコンサルデータの位置付け
2026.6.4(株)Medii『臨床課題から紐解く、新たな製薬マーケティング戦略とは~成功事例とAI活用の最前線~』資料より抜粋

一方、相談データには医師の迷いや判断理由、専門医との議論が記録されているため、これらを統計的に集計・分析することで、臨床現場の意思決定プロセスの傾向を把握できます。こうした集計データから、安全性だけでは差別化が難しいシーンにおいて薬剤を切り替える具体的な理由など、従来の定量データでは見えにくかったインサイトが得られると紹介されました。これらは、市場理解やマーケティング戦略、メディカル活動にも活用できるといいます。

AI時代だからこそ、人の知見の価値が高まる

生成AIの普及によって、医師の情報収集は大きく変わりつつあります。その一方で、AIだけでは代替できない専門医の経験や臨床判断といった「暗黙知」の価値は、むしろ高まっています。

  

今回の講演では、単なるAI活用ではなく、臨床課題の解決と医師の行動変容を起点に情報提供を設計することが、これからの製薬マーケティングの重要な方向性であることが示されました。形式知を届ける時代から、臨床現場で意思決定を支える暗黙知をいかに適切に提供するか。その発想の転換が、生成AI時代の競争力につながるのかもしれません。

  

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